デブで無能と追放された令嬢、実は呪いを魔力として変換する最強体質でした。呪われた王宮の瘴気を完食して絶世の美女になりました。

旅する書斎(☆ほしい)

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第2話 黒い霧は濃厚ショコラの味

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馬車に揺られてから、もう三日が経過していた。
窓の外を流れる景色は、王都を出た時とはまるで違っている。

緑豊かだった草原は消え、地面は乾いた土色に変わっていた。
木々は葉を落とし、枯れ枝が幽霊の手のように空へ伸びている。

空は常に分厚い灰色の雲に覆われ、太陽の光を遮っていた。
どんよりとした空気の中に、ピリピリとした緊張感が漂う。

「お嬢様、この先は馬車が進めません……。」
御者の男が、馬車を止めて、震える声で私に告げた。
彼は恐怖で顔を青くし、ガタガタと歯を鳴らしている。

私は窓から顔を出して、進行方向を確認した。
目の前には、巨大な黒い霧が壁のようにそびえ立っている。

空まで届くほどの高さがあり、左右も見渡す限り続いている。
これこそが、北の辺境を飲み込み、人々を拒絶する強力な瘴気だ。

普通の人なら、見ただけで足がすくむような威圧感がある。
「ひぃっ……! あ、あんなものに触れたら即死です!」

御者は手綱を握る手を激しく震わせ、涙目になっていた。
「ここでいいわ。ご苦労様、帰っていいわよ。」

私は、馬車の扉を開けて、重い体をよっこらしょと降ろした。
地面に足をつくと、ズシッという重量感のある音が響く。

「ほ、本当によろしいのですか? こんな場所で降りて。」
御者は、信じられないものを見る目で私を見下ろしている。

「ええ、ここからは私の足で歩いていくわ。」
「し、しかし……食料も水もないのですよ?」
「心配ご無用よ。目の前にご馳走の山があるじゃない。」

私は、黒い霧の壁を指さして、ニッコリと笑った。
御者は、理解できないという顔をして、口をパクパクさせた。

「ご、ご馳走……? あれがですか……?」
「そうよ。いい匂いがして、お腹が空いてきたわ。」

私は、鼻をくんくんと鳴らして、漂ってくる香りを嗅いだ。
御者は恐怖のあまり、もう言葉も出ないようだった。

「じゃあね。王都に帰ったら、よろしく伝えてちょうだい。」
私の言葉が終わる前に、彼は慌てて馬車を反転させた。

「ひぃぃっ! 化け物だ! ここは地獄だぁぁ!」
彼は悲鳴を上げながら、馬に鞭を入れて走り去っていった。
砂埃を上げて、必死の形相で逃げていく馬車を見送る。

「あらあら、そんなに怖がらなくてもいいのに。」
私は、一人残された荒野で、腰に手を当てて呟いた。

「さてと。まずは腹ごしらえとしましょうか。」
私は、目の前に立ちはだかる黒い霧の壁を見上げた。
近くで見ると、霧は生き物のようにうごめいている。

ドロドロとした粘り気を帯びていて、濃厚な気配がする。
鼻をくすぐる、芳醇でスパイシーな香りが強くなった。

これは、最高級のカカオ豆をじっくりと焙煎した香りに近い。
少し焦げたような苦味の奥に、深い甘みが隠れているはずだ。

「いただきます!」
私は、両手を広げて、カバのように大きく口を開けた。
肺の中の空気をすべて吐き出し、準備を整える。

そして、目の前の黒い霧を、思い切り吸い込んでいく。
ズズズッ、という掃除機のような音が、静寂な荒野に響いた。

霧が渦を巻き、竜巻となって私の喉へと次々に吸い込まれる。
「んぐっ、ごくん! ……ぷはぁっ!」

口いっぱいに広がったのは、予想通りの素晴らしい味だった。
「ふう、最高! なんて深みのある味なのかしら!」

それは、まるで濃厚なガトーショコラのようだった。
ずっしりとした重みがあり、舌の上でとろりと溶けていく。

カカオの苦味が脳を刺激し、その後に強烈な甘さが押し寄せる。
「美味しい……! 王都のスイーツなんて目じゃないわ!」

私は、夢中になって次から次へと霧を吸い込んだ。
食べても食べても、霧は尽きることなく湧いてくる。

まさに、終わりがない夢のような食べ放題バイキングだ。
