追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第54話

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 次元座標の歪みから現れたのは、漆黒のフードを被った異邦の女でしたの。

 「エリス・フォン・グリムヴァルト」

 その声には奇妙な反響がありましたの。異世界からの訪問者か、あるいは――

 リゼが怯えた声で訊ねましたの。

 「お嬢様、対応をどういたしましょう?」

 「まずは身元確認ですわ」

 わたくしはフードの女に向かって歩み寄りましたの。

 「貴女は何者ですの?」

 女はゆっくりとフードを下ろしましたの。現れたのは、真紅の瞳と銀色の髪を持つ、異様な雰囲気の少女。

 「わたしは、“クロノス機関”第零使徒、メイリア=クロノス」

 その名に、リゼが絶句しましたの。

 「クロノス機関……!? 時空管理組織の伝説的存在……?」

 「ほう、わたくしの耳にも届いておりますわ。“世界の歪みを矯正する”という、あの」

 メイリアは無表情に頷きましたの。

 「貴女の行動が、世界線に過大な負荷を与えています。是正を要求します」

 「要求?」

 わたくしは嘲笑を浮かべましたの。

 「誰が、何の権限で、わたくしに命じようというのかしら?」

 メイリアは無感情な声で告げましたの。

 「これ以上の逸脱を認めた場合、時空因果律が崩壊する」

 「崩壊? 面白いですわね。ならば、いっそ崩して差し上げますわ」

 リゼが慌てて制止しましたの。

 「お嬢様、相手は時空間を操作する力を持つと伝えられています……!」

 「それがどうしたというのです? 未来を創るとは、常に“今”を越える行為ですわ」

 わたくしは冷ややかにメイリアを見据えましたの。

 「貴女が言う因果律とやら、わたくしにとっては、ただの過去の亡霊に過ぎませんわ」

 メイリアが片手を上げましたの。空間が波打ち、演壇周辺に次元歪曲フィールドが展開されましたの。

 「交渉は終了。これより強制是正措置を開始します」

 「ほう、力ずくで参るつもりですのね。よろしいですわ、少しは退屈しのぎになりますもの」

 わたくしは魔導手袋をはめ直し、《プロメテウス》直結式魔導演算を起動しましたの。

 「リゼ、塔外への波及を防ぐため、即時封鎖モードに移行なさい」

 「はいっ!」

 未来記念塔を覆う絶対防護結界《オーロラ・フィールド》が展開され、周囲の都市機能とは完全に遮断されましたの。

 「貴女のような過去の番人には興味がありませんわ。未来を創る者の力、見せて差し上げますわ」

 メイリアが瞬時に間合いを詰め、手から放ったのは“時間切断”の術式でしたの。

 「時よ、止まれ」

 術式がわたくしに向かって直撃しましたの。しかし。

 「効きませんわよ」

 わたくしは《絶対魔力防壁・グラムシールド》を展開、時間干渉そのものを弾き返しましたの。

 「わたくしの魔力体系は、既存の物理次元にも、時間軸にも依存しておりませんもの」

 メイリアの表情が初めて僅かに歪みましたの。

 「ありえない……この世界の存在法則から逸脱している……!」

 「ええ、逸脱しておりますわ。わたくし自身が、既にこの世界に新たな法則を刻み込んでおりますもの」

 わたくしは魔導式を起動しましたの。

 「対時空因果干渉制圧術式――発動」

 魔導構文が一瞬で空間を支配し、メイリアの動きを封じ込めましたの。

 「時空間操作など、わたくしの前ではお遊びですわ」

 メイリアが抵抗を試みましたが、無数の魔導鎖が彼女の存在そのものを拘束しましたの。

 リゼが震えた声で叫びましたの。

 「お嬢様、捕縛成功です!」

 「当然ですわ」

 わたくしは演壇を降り、捕らえたメイリアを見下ろしましたの。

 「さあ、じっくりと尋問させていただきますわ。未来を脅かす存在には、それなりの対価を支払ってもらいますもの」
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