追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

第53話

　未来記念塔の式典ホールにて、わたくしは最終調整を進めておりましたの。

　「リゼ、未来都市群独立宣言文書、最終稿は？」

　「こちらです！」

　リゼが手渡してきたホログラム端末には、わたくしの名義で記された正式な国家樹立宣言が輝いておりましたの。

　「よろしいですわ」

　わたくしは一読し、微細な表現修正を施してから承認印を押しましたの。

　「各都市に同期発信の準備をなさい。時間は正時ぴったり、遅れは一秒も許しませんわ」

　「はいっ！」

　リゼがオペレーションセンターへ指示を飛ばし、未来都市群連合各地の式典会場にもリアルタイムで準備が整えられていきましたの。

　「続いて、未来標準旗の掲揚式の段取りは？」

　「各都市代表による同時掲揚が決定しています！」

　「よろしいですわ。視覚的なインパクトも重要ですもの」

　そこへアウレリア局長が通信を入れてきましたの。

　『お嬢様、旧世界評議会圏内でも、続々と未来都市群への亡命申請が出始めています！』

　「亡命申請、ですの？」

　『はい！　技術者、学者、魔導師、さらには貴族階級までもが、続々と未来へ希望を求めています！』

　「当然の流れですわね」

　わたくしは冷ややかに微笑みましたの。

　「リゼ、亡命希望者の受け入れはどうなっておりますの？」

　「一次審査を未来標準規格適応テストで実施、合格者のみ特区市民権付与となっています！」

　「よろしいですわ。未来に不要な因習を持ち込まれては困りますもの」

　リゼが一拍置いて尋ねましたの。

　「あの、旧王国の現王、アルベルト三世からも極秘裏に接触要請が……」

　「無視なさい」

　「かしこまりました！」

　未来は過去に縛られた者の手には渡りませんわ。未来とは、わたくしの手によってこそ創られるものですもの。

　そして、式典開始五分前。

　未来記念塔最上階、特設演壇に立ったわたくしの前には、ホログラムで結ばれた百都市を超える群衆が広がっておりましたの。

　リゼが耳打ちしましたの。

　「配信網、オールクリアです！　いつでも開始可能です！」

　「よろしいですわ」

　時報が鳴り、正時を告げましたの。

　わたくしは一歩、演壇の中心へ進み出ましたの。

　「諸君。新たな時代の幕開けに立ち会う栄誉を、まずは祝福いたしましょう」

　未来記念塔から、各都市へとわたくしの声が広がっていきましたの。

　「過去に縛られる世界は終わりました。これより、未来を志向する者たちによる、新たな国家が誕生いたしますわ」

　「その名も――未来都市群連合、アウローラ・ユニオン！」

　各都市で歓声と拍手が爆発しましたの。

　「わたくしたちは、旧き世界の限界を超え、未知なる発展の道を歩みますわ。貴族も平民も、国家も種族も、古き分類に意味はありません。ここにあるのは、ただ、未来へと進む意志だけ」

　「アウローラ・ユニオンは、全世界の革新と調和を導く灯台となるでしょう」

　わたくしの宣言に続き、各都市の旗掲揚が同時に行われ、紺碧と金の未来標準旗が一斉に空に翻りましたの。

　リゼが涙ぐみながら呟きましたの。

　「本当に、世界を変えてしまったんですね……」

　「まだ始まったばかりですわ」

　わたくしはリゼに微笑みかけ、さらに命じましたの。

　「リゼ、未来世界基本法の制定作業を急ぎなさい。理想を形にするためには、制度もまた必要ですわ」

　「了解しました！」

　その時、異変が発生しましたの。

　「お嬢様、警戒網に未確認次元転移反応を検知！」

　「ほう？」

　リゼが血相を変えて叫びましたの。

　「転移先、未来記念塔最上階――この演壇付近です！」

　わたくしは瞬時に解析魔眼を展開し、次元座標の歪みを見据えましたの。

　「面白いですわね。歓迎して差し上げますわ」