マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第6章:日常という名の狂宴編(実録・マジキチ組長の半径8キロ)

第26話:ハゲの共鳴(オフィスに響くAIの旋律)

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 月曜日の午後、オフィスは週明け特有の沈滞した空気に包まれていた。
 パソコンを叩く無機質な音、電話のベル、そして上司の小言。そんな退屈な「日常」という名の檻の中で、俺は今日も「有能な課長」の仮面を被り、淡々と業務をこなしていた。
 だが、俺の脳内は常に「マジキチ組長」としての創作意欲で沸騰している。キチガイミックスによって研ぎ澄まされた俺の聴覚は、ふとした瞬間に、その檻の隙間から漏れ出す「狂気の予兆」を捉えた。

 給湯室へ向かう廊下、ふと耳をかすめたのは、どこか聞き覚えのある重厚な重低音と、AI特有の無機質ながらも力強い合成音声だった。

『――輝く頭頂部、それは明日への滑走路。ハゲ散らかした勇者たちに捧ぐ、哀しみとテカリのレクイエム……』

「……ほう」

 俺は足を止めた。それは、俺が昨夜スマホ一台で制作し、配信『たってやる。』で流したばかりの最新AIソング「バーコードの断末魔」ではないか。
 音の主は、入社二年目の若手、田中だった。彼は隅っこでイヤホンの片方を外し、スマホの画面を見つめながら、こらえきれないといった様子で肩を震わせている。

 俺は音もなく田中の背後に立ち、その耳元で低く囁いた。

「田中……いい趣味してんじゃねえか」「ひゃ、ひゃいっ!!」

 田中は飛び上がらんばかりに驚き、スマホを床に落としそうになった。顔は一瞬で土気色になり、俺の顔を見るなり震え出した。

「か、課長! 申し訳ありません! これは、その、休憩中でして……」

 俺は無言で田中のスマホを拾い上げ、画面に表示されている俺のチャンネルアイコンを指差した。

「田中。お前、ハゲが好きか?」
「えっ……? い、いえ、そういうわけでは……ただ、この歌、なんていうか、頭から離れなくて……」
「安心しろ。俺もハゲが大好きだ」

 俺はガハハと笑い、凍りついた田中の肩に太い腕を回した。

 誤解しないでほしい。俺はハゲに親を殺されたわけでもなければ、ハゲている人間に対して特別な嫌悪感を抱いているわけでもない。答えはもっと単純だ。
 ハゲは、最高の「ネタ」なのだ。
 想像してみてくれ。ハゲたおっさんが、ただ無表情で牛丼を必死にかき込んでいる姿を。そのテカった頭頂部が店内の蛍光灯を反射し、真剣な眼差しで紅生姜を盛っている。その一連の動作を想像するだけで、俺の腹筋は崩壊寸前になる。ハゲの人には申し訳ないとは思うが、笑ってしまうものは仕方がない。それは、彼らが背負っている「不器用な一生懸命さ」が、あまりに人間臭くて愛おしいからだ。

「いいか、田中。ハゲを笑うことは、その人間が一生懸命生きてきた証を称えることなんだよ。……ちなみに俺は、家系的なものもあるだろうが、四十を過ぎてもハゲる気配は一切ない」

 俺は自分のフサフサとした短髪をなでつけ、勝ち誇ったように言った。

「もし俺がハゲたらどうするか? 決まってる。潔く坊主にするだけだ。隠すから惨めになる。剥き出しにしてこそ、男の美学だ。……まあ、俺が短髪にすると、一つだけ厄介な問題が起きるんだがな」

 俺は田中に、自身の「スポーツ刈り」にまつわる悲喜劇を語り始めた。
 普段、清潔感を保つためにスポーツ刈りにしている俺だが、この髪型には不思議な魔力があるらしい。高確率で、アッチ――つまりゲイの皆さんに声をかけられるのだ。 
 以前、知り合いが経営している居酒屋に行った時のことだ。隣に座った「ガチ」の方に、熱っぽい視線でこう告げられた。

「お兄さん、コッチの人にめちゃくちゃモテる顔してるわよ。……今夜、空いてる?」

 迫られかけた俺は、光の速さで逃げ出した。
 いちおうここで強調しておくが、俺は女にしか興味がない。それも、スレンダーで明るいギャル系の娘にしか興味がない。あっちの界隈で王様になれるポテンシャルがあると言われても、俺のリンゴが反応するのは、あくまでギャル系の女子だけなのだ。

「……というわけだ。田中、お前も俺と同じ髪型にするなら覚悟しておけ」
「は、はあ……勉強になります」

 田中の顔に、少しずつ緊張が解け、ニヤニヤとした笑みが戻ってきた。俺という上司が、単なる堅物ではなく、自分が深夜にこっそり聴いている狂った配信の主であることを、彼は察したのだ。

「さあ、田中。そんな旧作を聴いて満足してんじゃねえ。給湯室へ来い。よりエグい新作の『制作会議』を始めるぞ」

 俺は戸惑う田中を引き連れ、給湯室のドアを閉めた。
 そこは、組織の規律が届かない、聖域(サンクチュアリ)となった。

「いいか。次のテーマは『ハゲとハエのランデブー』だ。止まったハエが滑落するほどのテカリ、それをAIにどう表現させるか。お前、何かアイデアはないか?」
「……それなら、スローモーションのバイオリンとかどうでしょう。滑っていく悲劇を優雅に演出するんです」
「いいじゃねえか! 田中、お前、才能あるな!」

 俺たちは給湯室で、スマホの画面を囲みながらプロンプトを打ち込み始めた。
 本来なら業務改善や売上の話をすべき時間だ。だが、俺たちの脳内では、AIが奏でるハゲの旋律が、オフィス全体の退屈な空気を侵食し始めていた。

 組織の規律。社会の常識。そんなものは、この一瞬の「共犯関係」の前では無意味だ。
 俺は確信した。こうして一人の若手の心を「マジキチ」の側へと引きずり込むことこそが、停滞した日本の組織を内側から変える最短ルートなのだと。

 会議を終えて席に戻る田中の背中は、心なしかさっきよりも凛としていた。
 彼はもう、ただの社畜ではない。マジキチ組長のイズムを継承し、日常の中に「笑い」という名の武器を隠し持つ、同志となったのだ。

 夕暮れ時のオフィス、俺は再び自分の席でリンゴのような硬さの意志を抱きながら、窓の外を見つめた。

 やりたい放題。
 ハゲを愛し、ハゲを笑い、そして自分を貫く。
 ゲイにモテるという副作用に怯えながらも、俺はこの短髪と、このスタイルを崩すつもりはない。

「田中、さっきの曲、明日の配信のトップに持ってくるぞ。……お前のアイデア、全世界のハゲに届けてやるからな!」

 俺の心の中の咆哮は、誰にも気づかれることなく、しかし確実に、この会社の空気を狂気で塗り替えていった。

 アクセル全開だ。
 日常の中に潜む「ネタ」を、俺は一つも見逃さない。
 マジキチ組長の快進撃は、今、組織の内部から本格的に始まりつつあった。
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