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第6章:日常という名の狂宴編(実録・マジキチ組長の半径8キロ)
第27話:2,000円の誓い(ベトナム人女性の帰国と約束)
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都会の夜風は、どこか湿り気を帯びていた。
ネオンが濡れたアスファルトに反射し、色とりどりの毒々しい光を放っている。俺はいつもの雑居ビルの前に立ち、小さく息を吐いた。今夜は、単なる性欲の解消のためにここへ来たのではない。あのベトナム人の彼女が、ビザの更新と家族との再会を兼ねて、一時帰国することになったのだ。
俺は「有能な課長」の業務を早々に切り上げ、コンビニで買った三パーセントの缶チューハイを一気に流し込んでから、彼女の待つ部屋への階段を上った。
ドアが開くと、そこにはいつものように、少しはにかんだような笑顔の彼女がいた。
「クミチョ、いらっしゃい。……今日は、お別れ、ね」
彼女が差し出したスマホの翻訳機には、そう記されていた。
俺は黙って頷き、ベッドの端に腰を下ろした。一回戦を終えた後、俺たちはいつものように、残されたわずかな時間で「二回戦目」の交渉に入った。
「なあ。最後なんだ。もう一度、お前を抱かせろ」
俺がそう言うと、彼女はいたずらっぽく笑い、指を二本立てた。
「最後も、2,000円。PayPayは、ダメよ?」
俺は自分の財布を覗き込んだ。……そこには、奇跡的に二枚の千円札があった。
前回の「千円しかない事件」を教訓に、今夜だけはきっちりと用意してきたのだ。だが、俺はすぐにその札を渡すような野暮な真似はしなかった。
「2,000円か。高いな。だがな、お前がこの国で懸命に働き、この国のルールを守り、俺たち日本人に笑顔を届けてくれた『付加価値』を考えれば、2,000円なんて端金(はしたがね)だ」
俺は彼女の瞳を見つめ、いつになく真剣なトーンで話し始めた。
俺はこれまで、中国、韓国、タイ、ベトナム……数え切れないほどの多国籍なエステ嬢たちと刃を交えてきた。その中で俺が確信していることがある。彼女たちの多くは、この日本という国を心から好きでいてくれている。
もちろん、稼ぎたいから、生活がかかっているからという現実的な理由はあるだろう。だが、わざわざ海を越え、言葉も通じない遠い島国を選んでやってくること自体が、この国へのある種の憧憬と敬意の証ではないか。
そして何より、彼女たちは「郷に入っては郷に従う」という精神を、俺たち日本人以上に強く持っていることが多い。
「前にな、中国人の娘が嬉しそうに報告してきたことがあるんだ。『クミチョ、私、納豆食べた! 最初、臭い、ダメ。でも、食べたら、美味しい!』ってな。日本の古来からの食文化に興味を持ち、自らそれを食らい、理解しようとするその姿勢。これこそが、異国で生きる者の真の強さであり、礼儀ってもんだろうが」
俺は、目の前の彼女にもその姿を重ねていた。
彼女もまた、拙い日本語を覚えようとし、日本のルールを尊重し、この国の空気に馴染もうと努力していた。
俺が移民問題に厳しいのは、日本を愛し、日本の文化を認めようとしない不届き者が増えているからだ。自分の国の文化を力ずくで持ち込み、この地の調和を乱すような連中には「二度と来るな」と言いたい。だが、彼女たちのように、この国を愛し、馴染もうとする人々が住んでくれる分には、俺は何の文句もねえ。むしろ、大歓迎だ。
「いいか、お前がこの国を選んでくれたこと、俺は日本人として誇りに思うし、感謝してるんだ。お前のような娘こそが、この国に必要な『新しい風』なんだよ」
俺の言葉が翻訳機を通じて彼女に伝わると、彼女の瞳が少し潤んだように見えた。
彼女はスマホを置き、俺の手をぎゅっと握った。
「日本、好き。……クミチョ、もっと、好き」
俺はガハハと笑い、ポケットから二千円札を取り出して、彼女の掌にそっと置いた。
「これは、単なるプレイの対価じゃねえ。お前がこの国を好きでいてくれたことへの、俺なりの『勲章』だ。取っておけ」
