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坑道の入り口に立つと、中から生暖かい風が吹き付けてきた。
闇の奥からは、何かの生き物の鳴き声のようなものがかすかに聞こえてくる。
普通の冒険者なら、きっとここで引き返すだろう。
この場所には、それほど嫌な雰囲気が満ちていた。
「ここが……。なんだか、嫌な感じがしますね」
リナが、不安そうに呟いた。
彼女は治癒師として、生命力やその逆の気配に敏感なのかもしれない。
ただのカビ臭さや湿気とは違う、まるで命そのものがよどんでいるような重い空気だ。
「大丈夫だ、俺が必ずお前を守る」
俺はリナにそう言うと、松明に火を灯した。
揺れる炎が、俺たちの顔と崩れかけた入り口をぼんやりと照らす。
そしてためらうことなく一歩、坑道の闇の中へと足を踏み入れた。
もちろん、何も考えずに進むわけじゃない。
俺の【神の眼】は、すでにこの坑道内部の構造とそこに潜む危険の全てを捉えていた。
『前方10メートル、天井に落盤の罠。支柱が、意図的に脆くされている』
『右手の壁、亀裂の奥にジャイアントバットの巣。刺激しなければ、無害』
『この先の分かれ道、左は行き止まり。右が、正しいルート』
全ての情報が、まるで地図のように頭の中に広がる。
危険な場所と安全な場所が、色分けされた道のように見えていた。
「リナ、俺から三歩以上離れるな。そして俺が踏んだ場所以外は、絶対に踏むなよ」
「は、はい!」
俺はリナに的確な指示を出しながら、慎重に進んでいく。
しかし、その足取りに迷いはない。
落盤の罠の手前でぴたりと止まり、足元の石を拾って前方に投げつけた。
石が罠の範囲に触れた瞬間、ぎしりと支柱のきしむ音が響いた。
大きな音と共に、天井から巨大な岩がいくつも落ちてくる。
「ひゃっ!」
リナは悲鳴を上げるが、俺たちはすでに安全な距離まで下がっていた。
岩が地面に叩きつけられ、ものすごい衝撃と土埃が舞い上がる。
「もし知らずに進んでいたら、今頃二人ともあれの下敷きになってましたね……。カイさん、どうして罠の場所が分かったんですか?」
「長年の経験と、勘だ」
俺はそう言って、先を急いだ。
さすがに【神の眼】のことは、言えない。
リナは「勘、ですか……。すごすぎます……」と、ますます俺への尊敬を深めているようだった。
その信頼が、俺の背中を押してくれる。
俺たちはその後も、うまく隠されたいくつもの罠を全て事前に見つけて回避していった。
地面に仕掛けられた落とし穴や、壁から飛び出す毒矢。
幻覚を見せる胞子をまき散らすキノコなど、様々だ。
俺の【神の眼】の前では、どんな罠も意味をなさなかった。
道の途中で、何度かモンスターとの戦闘にもなった。
現れたのは、坑道に住み着いたゴブリンの仲間や巨大なムカデのようなモンスターだ。
暗闇から複数体が、音もなく現れる。
「グルル……!」
「リナ、下がってろ。こいつらの弱点は……額の赤い模様だ」
俺は【神の眼】で、すぐに弱点を見抜いてリナに指示を出す。
――――――――――――――――
【真名】マイン・ゴブリン
【弱点】額の赤い模様(感覚器官)、関節部分
【行動パターン】複数で連携し、死角から奇襲を仕掛けることを好む。
――――――――――――――――
俺はミスリルダガーを構え、襲いかかってくるゴブリンたちの群れに突っ込んだ。
奴らの連携攻撃のパターンは、すでにお見通しだ。
一匹目が棍棒を振り下ろす動きに合わせ、俺はその懐に潜り込む。
すぐに二匹目が放つ矢を、一匹目を盾にして防いだ。
そしてがら空きになった額の赤い模様を、的確に短剣で貫く。
