デブで無能と追放された令嬢、実は呪いを魔力として変換する最強体質でした。呪われた王宮の瘴気を完食して絶世の美女になりました。

旅する書斎(☆ほしい)

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第3話 城の汚れは極上のトリュフ

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ゴオオオッ、という凄まじい風が城内を吹き抜けた。
窓ガラスがガタガタと悲鳴を上げ、騎士たちが慌てて床に這いつくばる。

城の中に充満していた、何百年分の黒い瘴気。
それが今、巨大な一本の川となって、私の口の中へと流れ込んでいく。

「んんっ……! ごくっ、ごくっ、ごくっ!」
私は、喉を鳴らして、その黒い濁流を飲み込み続けた。

口いっぱいに広がるのは、芳醇で濃厚なキノコの香りだ。
まるで、最高級のトリュフを煮込んだポタージュスープのようである。

「うまいっ! なんてコクのある味なんだ!」
私は、両手で空気を掴むようにして、さらに強く吸い込んだ。

騎士たちが、風圧に耐えながら、信じられないものを見る目で私を見上げている。
「ば、馬鹿な……。城を覆っていた呪いが、吸い込まれていくぞ。」

「あのお嬢様、あの量を全部飲み干すつもりか……?」
「あり得ない! あんな猛毒を取り込んだら、体が破裂してしまう!」

彼らの心配をよそに、私の食欲は留まることを知らない。
胃袋の底から、もっと寄越せと歓喜の歌が聞こえてくるようだ。

「ふうぅぅ……! 吸っても吸ってもなくならないわね。」
私は、一度息継ぎをして、ニヤリと不敵に笑った。

「デザートは別腹って言うけれど、これはメインディッシュ級よ。」
再び大きく口を開けると、城の隅々に隠れていた瘴気までが震え上がった。

天井の染み、床の黒ずみ、空気中の重たい澱み。
すべてが剥がれ落ち、光の粒となって私の元へと集まってくる。

それはまるで、夜空に輝く金平糖の天の川だった。
キラキラと眩い光の奔流が、私の喉の奥へと消えていく。

「ぷはぁー! ごちそうさまでした!」
数分後、私は満足感たっぷりの溜息をついて、お腹をポンと叩いた。

城の中を支配していた、あのどんよりとした湿っぽい空気は消え失せた。
代わりに、高原の朝のような、清々しく澄み切った空気が満ちている。

窓から差し込む光が、塵一つない床を照らし出した。
「こ、これは……一体どういうことだ……?」

騎士のリーダーが、震える手で自分の顔を触りながら立ち上がった。
彼らの顔から、死人のような土気色が完全に消えている。

頬には健康的な赤みが差し、落ち窪んでいた目には力が戻っていた。
「体が……軽い。鉛のように重かった体が、嘘のようだ。」

「痛みが消えたぞ! 古傷の痛みが、跡形もなく!」
騎士たちは、互いの顔を見合わせ、驚きと喜びで声を震わせた。

「あの呪いは、私たちの生命力を吸っていたのか……。」
「それを、あのお方が全て取り払ってくれたというのか!」

彼らの視線が、一斉に私の方へと集中する。
その瞳には、先ほどまでの恐怖や疑念はなく、熱狂的な崇拝の色が宿っていた。

「うわっ、お嬢様! 体が光っていますよ!」
一人の騎士が、私の姿を指さして、素っ頓狂な声を上げた。

私の体は、今、直視できないほどの眩い黄金色に輝いている。
食べた呪いのカロリーが、凄まじい勢いで魔力へと変換されていた。

ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打ち、全身の細胞が沸き立つ。
「あ、あら? なんだか体が熱いと思ったら……。」

