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「おし乃さん。……少し、厄介なことになりましたぞ」
その低い声に、私は息を呑んだ。良太も、私の後ろで固唾を飲んでいるのがわかる。
金さんがこれほど切迫した様子で店を訪れるのは、水戸の若様の一件以来だ。
甲州屋さんの件が、ただの禁制品売買の咎ではないことを、その表情が物語っていた。
「さあ、上がってください。まずは、その濡れたお体を拭いて」
私は金さんを店の中に招き入れ、乾いた手拭いを渡した。
彼は無言でそれを受け取ると、ごしごしと顔や髪を拭った。
「良太、金さんにお茶を」
「は、はい!」
良太が慌てて湯呑みを準備する。
私は囲炉裏に炭を足し、ぱちぱちと爆ぜる火を見つめながら、静かに金さんの言葉を待った。
「単刀直入に申し上げます。甲州屋の旦那の一件、やはり裏で糸を引いている者がおりました」
金さんは、湯気の立つお茶を一口すすると、重々しく口を開いた。
「捕らえられた甲州屋の旦那ですが、取り調べに対し、一切を黙秘。ただ、『自分はやっていない』の一点張りだそうです。しかし、蔵から見つかったという禁制品は、動かぬ証拠。このままでは、遠島は免れませぬ」
「そんな……!では、やはり、誰かの罠だと……?」
「その可能性が極めて高い。そして、その罠を仕掛けたであろう人物に、見当がつきました」
「どなたです!?」
私が身を乗り出すと、金さんは私の目をじっと見据え、低い声でその名を告げた。
「甲州屋の番頭……庄兵衛という男です」
「庄兵衛……!あの、甲州屋さんに長年仕えていたという……」
私は驚きを隠せなかった。
庄兵衛といえば、甲州屋の主がまだ羽振りの良かった頃から、右腕として店を支えてきた男だ。
主が商いを畳んだ後も、何かと気にかけていると聞いていた。
その男が、なぜ。
「弥之助からの知らせで、甲州屋の旦那が捕らえられた直後、その庄兵衛が裏口からこそこそと出てくるところを見た、と。そこで、すぐに庄兵衛の身辺を洗わせたところ……面白いことが分かりました」
金さんの目が、すっと細められる。
「その男、近頃、身分不相応な羽振りの良さを見せていたようです。博打に手を出し、多額の借金をこさえていたという話も……。そして、その借金を、つい先日、綺麗に返済している」
「……」
「おそらくは、こうでしょう。庄兵衛は、己の借金返済のために、どこかの悪徳商人と手を組んだ。甲州屋の蔵に禁制品を隠し、それをネタに役人へ偽の密告をした。主人が捕らえられれば、甲州屋の財産は差し押さえられる。そのどさくさに紛れて、店の権利か、あるいは何か別のものを手に入れる算段だったのかもしれませぬな」
金さんの推理は、あまりにも筋が通っていた。
そして、それ故に、私はやりきれない怒りを感じていた。
長年仕えた主人を裏切り、その恩を仇で返すとは。人の心とは、かくも汚く、そして哀しいものなのだろうか。
「その庄兵衛という男は、今どこに?」
「それが……行方が知れませぬ。昨夜のうちに、江戸から姿をくらましたようです。悪徳商人の方も、すでに手配しておりますが、こちらも尻尾を掴ませない。実に、用意周到な計画です」
「では、甲州屋さんは……このままでは……」
「ええ。証拠となる禁制品が蔵から出てしまっている以上、庄兵衛を捕らえ、悪事の全てを白状させない限り、甲州屋の旦那の無実を証明するのは難しいでしょう。……時間との戦いですな」
金さんの言葉は重く、店の空気にずしりとのしかかる。
雨の音だけが、やけに大きく聞こえていた。
「おし乃さん」
金さんは、ふと、優しい声で私を呼んだ。
「こんな話を聞かせた後で、頼み事をするのは心苦しいのですが……」
「何でございましょう。私にできることでしたら、何なりと」
「今夜、泊めてはいただけませぬか」
「え……?」
思いがけない言葉に、私は目を丸くした。
「今、奉行所は、この一件で蜂の巣をつついたような騒ぎになっております。下手に動けば、犯人一味にこちらの動きを察知されるやもしれませぬ。このやわらぎ亭ならば、目立たずに夜を明かすことができる。それに……」
