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第2章:深淵編(夜の街と消えた境界線)
第9話:8キロの弾丸トーク
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オフィスの中は、まるで通夜のような静寂に包まれていた。
数時間前、俺の所属する部署で、創業以来最大級と言っても過言ではないシステムトラブルが発生した。原因は複合的なものだったが、最終的な決済ボタンを押したのは、俺の直属の部下だ。取引先への損害は数千万円規模。佐藤部長の顔は土気色を通り越し、もはや発光しているかのように青白かった。
「……終わった。俺のキャリアも、この部署も、全部終わりだ……」
周囲の社員たちは、絶望に打ちひしがれて動けない。だが、俺はと言えば、自席で悠然と「キチガイミックス」を口に放り込んでいた。
絶望?終わった?笑わせるな。俺の辞書には「反省」という文字はない。あるのは「次のネタをどう調理するか」という狂気だけだ。
「課長、なんでそんなに平気なんですか……!会社が潰れるかもしれないんですよ!」
若手が涙目で俺に詰め寄る。俺は立ち上がり、そいつの肩を叩いた。
「いいか。死ぬこと以外はかすり傷。そして俺たちは今、最高に『生きてる』実感を味わってるだろ?定時だ。俺は帰る。……いや、歩く」
俺は唖然とする同僚たちを背に、事務所を飛び出した。
スーツのジャケットを脱ぎ、鞄に突っ込む。ネクタイはすでに道端のゴミ箱へ捨てた(明日には忘れているだろう)。
自宅までの八キロ。この物理的な距離が、俺を「会社員」という拘束から解き放ち、純度百パーセントの「マジキチ組長」へと変貌させる儀式だ。
スマホを取り出し、配信ボタンを叩く。
「よお、お前ら。会社が傾きかけたぞ。最高にメシがうまい夜だな。今夜は八キロ、弾丸トークで行くぞ」
配信を開始して間もなく、画面に異変が起きた。
『おい底辺、会社クビになりそうなんだってな?』
『底辺同士で傷の舐め合いか?見てて楽しいぜ、底辺の話はよ』
あからさまな「荒らし」がコラボに乱入してきた。そいつはスピーカー越しに、小馬鹿にしたような笑い声を上げながら、俺とリスナーを「底辺」と連呼して煽り続けた。リスナーたちが憤慨し、コメント欄が荒れかける。だが、俺の口元は、これ以上ないほどに吊り上がっていた。
「……おい、今、なんて言った?」
『あ?底辺だって言ってんだよ、お前みたいなゴミ……』
「最高だ!もっと言ってくれ!その言葉、震えるほど刺さるぜ!エグいことをもっと!さあ!早く!俺をもっと罵れ、底辺の極みまで突き落としてみろよ!」
荒らしの男が絶句するのが伝わってきた。
俺にとって、罵倒は最高の賛辞だ。嫌悪は最強の愛撫だ。
「なんだ、もう終わりか?お前が『底辺』と言うなら、俺はその底辺からお前の脳天を突き上げるキチガイだ。サービスしてやるよ。俺のダル絡みと、特濃のエグい下ネタのラリーをな!」
そこからの俺は、自分でも制御不能だった。
八キロの道のりを歩くペースが上がる。一歩踏み出すごとに、口からは放送コードを粉々に粉砕するレベルの下ネタが溢れ出す。それもただのエロではない。人間の尊厳と愛国心と排泄欲求が複雑に絡み合った、悪魔の独白だ。俺は荒らしの男に対し、逃げ場のないダル絡みを展開した。
「お前の母親がこの配信を聴いたら、あまりの興奮で逆立ちして愛国歌を歌い出すレベルの話を、今からたっぷり聞かせてやる。覚悟はいいか?マカの効き目が限界を越えた俺のトークは、お前の鼓膜を直接レイプするぞ!」
三十分後。
それまで威勢よく煽っていた荒らしの男は、「……うわ、もう無理。マジでキモい。関わりたくない」という震え声と共に、コラボから逃げるように退室していった。
「なんだ、その程度で逃げるのか。荒らし失格だ!荒らしなんて辞めてしまえ!」
俺はスマホに向かって怒鳴りつけた。情熱のない中途半端な悪意ほど、俺が嫌うものはない。
「いいか、お前ら。荒らしっていうのはな、崇高な学問なんだよ。相手の魂を抉り、自分の命を削って言葉をぶつける。それはある種の表現活動だ。半端な気持ちで荒らしをする奴は即刻辞めろ。命をかけて、文字通り人生を賭して荒らしをしている本物のプロたちに迷惑だというのが、お前らには分からんのか!」
画面越しのリスナーたちは、爆笑する者、呆れる者、そして妙な感動に浸る者で溢れていた。
八キロ。自宅の明かりが見えてきた頃、俺の頭の中には、会社を救う「狂気の解決策」が完成していた。
まともな謝罪?誠意ある対応?そんなものは無能に任せればいい。俺は明日、取引先の社長の懐に飛び込み、今日以上のダル絡みで契約を「継続」ではなく「拡大」させてやる。相手がドン引きして、笑い出すまで。
会社員としての俺は、今夜の弾丸トークで一度死んだ。そして今、自宅の前に立っているのは、八キロの闇と荒らしの悪意を吸収して巨大化した、マジキチ組長そのものだ。
