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翌日。
私と良太は夜明けと共に市場へ向かった。
一筆斎文吾、その人のために。
最高の「彩り」を集めるために。
市場は、早朝だというのに、すでに威勢の良い男たちの声と、魚や野菜の放つむせ返るような生命力で満ち溢れていた。
「おし乃さん! 今日はまた、一段と気合が入ってるみてえだな!」
馴染みの魚屋の主が、冷やかすように声をかけてくる。
「ええ。今日は腕によりをかけて、絵のような一皿を作りたいと思っておりますの」
私の言葉に、魚屋の主はにやりと笑った。
「ほう、絵のような一皿か。そいつは面白え! よっしゃ、おし乃さんの心意気に応えて、とびっきりのやつを見繕ってやるぜ!」
主人が自信満々で奥から出してきたのは、まさに海の宝石と呼ぶにふさわしい、色とりどりの魚介たちだった。
血のように鮮やかな本鮪の赤身。
雪のように真っ白な剣先烏賊。
珊瑚のように美しい車海老。
そして、陽の光を閉じ込めたかのように、黄金色に輝く極上の馬糞雲丹。
「まあ……!」
そのあまりの美しさに、私は思わず息をのんだ。
これならばきっと、文吾の心を動かすことができるはずだ。
私は魚屋の主人に深々と頭を下げると、最高の魚介たちを大切に抱えて、やわらぎ亭へと戻った。
炊き場に戻ると良太が、すでに酢飯の準備を始めてくれていた。
甲州屋の主から頂いた、幻の米「玉響」で炊いたつやつやのご飯。
それに特製の合わせ酢を、切るように手早く混ぜ合わせていく。
ぱらりとほぐれる米粒。
立ち上る甘酸っぱい香り。
それだけでもうご馳走だ。
「良太、ありがとう。素晴らしい酢飯ね」
「いえ! おし乃さんのお役に立てるのが、俺の喜びですから!」
私と良太は、仕入れてきた魚介類を一つ一つ、丁寧に、そして美しく切り分けていく。
鮪は厚めに。
烏賊は繊細な飾り包丁を入れて。
海老はさっと塩茹でにして、鮮やかな赤色を引き立てる。
その他にも、錦糸卵や胡瓜の薄切り、甘辛く煮た椎茸や干瓢、そして紫蘇の葉や木の芽など、彩りを添えるための具材を豊富に用意した。
準備は万端だ。
あとは文吾が来るのを待つだけ。
私は静かに目を閉じ、心を整えた。
昼の刻を少し過ぎた頃。
店の暖簾がそっと揺れた。
現れたのは、昨日と同じ生気のない顔をした、一筆斎文吾だった。
「……来たぞ。女将」
「はい。お待ちしておりましたわ、文吾様」
私は彼を、店の奥の一番日当たりの良い席へと案内した。
「さあどうぞ。今から私の、精一杯の『絵』をご覧にいれますわ」
私はそう言うと、炊き場から大きな、黒塗りの漆の器を運んできた。
そしてその蓋を、文吾の目の前でそっと開ける。
その瞬間。
文吾の淀んでいた目が、驚きに、大きく、大きく見開かれた。
「こ……これは……!」
器の中に広がっていたのはまさに、言葉を失うほどに美しい世界だった。
白い酢飯の上を、まるで色とりどりの花が咲き乱れる、春の野のように。
あるいは夏の夜空を彩る、大輪の打ち上げ花火のように。
様々な具材が、これでもかときらびやかに、そして生き生きと、踊っている。
鮪の赤、烏賊の白、玉子の黄色、胡瓜の緑、海老の橙、雲丹の黄金色……。
一つ一つの色が互いを引き立て合い、喧嘩することなく完璧な調和を生み出している。
それはもはや、料理というよりも、一つの完成された、芸術作品のようだった。
「……美しい……」
文吾の口からか細い、感嘆の声が漏れた。
その声は震えている。
