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子供たちの元気な声が、青空に高々と響き渡った。
その声は私と良太の心に、何よりも嬉しい温かいご馳走となって染み渡っていくのだった。
寺子屋での一件から数日が過ぎた。
やわらぎ亭の評判は子供たちの口コミによって、さらに広まったらしい。
最近では「うちの子にもあのお弁当を食べさせてやりたい」と、訪ねてくる母親たちの姿もちらほらと見かけるようになった。
「おし乃さんの作るお弁当は魔法のお弁当だってみんな言ってるんですよ。どんな子でも好き嫌いなく、ぺろりと食べちゃうって」
買い物帰りに立ち寄ってくれた八百屋の忠吉さんの奥さんが、嬉しそうにそう教えてくれた。
「まあ大袈裟ですわ。私はただ、子供たちが喜んでくれるようにと少しだけ工夫をしただけですもの」
私はそう言って謙遜するけれど心の中は、温かいもので満たされている。
自分の料理が、誰かの笑顔に繋がっている。
その実感こそが料理人としての、何よりの原動力になるのだ。
「おし乃さん、俺なんだか夢みたいです」
昼の支度をしながら良太が、しみじみとそう言った。
「夢みたい?」
「はい。だってついこの間まで俺は親方も失って、明日どうやって生きていこうか途方に暮れていたんです。それが今じゃ、こうしておし乃さんの下で、たくさんの人に『美味しい』って言ってもらえる料理を作ってる……本当に、幸せです」
その真っ直ぐな瞳は少し潤んでいるように見えた。
私はそんな彼に、優しく微笑みかける。
「それはあなたが一生懸命に頑張ってきたからよ、良太。あなたの真面目さと料理への情熱が、ちゃんと人の心に届いているのよ」
「おし乃さん……」
「それに私の方こそあなたに助けられてばかりだわ。あなたがいてくれるから私は、安心してこのやわらぎ亭の暖簾を守っていられるのだから」
「そ、そんな……!俺なんて、まだまだ……!」
顔を真っ赤にして恐縮する良太の姿に、私は思わずくすりと笑ってしまった。
この子の素直で謙虚なところが、私は大好きだった。
そんな穏やかな昼下がり。
店の戸がからりと開き、一人の見慣れない男が姿を現した。
年の頃は三十代半ばだろうか。
着古した着物を着て無精髭を生やしてはいるが、その顔立ちは整っており、どことなく知的な雰囲気が漂っている。
ただ、その目はどんよりと淀み、生気が感じられない。
まるで魂が、どこかへ抜け落ちてしまったかのようだった。
「……いらっしゃいませ」
私が声をかけると男は力なくこちらを一瞥し、店の隅の席にどかりと腰を下ろした。
「何か……冷たい酒を一杯、もらおうか」
その声はひどくかすれていて、覇気がない。
「かしこまりました。何かおつまみでも、お作りしましょうか?」
「……いや、いい。何も食う気はしないんだ」
男はそう言うとぼんやりと、窓の外を眺め始めた。
その背中からは深い絶望と、諦めのようなものがひしひしと伝わってくる。
一体、この人に何があったのだろうか。
「良太。この方に冷や酒と、それからこれを」
私は良太に、小声で指示を出す。
良otaはこくりと頷くと、冷酒の入った徳利と小さな小鉢を男の前に、そっと置いた。
「……なんだこれは。つまみは、いらぬと言ったはずだが」
男がいぶかしげな顔で、小鉢に目をやる。
そこに乗っているのは今朝漬けたばかりの、瑞々しい胡瓜の浅漬けだった。
ただ、それだけ。
けれどその胡瓜は、私が精魂込めて育てた糠床で丁寧に漬け込んだ、自慢の一品だ。
「ほんのお口汚しでございます。よろしければ、どうぞ」
男はしばらく胡瓜を睨みつけるように見ていたが、やがて諦めたように、箸を取った。
そして胡瓜を一切れ、無造作に口に放り込む。
その瞬間。
男の動きがぴたりと、止まった。
「……!」
彼の目がわずかに、見開かれている。
