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「伝説級素材……って、もしかしてアレ系ですか?」
「ふふ、アレよ。ギルドでも登録制の危険種。“フェンリルの肋骨肉”」
「っっ!? えっ、フェンリルって、あの――」
「そうそう、“神喰いの獣”の異名を持つ、あのフェンリル。もちろん、ちゃんと処理済みだから安心して」
「えええぇぇっ、なにそれ……伝説じゃなくて、もう神話ですって!」
「だから“伝説級素材”って言ったでしょ? 限定五食。うちで出すのは、おそらく今回が最初で最後ね」
私の箸が、すんっ……て止まった。
「それ……予約とか……できますか?」
「常連限定の事前エントリー制。今日、希望者から順に受付するわよ?」
「……わたし、全力で希望します!」
即答。むしろ息する前に答えた。人生で一度でも“フェンリルを食べた”って言えたら、それだけで自慢できる。
「ふふ、じゃあ一枠、確保しとくね。日程決まったら連絡するわ」
「うわあ……ありがとうございますっ!」
テンションが一気に天井を突き抜けた。そろそろ座ってるだけで浮きそう。
(やばい、来週の楽しみが決定した……これで一週間乗りきれる)
バジリスクのスタミナ焼きは、残りわずか。惜しみつつ、噛みしめる。
「うん……最後のひと切れ、ちゃんと味わおう」
口に入れた瞬間、バジルの香りがふわっと広がって、あとを追ってくるのはとろける肉のコクと、ほんのりにんにく。
「……これ、白米泥棒すぎる……」
結局、ごはんもおかわりした。
今日だけで二合分くらいは食べたかもしれない。でも、それでいい。
この美味しさは、カロリーとか栄養バランスとか、そんなのを超えてる。
帰り道、私はいつもと違ってちょっと足取りが軽かった。
心なしか、踊ってる気もする。いや、してない。してないけど、してても許される気分。
駅までの道すがら、スマホを開いて〈モンス飯亭〉のSNSアカウントをチェック。
『【予告】伝説級素材フェア:フェンリルの肋骨肉ステーキ(仮)限定5皿/ご案内はDMで』
「……仮ってついてるのが、逆にわくわくする」
女将さんのことだから、仕込みながら味変してくるかもしれない。もしくは、ステーキじゃなくシチューになってるかも。いや、いっそラーメンとか。
(それ全部食べたい……)
思わず胃袋をさすってしまう。お昼の帳簿作業なんて、遠い昔の記憶みたい。
「あ、そういえばナナミちゃん、来週あたりご飯誘ってたっけ……」
でも“伝説級”は一人で食べたい。味に集中したいし、何より、あの瞬間を誰にも邪魔されたくない。
「……いや、誘うのは再来週にしよう。うん、それが正解」
ちゃんと予定を調整して、最強の体調で挑みたい。胃も万全、心も万全、服もお腹周りが緩いやつにしておこう。
そんなことを考えながら、改札を抜けてホームへ。
夜風がほんのりひんやりしてて、頬にあたる感触がちょうどいい。
スマホをポケットにしまって、ベンチに腰を下ろしたとき。
「……ん?」
足元に何か、ふわっと影がよぎった。
小さな、四本足の生き物。もしかして猫かな。
でも違った。
「……フェンリル?」
いやいやいや、違う。
でも……ふわふわの耳と、つぶらな瞳。そして、首元にぶら下がった封書。
(あれ……見覚えある)
「あっ、これ……『モンス飯亭』のマークだ」
丸い封印に、あの店のマスコット――鍋と包丁の紋章が描かれている。
小さな生き物が、ちょこんと私の足元でお座りして、まるで『開けて』って言ってるみたいに見上げてきた。
「もしかして……女将さんの使い魔……?」
そっと封書を取ってみると、ぺりっと封蝋が外れる。
中には、手書きのメモ。
『お持ち帰り分、もう一食作っておきました。胃袋が夜中にさみしがったら、どうぞ』
「……うそでしょ……」
包みの中身は、保温魔布に包まれたバジリスクのスタミナ焼き弁当。
「夜食テロが、物理で届く世界線って……最高じゃん……」
手にした瞬間、じわ~っと笑いがこみ上げてきた。
「うん、今日もいい日だった」
そうつぶやいて、私はお弁当を大事に抱えて家路についた。
