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第10章:共鳴する魂の家族(リアル・コネクション編)
第47話:情熱の輝き(恋多き50代・ハゲの中年男性)
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第46話でラーメン狂の女に「食の覚悟」を説き、胃袋の底から魂を揺さぶった数日後、俺の配信ルームには、50代の「枯れない情熱」と「無慈悲に枯れ果てた頭頂部」の狭間で悶える男が凸(とつ)してきた。
夜の帳が下りた大阪の事務所。モニター越しに繋がったのは、北関東の湿った土の匂いと、隠しきれないエロスの熱量を孕んだ訛りを持つ男、「秀(しゅう)」だ。
彼は50代。人生の折り返し地点を疾うに過ぎてなお、その心臓は思春期のガキのように恋心でバックバクに脈打っている。だが、スピーカーから漏れてくる彼の声は、どんよりとした曇天のように湿っていた。
「……まんずまんず、組長。俺ぁもう、人生のデッドボールを食らった気分だっぺ」
俺は椅子に深く腰掛け、指の間を抜けるフサフサとした自慢の髪の感触を確かめながら返した。
「どうした、秀。お前、こないだまで『嫁っ子さ、こねえか』って、見境なく女に声をかけまくってたあの勢いはどこへ行ったんだよ」
秀は「まんずまんず」と重苦しい溜息を吐きながら、独白を始めた。
「それがよぉ、組長。こないだまで付き合ってた彼女によ、『あんたと一緒にいると、あまりの熱苦しさに逃げ出したくなる』って言われて振られちまったんだ。挙句の果てによ、俺のこの頭をじっと見て、『一緒に歩くのが恥ずかしい、将来が不安だ』なんて抜きやがった。組長、見てくれよ。俺の名前は『秀』だっぺ? なのに鏡を見ると、そこにいるのは『禿(ハゲ)』なんだ。字の形だって似てるじゃねえか。秀から一本抜いたら禿になる。俺の人生、その一本の毛が足りないだけで、全てが台無しなんだよ!」
俺は鼻で笑った。
「ガハハ! 秀と禿が似てるだと? くだらねえ言葉遊びに命を懸けてるんじゃねえよ! いいか、秀。お前が自分の頭をコンプレックスだと思っているから、その鏡の中の男が『ハゲ』に見えるんだ。俺から言わせりゃ、その頭は欠陥じゃねえ。お前の内側から溢れ出す、煮え滾るような情熱が、皮膚を突き破って外に漏れ出している証拠なんだよ。情熱のオーバーヒートだ」
しかし、秀の自己嫌悪は止まらない。
「そうは言ってもよ、組長。俺の頭は今や、見るも無惨なサンバイザーハゲなんだ。上は光り輝いてるのに、横だけ申し訳程度に残ってやがる。おまけに髪質もスカスカでよ、風が吹けば地肌が丸見えだっぺ。自分でも鏡を見るたびに、たこ焼きみたいな頭だなぁって情けなくなるんだ。こんなサンバイザー状態で、どうやって『嫁っ子さ、こねえか』なんて言えるよ……」
俺は立ち上がり、画面越しに秀を指差した。
「いいか、秀。お前が言うスカスカやサンバイザー、そしてたこ焼き……。それは全て、お前が人一倍、女を愛し、生を謳歌しようとしているエネルギーの噴出孔なんだよ。ハゲについて、俺が実体験から得た真理を教えてやる。これは俺が昔、ある風俗店の待合室で目撃した光景だ。そこは、プロの女性たちが体を張って男の業を受け止める、まさに魂の戦場だった」
俺は当時の光景を鮮明に思い出しながら、言葉に熱を込めた。
「俺が自分の順番を待っていると、隣の受付ブースから、とんでもない要求が聞こえてきたんだ。ここじゃとても放送できねえような、倫理の壁を粉々に粉砕して、その向こう側に突き抜けたド変態な注文だ。常人なら耳を疑うような、過激すぎて書くことすら憚られる内容だった」
秀が息を呑む気配が伝わってきた。
「俺は思ったよ。『一体どんなド級の変態が、真っ昼間からこんな正気とは思えねえセリフを吐いてやがるんだ?』ってな。その正体を見てやろうと思って、待合室に入ってきたそいつの顔を覗き込んでやったんだ。……そこにはな、秀。お前も驚くぜ。見事なまでに、一片の迷いもなくハゲ散らかした、清々しいほどの中年男性が立っていたんだよ」
