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埃にまみれた地下室の中央で、巨大な魔導装置が鈍い光を放っている。
数百年は放置されていたはずだが、俺の目にはこの機械のどこが壊れ、どこに魔力を流せば再起動するかが手に取るように分かった。
器用貧乏というスキルは、あらゆる道具の構造を直感的に理解させる。
王都の職人たちが一生をかけて辿り着く極致に、俺は一瞬で到達していた。
俺は装置の基盤に手を触れる。
指先から繊細な魔力を糸のように紡ぎ出し、断線した回路を一本ずつ繋ぎ合わせていく。
普通の魔術師なら精密作業だけで数ヶ月はかかる工程だ。
だが、俺の指は残像を残すほどの速度で動き、次々と魔法陣を修復していく。
「アルト様、それは一体……」
エリスが背後で息を呑んでいる。
彼女の視点からは、俺の手が魔導装置を愛撫するたびに、死んでいた機械が脈動を取り戻していくように見えるだろう。
実際、装置の内部で眠っていた古代の術式が、俺の魔力を受けて歓喜の叫びを上げているのが分かる。
「これはこの地の魔力流を制御するための心臓だ。こいつを俺の仕様に書き換える」
俺は仕上げに、自分の究極の分配者の権能を装置の核に叩き込んだ。
ドクン、という巨大な鼓動が地下室全体を震わせた。
装置から放たれた青い光が、壁を透過して聖堂全体、そして沈黙の聖域全域へと広がっていく。
地響きと共に、聖堂の周囲の地面が隆起し始めた。
崩れていた石材が磁石に吸い寄せられるように集まり、元の形、いや、それ以上に強固な構造へと組み替えられていく。
蔦に覆われていた壁は瞬時に浄化され、滑らかな白磁の輝きを取り戻した。
窓には色鮮やかなステンドグラスが自動的に生成され、月光を浴びて幻想的な光を室内に投げかける。
「……嘘、でしょう? たった一人で、これほどの神殿を一瞬で……」
エリスが腰を抜かして床に座り込む。
彼女の驚きは無理もない。
これは建築魔法の域を完全に超えている。
俺が土地そのものと契約し、そのリソースを俺の思い通りに再構築した結果だ。
聖堂の外では、さらに劇的な変化が起きていた。
毒を孕んでいた空気は甘く清浄なものに変わり、淀んでいた泉からは聖水が噴き出している。
森の木々は外敵を阻むための巨大な外壁へと姿を変え、その枝には魔力を蓄えた光る果実が実り始めた。
もはやここは死の地ではない。
世界で最も安全で、最も豊かな、俺たちだけの箱庭だ。
俺は立ち上がり、軽く肩を回す。
これだけの大規模な作業をしても、俺の魔力は一分も経たずに全快していた。
究極の分配者が、この土地に満ちた魔力の一部を絶え間なく俺に還元し続けているからだ。
他人に吸わせるのをやめただけで、俺は文字通り無限の電池を手に入れたに等しい。
「さて、エリス。喉が渇いたな。そこの噴水から出てるのは、最高級のポーションより効く聖水だ。好きなだけ飲め」
俺はひれ伏したままのエリスを促し、新しく生成された玉座に深く腰掛けた。
ふかふかの座り心地は、王都の最高級酒場のソファがゴミに思えるほどだ。
俺は指を鳴らして、空間から最高級のワインを取り出した。
かつてレオンたちが奪い合っていた秘蔵の酒も、今の俺なら無から生み出せる。
「いただきます……あぁ、なんて清らかな。力が、体中に染み渡ります……」
エリスが泉の水を掬い、恍惚とした表情で飲み干す。
彼女の肌はさらに白く輝き、魔力のオーラは一層密度を増した。
俺のバフとこの環境の相乗効果で、彼女は近いうちに人間という枠組みを超えた存在になるだろう。
その時、俺の感覚網に新たな侵入者が引っかかった。
聖域の外縁、新しく形成された外壁の前に数人の影がある。
先程の審問官のような小物ではない。
剣の冴えと魔力の練度からして、それなりの実力者だ。
「誰か来ましたか?」
エリスが敏感に察知して、祈りの姿勢を解く。
彼女の成長も凄まじいな。
さっきまで死を待つだけだった少女が、今では一人前の戦士のような鋭さを見せている。
「ああ。どうやら俺たちの新しい家を見学に来た客がいるらしい。案内してやるか」
俺は玉座から立ち上がり、エリスを連れて正面玄関へと向かった。
開かれた扉の向こう、黄金色の夜明けの光の中に、一人の女戦士が立っていた。
ボロボロの鎧を纏っているが、その眼光は決して折れていない。
「……ここが、死の森だと聞いたが。一体何が起きたのだ」
女戦士が震える声で問いかけてくる。
彼女の背後には、負傷した数人の部下たちが倒れ込んでいた。