「……なんだ……この、胡瓜は……」
それは驚きと、そして戸惑いが入り混じったような声だった。
「ただの胡瓜の漬物のはずだ……。なのに、なぜだ……。口に入れた瞬間しゃきりとした歯ごたえと共に、瑞々しい甘みと糠の豊かな香りがふわっと広がって……。そしてこの絶妙な塩加減……。身体中の乾ききっていた細胞が、喜んでいるような……そんな気が……」
男は夢中になったように、次々と胡瓜を口に運んでいく。
その顔には先ほどまでの生気のなさが、嘘のように少しずつ、血の気が戻ってきていた。
あっという間に、小鉢は空になった。
男は名残惜しそうに、小鉢を見つめている。
「……おかわりを、もらおうか」
「はい喜んで」
私はにっこりと微笑むと、今度は茄子とみょうがの浅漬けも添えて、新しい小鉢を差し出した。
男はそれを、本当に、本当に、美味しそうに平らげていく。
やがて酒も漬物も、すべてなくなった頃。
男は、ふう、と一つ大きな息をついた。
「……ご馳走になった。美味かった……。久しぶりにものを、美味いと感じた……」
その顔には穏やかな表情が戻っていた。
「女将。あんたは一体何者なんだ……?あんたの漬物には人の心を、生き返らせるようなそんな力があるのか……?」
「いいえ。私はただの飯屋の女主人ですわ。力があるのは私ではなく、この野菜たちが持つ生命力そのものです」
私はそう言って、微笑んだ。
「……そうか。生命力、か……」
男は何かを深く噛み締めるように、呟いた。
「今の私に一番、欠けているものかもしれんな……」
男は、ぽつり、ぽつりと自分のことを語り始めた。
彼の名は一筆斎文吾(いっぴつさいぶんご)。
かつては江戸でそれなりに名の知れた、浮世絵師だったという。
しかし、このところどうにも筆が進まない。
何を見ても何を感じても心が動かず、描きたいという情熱が湧いてこないのだという。
「色が見えないんだ。この世のすべてのものがまるで、色褪せた灰色の絵のようにしか見えない……。絵師にとってこれほどの地獄はない……」
文吾は自嘲するように、そう言った。
その苦しみは同じくものを作る者として、私にも痛いほどわかる気がした。
「……文吾様」
私は静かに、口を開いた。
「もしよろしければ明日の昼、もう一度この店にお越しいただけませんか?文吾様のその色褪せた世界を、私が色鮮やかに染め上げてご覧にいれますわ」
「……なに?」
私の言葉に文吾は、驚いたように顔を上げた。
「私の料理でよろしければ。この世にはまだまだこんなにも、美しい彩りが溢れているのだということを、お見せしたいのです」
私の真っ直ぐな瞳。
その中に文吾は何かを感じ取ってくれたのだろうか。
彼はしばらく黙って私を見つめていたが、やがて小さく、頷いた。
「……わかった。あんたの言葉を信じてみよう」
その声にはほんの少しだけれど、光が宿っているように私には思えた。
その夜、私と良太は遅くまで明日のための献立を考えた。
一筆斎文吾。
その渇いてしまった心を潤し、そして再び創作への情熱の火を灯すような、そんな一皿を。
「おし乃さん。彩りと言えば、やはりお寿司が良いのではないでしょうか?」
「ええそうね。でもただの握り寿司では面白くないわ。もっと、こう……見た瞬間に息をのむような、そんな一皿にしたいの」
私と良太は知恵を絞り、様々な食材を思い浮かべた。
赤い鮪。
白い烏賊。
黄色い玉子。
緑の胡瓜。
橙色の海老。
そしてきらきらと輝く黄金色の、雲丹。
「……そうだわ」
私はぽんと手を打った。
「手こね寿司というのはどうかしら。色とりどりの具材を酢飯の上に散らすように、盛り付けるの。まるで宝石箱をひっくり返したみたいに」
「手こね寿司……! それは素晴らしいです!」
良太も目を輝かせた。
よし、決まりだ。
明日はこの、やわらぎ亭特製「夏の彩り手こね寿司」で、文吾の心を動かしてみせる。