「やりたい放題。……これ以上の人生が、他にあるか?」
俺は鍵を回し、暗い部屋に入った。明日の朝、事務所へ向かう足取りは、今日よりもずっと軽いはずだ。
荒らし。絶望。損失。すべてを飲み込んで、俺は明日もまた「たってやる」。
数時間前、俺の所属する部署で、創業以来最大級と言っても過言ではないシステムトラブルが発生した。原因は複合的なものだったが、最終的な決済ボタンを押したのは、俺の直属の部下だ。取引先への損害は数千万円規模。佐藤部長の顔は土気色を通り越し、もはや発光しているかのように青白かった。
「……終わった。俺のキャリアも、この部署も、全部終わりだ……」
周囲の社員たちは、絶望に打ちひしがれて動けない。だが、俺はと言えば、自席で悠然と「キチガイミックス」を口に放り込んでいた。
絶望?終わった?笑わせるな。俺の辞書には「反省」という文字はない。あるのは「次のネタをどう調理するか」という狂気だけだ。
「課長、なんでそんなに平気なんですか……!会社が潰れるかもしれないんですよ!」
若手が涙目で俺に詰め寄る。俺は立ち上がり、そいつの肩を叩いた。
「いいか。死ぬこと以外はかすり傷。そして俺たちは今、最高に『生きてる』実感を味わってるだろ?定時だ。俺は帰る。……いや、歩く」
俺は唖然とする同僚たちを背に、事務所を飛び出した。
スーツのジャケットを脱ぎ、鞄に突っ込む。ネクタイはすでに道端のゴミ箱へ捨てた(明日には忘れているだろう)。
自宅までの八キロ。この物理的な距離が、俺を「会社員」という拘束から解き放ち、純度百パーセントの「マジキチ組長」へと変貌させる儀式だ。
スマホを取り出し、配信ボタンを叩く。
「よお、お前ら。会社が傾きかけたぞ。最高にメシがうまい夜だな。今夜は八キロ、弾丸トークで行くぞ」
配信を開始して間もなく、画面に異変が起きた。
『おい底辺、会社クビになりそうなんだってな?』
『底辺同士で傷の舐め合いか?見てて楽しいぜ、底辺の話はよ』
あからさまな「荒らし」がコラボに乱入してきた。そいつはスピーカー越しに、小馬鹿にしたような笑い声を上げながら、俺とリスナーを「底辺」と連呼して煽り続けた。リスナーたちが憤慨し、コメント欄が荒れかける。だが、俺の口元は、これ以上ないほどに吊り上がっていた。
「……おい、今、なんて言った?」
『あ?底辺だって言ってんだよ、お前みたいなゴミ……』
「最高だ!もっと言ってくれ!その言葉、震えるほど刺さるぜ!エグいことをもっと!さあ!早く!俺をもっと罵れ、底辺の極みまで突き落としてみろよ!」
荒らしの男が絶句するのが伝わってきた。
俺にとって、罵倒は最高の賛辞だ。嫌悪は最強の愛撫だ。
「なんだ、もう終わりか?お前が『底辺』と言うなら、俺はその底辺からお前の脳天を突き上げるキチガイだ。サービスしてやるよ。俺のダル絡みと、特濃のエグい下ネタのラリーをな!」
そこからの俺は、自分でも制御不能だった。
八キロの道のりを歩くペースが上がる。一歩踏み出すごとに、口からは放送コードを粉々に粉砕するレベルの下ネタが溢れ出す。それもただのエロではない。人間の尊厳と愛国心と排泄欲求が複雑に絡み合った、悪魔の独白だ。俺は荒らしの男に対し、逃げ場のないダル絡みを展開した。
「お前の母親がこの配信を聴いたら、あまりの興奮で逆立ちして愛国歌を歌い出すレベルの話を、今からたっぷり聞かせてやる。覚悟はいいか?マカの効き目が限界を越えた俺のトークは、お前の鼓膜を直接レイプするぞ!」
三十分後。
それまで威勢よく煽っていた荒らしの男は、「……うわ、もう無理。マジでキモい。関わりたくない」という震え声と共に、コラボから逃げるように退室していった。
「なんだ、その程度で逃げるのか。荒らし失格だ!荒らしなんて辞めてしまえ!」
俺はスマホに向かって怒鳴りつけた。情熱のない中途半端な悪意ほど、俺が嫌うものはない。
「いいか、お前ら。荒らしっていうのはな、崇高な学問なんだよ。相手の魂を抉り、自分の命を削って言葉をぶつける。それはある種の表現活動だ。半端な気持ちで荒らしをする奴は即刻辞めろ。命をかけて、文字通り人生を賭して荒らしをしている本物のプロたちに迷惑だというのが、お前らには分からんのか!」
画面越しのリスナーたちは、爆笑する者、呆れる者、そして妙な感動に浸る者で溢れていた。
八キロ。自宅の明かりが見えてきた頃、俺の頭の中には、会社を救う「狂気の解決策」が完成していた。
まともな謝罪?誠意ある対応?そんなものは無能に任せればいい。俺は明日、取引先の社長の懐に飛び込み、今日以上のダル絡みで契約を「継続」ではなく「拡大」させてやる。相手がドン引きして、笑い出すまで。
会社員としての俺は、今夜の弾丸トークで一度死んだ。そして今、自宅の前に立っているのは、八キロの闇と荒らしの悪意を吸収して巨大化した、マジキチ組長そのものだ。
「やりたい放題。……これ以上の人生が、他にあるか?」
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