追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

第8話

　村へ戻ったわたくしを出迎えたのは、かつての沈黙ではなく、歓喜の波でございました。

　「エリス様が帰ってきたぞー！」

　「ほんとに来たんだ！　王都に行ったって聞いてたけど！」

　「俺たちの“守り神”が帰ってきたってことだな！」

　わたくしの帰還に、村人たちは笑顔を浮かべ、子供たちは無邪気に駆け寄ってまいりました。リゼが「す、すごい歓迎ぶりですね……」と目を丸くしておりましたけれど、これも当然の帰結ですわ。わたくしの技術が、彼らの生活を劇的に改善し、希望を与えたのですから。

　そして何より、彼らは知っているのですわ。わたくしが“口先”ではなく、“実績”で動く人間だということを。

　「ふふ。ご安心なさいませ、みなさま。わたくしは、まだこの村で“遊び足りておりません”のよ」

　その言葉に、歓声と笑いが混ざったような喝采があがる。

　さあ、舞台は再び整いましたわ。今度は、ただのインフラ整備などでは終わらせません。わたくしの次なる一手、それは──

　「村を、“拠点都市”にいたしますわ」

　リゼが目を見開いた。

　「拠点……って、それって、ただの村が、街になるって……？」

　「ええ、正確には、“実験都市”として、技術と生産の中心拠点にいたしますわ。この村で、新たな技術を開発・運用・社会実装まで行うシステムを確立し、王都や他国に先んじて“未来”を体現してみせますの」

　わたくしの宣言に、村人たちは最初、呆然としておりました。けれど、一歩、二歩、誰かが小さく頷き、そして拍手が広がる。

　「エリス様なら……やってくれる！」

　「この村が……世界で一番すごい場所になる……！」

　ふふ、素直な人々は好きですわ。貴族社会のように、下心も嫉妬もなく、ただ“信じてくれる”この環境こそ、技術の楽園に相応しい。

　とはいえ、都市化には段階的な施策が必要ですわ。

　まずは居住環境の拡充。わたくしが王都で実演した簡易住居の改良型を量産し、魔力効率と断熱性を向上させたプロトタイプを製作。

　「これで、冬が来ても大丈夫でございますわ。火を焚く必要もございませんの」

　次に、情報伝達の高速化。魔力波長による簡易通信網を整備し、村内の全家庭に小型の“呼応石”を配布。これにより、村人同士が緊急時でも迅速に連絡を取れるようになりました。

　「うわ……これ、声が……石の中から聞こえる！？」

　「魔法みたい……って、魔法か！」

　「いえ、魔法ではございませんわ。これは“技術”ですの。原理はまた今度、講義を開きますので、学びたければ聞きにいらっしゃい」

　教育も重要ですわね。長期的には、わたくしの技術を理解し、運用できる人材を育成しなければならない。知識を一極集中させていては、社会は育ちませんもの。

　そうして村の再整備が進む中、次なる問題として浮上したのが――外部からの“関心”ですわ。

　王都だけでなく、近隣の領主や、果ては他国の使者までもが、こぞってこの村に視察の名目で訪れ始めたのです。

　「エリス様。外からのお客様が、また……今日も五組、明日も七組の予定で……」

　「ふむ……まこと、面倒くさい事態になってきましたわね」

　“視察”などと言って、目的は明白。わたくしの技術を目にし、可能であれば奪い、無理なら妨害し、最悪、排除を目論む。それが国家という存在の本質。

　ですから、わたくしは対応策として、“外部対応魔導人形”を製作いたしましたの。

　「エリス様……そっくり……というか、声まで……」

　「ええ、わたくしの魔力パターンと話法、判断基準を再現した、自律式の模擬人格機構ですわ。表向きの応対はこの子が担当いたします。わたくしはその間に、“本物の仕事”を進めますの」

　そう、交渉も応対も、わたくしの労力を使うには“無駄”でしかありませんわ。必要なのは結果。それだけですの。

　そしてある日、そんな“視察者”の中に、見過ごせない一団が現れました。

　黒衣を纏い、馬車も黒塗り、紋章も一切なし。けれど、わたくしは見抜きましたわ。

　彼らは“王国諜報局”の者たちですわ。