そんな熱い思いを胸に、私の心は燃えていた。
その声は私と良太の心に、何よりも嬉しい温かいご馳走となって染み渡っていくのだった。
寺子屋での一件から数日が過ぎた。
やわらぎ亭の評判は子供たちの口コミによって、さらに広まったらしい。
最近では「うちの子にもあのお弁当を食べさせてやりたい」と、訪ねてくる母親たちの姿もちらほらと見かけるようになった。
「おし乃さんの作るお弁当は魔法のお弁当だってみんな言ってるんですよ。どんな子でも好き嫌いなく、ぺろりと食べちゃうって」
買い物帰りに立ち寄ってくれた八百屋の忠吉さんの奥さんが、嬉しそうにそう教えてくれた。
「まあ大袈裟ですわ。私はただ、子供たちが喜んでくれるようにと少しだけ工夫をしただけですもの」
私はそう言って謙遜するけれど心の中は、温かいもので満たされている。
自分の料理が、誰かの笑顔に繋がっている。
その実感こそが料理人としての、何よりの原動力になるのだ。
「おし乃さん、俺なんだか夢みたいです」
昼の支度をしながら良太が、しみじみとそう言った。
「夢みたい?」
「はい。だってついこの間まで俺は親方も失って、明日どうやって生きていこうか途方に暮れていたんです。それが今じゃ、こうしておし乃さんの下で、たくさんの人に『美味しい』って言ってもらえる料理を作ってる……本当に、幸せです」
その真っ直ぐな瞳は少し潤んでいるように見えた。
私はそんな彼に、優しく微笑みかける。
「それはあなたが一生懸命に頑張ってきたからよ、良太。あなたの真面目さと料理への情熱が、ちゃんと人の心に届いているのよ」
「おし乃さん……」
「それに私の方こそあなたに助けられてばかりだわ。あなたがいてくれるから私は、安心してこのやわらぎ亭の暖簾を守っていられるのだから」
「そ、そんな……!俺なんて、まだまだ……!」
顔を真っ赤にして恐縮する良太の姿に、私は思わずくすりと笑ってしまった。
この子の素直で謙虚なところが、私は大好きだった。
そんな穏やかな昼下がり。
店の戸がからりと開き、一人の見慣れない男が姿を現した。
年の頃は三十代半ばだろうか。
着古した着物を着て無精髭を生やしてはいるが、その顔立ちは整っており、どことなく知的な雰囲気が漂っている。
ただ、その目はどんよりと淀み、生気が感じられない。
まるで魂が、どこかへ抜け落ちてしまったかのようだった。
「……いらっしゃいませ」
私が声をかけると男は力なくこちらを一瞥し、店の隅の席にどかりと腰を下ろした。
「何か……冷たい酒を一杯、もらおうか」
その声はひどくかすれていて、覇気がない。
「かしこまりました。何かおつまみでも、お作りしましょうか?」
「……いや、いい。何も食う気はしないんだ」
男はそう言うとぼんやりと、窓の外を眺め始めた。
その背中からは深い絶望と、諦めのようなものがひしひしと伝わってくる。
一体、この人に何があったのだろうか。
「良太。この方に冷や酒と、それからこれを」
私は良太に、小声で指示を出す。
良otaはこくりと頷くと、冷酒の入った徳利と小さな小鉢を男の前に、そっと置いた。
「……なんだこれは。つまみは、いらぬと言ったはずだが」
男がいぶかしげな顔で、小鉢に目をやる。
そこに乗っているのは今朝漬けたばかりの、瑞々しい胡瓜の浅漬けだった。
ただ、それだけ。
けれどその胡瓜は、私が精魂込めて育てた糠床で丁寧に漬け込んだ、自慢の一品だ。
「ほんのお口汚しでございます。よろしければ、どうぞ」
男はしばらく胡瓜を睨みつけるように見ていたが、やがて諦めたように、箸を取った。
そして胡瓜を一切れ、無造作に口に放り込む。
その瞬間。
男の動きがぴたりと、止まった。
「……!」
彼の目がわずかに、見開かれている。
「……なんだ……この、胡瓜は……」
それは驚きと、そして戸惑いが入り混じったような声だった。