俺は彼女の瞳に宿る絶望と、その奥に隠された高潔な魂を一瞬で見抜いた。
数百年は放置されていたはずだが、俺の目にはこの機械のどこが壊れ、どこに魔力を流せば再起動するかが手に取るように分かった。
器用貧乏というスキルは、あらゆる道具の構造を直感的に理解させる。
王都の職人たちが一生をかけて辿り着く極致に、俺は一瞬で到達していた。
俺は装置の基盤に手を触れる。
指先から繊細な魔力を糸のように紡ぎ出し、断線した回路を一本ずつ繋ぎ合わせていく。
普通の魔術師なら精密作業だけで数ヶ月はかかる工程だ。
だが、俺の指は残像を残すほどの速度で動き、次々と魔法陣を修復していく。
「アルト様、それは一体……」
エリスが背後で息を呑んでいる。
彼女の視点からは、俺の手が魔導装置を愛撫するたびに、死んでいた機械が脈動を取り戻していくように見えるだろう。
実際、装置の内部で眠っていた古代の術式が、俺の魔力を受けて歓喜の叫びを上げているのが分かる。
「これはこの地の魔力流を制御するための心臓だ。こいつを俺の仕様に書き換える」
俺は仕上げに、自分の究極の分配者の権能を装置の核に叩き込んだ。
ドクン、という巨大な鼓動が地下室全体を震わせた。
装置から放たれた青い光が、壁を透過して聖堂全体、そして沈黙の聖域全域へと広がっていく。
地響きと共に、聖堂の周囲の地面が隆起し始めた。
崩れていた石材が磁石に吸い寄せられるように集まり、元の形、いや、それ以上に強固な構造へと組み替えられていく。
蔦に覆われていた壁は瞬時に浄化され、滑らかな白磁の輝きを取り戻した。
窓には色鮮やかなステンドグラスが自動的に生成され、月光を浴びて幻想的な光を室内に投げかける。
「……嘘、でしょう? たった一人で、これほどの神殿を一瞬で……」
エリスが腰を抜かして床に座り込む。
彼女の驚きは無理もない。
これは建築魔法の域を完全に超えている。
俺が土地そのものと契約し、そのリソースを俺の思い通りに再構築した結果だ。
聖堂の外では、さらに劇的な変化が起きていた。
毒を孕んでいた空気は甘く清浄なものに変わり、淀んでいた泉からは聖水が噴き出している。
森の木々は外敵を阻むための巨大な外壁へと姿を変え、その枝には魔力を蓄えた光る果実が実り始めた。
もはやここは死の地ではない。
世界で最も安全で、最も豊かな、俺たちだけの箱庭だ。
俺は立ち上がり、軽く肩を回す。
これだけの大規模な作業をしても、俺の魔力は一分も経たずに全快していた。
究極の分配者が、この土地に満ちた魔力の一部を絶え間なく俺に還元し続けているからだ。
他人に吸わせるのをやめただけで、俺は文字通り無限の電池を手に入れたに等しい。
「さて、エリス。喉が渇いたな。そこの噴水から出てるのは、最高級のポーションより効く聖水だ。好きなだけ飲め」
俺はひれ伏したままのエリスを促し、新しく生成された玉座に深く腰掛けた。
ふかふかの座り心地は、王都の最高級酒場のソファがゴミに思えるほどだ。
俺は指を鳴らして、空間から最高級のワインを取り出した。
かつてレオンたちが奪い合っていた秘蔵の酒も、今の俺なら無から生み出せる。
「いただきます……あぁ、なんて清らかな。力が、体中に染み渡ります……」
エリスが泉の水を掬い、恍惚とした表情で飲み干す。
彼女の肌はさらに白く輝き、魔力のオーラは一層密度を増した。
俺のバフとこの環境の相乗効果で、彼女は近いうちに人間という枠組みを超えた存在になるだろう。
その時、俺の感覚網に新たな侵入者が引っかかった。
聖域の外縁、新しく形成された外壁の前に数人の影がある。
先程の審問官のような小物ではない。
剣の冴えと魔力の練度からして、それなりの実力者だ。
「誰か来ましたか?」
エリスが敏感に察知して、祈りの姿勢を解く。
彼女の成長も凄まじいな。
さっきまで死を待つだけだった少女が、今では一人前の戦士のような鋭さを見せている。
「ああ。どうやら俺たちの新しい家を見学に来た客がいるらしい。案内してやるか」
俺は玉座から立ち上がり、エリスを連れて正面玄関へと向かった。
開かれた扉の向こう、黄金色の夜明けの光の中に、一人の女戦士が立っていた。
ボロボロの鎧を纏っているが、その眼光は決して折れていない。
「……ここが、死の森だと聞いたが。一体何が起きたのだ」
女戦士が震える声で問いかけてくる。
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