ミシッ、という小さな音がして、背中のあたりに亀裂が走った。
次の瞬間。

バキバキバキッ! という派手な音が響き渡り、ドレスが弾け飛んだ。
「きゃっ! またやっちゃった!」

布の切れ端が、花びらのように床にパラパラと落ちていく。
もうもうと立ち込める光の煙の中から、新しい私が姿を現した。

「……おお……。」
騎士たちが、息を呑む音が、静まり返った広間に響く。

マシュマロのように膨らんでいた体は、跡形もなく消え去っていた。
そこに立っていたのは、極限まで磨き上げられた肉体美だ。

豊満だが決して下品ではない胸元と、きゅっと引き締まったウエスト。
絹のように滑らかで、雪のように白い手足が露わになっている。

髪は宝石を溶かしたような艶を帯び、光を受けて輝いている。
「あら、また服がダメになっちゃった。困ったわね。」

私は、床に落ちた布の切れ端を拾い上げ、体に巻き付けて苦笑いした。
サイズが合わなくなったボロボロの布さえ、今の私には最新のモードに見えるらしい。

「……女神様だ。」
騎士の一人が、夢遊病のようにふらふらと歩み寄り、その場に崩れ落ちた。

「我々を救いに来てくれた、美しき女神様だ……!」
「おお、なんと神々しい……! 後光が差しておられる!」

騎士たちが、誰からともなく膝をつき、私に向かって祈り始めた。
彼らの瞳は、もはや信仰に近い熱を帯びて潤んでいる。

「いや、ただの食いしん坊なカトリーヌよ。」
私は、照れくさくなって、頬をポリポリと人差し指で掻いた。

こんなに感謝されるなんて、王都ではあり得なかったことだ。
豚だの醜いだのと罵られてきた私が、ここでは女神扱いである。

「悪い気はしないけれど、ちょっと大げさすぎないかしら。」
私が困惑していると、足元で「クゥーン」という弱々しい鳴き声がした。

「ん? 何かいるの?」
視線を落とすと、そこには一匹の大きな白い犬がうずくまっていた。

雪のように真っ白でフワフワな毛並みをしている。
瞳は、凛とした知性を感じさせる美しい金色だ。

しかし、その体には痛々しいほど何重にも、黒い鎖が巻き付いている。
鎖は皮膚に食い込み、犬の自由を完全に奪っていた。

「まあ、可愛いわね。あなたも呪われていたの?」
私は、しゃがみ込んで、その犬の頭を優しく撫でてあげた。

犬は、怯えることもなく、私の手をじっと見つめ返してくる。
「グルル……。」
犬が小さく唸り、鎖を噛みちぎろうとするが、鎖はびくともしない。

私は、その黒い鎖に顔を近づけて、鼻をひくつかせた。
ピリピリとした刺激臭が鼻腔をくすぐる。

これは、ただの鉄の鎖ではない。
強力な封印の呪いが込められた、魔力の塊だ。

「……いい匂い。これは、最高級の岩塩のようなキリッとした味がしそうね。」
私は、舌なめずりをして、犬の耳元で囁いた。

「ちょっと我慢してね。今、楽にしてあげるから。」
「ワンッ!」
犬が、まるで私の言葉を理解したかのように、短く吠えた。

私は、犬の体に巻き付いた黒い鎖に、直接ガブリとかじりついた。
ガリッ、という硬い感触が歯に伝わり、顎に衝撃が走る。

「硬っ! でも、この歯ごたえがたまらないのよね。」
私は、スルメを噛みちぎるように、鎖を力任せにバリバリと噛み砕いた。

口の中に、濃厚な塩気と鉄分のような風味が広がる。
噛めば噛むほどに、奥からじわじわと旨味が染み出してくる味だ。

「んん~っ! これ、お酒のおつまみに最高じゃない!」
私が鎖を噛み砕くたびに、犬の体がカッと眩しく発光する。

パキーン、パキーンと鎖が弾け飛び、光の粒子となって消えていく。
最後の一片を飲み込んだ瞬間、犬を縛り付けていた重圧が完全に消滅した。

「ふう、美味しかった。顎の良い運動になったわ。」
「クゥーッ!」
犬が、嬉しそうに尻尾を振って、私の顔をペロペロと舐めてくる。

温かい舌の感触に、私は思わず笑い声を上げた。
「こら、くすぐったいわよ。やめてってば。」

私が笑いながら犬を抱きしめようとした、その時だ。
ボンッ! という音と共に、犬の体が急激に膨らみ始めた。

「えっ!? ち、ちょっと、どうなってるの!?」
私が慌てて手を離すと、光の繭が犬を包み込んだ。

光が収まった時、そこにいたのは、もう犬ではなかった。
長い銀髪をなびかせた、信じられないほどの美青年が立っていた。

彫刻のように整った顔立ちに、神秘的な金色の瞳。
引き締まった裸体に、銀色の毛皮をふわりと羽織っている。

彼は、静かな動作で私の前に片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
そして、そっと私の手を取り、その甲に唇を寄せる。