「この世に……まだこれほどまでに、美しいものがあったのか……」
彼はしばらくの間、ただ呆然と、目の前の手こね寿司を見つめていた。
その瞳にほんの少しだけ、光が戻ってきているのを、私は見逃さなかった。
「さあ文吾様。どうぞその『絵』を味わってみてくださいな。目で楽しみ、舌で味わう。それが私の料理でございます」
促されるままに文吾は、震える手で箸を取った。
そしておずおずと、色とりどりの具材と酢飯を、一緒に口に運ぶ。
その瞬間。
「……!!」
彼の身体にまるで、稲妻が走り抜けたかのような、衝撃が走った。
「な……なんだ、この味は……!」
鮪の濃厚な旨味。
烏賊のねっとりとした甘み。
海老のぷりぷりとした食感。
雲丹のとろけるようなコク。
そしてそれら全てを、優しく包み込む玉響の酢飯の、豊かな味わい。
口の中で、様々な味と食感と香りが渾然一体となり、至福の大合唱を奏でている。
「うまい……! うますぎる……!」
文吾は我を忘れたように、次々と手こね寿司を口に運んでいく。
その顔にはもう絶望の色はない。
あるのは純粋な、子供のような感動と、喜びだけだった。
「思い出したぞ……! そうだ世界は、こんなにも彩りに満ちていた……! こんなにも美しく、そして美味しかったのだ……!」
彼は食べながら泣いていた。
そして笑っていた。
その目から大粒の涙を、ぽろぽろとこぼしながら、心の底から幸せそうに笑っている。
私はそんな彼の姿を、ただ黙って見守っていた。
良太も炊き場の隅で、もらい泣きをしている。
やがて器の中の手こね寿司が、一粒残らずなくなった頃。
文吾はすっくと立ち上がった。
その顔は店に来た時とは、まるで別人のように力強く、そして生命力に満ち溢れていた。
「女将……!」
彼は私に向かって、深々と、深々と頭を下げた。
「……ありがとう。……あんたのおかげで儂は生き返った。……いや生まれ変わった」
「とんでもないことですわ」
「儂は描く。描きたいものが見つかった。いや思い出した。この溢れるほどの生命の輝きを、儂のこの筆で、描き留めてみせる!」
文吾はそう言うと、まるで風のように、店を飛び出していった。
その後ろ姿はもう、何ものにも迷うことはないだろう。
そんな確信に満ちた、力強いものだった。
私はその後ろ姿を、温かい気持ちで見送った。
一杯の手こね寿司が、一人の絵師の魂に再び、火を灯すことができた。
料理人としてこれ以上の、幸せはない。
それから数日が過ぎた、ある日のこと。
やわらぎ亭に一人の使いの者がやってきた。
その手には大きな、桐の箱が抱えられている。
「こちら一筆斎文吾先生より、やわらぎ亭の女将殿へ、と」
箱の中に入っていたのは一枚の、浮世絵だった。
そこに描かれていたのは……。
やわらぎ亭の賑やかな、昼下がりの光景。
楽しそうに酒を酌み交わす、常連さんたち。
威勢のいい火消しの弥之助さん。
元気いっぱいの桶屋のお初ちゃん。
そして炊き場の隅で、一生懸命に働く良太。
誰もが生き生きとした表情で笑っている。
その絵は、これまでに見たどの浮世絵よりも、色鮮やかで、そして温かい、生命力に満ち溢れていた。
絵の隅の方には、小さな文字でこう書かれていた。
『やわらぎ亭の太陽に、愛と感謝を込めて』
その絵を見た瞬間。
私の目頭が、じわりと熱くなった。
私はその絵を、店の、一番目立つ壁に飾った。
やわらぎ亭の新しい宝物が、また一つ増えた瞬間だった。
その美しい浮世絵はすぐに、町の評判となった。
やわらぎ亭を訪れる客たちは誰もがその絵を眺め、感嘆の声を上げた。
