追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

第55話

　メイリアを拘束したまま、わたくしは未来記念塔の特別尋問室へと向かいましたの。

　「リゼ、尋問準備を整えなさい。精神防御も解除モードに切り替えて」

　「はいっ！」

　リゼが即座に指示を飛ばし、尋問室に特殊制御魔導陣が展開されましたの。通常の結界では破れぬ、未来都市群特製の超越型精神干渉防壁。これならどんな時空系スキルも無効化できましてよ。

　「さて、メイリア＝クロノス。わたくしに語っていただきますわ」

　メイリアはなおも無表情で、わたくしを見返してきましたの。

　「無意味だ。わたしには義務がある。世界を是正するためならば、消滅すら厭わない」

　「ふふ、そうでございますか。でも、貴女が消滅するのは自由ですが、情報は頂きますわ」

　わたくしは《精神解析術式・エクス＝サイファ》を展開しましたの。対象の防衛意識層をバイパスし、深層意識に直接アクセスする高等魔導技術ですわ。

　リゼが尋ねましたの。

　「お嬢様、対象の意識レイヤーは複数重層化しています！　通常手段では突破困難です！」

　「問題ありませんわ」

　わたくしは笑い、次元位相干渉術式《カタラクト・ブレイカー》を重ね掛けしましたの。世界観測基盤ごと対象の存在位相を揺らし、固定観念を粉砕する超高位術式ですわ。

　「――開始いたしますわ」

　わたくしの指先から伸びた光条が、メイリアの額に突き刺さり、深層意識へとダイブしましたの。

　膨大な情報の奔流が頭に流れ込みましたの。

　古代文明《ゼクト＝ノヴァ》、時間管理機構《クロノス機関》、多次元統制連合《プライムアクト》。そして、その中枢に隠された、絶対禁忌――《原初因果核》。

　リゼが叫びましたの。

　「お嬢様、これは……！　クロノス機関の真の目的……！」

　「ええ、見えてきましたわ」

　わたくしは微笑みながら、解析を続けましたの。

　「彼らは、因果律を守るためなどではありませんわ。真実は――“未来を特定の結末へ導く”こと。つまり、世界の自由意思そのものを抑圧する存在ですの」

　リゼが震える声を上げましたの。

　「そんな……！　時空の番人ではなく、支配者……！」

　「その通りですわ」

　メイリアの意識層のさらに奥には、クロノス機関が秘匿してきた最大の機密がありましたの。

　――“未来の封印”計画。

　旧世界が滅びたのは、自然な終焉ではなかった。クロノス機関が選別した未来以外を排除するために、意図的に滅ぼされたのですわ。

　「未来を選ぶのは、彼らではありませんわ」

　わたくしは解析を完了し、術式を切り離しましたの。

　「未来は、わたくしたち自身の手で創るものですもの」

　メイリアが微かに呻きましたの。

　「貴女は……破壊者……いずれ全てを壊す存在に……」

　「結構ではありませんこと？　壊すべきものなど、世界には山ほどございますもの」

　リゼがオペレーション端末を見ながら叫びましたの。

　「お嬢様、クロノス機関本体から緊急次元干渉波動！　直接介入が来ます！」

　「ふふ、ようやく本命が出てまいりましたわね」

　わたくしは未来記念塔全域に緊急命令を発令しましたの。

　「全局次元障壁展開、戦闘態勢に移行なさい！」

　「了解しました！」

　未来都市群を守るための総力戦が、今ここに始まろうとしておりましたの。