悲鳴を上げる暇もなく、ゴブリンたちが次々と倒れていった。
「すごい……。あんなにたくさんいたのに、一人で……」
後ろで見ていたリナが、呆然と呟いている。
だが、彼女はただ見ているだけではなかった。
「カイさん、援護します!」
リナは新しい杖、『世界樹の若枝の杖』を構えると治癒の力を使った。
だが、それは回復のためじゃない。
彼女が放った光は俺の体に降り注ぎ、全身に力がみなぎる感覚がした。
「これは……?」
「私の力で、カイさんの身体能力を一時的に強化しました!この杖、すごいです!今までとは比べ物にならないくらい、力が引き出せます!」
リナの補助のおかげで、俺の動きはさらに速く鋭くなった。
疲れが消えて、頭が冴えわたる。
残りのゴブリンたちをあっという間に片付け、俺はリナの方を振り返った。
「助かった、リナ。いい援護だった」
「いえ、そんな……!私、初めて戦闘で誰かの役に立てました……!」
リナは、目に涙を浮かべて喜んでいた。
彼女は治癒師としての自分の力に、ようやく自信を持つことができたのだろう。
その成長が、俺は自分のことのように嬉しかった。
俺たちは完璧な連携で、坑道の奥へと進んでいった。
俺が【神の眼】で周りを見て分析し、リナが回復と補助で俺を支える。
二人しかいないのに、まるで熟練した大きなパーティのようにスムーズに探索は進んだ。
そして坑道に入ってから約二時間後、俺たちはついに一番奥の場所にたどり着いた。
そこは今まで通ってきた狭い坑道とは、比べ物にならないほど広大な空間だった。
天井は高く、壁には巨大なドワーフの神々の石像がいくつも彫られている。
そして空間の中央には、巨大な金床と火が消えたままの巨大な炉があった。
ここが、古代の鍛冶場だ。
「すごい……。こんな場所に、こんなものが……」
リナも、目の前の光景に息をのんでいる。
空気はひんやりとしているが、どこか神聖な雰囲気が漂っていた。
ドワーフたちの魂が、今もこの場所に息づいているようだ。
そして俺たちの目は自然と、鍛冶場の中央に置かれた祭壇へと引き寄せられた。
そこには一振りの、飾り気はないが力強いオーラを放つ巨大な槌が置かれていた。
「あれが……『炎神の槌』……」
俺が呟いた、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
鍛冶場全体が、地響きを立てて揺れ始めた。
祭壇を守るように立っていた、一体の巨大な石像の目が赤い光を灯す。
石像の表面が剥がれ落ち、中から現れたのは全身が黒光りする金属でできた巨大なゴーレムだった。
「侵入者ヲ、排除スル」
機械的で、感情のない声がドーム内に響き渡る。
こいつが、依頼書にあった番人か。
俺はすぐに、ゴーレムを【神の眼】で鑑定した。
――――――――――――――――
【真名】アダマンタイト・ゴーレム
【種別】古代兵器
【弱点】胸部に埋め込まれた動力炉。動力炉は『三重防御障壁』によって保護されている。
【障壁解除条件】ゴーレMの全身に刻まれた五つの古代紋様を、特定の順番(右腕→左足→背中→左腕→頭部)で、魔力を込めた攻撃で破壊する必要がある。
【行動パターン】単純な殴打、踏みつけを繰り返す。動きは遅いが、一撃の破壊力は絶大。物理防御力は極めて高い。
【情報】ドワーフの最高技術によって生み出された、鍛冶場の絶対的な守護者。
――――――――――――――――
「リナ!下がって、俺の回復と援護に集中しろ!絶対に近づくな!」
「は、はい!」
リナはすぐに俺の指示に従い、距離を取った。
アダマンタイト・ゴーレムが、重い足取りでこちらに迫ってくる。
ドッゴォォン!