金さんは、そこで言葉を切ると、悪戯っぽく笑った。
「……それに、腹が、減りました」
その言葉に、店の張り詰めた空気が、ふっと和らいだ。
そうだ。この人は、お奉行様である前に、やわらぎ亭の常連の、金さんなのだ。
どんな時でも、腹は減る。そして、美味い飯を食えば、元気も知恵も湧いてくる。
「かしこまりました。今夜は、とびきり精のつくものを、ご用意させていただきますわ」
私はにっこりと微笑むと、勢いよく立ち上がった。
こんな時だからこそ、私が作るべきは、落ち込んだ心を奮い立たせ、明日への活力を与えるような、そんな一膳だ。
「良太!」
「はい、おし乃さん!」
「今夜は、腕によりをかけるわよ! 金さんのために、最高の夜食を作りましょう!」
「はいっ!」
良太も、私の気迫を感じ取ったのか、元気よく返事をした。
炊き場の釜に、再び勢いよく火が入る。
外の雨がどれだけ強くとも、このやわらぎ亭の灯りは、決して消えはしない。
私は、しゃもじをきゅっと握りしめ、炊き場へと向かった。
金さんのための夜食。
頭を使い、心身ともに疲れているであろう彼のために、私が選んだのは「鶏飯」だった。
鶏の旨味が凝縮された出汁で炊いたご飯に、ほぐした鶏肉、錦糸卵、椎茸の甘煮、そして薬味をたっぷりと乗せ、熱々の鶏がらスープをかけていただく、滋養満点の一品だ。
さらさらと食べやすく、それでいて、身体の芯から温まり、力がみなぎってくる。
鶏肉を丁寧に下処理し、骨からじっくりと出汁を取る。
その間に、錦糸卵を薄く焼き、椎茸を甘辛く煮含める。
良太には、葱や三つ葉、海苔などの薬味を、細かく刻んでもらった。
一つ一つの作業に、心を込める。
金さんが、これを食べて、少しでも元気を取り戻してくれますように。
そして、甲州屋さんを救うための、良い知恵が浮かびますように。
そんな願いを込めながら。
やがて、極上の香りを放つ鶏飯が完成した。
私は、大きめの椀に炊きたてのご飯を盛り、色とりどりの具材を美しく乗せていく。
最後に、湯気の立つ黄金色のスープを、そっと回しかけた。
「金さん、お待たせいたしました。やわらぎ亭特製、鶏飯でございます。どうぞ、熱いうちに」
「おお……これは、なんとも……」
金さんは、目の前に置かれた椀から立ち上る湯気と香りに、感嘆の声を漏らした。
「見た目にも美しく、そして食欲をそそる香りだ。……では、遠慮なく」
金さんは蓮華を手に取ると、まずはスープを一口。
そして、ご飯と具材を混ぜ合わせながら、ゆっくりと口に運んだ。
その目は、驚きに見開かれている。
「うまい……! これは、実に、うまいぞ、おし乃さん!」
金さんは、夢中になったように鶏飯をかき込んだ。
「鶏の出汁が米の一粒一粒に染み渡り、それでいて、決してしつこくない。錦糸卵の甘み、椎茸のコク、そして薬味の爽やかさが、見事に調和しておる。何より、この温かさが、疲れた身体にじんわりと染み渡るようだ……」
あっという間に一椀を平らげた金さんは、満足そうに息をついた。
その顔には、先ほどまでの険しさはなく、いつものような柔和な笑みが戻っていた。
「ごちそうさまであった。いや、生き返った心地がする。おし乃さん、あんたの飯は、やはり魔法だな」
「お口に合いましたようで、何よりですわ」
「ああ、おかげで、頭もすっきりした。……少し、見えてきたかもしれぬ」
「え……?」
「犯人の、居場所が、な」
金さんは、にやりと笑った。
その目は、名奉行の鋭い光を取り戻していた。
どうやら、私の鶏飯が、少しはお役に立てたようだ。
「おし乃さん、明日、もう一働き、お願いしてもよろしいかな?」
「はい、何でございましょう?」
「明日、このやわらぎ亭で、ある宴を開いていただきたい」
金さんの言葉に、私は首を傾げた。
宴、とは、一体どういうことだろうか。
甲州屋さんの事件は、まだ何も解決していないというのに。
私の疑問を見透かしたように、金さんは続けた。
「もちろん、ただの宴ではございませぬ。犯人を、一網打尽にするための……『芝居』でございますよ」