「ふふ、アレよ。ギルドでも登録制の危険種。“フェンリルの肋骨肉”」
「っっ!? えっ、フェンリルって、あの――」
「そうそう、“神喰いの獣”の異名を持つ、あのフェンリル。もちろん、ちゃんと処理済みだから安心して」
「えええぇぇっ、なにそれ……伝説じゃなくて、もう神話ですって!」
「だから“伝説級素材”って言ったでしょ? 限定五食。うちで出すのは、おそらく今回が最初で最後ね」
私の箸が、すんっ……て止まった。
「それ……予約とか……できますか?」
「常連限定の事前エントリー制。今日、希望者から順に受付するわよ?」
「……わたし、全力で希望します!」
即答。むしろ息する前に答えた。人生で一度でも“フェンリルを食べた”って言えたら、それだけで自慢できる。
「ふふ、じゃあ一枠、確保しとくね。日程決まったら連絡するわ」
「うわあ……ありがとうございますっ!」
テンションが一気に天井を突き抜けた。そろそろ座ってるだけで浮きそう。
(やばい、来週の楽しみが決定した……これで一週間乗りきれる)
バジリスクのスタミナ焼きは、残りわずか。惜しみつつ、噛みしめる。
「うん……最後のひと切れ、ちゃんと味わおう」
口に入れた瞬間、バジルの香りがふわっと広がって、あとを追ってくるのはとろける肉のコクと、ほんのりにんにく。
「……これ、白米泥棒すぎる……」
結局、ごはんもおかわりした。
今日だけで二合分くらいは食べたかもしれない。でも、それでいい。
この美味しさは、カロリーとか栄養バランスとか、そんなのを超えてる。
帰り道、私はいつもと違ってちょっと足取りが軽かった。
心なしか、踊ってる気もする。いや、してない。してないけど、してても許される気分。
駅までの道すがら、スマホを開いて〈モンス飯亭〉のSNSアカウントをチェック。
『【予告】伝説級素材フェア:フェンリルの肋骨肉ステーキ(仮)限定5皿/ご案内はDMで』
「……仮ってついてるのが、逆にわくわくする」
女将さんのことだから、仕込みながら味変してくるかもしれない。もしくは、ステーキじゃなくシチューになってるかも。いや、いっそラーメンとか。
(それ全部食べたい……)
思わず胃袋をさすってしまう。お昼の帳簿作業なんて、遠い昔の記憶みたい。
「あ、そういえばナナミちゃん、来週あたりご飯誘ってたっけ……」
でも“伝説級”は一人で食べたい。味に集中したいし、何より、あの瞬間を誰にも邪魔されたくない。
「……いや、誘うのは再来週にしよう。うん、それが正解」
ちゃんと予定を調整して、最強の体調で挑みたい。胃も万全、心も万全、服もお腹周りが緩いやつにしておこう。
そんなことを考えながら、改札を抜けてホームへ。
夜風がほんのりひんやりしてて、頬にあたる感触がちょうどいい。
スマホをポケットにしまって、ベンチに腰を下ろしたとき。
「……ん?」
足元に何か、ふわっと影がよぎった。
小さな、四本足の生き物。もしかして猫かな。
でも違った。
「……フェンリル?」
いやいやいや、違う。
でも……ふわふわの耳と、つぶらな瞳。そして、首元にぶら下がった封書。
(あれ……見覚えある)
「あっ、これ……『モンス飯亭』のマークだ」
丸い封印に、あの店のマスコット――鍋と包丁の紋章が描かれている。
小さな生き物が、ちょこんと私の足元でお座りして、まるで『開けて』って言ってるみたいに見上げてきた。
「もしかして……女将さんの使い魔……?」
そっと封書を取ってみると、ぺりっと封蝋が外れる。
中には、手書きのメモ。
『お持ち帰り分、もう一食作っておきました。胃袋が夜中にさみしがったら、どうぞ』
「……うそでしょ……」
包みの中身は、保温魔布に包まれたバジリスクのスタミナ焼き弁当。
「夜食テロが、物理で届く世界線って……最高じゃん……」
手にした瞬間、じわ~っと笑いがこみ上げてきた。
「うん、今日もいい日だった」
そうつぶやいて、私はお弁当を大事に抱えて家路についた。
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