追放された【鑑定士】の俺、ゴミスキルのはずが『神の眼』で成り上がる〜今更戻ってこいと言われても、もう遅い〜

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「カイ殿、緊急事態です。地底に眠る災厄が、我々の予想を超える速さで覚醒しています」

評議会の議長が告げた言葉は、天空の都に平和が訪れたばかりの俺たちにとって、あまりにも重いものだった。
巨大な立体地図に映る、ヴォルカノンを示す赤い警告。
それは、まるでこの星自身の悲鳴のようにも見えた。

「なんだと、それはどういうことだ」
俺がそう問うと、技術者の一人が震える声で答える。

「原因は、まだ不明です。このままでは、あと数日のうちに完全に復活するでしょう」

そうなれば、この星はきっと滅びてしまう。
議長は、さらに厳しい顔で続けた。

「災厄は、手近な力の源を求めて活動を始めるはずです。浄化されたばかりの、ヴォルカノンの地脈を喰らうでしょう」

その言葉は、俺たちの勝利が新たな危機を招いた可能性を示していた。
タルタロス・ウォームを浄化したことで、ヴォルカノンの地脈は清らかな力に満ちている。
眠りから覚めようとする災厄にとって、それは最高の食事に違いないのだ。

もし地脈の力を全て吸われたら、災厄は千年の力を一気に取り戻すだろう。
その勢いのまま地上にあふれ出せば、もう誰にも止められない。

「そんなこと、絶対にさせてたまるか」
俺は、強く拳を握りしめた。
ヴォルカノンは、ドワーフたちが未来への希望を託した大切な土地だ。
そして、アレックスとリアが罪を償い、新たな人生を歩み始めようとしている場所でもある。
あそこを、二度も地獄にはさせない。

「カイさん、大丈夫ですか」
リナが、心配そうな顔で俺を見つめている。
彼女も、リアたちのことを心配しているのだろう。
その瞳には、恐怖ではなく強い決意が宿っていた。

「議長、何か手はないのですか。この都の技術があれば、災厄の覚醒を遅らせることはできるはずです」
リナの言葉に、議長は静かに首を横に振った。

「残念ながら、我々の技術は主に守りと再生に特化しています。災厄に、直接手出しする手段は千年前の戦いで失われました」

今からヴォルカノンへ向かったとしても、我々の力だけではどうにもならない。
その時、俺の肩にいたフェニクスが高く一声鳴いた。
まるで、自分たちがいると主張するように。
俺も、もちろん同じ気持ちだった。

「俺たちが行く。いや、俺たちにしかできない」
俺の言葉に、評議会の全員が息をのんだ。

「カイ殿、しかしあまりにも危険すぎます。あなた方は、この星の救世主なのです」

あなた方を、失うわけにはいかない。
議長の言葉を、俺はさえぎった。

「だからこそ、行くんだ。救世主なんて大げさな名前は、俺には似合わない」

俺はただ、守りたいものを守りたいだけだ。
仲間を、俺たちが救った場所を、そしてこの星の未来を。
俺のまっすぐな瞳を見て、議長は覚悟を決めたようにうなずいた。

「分かりました、あなた方の意志を確かに受け取りました。ならば、我々エーテルガルドも総力を挙げてあなた方を助けましょう」

すぐに、ヴォルカノンへ向かう準備を。
議長の号令と共に、評議会の間は一気に忙しくなった。
技術者たちが、最速の飛行艇の準備を始める。
学者たちは、災厄に関する少ない記録を調べ直していた。
千年の眠りから覚めた都が、再び一つの目的のために動き出す。

「カイさん、私たちも準備をしましょう」
リナが、俺の袖をそっと引いた。
俺たちは評議会の間を後にして、一度ラトスの街へと戻る。
バルガンに預けていた、武具を受け取るためだ。
エーテルガルドの技術者たちは、小型の超高速艇を用意してくれた。
ラトスまで、半日もかからず到着できるという驚きの乗り物だった。

