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第39話
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血に濁った水の中で、まだわずかに動ける個体が数匹いた。
そいつらは必死に水をかき分け、なんとか逃げ出そうと足掻いていた。
「た、助け──誰か助けてくれ!」
「嫌だ、嫌だ、殺される……!」
「なぜだ、なぜこんなことに……!」
(うるさい)
俺は追撃を仕掛けた。
水流支配で作り出した渦の力をさらに強め、逃げるモンスターたちを強引に引き戻す。
「や、やめろぉおおお!!」
「許して、許してくれぇえええ!」
断末魔を上げる声を無視して、牙を突き立てる。
肉を裂き、骨を砕き、血をすすった。
「う、うわああああああ!!」
一匹、また一匹と絶命していく。
抵抗する個体もいたが、今の俺に抗える存在ではなかった。
「くそっ……! こんなやつに……!」
「俺たちは……負けるわけには……!」
あがく声も空しく、命の灯火はひとつ、またひとつと消えていった。
(弱い)
それが、すべてだった。
捕食本能が暴走を続ける。
喰らえば喰らうほど、俺の中で力が膨れ上がる。
【経験値を獲得しました】
【筋力が上昇しました】
【敏捷が上昇しました】
【耐久が上昇しました】
身体がさらに進化していくのを感じる。
「バケモノだ……」
「もう駄目だ……終わりだ……」
「あいつは……海の破壊者だ……!」
絶望の呟きだけが水中にこだまする。
だが、それもすぐに消えた。
全滅だった。
この海域に俺に刃向かう者はいなくなった。
感知スキルを全開にしても、敵意を持つ気配は一つもない。
全員、屈服していた。
あるいは死んだ。
(これで……この海域は、俺のものだ)
それでも、満たされない。
強者を喰らいたい。
さらなる高みへ登りたい。
俺は水を蹴って進みながら、感知範囲をさらに広げた。
すると、遠方から別格の気配が届いた。
重く、鋭く、禍々しい。
(……いいな)
俺は迷わずその方向へ進んだ。
海の奥深くへ。
より暗く、より重い圧力がかかる深海層へ。
水温が急激に下がる。
水圧が骨を軋ませる。
だが、俺は進み続けた。
「……ここから先は、死の領域だぞ」
突然、水中に声が響いた。
「誰であろうと、生半可な存在は生きては帰れん……!」
(知ったことか)
俺は進む。
止まらない。
声の主が姿を現した。
それは巨大な甲殻類だった。
【アビスシェルロード】
【レベル:38】
【特徴:超耐久、超重量、高圧攻撃】
「貴様……なぜ、ここへ来た?」
(喰らいに来た)
言葉などいらない。
俺の牙がすべてを語る。
「……よかろう」
アビスシェルロードはその巨体を震わせ、戦闘態勢に入った。
「この深海の主たる我を打ち倒せるか、試してみるがいい!」
(試すまでもねえ)
俺は爆発的な加速で一気に間合いを詰めた。
高速遊泳、水流支配、血潮の加護──
すべてを駆使して、アビスシェルロードに飛びかかる。
「ほう……面白い!」
巨爪が振り下ろされる。
避ける。
渦潮掌握で水流を乱し、爪の軌道をずらす。
(遅い)
瞬時に懐に入り、鋭く牙を突き立てた。
だが、アビスシェルロードの殻は並大抵の硬度ではなかった。
ガギン!と嫌な音が響く。
牙がわずかに弾かれた。
「通じぬ!」
(なら、削るだけだ)
俺は渾身の力で引き裂いた。
一度で無理なら、十度、百度、千度。
叩き続ければ必ず砕ける。
「ぐぅっ……!」
巨爪を振るい、俺を叩き落とそうとする。
だが、感知スキルがすべてを読んでいる。
動きが重い。
攻撃範囲が狭い。
巨大な身体に甘えた鈍重な動き──
そんなもの、俺には通じない。
俺は高速で泳ぎ回りながら、隙を見つけては牙を突き立てた。
「この程度で……!」
(焦ってる)
わずかに表面にひびが入ったのを見逃さない。
そこを狙う。
集中的に。
ひたすらに。
「ぐおおおおお!!」
咆哮と共に、アビスシェルロードが水流を巻き起こす。
だが、そんなもの、俺には通じない。
水流支配を上書きする。
俺の水流が、相手の水流をねじ伏せた。
(終わりだ)
俺は一気に加速し、ひび割れた部分へ牙を突き刺した。
砕ける。
殻が弾け飛び、内部の柔らかな肉が露出する。
「ぐ、うぅぅ……!」