振り下ろされた拳が、地面を叩き割った。
とてつもないパワーだ、まともに食らえば一撃でやられてしまうだろう。
だが、動きが遅いのが救いだ。
俺はゴーレムの攻撃をひらりとかわし、その巨大な体を見上げた。
全身に、淡く光る古代の模様が見える。
順番は、右腕からだ。
俺はミスリルダガーに意識を集中させ、魔力を込める。
短剣が、かすかに銀色の光を放った。
ゴーレムが、再び拳を振り上げてくる。
その隙を突き、俺は懐に飛び込んで右腕に刻まれた模様を全力で切り裂いた。
キィィン、という甲高い音と共に模様が砕け散る。
同時に、ゴーレムの全身を覆っていた見えない壁のようなものが一枚剥がれるのを感じた。
三重防御障壁の一つが、解除されたのだ。
「成功だ……!」
だが、喜んでいる暇はない。
攻撃を受けたゴーレムは、俺を狙ってより激しい攻撃を仕掛けてきた。
「グオオオオ!」
巨体が回転して、腕をなぎ払うように振ってきた。
俺は後ろに跳んでかわしたが、その風圧だけで体がよろめく。
「カイさん!」
リナの治癒の光が、俺の体力を回復させた。
ありがたい、これなら長期戦にも耐えられる。
次の模様は、左足だ。
俺はゴーレムの足元に滑り込み、攻撃の合間をぬって左足の模様を破壊した。
二枚目の障壁が、消える。
「あと三つ……!」
背中、左腕、そして頭部。
ゴーレムの攻撃は単調だが、一撃が重い。
集中力を切らせば、すぐに死んでしまう。
俺はリナの回復を頼りに、ひたすら攻撃を避け的確に模様だけを狙い続けた。
そしてついに最後の模様、頭部のそれを破壊した瞬間、ゴーレムの動きが完全に止まった。
胸の装甲が開き、中から心臓のように動く赤いコア、動力炉が姿を現す。
「今だ……!」
俺は残された全ての力を振り絞り、高く跳んだ。
そして剥き出しになった動力炉に、ミスリルダガーを突き立てた。
ズブリ、と鈍い手ごたえ。
ゴーレムの全身に亀裂が走り、その目から光が消えた。
やがて巨体はバランスを崩し、大きな音と共に崩れ落ちて動かなくなる。
「はぁ……はぁ……」
激しい戦闘で、息が上がっている。
だが心地よい達成感が、疲労を上回っていた。
「カイさん!やりましたね!」
リナが、駆け寄ってくる。
俺たちはハイタッチを交わし、勝利を分かち合った。
そして俺は祭壇へと向かい、そこに置かれていた槌をゆっくりと手に取った。
ずしりとした重みだが、不思議と手に馴染む。
俺は、その槌を【神の眼】で鑑定した。
――――――――――――――――
【真名】ヘパイストスの槌
【種別】神造武具(レジェンダリー)
【情報】鍛冶の神が、自らのために作り出したとされる伝説の槌。あらゆる金属の特性を最大限に引き出し、所有者がイメージした通りの武具を生み出す力を持つ。鍛冶の知識や技術がなくとも、この槌を扱える者であれば神話級の武具すら創造可能。所有者として認められるには、清き心と強き意志が必要。
【能力】自動修復、素材鑑定、付与能力創造
――――――――――――――――
「神造武具……」
とんでもないものを、手に入れてしまった。
これさえあれば、俺はどんな伝説の武器や防具でも自分の手で生み出すことができる。
俺が槌の力に感動していると、槌を手にしたことに反応したのか鍛冶場全体が再び動き始めた。
今まで火が消えていた巨大な炉に、再び赤い炎が灯る。
そして鍛冶場の奥の壁が、音を立てて開き始めた。
そこには下へと続く、新たな通路が現れていた。
「これは……隠し通路……?」
リナが、驚きの声を上げる。
俺はすぐに、その通路を鑑定した。
『【情報】この通路は、地下深くに存在する古代ドワーフの都市『ヴォルカノン』へと続いている。500年前に地上の世界との交流を絶ち、現在ではその存在を知る者はいない伝説の都市である』
伝説の槌に、伝説の都市。
この坑道には、俺の想像を遥かに超えるお宝が眠っていた。
「どうしますか、カイさん?このまま、進んでみますか?」
リナが、興奮した様子で尋ねてきた。
ヴォルカノン、その響きだけで冒険心がくすぐられる。
「いや、一度街に戻ろう。今日の成果を報告して、この槌のこともある。それに伝説の都市に行くなら、それなりの準備が必要だ」