「カイの兄さん、リナの嬢ちゃん。こいつは、一体何だ」
ラトスの上空に現れた、流線形の美しい飛行艇。
それを見て、地上にいたバルガンは腰を抜かさんばかりに驚いていた。
俺たちは飛行艇から降りると、彼に事情を簡単に話した。

「なんだと、災厄がもう目覚めちまうのか。そりゃあ、一大事だぜ」
バルガンは事の重大さを理解すると、工房の奥から俺たちの武具を持ってきた。
だが、その武具は預けた時の姿とは全く違うものに変わっていた。

「兄さんたちが空で頑張ってる間、俺もこいつと向き合ってたんだ。オリハルコンと、神の槌が俺に教えてくれたのさ」

これが、俺の魂を込めた最高傑作だ。
バルガンが誇らしげに差し出したのは、白銀に輝く一揃いの鎧だった。
俺のシルフィード・メイルと、リナのシルフィード・ローブ。
その表面には、オリハルコンで描かれたドワーフの文字がびっしりと刻まれている。
それは、あらゆる呪いを退け、力を増幅させる古代の紋様だった。

俺は、その鎧を【神の眼】で鑑定する。
神話級防具、神銀の鎧『ブリューナク』。
あらゆる攻撃を大幅に減らし、装備者の魔力を五倍に増幅させる。
さらに、ドワーフの紋様が全ての状態異常や呪いを完全に無効化する。
リナのローブも、同様に神銀の衣『エイル』へと進化していた。
とんでもない性能だ、これなら災厄の瘴気の中でも動けるだろう。

「バルガン、あんたは最高の職人だ。本当に、ありがとう」
俺が言うと、バルガンは照れくさそうに笑った。

「へへっ、照れるじゃねえか。さあ、これも持っていきな」
バルガンは、巨大な樽をいくつも飛行艇に運び込み始めた。
中身は、ドワーフの技術で作られた強力な爆薬だという。
岩盤を砕き、道を切り開くためにきっと役立つはずだ。
彼の熱い友情が、心に温かく染みた。

俺たちはバルガンに別れを告げ、再びエーテルガルドへと戻る。
都では、すでに出撃準備が完了していた。
俺たちが乗り込むのは、エーテルガルドが誇る最新鋭の戦闘艇『アルゴス』だ。
自己進化する、AIが搭載されているらしい。

「カイ殿、リナ殿。あなた方だけを行かせるわけにはいきません」
議長がそう言うと、俺たちの前に五人の男女が進み出た。
彼らは、千年ぶりの目覚めから最も早く回復した精鋭部隊だという。
エーテルガルドの、『天空の騎士団』のメンバーだった。
リーダー格の男は、ライルと名乗った。
その目は、強い意志と覚悟に満ちている。

「救世主殿、我々の命はあなた方と共にあります。この星の未来を、我らの手で切り開きましょう」
彼らの力強い言葉に、俺は静かにうなずいた。
俺はもう、一人ではないのだ。
多くの絆が、俺の背中を強く押してくれている。
全ての準備が整い、俺たちはアルゴスに乗り込んだ。
リナは、新しい衣『エイル』を身にまとっている。
その姿は、まるで戦いの女神のように神々しかった。
俺も、神銀の鎧『ブリューナク』を装着する。
鎧は俺の体に吸い付くように馴染み、無限の力が湧き上がってくるのを感じた。

「発進します」という、AIの声が響く。
アルゴスは、音もなく浮上した。
都の民たちが、広場から俺たちを見送ってくれている。
その祈りを背に受け、俺たちの船は一路ヴォルカノンへと向かった。
星の運命を賭けた、最後の戦いの始まりだった。
アルゴスの飛行速度は、アルジェントに並ぶほどだった。
眼下の景色が、すごい速さで流れていく。
船内では、天空の騎士団が黙々と最終確認をしていた。
彼らが扱うのは、光の剣や魔力を帯びた銃などだ。
俺が見たこともない、高度な武器ばかりだった。