その低い声に、私は息を呑んだ。良太も、私の後ろで固唾を飲んでいるのがわかる。
金さんがこれほど切迫した様子で店を訪れるのは、水戸の若様の一件以来だ。
甲州屋さんの件が、ただの禁制品売買の咎ではないことを、その表情が物語っていた。
「さあ、上がってください。まずは、その濡れたお体を拭いて」
私は金さんを店の中に招き入れ、乾いた手拭いを渡した。
彼は無言でそれを受け取ると、ごしごしと顔や髪を拭った。
「良太、金さんにお茶を」
「は、はい!」
良太が慌てて湯呑みを準備する。
私は囲炉裏に炭を足し、ぱちぱちと爆ぜる火を見つめながら、静かに金さんの言葉を待った。
「単刀直入に申し上げます。甲州屋の旦那の一件、やはり裏で糸を引いている者がおりました」
金さんは、湯気の立つお茶を一口すすると、重々しく口を開いた。
「捕らえられた甲州屋の旦那ですが、取り調べに対し、一切を黙秘。ただ、『自分はやっていない』の一点張りだそうです。しかし、蔵から見つかったという禁制品は、動かぬ証拠。このままでは、遠島は免れませぬ」
「そんな……!では、やはり、誰かの罠だと……?」
「その可能性が極めて高い。そして、その罠を仕掛けたであろう人物に、見当がつきました」
「どなたです!?」
私が身を乗り出すと、金さんは私の目をじっと見据え、低い声でその名を告げた。
「甲州屋の番頭……庄兵衛という男です」
「庄兵衛……!あの、甲州屋さんに長年仕えていたという……」
私は驚きを隠せなかった。
庄兵衛といえば、甲州屋の主がまだ羽振りの良かった頃から、右腕として店を支えてきた男だ。
主が商いを畳んだ後も、何かと気にかけていると聞いていた。
その男が、なぜ。
「弥之助からの知らせで、甲州屋の旦那が捕らえられた直後、その庄兵衛が裏口からこそこそと出てくるところを見た、と。そこで、すぐに庄兵衛の身辺を洗わせたところ……面白いことが分かりました」
金さんの目が、すっと細められる。
「その男、近頃、身分不相応な羽振りの良さを見せていたようです。博打に手を出し、多額の借金をこさえていたという話も……。そして、その借金を、つい先日、綺麗に返済している」
「……」
「おそらくは、こうでしょう。庄兵衛は、己の借金返済のために、どこかの悪徳商人と手を組んだ。甲州屋の蔵に禁制品を隠し、それをネタに役人へ偽の密告をした。主人が捕らえられれば、甲州屋の財産は差し押さえられる。そのどさくさに紛れて、店の権利か、あるいは何か別のものを手に入れる算段だったのかもしれませぬな」
金さんの推理は、あまりにも筋が通っていた。
そして、それ故に、私はやりきれない怒りを感じていた。
長年仕えた主人を裏切り、その恩を仇で返すとは。人の心とは、かくも汚く、そして哀しいものなのだろうか。
「その庄兵衛という男は、今どこに?」
「それが……行方が知れませぬ。昨夜のうちに、江戸から姿をくらましたようです。悪徳商人の方も、すでに手配しておりますが、こちらも尻尾を掴ませない。実に、用意周到な計画です」
「では、甲州屋さんは……このままでは……」
「ええ。証拠となる禁制品が蔵から出てしまっている以上、庄兵衛を捕らえ、悪事の全てを白状させない限り、甲州屋の旦那の無実を証明するのは難しいでしょう。……時間との戦いですな」
金さんの言葉は重く、店の空気にずしりとのしかかる。
雨の音だけが、やけに大きく聞こえていた。
「おし乃さん」
金さんは、ふと、優しい声で私を呼んだ。
「こんな話を聞かせた後で、頼み事をするのは心苦しいのですが……」
「何でございましょう。私にできることでしたら、何なりと」
「今夜、泊めてはいただけませぬか」
「え……?」
思いがけない言葉に、私は目を丸くした。
「今、奉行所は、この一件で蜂の巣をつついたような騒ぎになっております。下手に動けば、犯人一味にこちらの動きを察知されるやもしれませぬ。このやわらぎ亭ならば、目立たずに夜を明かすことができる。それに……」
金さんは、そこで言葉を切ると、悪戯っぽく笑った。
「……それに、腹が、減りました」