俺は確信を持って断言した。
「その時、俺は悟ったね。ハゲは性欲が強い。それは迷信じゃねえ、生物学的な必然なんだ。毛根に回るはずの全ての養分とエネルギーが、下半身と脳内のエロティシズムに100%変換されてるんだよ。その男の目は、獲物を狙う飢えた猛獣のようにギラギラと肉欲に燃えていた。そしてな、何より感動したのは、そのド変態な要求に対しても、プロの女性は平等に、気高く、完璧なプロフェッショナリズムで接客していたことだ。彼女たちは知ってるんだよ。見た目がスカスカだろうが、たこ焼きだろうが、金を払い、命がけで己の欲望をぶつけてくる男の魂に、貴賎も髪の量も関係ねえってことをな!」
俺は一息ついて、動揺する秀に畳み掛けた。
「秀、お前もそのハゲ散らかした先人に続け! お前の頭頂部がサンバイザーのように光っているのは、お前が『嫁っ子』を探すための、この世で唯一無二のサーチライトなんだよ! お前には『メリーゴーランドプレイ』にかける、並外れた情熱があるんだろう? その回転の勢いで、毛根なんて吹き飛ばしちまったんだろ! それを誇れよ! 髪の毛の数で男の愛が決まるか! お前のその溢れんばかりの性欲と、不器用な情熱を、堂々と天に晒せ!」
秀はしばらく沈黙していた。画面の向こうで、彼が自分のスカスカな髪を撫で、たこ焼きのような頭頂部を摩っている音が聞こえる。
「……サーチライト、か。まんずまんず、組長の言うことはいつも極端だっぺ。でもよ、俺のエロへの執着が、このハゲのせいだとしたら……。毛根を犠牲にして、俺は『男』としての力を手に入れたっていうのかよ……。そう思えば、このサンバイザーも、なんだか勲章のように思えてくるっぺ……」
だが、秀はすぐに我に返ったように声を荒らげた。
「でもよ、組長! あんたはさっきからフサフサじゃねえか! そのフサフサな頭で『ハゲを誇れ』なんて言われてもよ、嫌味にしか聞こえねえんだよ! 組長の頭はライトを浴びて輝いてるんじゃねえ、本物の髪の毛が密集してやがる! 俺のスカスカとは、構造が違うんだっぺ!」
俺はガハハと笑い飛ばした。
「構造なんてどうでもいいんだよ! 事実、俺の髪は一本も死んじゃいねえし、お前の頭はたこ焼きのように立派に仕上がっている。それが現実だ。現実を受け入れた上で、そのサンバイザーをどう乗りこなすかが、マジキチ流の真骨頂だろうが。お前が『禿』という字に怯えて縮こまっている間にも、世界中の『嫁っ子』候補は、お前の放つ情熱のサーチライトに見つけてもらうのを、今か今かと待ってるんだぞ!」
秀はヤケクソ気味に鼻を鳴らし、画面を睨みつけた。
「……分かったよ! 俺ぁもう、見た目なんて気にしねえっぺ! 次に出会った女には、開口一番にこう言ってやる。『俺の頭はサンバイザーだが、お前の未来を照らすサーチライトだ! 俺と一緒にメリーゴーランドのように回り続けねえか! 嫁っ子さ、こねえか!』ってな! 振られたらその時は、このスカスカの頭で風を切って走って、全部忘れてやるわ!」
しかし、秀の葛藤は根深い。彼はひとしきり吠えた後、ふと力なくモニターの隅を見つめた。
「……でもよ、組長。やっぱり、ふとした瞬間に鏡を見るとよ、どうしても情けなくなるんだ。このたこ焼きみたいな頭で、本当に幸せになれるんかなぁ。まんずまんず、不安で夜も眠れねえよ……」
俺は呆れて溜息を吐いた。
「秀、まだ終わらねえのか。いいか、お前が自分を『ハゲ』だと思うからハゲなんだ。お前が自分を『情熱の化身』だと思えば、それはもう情熱なんだよ。字面なんて気にするな。秀と禿が似てるのは、お前がその一本の差を超えて、秀でた男になれるかどうかの試練なんだよ」
「まんずまんず、そうは言ってもよ……。組長みたいにフサフサなら、そんな悩みも笑い飛ばせるんだろうけど。俺からすりゃ、あんたの頭は眩しすぎるぜ。髪の毛の密度的な意味でよ! 俺のスカスカが、あんたの重力に吸い込まれそうだっぺ!」
秀は最後、半ば逆ギレのような、しかしどこか吹っ切れたような、魂の絶叫を張り上げた。