「カイ殿、災厄の正確な位置を特定しました」
リーダーのライルが、立体地図を指し示した。
赤い警告は、ヴォルカノンのさらに地下深くで激しく点滅している。
かつて、タルタロス・ウォームが封印されていた場所だ。

「災厄は、空間に裂け目を作りそこから瘴気を噴出させています。我々の任務は、その裂け目を完全に閉じることです」

エーテルガルドの技術で作られた、特殊な封印装置を設置する。
ライルが示した作戦は、単純で分かりやすかった。
だが、実行するには災厄が放つであろう無数の手下を退けなければならない。
裂け目の中心まで、たどり着く必要があるのだ。
それは、まさに命がけの任務だった。

「裂け目までの道は、俺が開く。封印装置の設置は、あんたたちに任せる」
俺の言葉に、ライルは力強くうなずいた。

「承知しました、カイ殿の力を信じています」
俺たちの間には、すでに固い信頼が生まれていた。
やがて、アルゴスの眼下に懐かしい岩山の景色が見えてくる。
かつて、俺たちが三つの試練に挑んだ場所だ。
だが、その様子は一変していた。
空は赤黒い瘴気に覆われ、大地には不気味な亀裂が走っている。
そこから、紫色のガスが噴き出していた。
ヴォルカノンは、すでに災厄の影響を受け始めていたのだ。

「リアさんたちが、心配です」
リナが、不安そうにつぶやいた。
俺も、同じ気持ちだった。
あの二人が、無事でいてくれればいいが。
アルゴスは、瘴気を切り裂きながらヴォルカノンの入り口へと降りていく。
そして、かつて俺たちが戦った最深部へと一直線に向かった。

最深部にたどり着いた時、俺たちは信じられない光景を見た。
空間の中央には、巨大な次元の裂け目が口を開けている。
そこから、おびただしい数の異形の魔物たちがあふれ出ていた。
そして、その魔物たちの攻撃をたった二人で食い止めている者たちがいたのだ。

「アレックス、リア!」
リナが、そう叫んだ。
そこにいたのは、変わり果てたヴォルカノンを守ると誓った二人だった。
アレックスは呪いが解けた聖剣を手に、全身傷だらけで戦っている。
彼の周りには、倒された魔物の山ができていた。
リアもまた、その隣で必死に魔法を展開している。
だが、二人とも限界が近いのは明らかだった。
その顔には、深い疲れの色が浮かんでいる。

「まだだ、まだ終われない。ここは、俺たちが守ると誓った場所だ」
アレックスの、魂からの叫びが響き渡る。
その時、巨大な魔物が彼の背後から忍び寄った。
リアがそれに気づき、悲鳴を上げる。

「危ない!」と、彼女は叫んだ。
もうだめだ、誰もがそう思った瞬間だった。
俺が放ったアグニの浄化の炎が、魔物を一瞬で焼き尽くした。

「なっ、なんだ」
アレックスが、驚きの顔でこちらを振り向く。
アルゴスのハッチが開き、俺とリナ、そして天空の騎士団が降り立った。

「待たせたな、アレックス。少しは、骨のある男になったじゃないか」
俺がそう言って笑うと、アレックスは呆然とした後、悔しそうに顔を歪めた。

「カイ、またお前に助けられたのか、俺は」

「礼を言うのは、全てが終わってからにしろ。今は、目の前の敵に集中するんだ」
俺たちの登場に、魔物たちが一斉に敵意をこちらに向けた。
その数は、数百はいるだろう。
そして、次元の裂け目の奥からはさらに巨大な存在の気配が感じられた。

「リナ、二人を頼む。ライル、作戦開始だ」

「応!」と、ライルは答えた。
俺の号令と共に、星の未来を賭けた最後の戦いの火蓋が切られた。
俺は、アグニを強く握りしめる。
その刃が、決戦の始まりを告げるようにまばゆい光を放った。
俺の隣で、リナも杖を構える。
天空の騎士団が、光の武器を一斉に構えた。
その光景は、まるで闇を切り裂く夜明けのようだった。
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