二回戦。そこにはもはや、客と嬢という境界線はなかった。
日本を愛し、日本に尽くしてくれた一人の女性への、俺なりの精一杯の「おもてなし」としての情事。
俺のリンゴは、彼女の温もりと、その美しい生き様を記憶するように、深く、激しく、そして優しく、最後の一滴までその「誠実さ」を叩き込んだ。
行為が終わった後、俺は彼女の肩を抱き、最後のアドバイスを贈った。
「ベトナムに帰っても、この国を忘れるなよ。そして、また戻ってきたくなったら、いつでも来い。その時は、俺がまた最高にエグい褒め言葉を並べて、お前を王女様にしてやるからな」
彼女は頷き、俺の背中をポンポンと叩いた。
「クミチョ、次、会うとき……私、納豆、もっと食べる。お酒、もっと飲む。待ってて」
店を出ると、夜の空気は冷たく、それでいてどこか清々しかった。
2,000円の誓い。
それは、ただの遊びの約束ではない。
この国を愛する者同士が交わした、魂の契約だ。
俺は夜空を見上げ、命がけでこの国を護り、豊かな文化を築き上げてきた先人たちに思いを馳せた。
彼らが遺したこの「日本」という舞台は、今や多国籍な人々を惹きつけ、新しい交流を生んでいる。郷に従い、文化を慈しむ。その精神さえあれば、世界はもっと面白くなるはずだ。
自国を愛さない若者たちに、彼女のあの笑顔を見せてやりたい。
異国で必死に生き、日本の納豆を「美味しい」と言って笑う彼女の強さを、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「……やりたい放題。だが、俺はやっぱりこの国が、この国を愛してくれる連中が、たまらなく好きだぜ」
俺は三パーセントの二缶目を開け、独り乾杯した。
彼女との別れは寂しいが、不思議と心は満たされていた。
俺の「褒める技術」は、今夜、一人の異邦人の心に、消えない日本の光を灯したのだ。
明日もまた、八キロの行軍が始まる。
彼女に負けないように、俺もこの国で、この場所で、最高にマジキチな「愛国家」として走り続ける。
「待ってるぞ。……次は、2,000円じゃ足りないくらいの感動を、用意してやるからな!」
俺の咆哮は、眠らない街のビル風に乗って、遠いベトナムの空まで届きそうなほど、力強く響き渡った。
ネオンが濡れたアスファルトに反射し、色とりどりの毒々しい光を放っている。俺はいつもの雑居ビルの前に立ち、小さく息を吐いた。今夜は、単なる性欲の解消のためにここへ来たのではない。あのベトナム人の彼女が、ビザの更新と家族との再会を兼ねて、一時帰国することになったのだ。
俺は「有能な課長」の業務を早々に切り上げ、コンビニで買った三パーセントの缶チューハイを一気に流し込んでから、彼女の待つ部屋への階段を上った。
ドアが開くと、そこにはいつものように、少しはにかんだような笑顔の彼女がいた。
「クミチョ、いらっしゃい。……今日は、お別れ、ね」
彼女が差し出したスマホの翻訳機には、そう記されていた。
俺は黙って頷き、ベッドの端に腰を下ろした。一回戦を終えた後、俺たちはいつものように、残されたわずかな時間で「二回戦目」の交渉に入った。
「なあ。最後なんだ。もう一度、お前を抱かせろ」
俺がそう言うと、彼女はいたずらっぽく笑い、指を二本立てた。
「最後も、2,000円。PayPayは、ダメよ?」
俺は自分の財布を覗き込んだ。……そこには、奇跡的に二枚の千円札があった。
前回の「千円しかない事件」を教訓に、今夜だけはきっちりと用意してきたのだ。だが、俺はすぐにその札を渡すような野暮な真似はしなかった。
「2,000円か。高いな。だがな、お前がこの国で懸命に働き、この国のルールを守り、俺たち日本人に笑顔を届けてくれた『付加価値』を考えれば、2,000円なんて端金(はしたがね)だ」
俺は彼女の瞳を見つめ、いつになく真剣なトーンで話し始めた。
俺はこれまで、中国、韓国、タイ、ベトナム……数え切れないほどの多国籍なエステ嬢たちと刃を交えてきた。その中で俺が確信していることがある。彼女たちの多くは、この日本という国を心から好きでいてくれている。