私の胃袋が、歓喜の声を上げて震えているのが分かる。

食べた呪いは、瞬時に強大な魔力へと変換されていった。
体の奥底から、熱いエネルギーがマグマのように湧き上がる。

「ん……? 体が、また熱くなってきたわ。」
私の体から、パチパチという黄金の火花が散り始めた。

指先から足の先まで、電流が走るような感覚がある。
脂肪が燃焼し、筋肉と骨格が再構築されていく音だ。

パァン、と弾けるような派手な音がして、ドレスが裂けた。
肩のあたりが大きく破れ、下から白い肌が露出する。

でも、その肌は以前のようなブヨブヨではない。
驚くほど白く、透き通るような輝きを放っている。

「あら、少し体が軽くなった気がするわね。」
私は、自分の腕を持ち上げて、しげしげと観察した。

丸太のようだった太い腕が、一回り細くなっている。
指先まで、ほっそりと繊細な形に変化していた。

爪は桜色に輝き、血管が透けて見えるほど皮膚が薄い。
「やっぱりね。食べれば食べるほど綺麗になれるんだわ。」

これは、私の体質が持つ「等価交換」の力だ。
毒である呪いを、純粋な生命力と魔力に変換する。

その過程で、不要な脂肪が燃料として消費されるのだ。
つまり、食べれば食べるほど痩せるという夢のシステムである。

「どんどん食べちゃうわよ。お腹はぺこぺこだもの。」
私は、黒霧の中を鼻歌まじりに歩き始めた。

私が歩くと、その周囲の霧が吸い込まれて消えていく。
まるで、私の周りだけ台風の目のように晴れ渡っていた。

霧の壁を突き破り、私は真っ直ぐに奥へと進んでいく。
地面はぬかるんでいて歩きにくいが、足取りは軽い。

以前なら数歩で息切れしていたが、今は無限の体力がある。
「もっと濃いのが食べたいわね。メインはまだかしら。」

奥へ進むほど、霧の濃度はさらに増し、味も濃くなる。
最初はミルクチョコだったのが、今はビターチョコの味だ。

やがて、霧の中に巨大な影がぼんやりと浮かび上がった。
それは、空に突き刺さるようにそびえる高い尖塔だった。

「見えたわ! あれが私の新しいお城ね!」
私は、期待に胸を膨らませて、小走りに近づいていった。

霧が晴れると、巨大な鉄の門が姿を現した。
高さは十メートル以上あり、頑丈そうな黒鉄でできている。

しかし、表面は赤錆に覆われ、蔦が絡まり放題だった。
何十年も開けられたことがないような、重厚な門だ。

門の隙間からは、ドス黒い瘴気が漏れ出している。
「開けてちょうだい! 新しい主人が来たわよ!」

私は、錆びついた門の巨大な取っ手を両手で掴んだ。
そして、足を踏ん張り、渾身の力で手前に引っ張る。

「ふんぬっ……!」
私の腕に黄金の魔力が宿り、筋肉がミシミシと音を立てる。

ギギギギギ……、と嫌な金属音が周囲に響き渡った。
錆びついて固まっていた蝶番が、悲鳴を上げて動き出す。

ズズズンッ! という地響きと共に、巨大な門が少し開いた。
私はその隙間に体をねじ込み、強引に中へと入った。

「お邪魔しまーす!」
私の元気な声が、静まり返った城の前庭にこだまする。

そこには、ボロボロの鎧を着た数人の男たちが倒れていた。
彼らは私の声に反応して、のろのろと顔を上げた。

「……な、なんだ? 門が開いたぞ……。」
「まさか、魔物が侵入してきたのか……?」

男たちは、剣を杖代わりにして、ふらふらと立ち上がった。
彼らは、全員が骸骨のようにひどく痩せ細っている。

頬はこけ、目は落ちくぼみ、顔色は死人のような土色だ。
鎧は錆びだらけで、所々穴が空き、今にも崩れ落ちそうだ。

これが、この辺境を守る騎士団の成れの果てなのだろう。
彼らの体には、生きる気力など微塵も感じられない。

「だ、誰だ貴様は……。ここへ何をしに来た。」
先頭に立つ騎士が、震える切っ先を私に向けて問うた。

その声は掠れていて、風が吹けば消えてしまいそうだ。
「私は、カトリーヌ・ド・ヴァロワ。今日からここを治めるわ。」

私は、スカートの裾をつまんで、優雅にカーテシーをした。
「カトリーヌ……? あの、王都の豚令嬢か……?」

騎士たちは、信じられないものを見る目で私を見た。
彼らは顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべている。