「我が主よ。長きにわたる封印を解いていただき、感謝いたします。」
彼の声は、低くて甘く、まるで極上のチェロの音色のように響いた。

「ええっ!? あなた、喋れるの? それに、人間なの?」
私は、あまりの事態に目を白黒させて彼を見下ろした。

「はい。私はこの地の守護神獣、フェンリルと申します。」
美青年――フェンリルは、涼やかな瞳で私を見つめ返した。

「呪いに蝕まれ、長年あの姿で封印されておりました。」
「神獣フェンリル……! 伝説の、あの神獣様か!」

背後で見ていた騎士たちが、再びどよめき立ち、次々と平伏する。
「なんと……。我々は、神獣様と共にいたというのか。」

「それを一瞬で元の姿に戻すとは……。お嬢様は、一体何者なんだ。」
騎士たちの驚愕は、もはや限界を超えて放心状態に近い。

フェンリルは、私の手を両手で包み込み、熱っぽい視線を送ってきた。
「あなたの強大な魔力、そしてその美しい魂に惹かれました。」

「美しい魂というか、ただの食欲なんだけど……。」
「いいえ、その貪欲さこそが、この地を救う力なのです。」

彼は、私の手に頬を擦り寄せて、うっとりとした表情を浮かべた。
「どうか、私をあなたの従者にしてください。一生お仕えします。」

「ええ、それは心強いわ。よろしくね、フェンリル。」
私は、突然イケメンの従者ができたことに驚きつつも、彼の手を握り返した。

まあ、美形がそばにいるのは悪い気分ではない。
それに、元が犬なら、鼻も利くだろうし美味しい食材も見つけてくれそうだ。

「さて、仲間も増えたことだし、まずは住み心地を良くしないといけないわね。」
私は、すっかり綺麗になった広間を見渡し、腕まくりをした。

「この城、広すぎて不便だわ。掃除も洗濯も大変そうだし。」
「確かに。人の手で全てを管理するのは、骨が折れそうです。」

フェンリルが立ち上がり、私の隣に並んで同意した。
今の私には、呪いを食べて得た、溢れんばかりの魔力が溜まっている。

この有り余るエネルギーを使えば、前世の便利な道具を再現できるはずだ。
「フェンリル、ここに使っていない鉄くずとかないかしら?」

「鉄くずですか? あちらの倉庫に、古い武具が山積みになっておりますが。」
「完璧だわ。さっそく取り掛かりましょう!」

私は、スカートの裾を翻して、フェンリルを連れて倉庫へと急いだ。
騎士たちは、呆気にとられたまま、慌てて私たちの後を追ってくる。

倉庫の扉を開けると、そこにはカビ臭い空気と共に、ガラクタの山があった。
錆びついた剣、凹んだ盾、穴の空いた鎧。

普通の人なら顔をしかめるようなゴミの山だが、私には宝の山に見える。
「これだけの金属があれば、何でも作れそうね。」

私は、その中から手頃な大きさの鉄板を一枚拾い上げた。
「まずは、騎士さんたちの汚れた服を洗うための道具が必要ね。」

あんなボロボロで臭い服を着ていては、美味しいご飯も不味くなる。
清潔さは、美食を楽しむための基本中の基本だ。

私は、手の平から溢れる黄金の魔力を、鉄板に流し込んだ。
頭の中で、前世で使っていた『全自動洗濯機』の構造を詳細にイメージする。

モーターの回転、水流の制御、脱水の仕組み。
それらを、この世界の魔導回路として翻訳し、鉄の表面に刻んでいく。

ジジジ……、と音を立てて、鉄板の表面に複雑な幾何学模様が浮かび上がる。
「主よ、それは一体何を作っておられるのですか?」

フェンリルが、興味深そうに顔を近づけ、私の手元を覗き込んできた。
「これはね、『全自動魔導洗浄機』よ。とっても便利なのよ。」

「魔導洗浄機……? 聞いたこともない魔導具です。」
「ふふん、私のオリジナルだからね。」

私は、鼻歌を歌いながら、超高速で魔導回路を固定していく。