その言葉に、店の張り詰めた空気が、ふっと和らいだ。
そうだ。この人は、お奉行様である前に、やわらぎ亭の常連の、金さんなのだ。
どんな時でも、腹は減る。そして、美味い飯を食えば、元気も知恵も湧いてくる。
「かしこまりました。今夜は、とびきり精のつくものを、ご用意させていただきますわ」
私はにっこりと微笑むと、勢いよく立ち上がった。
こんな時だからこそ、私が作るべきは、落ち込んだ心を奮い立たせ、明日への活力を与えるような、そんな一膳だ。
「良太!」
「はい、おし乃さん!」
「今夜は、腕によりをかけるわよ! 金さんのために、最高の夜食を作りましょう!」
「はいっ!」
良太も、私の気迫を感じ取ったのか、元気よく返事をした。
炊き場の釜に、再び勢いよく火が入る。
外の雨がどれだけ強くとも、このやわらぎ亭の灯りは、決して消えはしない。
私は、しゃもじをきゅっと握りしめ、炊き場へと向かった。
金さんのための夜食。
頭を使い、心身ともに疲れているであろう彼のために、私が選んだのは「鶏飯」だった。
鶏の旨味が凝縮された出汁で炊いたご飯に、ほぐした鶏肉、錦糸卵、椎茸の甘煮、そして薬味をたっぷりと乗せ、熱々の鶏がらスープをかけていただく、滋養満点の一品だ。
さらさらと食べやすく、それでいて、身体の芯から温まり、力がみなぎってくる。
鶏肉を丁寧に下処理し、骨からじっくりと出汁を取る。
その間に、錦糸卵を薄く焼き、椎茸を甘辛く煮含める。
良太には、葱や三つ葉、海苔などの薬味を、細かく刻んでもらった。
一つ一つの作業に、心を込める。
金さんが、これを食べて、少しでも元気を取り戻してくれますように。
そして、甲州屋さんを救うための、良い知恵が浮かびますように。
そんな願いを込めながら。
やがて、極上の香りを放つ鶏飯が完成した。
私は、大きめの椀に炊きたてのご飯を盛り、色とりどりの具材を美しく乗せていく。
最後に、湯気の立つ黄金色のスープを、そっと回しかけた。
「金さん、お待たせいたしました。やわらぎ亭特製、鶏飯でございます。どうぞ、熱いうちに」
「おお……これは、なんとも……」
金さんは、目の前に置かれた椀から立ち上る湯気と香りに、感嘆の声を漏らした。
「見た目にも美しく、そして食欲をそそる香りだ。……では、遠慮なく」
金さんは蓮華を手に取ると、まずはスープを一口。
そして、ご飯と具材を混ぜ合わせながら、ゆっくりと口に運んだ。
その目は、驚きに見開かれている。
「うまい……! これは、実に、うまいぞ、おし乃さん!」
金さんは、夢中になったように鶏飯をかき込んだ。
「鶏の出汁が米の一粒一粒に染み渡り、それでいて、決してしつこくない。錦糸卵の甘み、椎茸のコク、そして薬味の爽やかさが、見事に調和しておる。何より、この温かさが、疲れた身体にじんわりと染み渡るようだ……」
あっという間に一椀を平らげた金さんは、満足そうに息をついた。
その顔には、先ほどまでの険しさはなく、いつものような柔和な笑みが戻っていた。
「ごちそうさまであった。いや、生き返った心地がする。おし乃さん、あんたの飯は、やはり魔法だな」
「お口に合いましたようで、何よりですわ」
「ああ、おかげで、頭もすっきりした。……少し、見えてきたかもしれぬ」
「え……?」
「犯人の、居場所が、な」
金さんは、にやりと笑った。
その目は、名奉行の鋭い光を取り戻していた。
どうやら、私の鶏飯が、少しはお役に立てたようだ。
「おし乃さん、明日、もう一働き、お願いしてもよろしいかな?」
「はい、何でございましょう?」
「明日、このやわらぎ亭で、ある宴を開いていただきたい」
金さんの言葉に、私は首を傾げた。
宴、とは、一体どういうことだろうか。
甲州屋さんの事件は、まだ何も解決していないというのに。
私の疑問を見透かしたように、金さんは続けた。
「もちろん、ただの宴ではございませぬ。犯人を、一網打尽にするための……『芝居』でございますよ」
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