「いやあ、見事な絵だなあ! まるで俺たちが、絵の中から飛び出してきそうだぜ!」
弥之助さんが自分の姿を見つけて、嬉しそうにそう言った。
「本当だわ! あたしも描いてもらってる! 可愛い!」
お初ちゃんもきゃっきゃと、はしゃいでいる。
その光景を私は、微笑ましく眺めていた。
そんなある日の午後。
その絵をじっと見つめている、一人の客がいた。
それはいつものように、ふらりと立ち寄った金さんだった。
「……ふむ。これはまた、傑作ですな」
金さんは腕を組み、ほうと感心したように息を漏らした。
「一筆斎文吾……。あのひねくれ者で有名だった絵師が、これほどまでに素直で、温かい絵を描くようになるとは……。驚きましたな」
「まあ、金さん。文吾様をご存知でしたの?」
「ええ、まあ少しばかり。彼の絵は以前は、どこか世をすねたような、冷たい色をしていた。それが、どうです。この溢れるような生命の輝きは。……一体、どんな魔法を使ったのですかな? おし乃さん」
金さんは悪戯っぽく、こちらを見て笑った。
「魔法なんかじゃございませんわ。私がお出ししたのは、ただの手こね寿司ですもの」
「はっはっは。そのただの手こね寿司が、人の心を生まれ変わらせてしまう。……おし乃さん、あなたの料理はもはや、江戸の宝ですな」
「もう、金さんったら」
その時だった。
店の戸が勢いよく、がらりと開いた。
入ってきたのは血相を変えた、八百屋の忠吉さんだった。
「お、おし乃ちゃん! た、大変だ! とんでもないことになっちまった!」
ただならぬ様子に店の和やかな空気が、一瞬で凍りつく。
忠吉さんはぜえぜえと、肩で息をしながら、叫ぶように言った。
「お、お涼さんが……! 漬物屋のお涼さんが倒れちまったんだ!」
私と良太は夜明けと共に市場へ向かった。
一筆斎文吾、その人のために。
最高の「彩り」を集めるために。
市場は、早朝だというのに、すでに威勢の良い男たちの声と、魚や野菜の放つむせ返るような生命力で満ち溢れていた。
「おし乃さん! 今日はまた、一段と気合が入ってるみてえだな!」
馴染みの魚屋の主が、冷やかすように声をかけてくる。
「ええ。今日は腕によりをかけて、絵のような一皿を作りたいと思っておりますの」
私の言葉に、魚屋の主はにやりと笑った。
「ほう、絵のような一皿か。そいつは面白え! よっしゃ、おし乃さんの心意気に応えて、とびっきりのやつを見繕ってやるぜ!」
主人が自信満々で奥から出してきたのは、まさに海の宝石と呼ぶにふさわしい、色とりどりの魚介たちだった。
血のように鮮やかな本鮪の赤身。
雪のように真っ白な剣先烏賊。
珊瑚のように美しい車海老。
そして、陽の光を閉じ込めたかのように、黄金色に輝く極上の馬糞雲丹。
「まあ……!」
そのあまりの美しさに、私は思わず息をのんだ。
これならばきっと、文吾の心を動かすことができるはずだ。
私は魚屋の主人に深々と頭を下げると、最高の魚介たちを大切に抱えて、やわらぎ亭へと戻った。
炊き場に戻ると良太が、すでに酢飯の準備を始めてくれていた。
甲州屋の主から頂いた、幻の米「玉響」で炊いたつやつやのご飯。
それに特製の合わせ酢を、切るように手早く混ぜ合わせていく。
ぱらりとほぐれる米粒。
立ち上る甘酸っぱい香り。
それだけでもうご馳走だ。
「良太、ありがとう。素晴らしい酢飯ね」
「いえ! おし乃さんのお役に立てるのが、俺の喜びですから!」
私と良太は、仕入れてきた魚介類を一つ一つ、丁寧に、そして美しく切り分けていく。