「おい、聞いた話と違うぞ。豚令嬢だと聞いていたが……。」
「ああ。もっとこう、巨大な肉団子のような姿だと……。」

一人の騎士が、私の顔をじっと見つめて呟いた。
「聞いていた話と、ずいぶん姿が違うようだが……。」

今の私は、まだ太っているが、顔立ちは整い始めている。
何より、肌のツヤがそこらの令嬢とは比較にならない。

発光するような白い肌は、暗いこの場所では目立ちすぎる。
「そんなことより、あなたたち、お腹が空いてない?」

私は、彼らの質問を無視して、城の中を見渡した。
「腹どころか、我々はもう死ぬのを待つだけだ。」

騎士のリーダーらしき男が、自嘲気味に力なく笑った。
「この城の呪いは、あらゆる生命力を吸い尽くす。」

「そうね。あなたたち、美味しそうな精気を吸われてるわ。」
私は、城の壁にびっしりと付着している黒いシミを見た。

それは、カビのように壁一面を覆い尽くしている。
普通の人にはただの汚れに見えるだろうが、私には違った。

あれは、最高級の食材である「黒トリュフ」に見える。
芳醇なキノコの香りがして、私の食欲を強烈に刺激する。

「ふーん、じゃあ私がその呪いを全部食べちゃえばいいわね。」
私は、壁に歩み寄ると、呪いの塊を指で掬おうとした。

「やめろ! それに触れると指が腐るぞ!」
騎士が叫んで止めようとするが、私は構わずに手を伸ばす。

ねっとりとした黒い塊を、指先でたっぷりと掬い取った。
「……んん! これ、すごく濃厚なチーズの味がするわ!」

私は、それを迷わず口に放り込み、舌の上で転がした。
ねっとりとした食感と、鼻に抜ける発酵したような香り。

これは、熟成されたブルーチーズに近い味わいだ。
「おいしいっ! クラッカーに乗せたら最高ね!」

私は、うっとりと頬を押さえて、その場で足踏みをした。
「お、おい……今、こいつ何をした……?」

騎士たちは、開いた口が塞がらない様子で固まっている。
彼らの理解を超えた光景に、思考が追いついていないようだ。

「呪いを……食べたのか? 素手で取って……。」
「しかも、美味いと言ったぞ。正気なのか?」

彼らの驚きをよそに、私は壁の呪いを次々と剥がしていく。
ベリベリッ、という音を立てて、黒いカビを剥ぎ取る。

私の手が触れるたびに、壁は真っ白な本来の姿を取り戻す。
汚れていた石壁が、大理石のようにピカピカに輝き出した。

「お嬢様、止めてください! 死んでしまいます!」
騎士の一人が、慌てて私を止めようと駆け寄ってきた。

彼は私の腕を掴もうとしたが、足がもつれて倒れそうだ。
私はとっさに、彼の手を握って支えてあげた。

「大丈夫よ。これ、とっても体にいいんだから。」
私は、彼の手を優しく握り返して、にっこりと微笑んだ。

その瞬間、私の手から黄金の光が溢れ出し、彼に流れた。
食べたばかりの呪いのエネルギーが、彼の中に注がれる。

「あ、あ……あう……。」
騎士の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。

彼は、金縛りにあったようにその場で動かなくなる。
「ど、どうした! 何をされたんだ!」

他の騎士たちが騒ぎ出したが、彼は夢心地の表情だ。
「体が……熱い……。力が……湧いてくる……。」

彼の土色だった顔に、みるみるうちに血色が戻っていく。
落ち窪んでいた目が輝きを取り戻し、肌に張りが戻った。

どうやら、私の魔力が彼にとっての栄養剤になったらしい。
「すごい魔力量だ……。指先が触れただけなのに……。」

彼は、自分の手を見つめて、震える声で呟いた。
「さて、ちまちま食べてても埒が明かないわね。」

私は、城のロビーの真ん中に立ち、仁王立ちになった。
この城には、まだまだ大量の呪いが眠っている。

天井も、床も、柱の裏側まで、すべてが美味しそうだ。
これを一つずつ手で取っていたら、日が暮れてしまう。

「一気に大掃除しちゃうわよ!」
私は、両手を大きく広げて、深く息を吸い込んだ。

胸が大きく膨らみ、全身の細胞が活性化していくのが分かる。
私の体から放たれる黄金の光が、さらに強さを増した。

城中の空気が震え、私の元へと集まってくる予感がする。
「吸引開始!」

私は、城全体の空気を飲み込むように、限界まで吸い込んだ。
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