「ああ、もういいっぺ! 誰がハゲやねん! 俺はハゲじゃねえ! たこ焼きでもサンバイザーでもねえ! 俺は……俺は、光り輝く情熱の塊なんだよ! 文句ある奴は、俺のサーチライトで網膜を焼き尽くしてやるわ! ガハハハ! 誰がハゲやねーーん!」
秀のヤケクソな叫びは、夜の配信ルームに空しく、そして力強く響き渡った。結局、彼の髪が生えてくるわけでも、理想の『嫁っ子』が目の前に降臨するわけでもない。だが、自身のコンプレックスをヤケクソな笑いに変え、剥き出しの自分で世界に挑もうとするその姿は、紛れもなくマジキチの魂を宿していた。
俺は通話を切り、静かになった事務所で再び髪をかき上げた。
2026年の大阪。外では冷たい冬の風が吹き荒れているが、俺の心は妙に熱かった。
風俗店の待合室で目撃した、あのハゲ散らかした男のギラついた、生命力に満ちた目。
そして秀の、泥臭くも真っ直ぐな、孤独を埋めようとする渇望。
人間なんてのは、欠落している部分からこそ、その真価が、その醜くも美しい業が漏れ出す生き物なのかもしれない。
俺はデスクに置いてあった納豆巻きを手に取り、無造作に口へ放り込んだ。
「……さて。ハゲに光を見た後は、今度は『サイズ』の深淵を覗きに行くとしようか」
俺は次なるリスナーの凸を待ちながら、深夜の行軍に備えて、いつものように靴紐を固く締め直した。
完璧な人間なんてのは、この世で一番退屈な存在だ。
どこか欠けていて、どこか歪んでいて、どこかがスカスカである。
そんな不完全な奴らが集まって、互いの傷口を笑い飛ばしてこそ、このクソッタレな世界は面白くなる。
「たってやる。……全宇宙のスカスカなサーチライトたちが、誇り高く夜を照らせるその日までな!」
深夜の事務所に、俺の低い、しかし確信に満ちた笑い声が響く。
第10章は、まだ始まったばかりだ。
「ガハハ! 秀、お前のサーチライト、絶対に消すんじゃねえぞ!」
俺はモニターの電源を落とし、暗闇の中で自慢のフサフサな髪を指で梳いた。
光り輝く者もいれば、それを闇の中で守り抜く者もいる。
それでいい。それが魂の家族、マジキチの絆ってもんだ。
コンプレックスをヤケクソな笑いへと昇華させた秀と、それを全力で煽り倒す組長。
人生のサーチライトは、今夜もどこかで、誰かの孤独を照らし出している。
夜の帳が下りた大阪の事務所。モニター越しに繋がったのは、北関東の湿った土の匂いと、隠しきれないエロスの熱量を孕んだ訛りを持つ男、「秀(しゅう)」だ。
彼は50代。人生の折り返し地点を疾うに過ぎてなお、その心臓は思春期のガキのように恋心でバックバクに脈打っている。だが、スピーカーから漏れてくる彼の声は、どんよりとした曇天のように湿っていた。
「……まんずまんず、組長。俺ぁもう、人生のデッドボールを食らった気分だっぺ」
俺は椅子に深く腰掛け、指の間を抜けるフサフサとした自慢の髪の感触を確かめながら返した。
「どうした、秀。お前、こないだまで『嫁っ子さ、こねえか』って、見境なく女に声をかけまくってたあの勢いはどこへ行ったんだよ」
秀は「まんずまんず」と重苦しい溜息を吐きながら、独白を始めた。
「それがよぉ、組長。こないだまで付き合ってた彼女によ、『あんたと一緒にいると、あまりの熱苦しさに逃げ出したくなる』って言われて振られちまったんだ。挙句の果てによ、俺のこの頭をじっと見て、『一緒に歩くのが恥ずかしい、将来が不安だ』なんて抜きやがった。組長、見てくれよ。俺の名前は『秀』だっぺ? なのに鏡を見ると、そこにいるのは『禿(ハゲ)』なんだ。字の形だって似てるじゃねえか。秀から一本抜いたら禿になる。俺の人生、その一本の毛が足りないだけで、全てが台無しなんだよ!」
俺は鼻で笑った。
「ガハハ! 秀と禿が似てるだと? くだらねえ言葉遊びに命を懸けてるんじゃねえよ! いいか、秀。お前が自分の頭をコンプレックスだと思っているから、その鏡の中の男が『ハゲ』に見えるんだ。俺から言わせりゃ、その頭は欠陥じゃねえ。お前の内側から溢れ出す、煮え滾るような情熱が、皮膚を突き破って外に漏れ出している証拠なんだよ。情熱のオーバーヒートだ」
