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俺の得意な事
しおりを挟むぐーっと、部屋に響き渡るほどの大音量が苛立ちを消し去ってくれた。
沈黙が訪れる。彰をじっと見ていると頬が別な意味で赤くなって行く。
やばい……すごく可愛い!
彰のお腹の音と表情に笑顔になってしまう。くっくっと笑いを我慢できずに笑う俺を睨みつける彰も愛らしい。
大地も肩を小刻みに揺らし声を出さず笑っている。
「あきちゃん、真っ赤な顔でそんなに睨みつけても、可愛いだけだよ」
それを伝えると更に顔が真っ赤になった。首まで真っ赤だ。可愛過ぎて、微笑みを止められない。
「そういえば、あきくん食べた物全部吐いてたもんね」
そうだった……。
大地から聞いていたのにすっかり頭から抜けていた。聖司兄さんに強制的に媚薬入りの食事を食わされ襲われた彰は、胃に入れたものを全て吐き出したんだった。
という事は、空腹な筈だ。空腹は身体だけじゃなく心からも元気を奪う。
「何でそれを!」
そう言いながら、振り返った彰の唇に触れるだけの優しいキスを大地がしていた。
それを見て、苦しくなる権利なんて俺にはない。大地が見ていなかったら、俺は彰が苦しい思いをしていたあの時に近くにいてあげる事は出来なかっただろう。
歯を食いしばって、言ってしまいそうな罵倒の言葉を飲み込む。
「あきくんが、吐いちゃったものを片付けたの俺だもん」
俺が気絶している間に片付けたのだろうか……。
頬を赤らめながら、大地を睨みつけている彰。寝てさえいなければ、俺が片付けたのに……。そうすれば、今頃彰は大地じゃなくて俺を見てくれて居たはずだ。
なんで俺は大事な時ばかり逃していたのだろうか。大地と彰が見つめ合うその光景は、とても美しいのに俺にとっては残酷な時だった。
このままじゃ大地に彰の心を奪られてしまう。俺だって何かしなければ。彰が見てくれる何か……。
あ、すっかり忘れてた。
「そんなに睨まない。俺が何か持ってくるから、大地と待ってろよ」
そう言って、立ち上がる。俺に出来て、大地より優位に立てるものあるじゃないか。急いで調理室へと向かった。
調理室へと入り、浸けてあったごぼうを取り出し、にんじんとごぼうを千切りにした。フライパンに油を入れごぼうとにんじんを炒める。調味料の入った箱を調理台から取り出し、酒、砂糖、醤油、みりんを加えた。少し煮詰めて味見をした。上々な出来に満足し火を止めて、ふと視線をずらすとそこには見慣れないエンブレムがあった。
なんだこれ?
狼の形をしたエンブレムに不気味さを感じた。手に取ろうとしたが、やめた。これは何かの鍵になりうる奴だろうか。そうであれば、今は触れない方がいいだろう。
気になるが、今はそれどころでは無い。彰の心を勝ち取る為に急がなければならない。こうしている今にも大地は彰との交友を深めているはずだ。
負けられない!
急ぎつつも丁寧に作った料理をお盆に並べた。
湯気が上がる白飯に、豆腐とわかめが浮かぶ味噌汁。塩を効かせたサバの焼き魚、少し甘め塩っぱく作った大根とイカの煮物、それに先ほど作った金平ごぼう。
時間が少なかったとはいえ、これだけできれば上出来だろう。お盆を持っていこうとした時、調理室の扉が開く音がした。
振り向くとそこにいたのは、拓也兄さんだった。
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