2 / 66
第2話
しおりを挟む
屋敷の修復はわたくしの《応急構築魔具》ひとつで、半日足らずで完了いたしましたわ。
ふふ、民間技術というものはどうしてこうも進化が遅いのかしら。王都の建築職人など、これを見たら鼻で笑ってくださるでしょうね。いえ、笑う暇すらないほど驚愕するに違いありませんわ。
「お嬢様、本当に……全部、ひとりで?」
「ひとりで、ではなく“魔具”で、ですわよ、リゼ。わたくしは設計しただけでしてよ」
そう答えながら、わたくしは外に向き直る。まず最初に調査すべきは、あの黒い丘。
村の外れに、奇妙なまでに草木が生えていない小高い丘がございますの。どこかで見たような構造……ええ、これは典型的な“沈下型遺跡”の兆候。地表から露出した石材と、極端な土壌の酸化、そして地脈干渉による魔素の過剰反応。すべてが一致しておりましてよ。
「リゼ、準備なさい。わたくし、あの丘を掘り起こしますわ」
「ええっ!? また、いきなり……!」
「常識では測れないのが、わたくしですもの。むしろ、いきなりでなければ意味がございませんわ」
ふふふ。胸が高鳴るというのは、このような瞬間を言うのでしょうね。子供のころ、初めて魔導書の構造式を解読できたときと同じ、あの脳を震わせる感覚。未知と知識の狭間に立つ快感。これは、貴族の舞踏会ごときでは到底味わえない悦びですわ。
リゼと共に、簡易魔導スコップを手に現地へ赴く。表層の土を削ると、すぐに硬質の石板が露出した。案の定、古代魔文明様式。しかも、この配置は――
「……間違いありませんわ。地下式の魔導貯蔵庫。上層防壁は、既に損壊済みのようですわね」
「じ、地下? じゃあ、下に……建物があるんですか?」
「ええ。それも、規模はかなり大きいものと見受けられますわ」
わたくしは魔具用の解析レンズを取り出し、石板の表面をなぞる。文字が浮かび上がる――古代魔語。そのまま読めるということは、やはりわたくしの推測は正しかったのですわね。
──“第四格納区画・封印指定区画・鍵保持者以外の開封を禁ず”。
封印指定? あらあら、ますます興味をそそられますわ。
「リゼ、立っていてくださる? これから、開けますわよ」
「……お、お嬢様、せめて少しは調査してからに……」
「“調査”とは、すなわち“開封”ですわ。わたくしにとっては」
慎重なリゼの忠告もそこそこに、わたくしは腰に下げていた多機能魔具《ミゼリ・デバイス》の中央部をひねり、古代式魔力鍵の波長に切り替える。
封印部に魔力を注ぎ込むと、ぎい、と古びた音が地面の下から響いた。
その瞬間、丘の中心部がずるりと崩れ、空洞が姿を現す。
「ほぉ……これはまた、大変に良い反応ですわ」
眼下に広がるのは、石で組まれた円形の空間。中央に不思議な装置らしきものが鎮座しており、あたりには……無数の小型魔導機が、崩れた状態で転がっておりましたわ。
「これは……魔導兵器!? しかも、未確認型……!」
たまらず、わたくしは飛び降りました。衝撃を魔具で相殺し、装置の元へ駆け寄る。ああ、この形状、このエネルギー構造……もしや、これは伝説級の“自己成長型魔具中枢核”──!