しかし、秀の自己嫌悪は止まらない。
「そうは言ってもよ、組長。俺の頭は今や、見るも無惨なサンバイザーハゲなんだ。上は光り輝いてるのに、横だけ申し訳程度に残ってやがる。おまけに髪質もスカスカでよ、風が吹けば地肌が丸見えだっぺ。自分でも鏡を見るたびに、たこ焼きみたいな頭だなぁって情けなくなるんだ。こんなサンバイザー状態で、どうやって『嫁っ子さ、こねえか』なんて言えるよ……」
俺は立ち上がり、画面越しに秀を指差した。
「いいか、秀。お前が言うスカスカやサンバイザー、そしてたこ焼き……。それは全て、お前が人一倍、女を愛し、生を謳歌しようとしているエネルギーの噴出孔なんだよ。ハゲについて、俺が実体験から得た真理を教えてやる。これは俺が昔、ある風俗店の待合室で目撃した光景だ。そこは、プロの女性たちが体を張って男の業を受け止める、まさに魂の戦場だった」
俺は当時の光景を鮮明に思い出しながら、言葉に熱を込めた。
「俺が自分の順番を待っていると、隣の受付ブースから、とんでもない要求が聞こえてきたんだ。ここじゃとても放送できねえような、倫理の壁を粉々に粉砕して、その向こう側に突き抜けたド変態な注文だ。常人なら耳を疑うような、過激すぎて書くことすら憚られる内容だった」
秀が息を呑む気配が伝わってきた。
「俺は思ったよ。『一体どんなド級の変態が、真っ昼間からこんな正気とは思えねえセリフを吐いてやがるんだ?』ってな。その正体を見てやろうと思って、待合室に入ってきたそいつの顔を覗き込んでやったんだ。……そこにはな、秀。お前も驚くぜ。見事なまでに、一片の迷いもなくハゲ散らかした、清々しいほどの中年男性が立っていたんだよ」
俺は確信を持って断言した。
「その時、俺は悟ったね。ハゲは性欲が強い。それは迷信じゃねえ、生物学的な必然なんだ。毛根に回るはずの全ての養分とエネルギーが、下半身と脳内のエロティシズムに100%変換されてるんだよ。その男の目は、獲物を狙う飢えた猛獣のようにギラギラと肉欲に燃えていた。そしてな、何より感動したのは、そのド変態な要求に対しても、プロの女性は平等に、気高く、完璧なプロフェッショナリズムで接客していたことだ。彼女たちは知ってるんだよ。見た目がスカスカだろうが、たこ焼きだろうが、金を払い、命がけで己の欲望をぶつけてくる男の魂に、貴賎も髪の量も関係ねえってことをな!」
俺は一息ついて、動揺する秀に畳み掛けた。
「秀、お前もそのハゲ散らかした先人に続け! お前の頭頂部がサンバイザーのように光っているのは、お前が『嫁っ子』を探すための、この世で唯一無二のサーチライトなんだよ! お前には『メリーゴーランドプレイ』にかける、並外れた情熱があるんだろう? その回転の勢いで、毛根なんて吹き飛ばしちまったんだろ! それを誇れよ! 髪の毛の数で男の愛が決まるか! お前のその溢れんばかりの性欲と、不器用な情熱を、堂々と天に晒せ!」
秀はしばらく沈黙していた。画面の向こうで、彼が自分のスカスカな髪を撫で、たこ焼きのような頭頂部を摩っている音が聞こえる。
「……サーチライト、か。まんずまんず、組長の言うことはいつも極端だっぺ。でもよ、俺のエロへの執着が、このハゲのせいだとしたら……。毛根を犠牲にして、俺は『男』としての力を手に入れたっていうのかよ……。そう思えば、このサンバイザーも、なんだか勲章のように思えてくるっぺ……」
だが、秀はすぐに我に返ったように声を荒らげた。
「でもよ、組長! あんたはさっきからフサフサじゃねえか! そのフサフサな頭で『ハゲを誇れ』なんて言われてもよ、嫌味にしか聞こえねえんだよ! 組長の頭はライトを浴びて輝いてるんじゃねえ、本物の髪の毛が密集してやがる! 俺のスカスカとは、構造が違うんだっぺ!」
俺はガハハと笑い飛ばした。
