マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第9章:暴走する電波の聖域(デジタル・フロンティア編)

第45話:豆タンク、世界を救う?(オンライン・マインドフルネスの誕生)

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 画面に表示された「LIVE」の赤文字が、まるで心臓の鼓動のように点滅している。
 接続数を示すカウンターは、秒単位で数千、数万と跳ね上がり、ついには一〇万人を超えた。

 かつては一部の熱狂的なリスナーや、俺を「マジキチ」と嘲笑うアンチだけが溜まっていた俺の配信ルーム。だが、アンチを執念のダル絡みで信者に変え、バズりの虚像を行軍で粉砕し、Z世代に夜の街の熱量を継承してきたこの第9章の歩みが、いつの間にか俺を「現代の救世主」のような立ち位置へと押し上げていた。

 巷では「マインドフルネス」という言葉が、まるでお洒落なアクセサリーのように流行っている。静かな部屋で目を閉じ、呼吸を整え、雑念を払って心を無にする……。そんなもん、俺に言わせりゃ「死人の練習」でしかない。今この瞬間、血を滾らせ、本能を爆発させて生きている実感がない奴が、何をどう整えようが中身は空っぽのままだ。

「よお、野郎ども! 準備はいいか! 呼吸を整える前に、まずその溜まりに溜まった『精神のヘドロ』を吐き出せ!」

 俺は画面に向かって、豆タンクのような顔をこれでもかと近づけた。広角レンズに歪んだ俺の顔が、世界中のモニターに映し出されているはずだ。

「今日は俺が、世界一デタラメで、世界一真理に近い『マジキチ流・マインドフルネス』を叩き込んでやる。耳の穴かっぽじって、魂で聴け!」

 俺はまず、画面の向こうで「正しくあろう」として疲弊しているリスナーたちに、長生きの真理をぶつけた。

 よくテレビのインタビューで見かける、100歳を超えてもなお矍鑠(かくしゃく)としている老人たち。彼らに長生きの秘訣を聞くと、決まってこう返ってくる。

「ストレスを溜めないことだよ」と。そして彼らは、そう言いながら昼間から酒をがぶ飲みし、タバコをスパスパと燻らせている。医者が見れば卒倒し、厚労省が顔を青くするような光景だが、これこそが「生」の本質だ。健康に悪いと言われるものを摂取していても、それ以上に「ストレスフリー」であることの免疫力向上のパワーが勝っているんだ。

 好きなことをし、言いたいことを言い、嫌なことはガハハと笑い飛ばす。この「精神の自由」こそが、どんな高価なサプリメントよりも細胞を活性化させる特効薬なんだ。お前らを蝕んでいるのは、酒でもタバコでもねえ。人目を気にし、常識という名の檻に閉じこもり、自分を偽り続けることで生まれる「精神の腐敗」なんだよ。

 俺は一息つき、さらに踏み込んだ。ここからが「マジキチ流」の真髄だ。

 人間はな、歳をとるにつれて「下ネタ」や「艶っぽい話」に触れなくなると、脳も身体も急速に老け込み、病んでいくという研究結果がある。

 俺の周りを見てみろ。歳をとってもセクハラ全開で、女の尻を追いかけているような不謹慎な老人は、総じて元気だ。肌に艶があり、声に張りがある。彼らにとって、下ネタは単なる卑猥な言葉じゃない。相手との距離を測り、場を和ませ、己の生命力を確認するための、究極のコミュニケーションツールなんだ。

 思い出してみろ。20年ほど昔、あるテレビ番組で、各界の権威である学者たちが大真面目に話し合った結果、この世で一番面白いネタは何かという問いに対し、導き出された結論は「下ネタ」だった。

 これは万国共通の真理だ。言語が違っても、文化が違っても、男と女が交わり、命を繋ぐことに関するジョークは、人類の根源的な喜びを呼び覚ます。それを「不謹慎だ」「下品だ」と蓋をするのは、お前らが「生きていることの恥部」を直視できない弱さの裏返しだ。下ネタで笑える心の余裕。それこそが、精神が健康である何よりの証拠なんだ。

 コメント欄には「www」「確かに!」「なんか元気出た」といった言葉が、滝のように流れていく。だが、俺は甘い言葉だけで終わらせるつもりはなかった。

 健全なる精神は、健全なる肉体にのみ宿る。俺が毎日、夜の街を八キロ行軍しているのを忘れたか? 適度に運動しろ。身体を動かし、汗をかけ。そして、何でも食べろ。蜂の子だろうが納豆巻きだろうが、目の前にある命を感謝して、胃袋に叩き込め。俺には好き嫌いなんてねえ。出されたものは全部美味しくいただく。それが命に対する礼儀だ。

 そして、性欲をいつまで経っても忘れないこと。性欲は、生きたいという欲求そのものだ。「もう若くないから」なんて言い訳で自分を納得させてる奴から順番に、魂は死んでいくんだ。股間のリンゴが火を噴くことを忘れるな。誰かに見せるためじゃねえ、自分の内なる火を絶やさないために、いつまでも「現役」であれ。

 俺を見ろ。股間に納豆巻きを当てて写真を撮る。バカバカしいだろ? 救いようがないだろ? だが、このバカバカしさを本気で楽しめる俺の精神は、アンチの罵倒も、社会の不条理も、全てを笑い飛ばす防弾仕様なんだよ。

 配信のボルテージは最高潮に達した。俺は、今日のために用意した「儀式」を宣言した。 

「よし、野郎ども! それじゃあ、本日のメインイベントだ。画面の前の全員、今すぐ手元にある『細長いもの』を用意しろ。納豆巻き、ソーセージパン、リモコン、ペットボトル……何でもいい! 用意できたら、それを股間に当てて、心の中で叫べ! 『俺は、私は、今、猛烈に生きている!』とな! これがマジキチ流、世界を救うマインドフルネスのポーズだ!」

 画面越しの100万人が、一斉に股間に細長いものをあてがう。この光景を衛星写真で捉えたら、さぞかし壮観だろう。世界中の「気枯れ」たエネルギーが、股間から放出される熱量によって浄化されていく。馬鹿げている。

 だが、この圧倒的な肯定感はどうだ。常識という名の檻をぶち破り、本能を剥き出しにした人間たちが、電波を通じて一つになっている。

「ガハハ! 見ろ、この熱気を! アンチも偽善者も、このエネルギーの前では無力だ! お前らが今感じているその『恥ずかしさ』と『高揚感』、それこそが生きている手応えなんだよ!」

 配信を終えた後、俺は深い沈黙の中で、心地よい疲労感に包まれていた。

 第9章。デジタルという名の虚構の荒野に、俺は「生身の真実」という名の杭を打ち込んだ。ネットの闇も、世代の壁も、情報の海も、全ては俺が「たってやる。」ための舞台に過ぎなかった。

 俺はスマホを置き、窓を開けた。2026年の大阪。夜の風が、豆タンクのように熱を持った俺の頬を撫でる。

「……さて。世界を少しだけ救っちまった後は、俺自身の欲望を満たしに行くとしようか」

 俺はいつものように、八キロの行軍へと繰り出す準備を始めた。リュックの中には、予備の納豆巻きと、揺るぎない自信が詰まっている。

 第9章、「暴走する電波の聖域(デジタル・フロンティア編)」、完。
 マジキチ組長、豆タンクの進撃が辿り着く最終地点は、果たしてどこか。

「たってやる。……最後まで、誰よりも熱くな!」
 
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