「そうですね!分かりました!」
俺たちは手に入れたヘパイストスの槌を、慎重に鞄にしまった。
そして、坑道からの帰り道につく。
外の光が見えてきた時、俺はふとリナを捨てたダリオたちのことを思い出した。
あいつらは今頃、安い酒場で今日の稼ぎの少なさを嘆いている頃だろうか。
俺たちは、そんな連中とはもう住む世界が違う。
伝説の槌と、失われた都市への道をこの手にしているのだから。
坑道を出て、ラトスの街へと向かう道を歩き始める。
今日の出来事を思い出しながら、これから始まるであろう更なる冒険に胸を躍らせていた。
リナも隣で、楽しそうに鼻歌を歌っている。
「それにしても、あのゴーレムは強かったですね」
「ああ。リナの回復がなければ、危なかったかもしれない」
「そんなことないです!カイさんがいたから勝てたんです!あの、カイさん……」
リナが、何か言いたそうに俺の顔をうかがっている。
「どうした?」
「私のこと、これからもパーティに置いてくれますか……?私、カイさんの役に立てるように、もっともっと頑張りますから……!」
彼女はまだ少しだけ、自分の居場所が不安なのかもしれない。
「当たり前だろ、お前はもう俺のただ一人の大事な相棒だ。俺の方こそ、これからもよろしく頼む」
俺がそう言って頭を撫でると、リナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「……はいっ!」
小さな、しかし力強い返事が青空に吸い込まれていった。
二人で今日の戦利品の話や、次に何をしようかという計画を立てていると遠くからこちらに向かってくる複数の人影が見えた。
最初は普通の旅人かと思ったが、その先頭を歩く人物の姿を見て俺は眉をひそめる。
それは見覚えのある、整った顔立ちだった。
Sランクパーティ『紅蓮の剣』のリーダー、アレックスだ。
闇の奥からは、何かの生き物の鳴き声のようなものがかすかに聞こえてくる。
普通の冒険者なら、きっとここで引き返すだろう。
この場所には、それほど嫌な雰囲気が満ちていた。
「ここが……。なんだか、嫌な感じがしますね」
リナが、不安そうに呟いた。
彼女は治癒師として、生命力やその逆の気配に敏感なのかもしれない。
ただのカビ臭さや湿気とは違う、まるで命そのものがよどんでいるような重い空気だ。
「大丈夫だ、俺が必ずお前を守る」
俺はリナにそう言うと、松明に火を灯した。
揺れる炎が、俺たちの顔と崩れかけた入り口をぼんやりと照らす。
そしてためらうことなく一歩、坑道の闇の中へと足を踏み入れた。
もちろん、何も考えずに進むわけじゃない。
俺の【神の眼】は、すでにこの坑道内部の構造とそこに潜む危険の全てを捉えていた。
『前方10メートル、天井に落盤の罠。支柱が、意図的に脆くされている』
『右手の壁、亀裂の奥にジャイアントバットの巣。刺激しなければ、無害』
『この先の分かれ道、左は行き止まり。右が、正しいルート』
全ての情報が、まるで地図のように頭の中に広がる。
危険な場所と安全な場所が、色分けされた道のように見えていた。
「リナ、俺から三歩以上離れるな。そして俺が踏んだ場所以外は、絶対に踏むなよ」
「は、はい!」
俺はリナに的確な指示を出しながら、慎重に進んでいく。
しかし、その足取りに迷いはない。
落盤の罠の手前でぴたりと止まり、足元の石を拾って前方に投げつけた。
石が罠の範囲に触れた瞬間、ぎしりと支柱のきしむ音が響いた。
大きな音と共に、天井から巨大な岩がいくつも落ちてくる。
「ひゃっ!」
リナは悲鳴を上げるが、俺たちはすでに安全な距離まで下がっていた。
岩が地面に叩きつけられ、ものすごい衝撃と土埃が舞い上がる。
「もし知らずに進んでいたら、今頃二人ともあれの下敷きになってましたね……。カイさん、どうして罠の場所が分かったんですか?」
「長年の経験と、勘だ」
俺はそう言って、先を急いだ。
さすがに【神の眼】のことは、言えない。
リナは「勘、ですか……。すごすぎます……」と、ますます俺への尊敬を深めているようだった。
その信頼が、俺の背中を押してくれる。
俺たちはその後も、うまく隠されたいくつもの罠を全て事前に見つけて回避していった。
地面に仕掛けられた落とし穴や、壁から飛び出す毒矢。
幻覚を見せる胞子をまき散らすキノコなど、様々だ。
俺の【神の眼】の前では、どんな罠も意味をなさなかった。
道の途中で、何度かモンスターとの戦闘にもなった。
現れたのは、坑道に住み着いたゴブリンの仲間や巨大なムカデのようなモンスターだ。
暗闇から複数体が、音もなく現れる。
「グルル……!」
「リナ、下がってろ。こいつらの弱点は……額の赤い模様だ」
俺は【神の眼】で、すぐに弱点を見抜いてリナに指示を出す。
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【真名】マイン・ゴブリン
【弱点】額の赤い模様(感覚器官)、関節部分
【行動パターン】複数で連携し、死角から奇襲を仕掛けることを好む。
――――――――――――――――
俺はミスリルダガーを構え、襲いかかってくるゴブリンたちの群れに突っ込んだ。
奴らの連携攻撃のパターンは、すでにお見通しだ。
一匹目が棍棒を振り下ろす動きに合わせ、俺はその懐に潜り込む。
すぐに二匹目が放つ矢を、一匹目を盾にして防いだ。
そしてがら空きになった額の赤い模様を、的確に短剣で貫く。
悲鳴を上げる暇もなく、ゴブリンたちが次々と倒れていった。
「すごい……。あんなにたくさんいたのに、一人で……」
後ろで見ていたリナが、呆然と呟いている。
だが、彼女はただ見ているだけではなかった。
「カイさん、援護します!」
リナは新しい杖、『世界樹の若枝の杖』を構えると治癒の力を使った。
だが、それは回復のためじゃない。
彼女が放った光は俺の体に降り注ぎ、全身に力がみなぎる感覚がした。
「これは……?」
「私の力で、カイさんの身体能力を一時的に強化しました!この杖、すごいです!今までとは比べ物にならないくらい、力が引き出せます!」
リナの補助のおかげで、俺の動きはさらに速く鋭くなった。
疲れが消えて、頭が冴えわたる。
残りのゴブリンたちをあっという間に片付け、俺はリナの方を振り返った。
「助かった、リナ。いい援護だった」
「いえ、そんな……!私、初めて戦闘で誰かの役に立てました……!」
リナは、目に涙を浮かべて喜んでいた。
彼女は治癒師としての自分の力に、ようやく自信を持つことができたのだろう。
その成長が、俺は自分のことのように嬉しかった。
俺たちは完璧な連携で、坑道の奥へと進んでいった。
俺が【神の眼】で周りを見て分析し、リナが回復と補助で俺を支える。
二人しかいないのに、まるで熟練した大きなパーティのようにスムーズに探索は進んだ。
そして坑道に入ってから約二時間後、俺たちはついに一番奥の場所にたどり着いた。
そこは今まで通ってきた狭い坑道とは、比べ物にならないほど広大な空間だった。
天井は高く、壁には巨大なドワーフの神々の石像がいくつも彫られている。
そして空間の中央には、巨大な金床と火が消えたままの巨大な炉があった。
ここが、古代の鍛冶場だ。
「すごい……。こんな場所に、こんなものが……」
リナも、目の前の光景に息をのんでいる。
空気はひんやりとしているが、どこか神聖な雰囲気が漂っていた。
ドワーフたちの魂が、今もこの場所に息づいているようだ。
そして俺たちの目は自然と、鍛冶場の中央に置かれた祭壇へと引き寄せられた。
そこには一振りの、飾り気はないが力強いオーラを放つ巨大な槌が置かれていた。
「あれが……『炎神の槌』……」
俺が呟いた、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
鍛冶場全体が、地響きを立てて揺れ始めた。
祭壇を守るように立っていた、一体の巨大な石像の目が赤い光を灯す。
石像の表面が剥がれ落ち、中から現れたのは全身が黒光りする金属でできた巨大なゴーレムだった。
「侵入者ヲ、排除スル」
機械的で、感情のない声がドーム内に響き渡る。
こいつが、依頼書にあった番人か。
俺はすぐに、ゴーレムを【神の眼】で鑑定した。
――――――――――――――――
【真名】アダマンタイト・ゴーレム
【種別】古代兵器
【弱点】胸部に埋め込まれた動力炉。動力炉は『三重防御障壁』によって保護されている。
【障壁解除条件】ゴーレMの全身に刻まれた五つの古代紋様を、特定の順番(右腕→左足→背中→左腕→頭部)で、魔力を込めた攻撃で破壊する必要がある。
【行動パターン】単純な殴打、踏みつけを繰り返す。動きは遅いが、一撃の破壊力は絶大。物理防御力は極めて高い。
【情報】ドワーフの最高技術によって生み出された、鍛冶場の絶対的な守護者。
――――――――――――――――
「リナ!下がって、俺の回復と援護に集中しろ!絶対に近づくな!」
「は、はい!」
リナはすぐに俺の指示に従い、距離を取った。
アダマンタイト・ゴーレムが、重い足取りでこちらに迫ってくる。
ドッゴォォン!
振り下ろされた拳が、地面を叩き割った。
とてつもないパワーだ、まともに食らえば一撃でやられてしまうだろう。
だが、動きが遅いのが救いだ。
俺はゴーレムの攻撃をひらりとかわし、その巨大な体を見上げた。
全身に、淡く光る古代の模様が見える。
順番は、右腕からだ。
俺はミスリルダガーに意識を集中させ、魔力を込める。
短剣が、かすかに銀色の光を放った。
ゴーレムが、再び拳を振り上げてくる。
その隙を突き、俺は懐に飛び込んで右腕に刻まれた模様を全力で切り裂いた。
キィィン、という甲高い音と共に模様が砕け散る。
同時に、ゴーレムの全身を覆っていた見えない壁のようなものが一枚剥がれるのを感じた。
三重防御障壁の一つが、解除されたのだ。
「成功だ……!」
だが、喜んでいる暇はない。
攻撃を受けたゴーレムは、俺を狙ってより激しい攻撃を仕掛けてきた。
「グオオオオ!」
巨体が回転して、腕をなぎ払うように振ってきた。
俺は後ろに跳んでかわしたが、その風圧だけで体がよろめく。
「カイさん!」
リナの治癒の光が、俺の体力を回復させた。
ありがたい、これなら長期戦にも耐えられる。
次の模様は、左足だ。
俺はゴーレムの足元に滑り込み、攻撃の合間をぬって左足の模様を破壊した。
二枚目の障壁が、消える。
「あと三つ……!」
背中、左腕、そして頭部。
ゴーレムの攻撃は単調だが、一撃が重い。
集中力を切らせば、すぐに死んでしまう。
俺はリナの回復を頼りに、ひたすら攻撃を避け的確に模様だけを狙い続けた。
そしてついに最後の模様、頭部のそれを破壊した瞬間、ゴーレムの動きが完全に止まった。
胸の装甲が開き、中から心臓のように動く赤いコア、動力炉が姿を現す。
「今だ……!」
俺は残された全ての力を振り絞り、高く跳んだ。
そして剥き出しになった動力炉に、ミスリルダガーを突き立てた。
ズブリ、と鈍い手ごたえ。
ゴーレムの全身に亀裂が走り、その目から光が消えた。
やがて巨体はバランスを崩し、大きな音と共に崩れ落ちて動かなくなる。
「はぁ……はぁ……」
激しい戦闘で、息が上がっている。
だが心地よい達成感が、疲労を上回っていた。
「カイさん!やりましたね!」
リナが、駆け寄ってくる。
俺たちはハイタッチを交わし、勝利を分かち合った。
そして俺は祭壇へと向かい、そこに置かれていた槌をゆっくりと手に取った。
ずしりとした重みだが、不思議と手に馴染む。
俺は、その槌を【神の眼】で鑑定した。
――――――――――――――――
【真名】ヘパイストスの槌
【種別】神造武具(レジェンダリー)
【情報】鍛冶の神が、自らのために作り出したとされる伝説の槌。あらゆる金属の特性を最大限に引き出し、所有者がイメージした通りの武具を生み出す力を持つ。鍛冶の知識や技術がなくとも、この槌を扱える者であれば神話級の武具すら創造可能。所有者として認められるには、清き心と強き意志が必要。
【能力】自動修復、素材鑑定、付与能力創造
――――――――――――――――
「神造武具……」
とんでもないものを、手に入れてしまった。
これさえあれば、俺はどんな伝説の武器や防具でも自分の手で生み出すことができる。
俺が槌の力に感動していると、槌を手にしたことに反応したのか鍛冶場全体が再び動き始めた。
今まで火が消えていた巨大な炉に、再び赤い炎が灯る。
そして鍛冶場の奥の壁が、音を立てて開き始めた。
そこには下へと続く、新たな通路が現れていた。
「これは……隠し通路……?」
リナが、驚きの声を上げる。
俺はすぐに、その通路を鑑定した。
『【情報】この通路は、地下深くに存在する古代ドワーフの都市『ヴォルカノン』へと続いている。500年前に地上の世界との交流を絶ち、現在ではその存在を知る者はいない伝説の都市である』
伝説の槌に、伝説の都市。
この坑道には、俺の想像を遥かに超えるお宝が眠っていた。
「どうしますか、カイさん?このまま、進んでみますか?」
リナが、興奮した様子で尋ねてきた。
ヴォルカノン、その響きだけで冒険心がくすぐられる。
「いや、一度街に戻ろう。今日の成果を報告して、この槌のこともある。それに伝説の都市に行くなら、それなりの準備が必要だ」
「そうですね!分かりました!」
俺たちは手に入れたヘパイストスの槌を、慎重に鞄にしまった。
そして、坑道からの帰り道につく。
外の光が見えてきた時、俺はふとリナを捨てたダリオたちのことを思い出した。
あいつらは今頃、安い酒場で今日の稼ぎの少なさを嘆いている頃だろうか。
俺たちは、そんな連中とはもう住む世界が違う。
伝説の槌と、失われた都市への道をこの手にしているのだから。
坑道を出て、ラトスの街へと向かう道を歩き始める。
今日の出来事を思い出しながら、これから始まるであろう更なる冒険に胸を躍らせていた。
リナも隣で、楽しそうに鼻歌を歌っている。
「それにしても、あのゴーレムは強かったですね」
「ああ。リナの回復がなければ、危なかったかもしれない」
「そんなことないです!カイさんがいたから勝てたんです!あの、カイさん……」
リナが、何か言いたそうに俺の顔をうかがっている。
「どうした?」
「私のこと、これからもパーティに置いてくれますか……?私、カイさんの役に立てるように、もっともっと頑張りますから……!」
彼女はまだ少しだけ、自分の居場所が不安なのかもしれない。
「当たり前だろ、お前はもう俺のただ一人の大事な相棒だ。俺の方こそ、これからもよろしく頼む」
俺がそう言って頭を撫でると、リナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「……はいっ!」
小さな、しかし力強い返事が青空に吸い込まれていった。
二人で今日の戦利品の話や、次に何をしようかという計画を立てていると遠くからこちらに向かってくる複数の人影が見えた。
最初は普通の旅人かと思ったが、その先頭を歩く人物の姿を見て俺は眉をひそめる。
それは見覚えのある、整った顔立ちだった。
Sランクパーティ『紅蓮の剣』のリーダー、アレックスだ。
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2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
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農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
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そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
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そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
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『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
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但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
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