「構造なんてどうでもいいんだよ! 事実、俺の髪は一本も死んじゃいねえし、お前の頭はたこ焼きのように立派に仕上がっている。それが現実だ。現実を受け入れた上で、そのサンバイザーをどう乗りこなすかが、マジキチ流の真骨頂だろうが。お前が『禿』という字に怯えて縮こまっている間にも、世界中の『嫁っ子』候補は、お前の放つ情熱のサーチライトに見つけてもらうのを、今か今かと待ってるんだぞ!」
秀はヤケクソ気味に鼻を鳴らし、画面を睨みつけた。
「……分かったよ! 俺ぁもう、見た目なんて気にしねえっぺ! 次に出会った女には、開口一番にこう言ってやる。『俺の頭はサンバイザーだが、お前の未来を照らすサーチライトだ! 俺と一緒にメリーゴーランドのように回り続けねえか! 嫁っ子さ、こねえか!』ってな! 振られたらその時は、このスカスカの頭で風を切って走って、全部忘れてやるわ!」
しかし、秀の葛藤は根深い。彼はひとしきり吠えた後、ふと力なくモニターの隅を見つめた。
「……でもよ、組長。やっぱり、ふとした瞬間に鏡を見るとよ、どうしても情けなくなるんだ。このたこ焼きみたいな頭で、本当に幸せになれるんかなぁ。まんずまんず、不安で夜も眠れねえよ……」
俺は呆れて溜息を吐いた。
「秀、まだ終わらねえのか。いいか、お前が自分を『ハゲ』だと思うからハゲなんだ。お前が自分を『情熱の化身』だと思えば、それはもう情熱なんだよ。字面なんて気にするな。秀と禿が似てるのは、お前がその一本の差を超えて、秀でた男になれるかどうかの試練なんだよ」
「まんずまんず、そうは言ってもよ……。組長みたいにフサフサなら、そんな悩みも笑い飛ばせるんだろうけど。俺からすりゃ、あんたの頭は眩しすぎるぜ。髪の毛の密度的な意味でよ! 俺のスカスカが、あんたの重力に吸い込まれそうだっぺ!」
秀は最後、半ば逆ギレのような、しかしどこか吹っ切れたような、魂の絶叫を張り上げた。
「ああ、もういいっぺ! 誰がハゲやねん! 俺はハゲじゃねえ! たこ焼きでもサンバイザーでもねえ! 俺は……俺は、光り輝く情熱の塊なんだよ! 文句ある奴は、俺のサーチライトで網膜を焼き尽くしてやるわ! ガハハハ! 誰がハゲやねーーん!」
秀のヤケクソな叫びは、夜の配信ルームに空しく、そして力強く響き渡った。結局、彼の髪が生えてくるわけでも、理想の『嫁っ子』が目の前に降臨するわけでもない。だが、自身のコンプレックスをヤケクソな笑いに変え、剥き出しの自分で世界に挑もうとするその姿は、紛れもなくマジキチの魂を宿していた。
俺は通話を切り、静かになった事務所で再び髪をかき上げた。
2026年の大阪。外では冷たい冬の風が吹き荒れているが、俺の心は妙に熱かった。
風俗店の待合室で目撃した、あのハゲ散らかした男のギラついた、生命力に満ちた目。
そして秀の、泥臭くも真っ直ぐな、孤独を埋めようとする渇望。
人間なんてのは、欠落している部分からこそ、その真価が、その醜くも美しい業が漏れ出す生き物なのかもしれない。
俺はデスクに置いてあった納豆巻きを手に取り、無造作に口へ放り込んだ。
「……さて。ハゲに光を見た後は、今度は『サイズ』の深淵を覗きに行くとしようか」
俺は次なるリスナーの凸を待ちながら、深夜の行軍に備えて、いつものように靴紐を固く締め直した。
完璧な人間なんてのは、この世で一番退屈な存在だ。
どこか欠けていて、どこか歪んでいて、どこかがスカスカである。
そんな不完全な奴らが集まって、互いの傷口を笑い飛ばしてこそ、このクソッタレな世界は面白くなる。
「たってやる。……全宇宙のスカスカなサーチライトたちが、誇り高く夜を照らせるその日までな!」
深夜の事務所に、俺の低い、しかし確信に満ちた笑い声が響く。
第10章は、まだ始まったばかりだ。
「ガハハ! 秀、お前のサーチライト、絶対に消すんじゃねえぞ!」
俺はモニターの電源を落とし、暗闇の中で自慢のフサフサな髪を指で梳いた。
光り輝く者もいれば、それを闇の中で守り抜く者もいる。
それでいい。それが魂の家族、マジキチの絆ってもんだ。
コンプレックスをヤケクソな笑いへと昇華させた秀と、それを全力で煽り倒す組長。
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