もちろん、稼ぎたいから、生活がかかっているからという現実的な理由はあるだろう。だが、わざわざ海を越え、言葉も通じない遠い島国を選んでやってくること自体が、この国へのある種の憧憬と敬意の証ではないか。
そして何より、彼女たちは「郷に入っては郷に従う」という精神を、俺たち日本人以上に強く持っていることが多い。
「前にな、中国人の娘が嬉しそうに報告してきたことがあるんだ。『クミチョ、私、納豆食べた! 最初、臭い、ダメ。でも、食べたら、美味しい!』ってな。日本の古来からの食文化に興味を持ち、自らそれを食らい、理解しようとするその姿勢。これこそが、異国で生きる者の真の強さであり、礼儀ってもんだろうが」
俺は、目の前の彼女にもその姿を重ねていた。
彼女もまた、拙い日本語を覚えようとし、日本のルールを尊重し、この国の空気に馴染もうと努力していた。
俺が移民問題に厳しいのは、日本を愛し、日本の文化を認めようとしない不届き者が増えているからだ。自分の国の文化を力ずくで持ち込み、この地の調和を乱すような連中には「二度と来るな」と言いたい。だが、彼女たちのように、この国を愛し、馴染もうとする人々が住んでくれる分には、俺は何の文句もねえ。むしろ、大歓迎だ。
「いいか、お前がこの国を選んでくれたこと、俺は日本人として誇りに思うし、感謝してるんだ。お前のような娘こそが、この国に必要な『新しい風』なんだよ」
俺の言葉が翻訳機を通じて彼女に伝わると、彼女の瞳が少し潤んだように見えた。
彼女はスマホを置き、俺の手をぎゅっと握った。
「日本、好き。……クミチョ、もっと、好き」
俺はガハハと笑い、ポケットから二千円札を取り出して、彼女の掌にそっと置いた。
「これは、単なるプレイの対価じゃねえ。お前がこの国を好きでいてくれたことへの、俺なりの『勲章』だ。取っておけ」
二回戦。そこにはもはや、客と嬢という境界線はなかった。
日本を愛し、日本に尽くしてくれた一人の女性への、俺なりの精一杯の「おもてなし」としての情事。
俺のリンゴは、彼女の温もりと、その美しい生き様を記憶するように、深く、激しく、そして優しく、最後の一滴までその「誠実さ」を叩き込んだ。
行為が終わった後、俺は彼女の肩を抱き、最後のアドバイスを贈った。
「ベトナムに帰っても、この国を忘れるなよ。そして、また戻ってきたくなったら、いつでも来い。その時は、俺がまた最高にエグい褒め言葉を並べて、お前を王女様にしてやるからな」
彼女は頷き、俺の背中をポンポンと叩いた。
「クミチョ、次、会うとき……私、納豆、もっと食べる。お酒、もっと飲む。待ってて」
店を出ると、夜の空気は冷たく、それでいてどこか清々しかった。
2,000円の誓い。
それは、ただの遊びの約束ではない。
この国を愛する者同士が交わした、魂の契約だ。
俺は夜空を見上げ、命がけでこの国を護り、豊かな文化を築き上げてきた先人たちに思いを馳せた。
彼らが遺したこの「日本」という舞台は、今や多国籍な人々を惹きつけ、新しい交流を生んでいる。郷に従い、文化を慈しむ。その精神さえあれば、世界はもっと面白くなるはずだ。
自国を愛さない若者たちに、彼女のあの笑顔を見せてやりたい。
異国で必死に生き、日本の納豆を「美味しい」と言って笑う彼女の強さを、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「……やりたい放題。だが、俺はやっぱりこの国が、この国を愛してくれる連中が、たまらなく好きだぜ」
俺は三パーセントの二缶目を開け、独り乾杯した。
彼女との別れは寂しいが、不思議と心は満たされていた。
俺の「褒める技術」は、今夜、一人の異邦人の心に、消えない日本の光を灯したのだ。
明日もまた、八キロの行軍が始まる。
彼女に負けないように、俺もこの国で、この場所で、最高にマジキチな「愛国家」として走り続ける。
「待ってるぞ。……次は、2,000円じゃ足りないくらいの感動を、用意してやるからな!」
俺の咆哮は、眠らない街のビル風に乗って、遠いベトナムの空まで届きそうなほど、力強く響き渡った。
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