騎士たちも、物珍しそうに集まってきて、遠巻きに見守っている。

「おい、見たか。あんな複雑な紋様、一筆書きで描いているぞ。」
「宮廷魔導師でも、あんな芸当はできん……。」

「しかも、あんなに高速で。信じられない才能だ。」
彼らのひそひそ話が聞こえてきて、私の自尊心をくすぐる。

そうでしょう、そうでしょう。もっと褒めていいのよ。
よし、第一号の魔導具が、もうすぐ完成しそうだ。

私は、最後の仕上げとして、高密度の魔力の核を中央に埋め込んだ。
ピカッ、と青白い光が放たれ、鉄の塊がぐにゃりと形を変える。

それは、ドラム式の丸みを帯びた、可愛らしいフォルムの機械になった。
「できた! さあ、誰か汚れた服を貸してちょうだい!」

私は、額の汗を拭い、期待に胸を膨らませながら騎士たちを振り返った。
全員が顔を見合わせ、誰も名乗り出ようとしない。

「じゃあ、あなたが実験台ね。」
私は、一番近くにいた騎士を指名した。

彼はビクリと肩を震わせ、恐る恐る自分の汚れた外套を差し出した。
「こ、これで、本当にお湯も使わずに綺麗になるのか?」

「見てなさい。魔法の力で、新品同様にしてあげるわ。」
私は、泥と油で黒ずんだ外套を機械の中に放り込み、スイッチを入れた。

ブォーン、という低い振動音が倉庫内に響き渡る。
中では、青い魔力の光が渦を巻き、激しく回転し始めた。

「うわっ! 回ってる! 服が猛烈な速さで回ってるぞ!」
騎士たちが、驚愕の声を上げて機械を指さした。

「あんなに回したら、服が千切れてしまうのではないか!?」
「いや、見てみろ! 汚れが……汚れが浮き上がっている!」

フェンリルも、感心したように機械の動きを見つめている。
「これは興味深い。水を使わず、魔力の振動で汚れを分解しているのですね。」

「その通りよ。水資源は貴重だから、エコ仕様にしてみたの。」
数分後、ピーッという軽快な電子音が鳴り響いた。

私は、自信満々で扉を開け、中から外套を取り出した。
「はい、どうぞ。」

そこには、雪のように真っ白に輝く外套があった。
こびりついていた泥汚れはもちろん、染み付いていた汗臭い臭いまで消えている。

「……信じられん。三年前の泥汚れが、完全に消えた。」
外套を受け取った騎士は、信じられないという顔で、布地を撫で回した。

「生地も傷んでいない……。いや、むしろ手触りが良くなっているぞ。」
「しかも、ほんのりお日様の香りがする……。」

騎士は、外套に顔を埋めて、深々とその香りを吸い込んだ。
その目から、感動の涙がポロポロとこぼれ落ちる。

「すごい! お嬢様は、伝説の天才魔導具師だったんだ!」
「こんな魔法、見たことがない! 国宝級の発明だ!」

騎士たちが、次々に私に向かって歓声を上げ、拍手喝采を送ってきた。
倉庫の中が、割れんばかりの称賛の声で満たされる。

「ふふん、これくらいお茶の子さいさいよ。」
私は、腰に手を当てて胸を張って見せた。

騎士たちの尊敬の眼差しが、何よりのご褒美だ。
(もちろん、美味しいご飯の次くらいに、だけど。)

「次は、このキンキンに冷えた城を暖めないとね。」
私は、彼らの熱気が冷めやらぬうちに、また別の鉄くずを拾い上げた。

城の地下にある巨大なボイラー室を、最新鋭の暖房システムに改造するつもりだ。
寒くて震えていては、カロリーを無駄に消費してしまうからね。

「主、私にもお手伝いをさせてください。」
フェンリルが、私の隣で優雅に頭を下げた。

「ええ、お願い。重い材料を運ぶのを手伝って。」
「承知いたしました。このフェンリル、粉骨砕身いたします。」

私たちは、二人で次々と新しい魔導具を生み出していった。
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