悲鳴を上げる巨体に、俺はためらわず喰らいついた。
肉を裂き、血をすすり、骨を砕く。
「がああああああ!!」
そいつらは必死に水をかき分け、なんとか逃げ出そうと足掻いていた。
「た、助け──誰か助けてくれ!」
「嫌だ、嫌だ、殺される……!」
「なぜだ、なぜこんなことに……!」
(うるさい)
俺は追撃を仕掛けた。
水流支配で作り出した渦の力をさらに強め、逃げるモンスターたちを強引に引き戻す。
「や、やめろぉおおお!!」
「許して、許してくれぇえええ!」
断末魔を上げる声を無視して、牙を突き立てる。
肉を裂き、骨を砕き、血をすすった。
「う、うわああああああ!!」
一匹、また一匹と絶命していく。
抵抗する個体もいたが、今の俺に抗える存在ではなかった。
「くそっ……! こんなやつに……!」
「俺たちは……負けるわけには……!」
あがく声も空しく、命の灯火はひとつ、またひとつと消えていった。
(弱い)
それが、すべてだった。
捕食本能が暴走を続ける。
喰らえば喰らうほど、俺の中で力が膨れ上がる。
【経験値を獲得しました】
【筋力が上昇しました】
【敏捷が上昇しました】
【耐久が上昇しました】
身体がさらに進化していくのを感じる。
「バケモノだ……」
「もう駄目だ……終わりだ……」
「あいつは……海の破壊者だ……!」
絶望の呟きだけが水中にこだまする。
だが、それもすぐに消えた。
全滅だった。
この海域に俺に刃向かう者はいなくなった。
感知スキルを全開にしても、敵意を持つ気配は一つもない。
全員、屈服していた。
あるいは死んだ。
(これで……この海域は、俺のものだ)
それでも、満たされない。
強者を喰らいたい。
さらなる高みへ登りたい。
俺は水を蹴って進みながら、感知範囲をさらに広げた。
すると、遠方から別格の気配が届いた。
重く、鋭く、禍々しい。
(……いいな)
俺は迷わずその方向へ進んだ。
海の奥深くへ。
より暗く、より重い圧力がかかる深海層へ。
水温が急激に下がる。
水圧が骨を軋ませる。
だが、俺は進み続けた。
「……ここから先は、死の領域だぞ」
突然、水中に声が響いた。
「誰であろうと、生半可な存在は生きては帰れん……!」
(知ったことか)
俺は進む。
止まらない。
声の主が姿を現した。
それは巨大な甲殻類だった。
【アビスシェルロード】
【レベル:38】
【特徴:超耐久、超重量、高圧攻撃】
「貴様……なぜ、ここへ来た?」
(喰らいに来た)
言葉などいらない。
俺の牙がすべてを語る。
「……よかろう」
アビスシェルロードはその巨体を震わせ、戦闘態勢に入った。
「この深海の主たる我を打ち倒せるか、試してみるがいい!」
(試すまでもねえ)
俺は爆発的な加速で一気に間合いを詰めた。
高速遊泳、水流支配、血潮の加護──
すべてを駆使して、アビスシェルロードに飛びかかる。
「ほう……面白い!」
巨爪が振り下ろされる。
避ける。
渦潮掌握で水流を乱し、爪の軌道をずらす。
(遅い)
瞬時に懐に入り、鋭く牙を突き立てた。
だが、アビスシェルロードの殻は並大抵の硬度ではなかった。
ガギン!と嫌な音が響く。
牙がわずかに弾かれた。
「通じぬ!」
(なら、削るだけだ)
俺は渾身の力で引き裂いた。
一度で無理なら、十度、百度、千度。
叩き続ければ必ず砕ける。
「ぐぅっ……!」
巨爪を振るい、俺を叩き落とそうとする。
だが、感知スキルがすべてを読んでいる。
動きが重い。
攻撃範囲が狭い。
巨大な身体に甘えた鈍重な動き──
そんなもの、俺には通じない。
俺は高速で泳ぎ回りながら、隙を見つけては牙を突き立てた。
「この程度で……!」
(焦ってる)
わずかに表面にひびが入ったのを見逃さない。
そこを狙う。
集中的に。
ひたすらに。
「ぐおおおおお!!」
咆哮と共に、アビスシェルロードが水流を巻き起こす。
だが、そんなもの、俺には通じない。
水流支配を上書きする。
俺の水流が、相手の水流をねじ伏せた。
(終わりだ)
俺は一気に加速し、ひび割れた部分へ牙を突き刺した。
砕ける。
殻が弾け飛び、内部の柔らかな肉が露出する。
「ぐ、うぅぅ……!」
悲鳴を上げる巨体に、俺はためらわず喰らいついた。
肉を裂き、血をすすり、骨を砕く。
「がああああああ!!」
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