鮪は厚めに。
烏賊は繊細な飾り包丁を入れて。
海老はさっと塩茹でにして、鮮やかな赤色を引き立てる。
その他にも、錦糸卵や胡瓜の薄切り、甘辛く煮た椎茸や干瓢、そして紫蘇の葉や木の芽など、彩りを添えるための具材を豊富に用意した。
準備は万端だ。
あとは文吾が来るのを待つだけ。
私は静かに目を閉じ、心を整えた。
昼の刻を少し過ぎた頃。
店の暖簾がそっと揺れた。
現れたのは、昨日と同じ生気のない顔をした、一筆斎文吾だった。
「……来たぞ。女将」
「はい。お待ちしておりましたわ、文吾様」
私は彼を、店の奥の一番日当たりの良い席へと案内した。
「さあどうぞ。今から私の、精一杯の『絵』をご覧にいれますわ」
私はそう言うと、炊き場から大きな、黒塗りの漆の器を運んできた。
そしてその蓋を、文吾の目の前でそっと開ける。
その瞬間。
文吾の淀んでいた目が、驚きに、大きく、大きく見開かれた。
「こ……これは……!」
器の中に広がっていたのはまさに、言葉を失うほどに美しい世界だった。
白い酢飯の上を、まるで色とりどりの花が咲き乱れる、春の野のように。
あるいは夏の夜空を彩る、大輪の打ち上げ花火のように。
様々な具材が、これでもかときらびやかに、そして生き生きと、踊っている。
鮪の赤、烏賊の白、玉子の黄色、胡瓜の緑、海老の橙、雲丹の黄金色……。
一つ一つの色が互いを引き立て合い、喧嘩することなく完璧な調和を生み出している。
それはもはや、料理というよりも、一つの完成された、芸術作品のようだった。
「……美しい……」
文吾の口からか細い、感嘆の声が漏れた。
その声は震えている。
「この世に……まだこれほどまでに、美しいものがあったのか……」
彼はしばらくの間、ただ呆然と、目の前の手こね寿司を見つめていた。
その瞳にほんの少しだけ、光が戻ってきているのを、私は見逃さなかった。
「さあ文吾様。どうぞその『絵』を味わってみてくださいな。目で楽しみ、舌で味わう。それが私の料理でございます」
促されるままに文吾は、震える手で箸を取った。
そしておずおずと、色とりどりの具材と酢飯を、一緒に口に運ぶ。
その瞬間。
「……!!」
彼の身体にまるで、稲妻が走り抜けたかのような、衝撃が走った。
「な……なんだ、この味は……!」
鮪の濃厚な旨味。
烏賊のねっとりとした甘み。
海老のぷりぷりとした食感。
雲丹のとろけるようなコク。
そしてそれら全てを、優しく包み込む玉響の酢飯の、豊かな味わい。
口の中で、様々な味と食感と香りが渾然一体となり、至福の大合唱を奏でている。
「うまい……! うますぎる……!」
文吾は我を忘れたように、次々と手こね寿司を口に運んでいく。
その顔にはもう絶望の色はない。
あるのは純粋な、子供のような感動と、喜びだけだった。
「思い出したぞ……! そうだ世界は、こんなにも彩りに満ちていた……! こんなにも美しく、そして美味しかったのだ……!」
彼は食べながら泣いていた。
そして笑っていた。
その目から大粒の涙を、ぽろぽろとこぼしながら、心の底から幸せそうに笑っている。
私はそんな彼の姿を、ただ黙って見守っていた。
良太も炊き場の隅で、もらい泣きをしている。
やがて器の中の手こね寿司が、一粒残らずなくなった頃。
文吾はすっくと立ち上がった。
その顔は店に来た時とは、まるで別人のように力強く、そして生命力に満ち溢れていた。
「女将……!」
彼は私に向かって、深々と、深々と頭を下げた。
「……ありがとう。……あんたのおかげで儂は生き返った。……いや生まれ変わった」