「ただの胡瓜の漬物のはずだ……。なのに、なぜだ……。口に入れた瞬間しゃきりとした歯ごたえと共に、瑞々しい甘みと糠の豊かな香りがふわっと広がって……。そしてこの絶妙な塩加減……。身体中の乾ききっていた細胞が、喜んでいるような……そんな気が……」
男は夢中になったように、次々と胡瓜を口に運んでいく。
その顔には先ほどまでの生気のなさが、嘘のように少しずつ、血の気が戻ってきていた。
あっという間に、小鉢は空になった。
男は名残惜しそうに、小鉢を見つめている。
「……おかわりを、もらおうか」
「はい喜んで」
私はにっこりと微笑むと、今度は茄子とみょうがの浅漬けも添えて、新しい小鉢を差し出した。
男はそれを、本当に、本当に、美味しそうに平らげていく。
やがて酒も漬物も、すべてなくなった頃。
男は、ふう、と一つ大きな息をついた。
「……ご馳走になった。美味かった……。久しぶりにものを、美味いと感じた……」
その顔には穏やかな表情が戻っていた。
「女将。あんたは一体何者なんだ……?あんたの漬物には人の心を、生き返らせるようなそんな力があるのか……?」
「いいえ。私はただの飯屋の女主人ですわ。力があるのは私ではなく、この野菜たちが持つ生命力そのものです」
私はそう言って、微笑んだ。
「……そうか。生命力、か……」
男は何かを深く噛み締めるように、呟いた。
「今の私に一番、欠けているものかもしれんな……」
男は、ぽつり、ぽつりと自分のことを語り始めた。
彼の名は一筆斎文吾(いっぴつさいぶんご)。
かつては江戸でそれなりに名の知れた、浮世絵師だったという。
しかし、このところどうにも筆が進まない。
何を見ても何を感じても心が動かず、描きたいという情熱が湧いてこないのだという。
「色が見えないんだ。この世のすべてのものがまるで、色褪せた灰色の絵のようにしか見えない……。絵師にとってこれほどの地獄はない……」
文吾は自嘲するように、そう言った。
その苦しみは同じくものを作る者として、私にも痛いほどわかる気がした。
「……文吾様」
私は静かに、口を開いた。
「もしよろしければ明日の昼、もう一度この店にお越しいただけませんか?文吾様のその色褪せた世界を、私が色鮮やかに染め上げてご覧にいれますわ」
「……なに?」
私の言葉に文吾は、驚いたように顔を上げた。
「私の料理でよろしければ。この世にはまだまだこんなにも、美しい彩りが溢れているのだということを、お見せしたいのです」
私の真っ直ぐな瞳。
その中に文吾は何かを感じ取ってくれたのだろうか。
彼はしばらく黙って私を見つめていたが、やがて小さく、頷いた。
「……わかった。あんたの言葉を信じてみよう」
その声にはほんの少しだけれど、光が宿っているように私には思えた。
その夜、私と良太は遅くまで明日のための献立を考えた。
一筆斎文吾。
その渇いてしまった心を潤し、そして再び創作への情熱の火を灯すような、そんな一皿を。
「おし乃さん。彩りと言えば、やはりお寿司が良いのではないでしょうか?」
「ええそうね。でもただの握り寿司では面白くないわ。もっと、こう……見た瞬間に息をのむような、そんな一皿にしたいの」
私と良太は知恵を絞り、様々な食材を思い浮かべた。
赤い鮪。
白い烏賊。
黄色い玉子。
緑の胡瓜。
橙色の海老。
そしてきらきらと輝く黄金色の、雲丹。
「……そうだわ」
私はぽんと手を打った。
「手こね寿司というのはどうかしら。色とりどりの具材を酢飯の上に散らすように、盛り付けるの。まるで宝石箱をひっくり返したみたいに」
「手こね寿司……! それは素晴らしいです!」
良太も目を輝かせた。
よし、決まりだ。
明日はこの、やわらぎ亭特製「夏の彩り手こね寿司」で、文吾の心を動かしてみせる。
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