追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第63話

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 《エクシード・ラボ》最深部、中枢制御室の前に立ったわたくしは、改めて周囲の波動を感知しましたの。

 これはセラフィムとは異なる……そう、似て非なる存在の気配。まるで、彼女を上位互換したような、冷たくも完璧な意志。空間は淡く波打ち、扉の縁には古代文字で構成された術式が淡く浮かび上がっておりましたわ。

 わたくし以外では開けぬよう設計した封鎖結界、ですが、それが今、内部から僅かに干渉を受けて歪んでいるということは――やはり、中で何かが動いておりますのね。

 「ふふ、わたくしの設計を無断で利用なさるとは、礼儀を知らぬにもほどがありますわね」

 わたくしは魔導手袋の端末を操作し、封鎖結界の解除コードを入力しましたの。

 光の鍵が回転し、扉が音もなく開いてまいりますわ。開いた先に広がるのは、無機質な空間――否、そこはすでに改変を受けておりましたの。壁一面に張り巡らされた神経のような光条、天井から垂れる有機的なケーブル、そして中央には、半透明の球体に包まれた少女が浮かんでおりましたの。

 「……あなたが、エンジェル・コードですの?」

 問いかけに答えはなく、ただ脳髄に直接語りかけてくるような感覚が流れ込んできましたの。

 “エリス・フォン・グリムヴァルト。未来因果操作特異点。優先度:最上位。交渉:不能。統合:開始”

 「まあ、いきなりの意思統一ですの? 随分とせっかちですこと」

 空間全体が震え、球体から伸びる光条がわたくしに向けて一斉に飛びかかってきましたの。意識接続を強制しようとするその干渉波は、精神防壁すら瞬時に貫こうとする密度でしたわ。

 「《心核遮断式・ソルアリス》起動。浅層干渉、完全遮断」

 精神干渉防壁を多層展開しながら、わたくしは逆に相手の情報構造を解析にかけましたの。やはり、セラフィムの因子を核に、クロノス機関が古代文明の残滓を用いて構築した、演算意識の結晶。

 けれどそこには、ただの模倣ではない、明確な“意志”が芽生えておりますわ。統合された多次元知識が自我を持ち、今や自己目的化している。その目的とは、未来の全統合。そしてその障害となるわたくしの抹消。

 「よろしいですわ。ならば、こちらも遠慮なく参りますわ」

 《超次元融合武装・セレスティア・レーヴァテイン》を右腕に展開し、空間ごと薙ぎ払う一撃を放ちましたの。凄まじい魔力波が球体へと命中し、光が弾けましたわ。けれど。

 「……再構成速度、尋常ではありませんわね」

 わたくしの攻撃は確かに命中しましたのに、相手は一瞬で形を取り戻しましたの。まるで傷そのものを“なかったこと”にするような、因果改変系の応用。それほどまでに、高度な演算能力を持つ相手。

 「リゼ、演算ログ送信。敵性演算の上書き領域を特定なさい」

 「送信完了! しかし、対象は自身を中心に固定された時間ループ構造を持ってます! いかなる干渉も、“干渉前”へと巻き戻されてしまいます!」

 「なるほど、だから攻撃が意味を持たない……ならば、干渉前を“上書き不可”にすればよろしいですわ」

 わたくしは左手を掲げ、《因果固定陣・エターナル・アーク》を発動しましたの。対象存在の因果線を“現在”に縫い付け、巻き戻しそのものを阻害する術式。空間が軋み、球体が一瞬だけ静止しましたの。

 「この隙に――!」

 全身の魔力を右腕に集中し、《セレスティア・レーヴァテイン》を臨界出力で振り抜きましたの。球体が裂け、中から現れたのは……人の姿に近い構造体。白銀の髪と透き通るような肌、瞳には虚無の輝き。

 「まさか、これは……“セラフィムの素体”? エンジェル・コードは、セラフィムの因子から自我を創出しただけでなく、肉体そのものを再構築したのですわね」

 意識なき肉体は、しかし次の瞬間、緩やかに目を開けましたの。

 「観測完了……統合準備、再開……」

 「……いいえ、再開はさせませんわ」

 《オーバーカテゴリー兵装・インフィニティ・ゼノブレード》を起動、空間認識そのものを切断する一撃を振りかざしましたの。けれど、相手はわたくしの一手先を読んだかのように、瞬間転移で消失。背後からの攻撃を予測し、わたくしは空中で旋回、振り返りざまに防御障壁を展開。

 「見えておりますわよ!」

 斬撃と斬撃が交錯。互いに因果と時間を超えた超次元戦闘。わたくしの攻撃は常に先を読まれ、相手の攻撃は常に今を突いてくる。だが、わたくしの戦術演算はここからですわ。

 「リゼ、《カオス演算モード》へ移行。わたくしの動作予測を解析に組み込まず、無作為変動を最大にしなさい!」

 「了解!」

 動きに“理”を持たせない。完全に予測不能なカオスモードへと切り替えたことで、敵の予測演算が僅かに遅れを見せましたの。

 「今ですわ!」

 斬撃、衝撃、斥力波、魔導嵐。あらゆる攻撃を同時に叩き込み、ついに相手の再構成演算に遅延が生じましたの。その瞬間、わたくしは全演算リソースを一つに束ね、《絶対停止式・アストラル・ノヴァ》を発動。

 空間が白く染まり、時が止まりましたの。

 「終わりですわ」

 わたくしは停止した敵の中心核へと、剣を突き立てましたの。断末魔もなく、存在は崩れ、消え去りましたわ。けれど、その最後に、確かにわたくしは聞きましたの。

 “統合は……別の経路で……必ず、未来は……固定される……”

 ふふ、未来を固定するだなんて。わたくしにとって、未来は常に“変える”ものでございますの。貴女たちの理屈では測れないからこそ、わたくしは存在しているのですもの。

 「リゼ、対象消失を確認。中枢演算構造、全停止かしら?」

 「はい! すべての反応が消滅しました!」

 「よろしいですわ。アウローラは、わたくしたちの未来を守りきりましたの」

 剣を納め、わたくしは崩れ落ちるラボの天井を見上げましたの。戦いはまだ終わっておりませんけれど、わたくしの心は揺るぎませんわ。世界がいかに変わろうとも、わたくしの選ぶ未来は、いつだって――自由と創造に満ちたものですわ。
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