「とんでもないことですわ」
「儂は描く。描きたいものが見つかった。いや思い出した。この溢れるほどの生命の輝きを、儂のこの筆で、描き留めてみせる!」
文吾はそう言うと、まるで風のように、店を飛び出していった。
その後ろ姿はもう、何ものにも迷うことはないだろう。
そんな確信に満ちた、力強いものだった。
私はその後ろ姿を、温かい気持ちで見送った。
一杯の手こね寿司が、一人の絵師の魂に再び、火を灯すことができた。
料理人としてこれ以上の、幸せはない。
それから数日が過ぎた、ある日のこと。
やわらぎ亭に一人の使いの者がやってきた。
その手には大きな、桐の箱が抱えられている。
「こちら一筆斎文吾先生より、やわらぎ亭の女将殿へ、と」
箱の中に入っていたのは一枚の、浮世絵だった。
そこに描かれていたのは……。
やわらぎ亭の賑やかな、昼下がりの光景。
楽しそうに酒を酌み交わす、常連さんたち。
威勢のいい火消しの弥之助さん。
元気いっぱいの桶屋のお初ちゃん。
そして炊き場の隅で、一生懸命に働く良太。
誰もが生き生きとした表情で笑っている。
その絵は、これまでに見たどの浮世絵よりも、色鮮やかで、そして温かい、生命力に満ち溢れていた。
絵の隅の方には、小さな文字でこう書かれていた。
『やわらぎ亭の太陽に、愛と感謝を込めて』
その絵を見た瞬間。
私の目頭が、じわりと熱くなった。
私はその絵を、店の、一番目立つ壁に飾った。
やわらぎ亭の新しい宝物が、また一つ増えた瞬間だった。
その美しい浮世絵はすぐに、町の評判となった。
やわらぎ亭を訪れる客たちは誰もがその絵を眺め、感嘆の声を上げた。
「いやあ、見事な絵だなあ! まるで俺たちが、絵の中から飛び出してきそうだぜ!」
弥之助さんが自分の姿を見つけて、嬉しそうにそう言った。
「本当だわ! あたしも描いてもらってる! 可愛い!」
お初ちゃんもきゃっきゃと、はしゃいでいる。
その光景を私は、微笑ましく眺めていた。
そんなある日の午後。
その絵をじっと見つめている、一人の客がいた。
それはいつものように、ふらりと立ち寄った金さんだった。
「……ふむ。これはまた、傑作ですな」
金さんは腕を組み、ほうと感心したように息を漏らした。
「一筆斎文吾……。あのひねくれ者で有名だった絵師が、これほどまでに素直で、温かい絵を描くようになるとは……。驚きましたな」
「まあ、金さん。文吾様をご存知でしたの?」
「ええ、まあ少しばかり。彼の絵は以前は、どこか世をすねたような、冷たい色をしていた。それが、どうです。この溢れるような生命の輝きは。……一体、どんな魔法を使ったのですかな? おし乃さん」
金さんは悪戯っぽく、こちらを見て笑った。
「魔法なんかじゃございませんわ。私がお出ししたのは、ただの手こね寿司ですもの」
「はっはっは。そのただの手こね寿司が、人の心を生まれ変わらせてしまう。……おし乃さん、あなたの料理はもはや、江戸の宝ですな」
「もう、金さんったら」
その時だった。
店の戸が勢いよく、がらりと開いた。
入ってきたのは血相を変えた、八百屋の忠吉さんだった。
「お、おし乃ちゃん! た、大変だ! とんでもないことになっちまった!」
ただならぬ様子に店の和やかな空気が、一瞬で凍りつく。
忠吉さんはぜえぜえと、肩で息をしながら、叫ぶように言った。
「お、お涼さんが……! 漬物屋のお涼さんが倒れちまったんだ!」
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