元英雄のおっさん、記憶喪失の少女と家族になりました。

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第4話 ふかふか〜!

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フィリアが満足そうに干し肉を頬張っている間に、俺はふと外の様子が気になった。

小屋の隙間から差し込む光が、朝よりもずいぶん傾いてきている。そろそろ日が暮れる。森の夜は、獣の活動時間だ。備えをしなきゃならない。

「フィリア、そろそろ寝床を整えるぞ」

「ねどこ?」

「寝る場所だ。夜は冷える。きちんと準備しておかねぇと風邪ひくからな」

「うんっ!」

フィリアは元気よく頷いたものの、立ち上がった途端、ふらりとよろけた。

「……おい、無理すんな」

俺は慌てて支えた。小さな身体が、まだ芯から弱っているのがわかる。熱は下がったが、体力は全然回復していない。

「だ、大丈夫……」

「嘘つけ」

俺は、少しきつめに言った。

フィリアはしゅん、と肩を落とす。

「……ごめんなさい」

「謝るな。悪いのは身体のほうだ」

俺は、そっとフィリアを抱きかかえた。

「おとうさん、つよいね!」

「当たり前だ」

昔なら、このくらいの重さなら軽々持ち上げて、戦場を駆け回っていた。

今は、たったひとりの小さな娘を守るために使う。それでいい。

「いいか。今日は俺が寝床を整える。おまえはそこに座って見てろ」

「うん……!」

毛布をもう一枚取り出し、焚き火のそばに広げる。床に敷いたわらを厚めに重ね、少しでも柔らかくしてやった。

森の中じゃ贅沢なもんだが、フィリアにとっては最上級のベッドだ。

「ほら、ここに寝ろ」

「うんっ!」

フィリアは素直に、わらのベッドに身を沈めた。

小さな手で毛布をぎゅっと掴んで、嬉しそうに笑う。

「ふかふか~!」

「よかったな」

俺は、鍋の残り湯を火にかけ直しながら、目を細めた。

焚き火の灯りが、フィリアの白銀の髪をほのかに照らしている。

──あの日、俺はすべてを失った。

仲間も、名誉も、未来も。

だが、今、手の中には確かにある。守るべきものが。

「おとうさん……」

フィリアが、そっと俺を呼んだ。

「あん?」

「……おとうさん、こわくないの?」

「何がだ」

「……わたしを、拾ったこと」

フィリアは、不安そうに小さく呟いた。

「わたし、へんな子、かもしれないのに……」

俺は、思わず鼻で笑った。

「そんなこと、気にすんな」

「でも……」

「いいか、フィリア。俺が拾った。俺が助けた。だから、おまえは俺の娘だ。それで十分だろ」

「……っ!」

フィリアは、目を潤ませながら、必死に何かをこらえるように唇を噛み締めた。

「うん……! うんっ!」

小さな声で、何度も何度も頷いていた。

「よし」

俺は、もう一度火を強くした。

夜の森は、冷える。だが、焚き火と毛布があれば、しのげる。

フィリアを温めながら、俺もそばで目を閉じた。

「おとうさん、あのね……」

「ん?」

「わたし、がんばるね」

「……ああ」

「おとうさんと、一緒にいたいから!」

フィリアの小さな声が、胸の奥に染みる。

「……がんばらなくても、いい」

俺は、ぽつりと答えた。

「生きてるだけで、十分だ」

「うん……!」

フィリアは、安心したように俺に寄り添ってきた。

あたたかい。

このぬくもりを、絶対に失わないと、心に誓った。



夜が、深まる。

森のざわめきが、耳に届く。

遠くでフクロウの鳴く声が聞こえた。

それでも、小屋の中は、平穏だった。

フィリアの寝息は、規則正しく、穏やかだ。

俺は、それを聞きながら、そっと目を閉じた。

明日から、やることは山ほどある。

だが、今は。
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