手を触れた瞬間、装置が淡く光を放ち、わたくしの魔力に呼応するかのように脈打ちました。
「うふふ……! わたくしの時代、始まりましたわね」
この時点では、まだ誰も知らない。王国史に名を刻む大改革者が、いままさに地底の遺跡で“目覚めた”ということを。
けれど――わたくしはもう確信しておりましたのよ。この地で、わたくしは自由に世界を創り変えてゆくのだと。
そしてまずは、この装置を“動かす”ところから始めましょう。動けば使える。使えるなら、わたくしの領地は、既に勝利したも同然でしてよ。
ふふ、民間技術というものはどうしてこうも進化が遅いのかしら。王都の建築職人など、これを見たら鼻で笑ってくださるでしょうね。いえ、笑う暇すらないほど驚愕するに違いありませんわ。
「お嬢様、本当に……全部、ひとりで?」
「ひとりで、ではなく“魔具”で、ですわよ、リゼ。わたくしは設計しただけでしてよ」
そう答えながら、わたくしは外に向き直る。まず最初に調査すべきは、あの黒い丘。
村の外れに、奇妙なまでに草木が生えていない小高い丘がございますの。どこかで見たような構造……ええ、これは典型的な“沈下型遺跡”の兆候。地表から露出した石材と、極端な土壌の酸化、そして地脈干渉による魔素の過剰反応。すべてが一致しておりましてよ。
「リゼ、準備なさい。わたくし、あの丘を掘り起こしますわ」
「ええっ!? また、いきなり……!」
「常識では測れないのが、わたくしですもの。むしろ、いきなりでなければ意味がございませんわ」
ふふふ。胸が高鳴るというのは、このような瞬間を言うのでしょうね。子供のころ、初めて魔導書の構造式を解読できたときと同じ、あの脳を震わせる感覚。未知と知識の狭間に立つ快感。これは、貴族の舞踏会ごときでは到底味わえない悦びですわ。
リゼと共に、簡易魔導スコップを手に現地へ赴く。表層の土を削ると、すぐに硬質の石板が露出した。案の定、古代魔文明様式。しかも、この配置は――
「……間違いありませんわ。地下式の魔導貯蔵庫。上層防壁は、既に損壊済みのようですわね」
「じ、地下? じゃあ、下に……建物があるんですか?」
「ええ。それも、規模はかなり大きいものと見受けられますわ」
わたくしは魔具用の解析レンズを取り出し、石板の表面をなぞる。文字が浮かび上がる――古代魔語。そのまま読めるということは、やはりわたくしの推測は正しかったのですわね。
──“第四格納区画・封印指定区画・鍵保持者以外の開封を禁ず”。
封印指定? あらあら、ますます興味をそそられますわ。
「リゼ、立っていてくださる? これから、開けますわよ」
「……お、お嬢様、せめて少しは調査してからに……」
「“調査”とは、すなわち“開封”ですわ。わたくしにとっては」
慎重なリゼの忠告もそこそこに、わたくしは腰に下げていた多機能魔具《ミゼリ・デバイス》の中央部をひねり、古代式魔力鍵の波長に切り替える。
封印部に魔力を注ぎ込むと、ぎい、と古びた音が地面の下から響いた。
その瞬間、丘の中心部がずるりと崩れ、空洞が姿を現す。
「ほぉ……これはまた、大変に良い反応ですわ」
眼下に広がるのは、石で組まれた円形の空間。中央に不思議な装置らしきものが鎮座しており、あたりには……無数の小型魔導機が、崩れた状態で転がっておりましたわ。
「これは……魔導兵器!? しかも、未確認型……!」
たまらず、わたくしは飛び降りました。衝撃を魔具で相殺し、装置の元へ駆け寄る。ああ、この形状、このエネルギー構造……もしや、これは伝説級の“自己成長型魔具中枢核”──!
手を触れた瞬間、装置が淡く光を放ち、わたくしの魔力に呼応するかのように脈打ちました。
「うふふ……! わたくしの時代、始まりましたわね」
この時点では、まだ誰も知らない。王国史に名を刻む大改革者が、いままさに地底の遺跡で“目覚めた”ということを。
けれど――わたくしはもう確信しておりましたのよ。この地で、わたくしは自由に世界を創り変えてゆくのだと。
そしてまずは、この装置を“動かす”ところから始めましょう。動けば使える。使えるなら、わたくしの領地は、既に勝利したも同然でしてよ。
109
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる