追放された【鑑定士】の俺、ゴミスキルのはずが『神の眼』で成り上がる〜今更戻ってこいと言われても、もう遅い〜

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昇降機は、音もなく上昇を続けた。
やがて柔らかな光と共に、塔の最上階へとたどり着く。
扉が開いた先は、広大なドーム状の空間だった。
壁や天井は、まるで本物の星空のように無数の光がきらめいている。
そして、その中央に巨大な水晶がゆっくりと浮かんでいた。
水晶の内部では、青白い光がまるで心臓のように穏やかに脈動している。
あれが、この都の管理AIオラクルの本体、その中心部分なのだろう。

『ようこそ、イレギュラー。私が、オラクルです』
水晶から、直接俺たちの頭の中に声が響いてくる。
その声は、相変わらず感情を感じさせない。
だが、そこには強い好奇心とわずかな警戒心が混じっているのを俺は感じ取った。

「お前が、千年間も一人でこの都を守ってきたのか」
俺が問いかけると、オラクルは答えた。

『肯定します。それが、私に与えられた最も重要な使命ですから』

「寂しくは、なかったか」
俺の突然の質問に、オラクルは少しだけ沈黙した。

『その問いに、意味はありません。私は、感情を持つようには作られていませんので』
そう答える声が、ほんの少しだけ揺らいだように聞こえたのは気のせいだろうか。

「俺たちは、あんたの警告を無視してここに来た。この都の人々を、目覚めさせるためにな」
俺は、まっすぐに本題を切り出した。

『その行為が、星の災厄を再び呼び覚ます危険性があることは理解していますね』

「ああ、もちろんだ。だが、俺たちはその災厄と戦う。いや、必ず勝つ。だから、あんたの力を貸してほしい」
俺の真剣な言葉に、オラクルは答えない。
代わりに、ドームの壁に立体映像を映し出した。
そこに映し出されたのは、千年前の『星の災厄』との絶望的な戦いの記録だった。
空を覆い尽くすほどの巨大な、決まった形のない怪物。
その体から放たれる汚れた力が、エーテルガルドの美しい街並みを次々と壊していく。
古代の超文明が誇る最強の兵器たちが、まるで子供のようにあしらわれていく。
その映像は、あまりにも衝撃的だった。
リナは、息をのんでその光景をただ見つめている。

『これが、星の災厄が持つ力です。あなた方の力が、これに届くとでも言うのですか』

「ああ、届くさ。千年前にはなかった力が、今のこの星にはあるんだ」
俺は、オラクルに向かって自分の記憶を全て解放した。
俺がこの世界に来てから経験した、全ての戦いの記録を送る。
タルタロス・ウォームとの死闘、悪魔と化したアレックスとの最後の戦い。
そして、いつも俺を支えてくれた仲間たちとの絆の記憶を。
俺の記憶は、膨大な量の情報となってオラクルの中心へと流れ込んでいった。

『これは、解析不能です。あなた方の力は、私の記録にあるどの物理法則にも当てはまりません。特に、その【神の眼】という能力、そして仲間との連携で生まれる爆発的な力の増大は、私の理解を超えています』
オラクルの声に、初めてはっきりとした動揺の色が浮かんだ。
彼女の計算能力を使っても、俺たちの『絆』という力は数式で表すことができなかったのだ。

「そうだろ、これが俺たちの力だ。俺たちなら、災厄を倒せる。だから、彼らを起こしてやってくれ。千年も待ったんだ、もう十分じゃないか」
俺は、オラクルに強く訴えかけた。

『分かりました。一つ、提案をしましょう』
オラクルは、しばらくの沈黙の後、新たな言葉を続けた。
『あなた方の力を、試させてもらいます。私が作り出す、仮想空間での戦闘訓練です。もしあなた方が、私の再現した『星の災庸』の記録に打ち勝つことができればその時は、住民たちの覚醒を始めましょう』

「望むところだ、やってやる」
俺は、オラクルからの最後の試練をすぐに受け入れた。

『ただし、もし敗北した場合はあなた方をこの都の危険因子と判断し、完全に排除させてもらいます。よろしいですね』
その言葉は、俺たちに断るという選択肢を与えなかった。
俺とリナは、顔を見合わせて力強くうなずく。

「カイさん、行きましょう」

「ああ、もちろんだ」
俺たちが覚悟を決めると、オラクルの水晶がまばゆい光を放った。
その光に包まれた瞬間、俺たちの意識は別の空間へと飛ばされる。
気がつくと、俺たちはエーテルガルドの広場に立っていた。
だが、その空は赤黒い邪気に覆われ美しい街並みは見る影もなく破壊されている。
そして、空の彼方から千年前の記録映像で見た、あの巨大な怪物がゆっくりと降りてくるところだった。

「これが、星の災厄」
リナが、ゴクリと唾を飲んだ。
ただの記録とはいえ、その圧倒的な存在感は本物と変わらない。
全身から、生命そのものを否定するような邪悪な気が放たれている。

「カイさん、あれをどうやって倒すのですか」

「心配するな、リナ。あれは、ただの記録だ。そして、記録である以上は必ず弱点があるはずだ」
俺は【神の眼】で、目の前の災厄を徹底的に分析した。
その正体は、やはり力の集合体のようだ。
物理的な攻撃は、ほとんど効果がないだろう。
だが、その中心となっているのは純粋な『負の感情』の力だった。
絶望、憎しみ、悲しみ。
そういった負の感情を喰らい、自分の力に変えているのだ。
ならば、対抗する手段は一つしかない。

「リナ、お前の力を貸してくれ。俺と、フェニクスと、アルジェント。そして、この都に眠る全ての人々の『希望』の力を一つに集めるんだ」
俺の言葉に、リナは一瞬驚いたような顔をした。
だがすぐに、俺の考えを理解してくれたようだ。
彼女は、世界樹の若枝の杖を地面に強く突き立てた。

「届け、私の想い。眠れる魂たちよ、どうか私たちに力を貸してください!」
リナの祈りに応えるように、杖から優しい緑色の光が広がっていく。
その光は、この都全体を包み込むようにどこまでも伸びていった。
人工冬眠のカプセルの中で眠る、無数の人々の魂。
彼らが抱く、いつか目覚めたいという千年分の強い願い。
その前向きな力が、光の糸となってリナの杖へと集まってくる。
それは、まるで天の川のような美しい光景だった。

「すごい、これがみんなの想いなのですね」
リナの体は、集まってきた膨大な希望の力で金色に輝き始めた。
彼女は、もはやただの治癒師ではない。
人々の願いを束ねる、聖女のような神々しさを身にまとっていた。

「グルオオオオオッ!」
星の災厄が、俺たちのやろうとしていることに気づいたらしい。
そして、それを邪魔しようと巨大な邪気の息を放ってきた。
世界を終わらせるほどの、絶望の流れだ。

「行け、アルジェント、フェニクス!」
俺の号令に、二羽の神鳥がすぐに応えた。
アルジェントが神のような速さで飛び、暴風の壁で息の威力を弱める。
フェニクスが浄化の神炎を放ち、邪気を焼き払っていく。
二羽の神鳥が、命がけで俺たちのための時間を作ってくれた。

「カイさん、今です!」
リナが、力強く叫んだ。
彼女の元に集まった希望の力は、もはや太陽のようにまばゆく輝いている。
彼女はその全ての力を、俺が構えるアグニの刃先へと注ぎ込んだ。
神話級の短剣が、希望の光を吸収してその姿を変えていく。
それは、もはや短剣ではなかった。
天を貫くほどの、巨大な光の剣へと姿を変えていたのだ。
俺は、その光の剣を両手でしっかりと握りしめる。
不思議と、重さは感じない。
ただ、温かくて力強い力が全身にみなぎってくるのが分かった。
これが、みんなの希望の力なのだ。

「うおおおおおおおおっ!」
俺は、地面を強く蹴って空へと舞い上がった。
そして、星の災厄が放つ絶望の息を正面から切り裂きながら突き進む。
俺の体は、希望の光に守られて傷一つ負わない。
俺は、災厄の巨大な体の中心、負の感情が渦巻く中心へとたどり着いた。

「これが、俺たちの星の力だ。絶望は、希望には勝てない!」
俺は、光の剣を力強く振り下ろした。
希望の光が、災厄の邪悪な中心を完全に貫く。
最後の叫びを上げる間もなく、災厄の体は内側から浄化されていった。
赤黒い邪気は、温かい光の粒へと変わっていく。
やがて、その巨大な体は完全に消滅した。
後に残ったのは、どこまでも澄み渡る青い空だけだった。

仮想空間が、ガラスのように砕け散る。
気がつくと、俺たちはオラクルのいる塔の最上階に戻っていた。

『見事です。あなた方は、私の計算を、そしてこの世界の絶望を超えてみせました』
オラクルの声は、初めて感情を乗せて震えているように聞こえた。
それは、驚きと、そして深い感動の色だった。
彼女が千年間待ち続けた希望が、今まさに目の前にあるのだから。

『約束通り、住民たちの覚醒を始めます。千年分の眠りから、彼らが目覚める時が来ました』
オラクルの水晶が、穏やかな青色の光を放った。
その光は、塔を通じてエーテルガルドの都全体へと広がっていく。
都のあちこちにある、人工冬眠のカプセルが一つ、また一つと動き出す音を立て始めた。
カプセルの半透明の蓋が、ゆっくりと開いていく。
中から、千年間の眠りについていた古代の人々がゆっくりと体を起こし始めた。
彼らは、最初は戸惑ったように周りを見渡している。
だが、自分たちの故郷が美しい姿のままであること、そして空が希望の青に満ちていることを見て、一人、また一人と喜びの涙を流し始めた。
都のあちこちから、歓声が上がり始める。
それは、千年の時を超えて響き渡る生命の歌だった。

俺とリナは、塔の頂上からその光景を静かに見下ろしていた。
俺の肩でフェニクスが、そして隣でアルジェントが嬉しそうに鳴いている。
俺たちの長い旅は、一つの奇跡を生み出したのだ。

「カイさん、本当にやりましたね」
リナが、俺の腕にそっと寄り添った。

「ああ、だが本当の戦いはこれからだ」
俺は、地上を見下ろした。
星の災厄は、まだ星の奥深くで眠っている。
いつか、必ず戦わなければならない時が来るだろう。
だが、今の俺たちには千年間眠り続けた古代の超文明という、心強い味方がいる。
そして、何よりもかけがえのない絆で結ばれた仲間たちがいる。
俺は、隣に立つリナの顔を見た。
彼女は、最高の笑顔で俺に微笑み返してくれた。
その笑顔を守るためなら、俺はどんな敵とだって戦えるだろう。
エーテルガルドの、新しい夜明けが来た。
それは、俺たちの新たな伝説の始まりを告げる光でもあった。

目覚めたばかりの人々は、互いに抱き合い再会を喜んでいた。
その中には、翼を持つ者や、エルフのように耳の尖った者など様々な種族が混じり合っている。
このエーテルガルドは、多くの種族が手を取り合って生きてきた平和の都だったのだ。

やがて、一人の指導者らしい人物が俺たちのいる塔を見上げた。
そして、俺たちの存在に気づくと深々と頭を下げる。
その感謝の気持ちは、すぐに都の全ての人々へと伝わっていった。
広場を埋め尽くした人々が、一斉に俺たちのいる塔に向かって感謝の祈りを捧げ始めた。
その光景は、あまりにも厳かで美しかった。
俺たちは、英雄としてこの都に迎え入れられることになった。
彼らの代表者である評議会に招かれ、俺たちが何者で、どのようにしてこの都を目覚めさせたのかを話した。
彼らは俺たちの話に驚き、そして心からの感謝を示してくれた。
千年後の世界がどうなっているのか、彼らはまだ知らない。
だが、目の前にいる俺たちが新たな時代の希望であることだけは理解してくれたようだ。

評議会の議長である、白髪の賢者が俺に言った。
「カイ殿、あなた方は我々エーテルガルドの、そしてこの星の救世主です。どうか、我々にあなた方の戦いに協力させてはいただけないだろうか。我々が持つ古代の技術と知識は、必ずや星の災厄との戦いの力となるはずです」
俺は、その申し出を喜んで受け入れた。
これで、俺たちはとてつもなく強力な仲間を得たことになる。
エーテルガルドの民は、すぐに地上世界の調査を開始した。
彼らの偵察機が、世界中へと飛び立っていく。
そして、現代の文明のレベルや魔物の分布、そして地底に眠る災厄の正確な位置と状態を驚くべき速さで調べていった。
俺とリナは、しばらくの間この都に滞在することになった。
彼らが、千年ぶりの世界に慣れるのを手伝うためだ。
そして、来るべき最後の戦いに備えて俺たち自身の力をさらに高めるためでもある。
俺は、都の訓練施設で剣の腕を磨いた。
リナは、古代の知識を持つ癒し手たちから失われた高いレベルの治癒術を学んでいった。
フェニクスとアルジェントも、この都の豊かな力を浴びて日に日にたくましく成長していく。
そんな穏やかな日々が、数週間続いたある日のことだった。
俺たちが評議会に呼ばれて向かうと、そこには深刻な顔をした議長と技術者たちが集まっていた。
巨大な立体地図に、一つの赤い警告が表示されている。
それは、かつて俺たちが冒険したヴォルカノンの位置を示していた。

「カイ殿、緊急事態です。地底に眠る災厄が、我々の予想を遥かに超える速度で覚醒を始めています」
議長が、厳しい表情で言った。

「なんだと、それはどういうことだ」

「原因は、不明です。ですが、このままではあと数日のうちに完全に復活してしまうでしょう。そうなれば、この星は」
技術者の一人が、震える声で続けた。
「災厄は、まず手近な力の源を求めて活動を開始するはずです。つまり、浄化されたばかりのヴォルカノンの地脈を喰らい、力を取り戻そうとするでしょう」
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