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太陽の騎士と氷の王子様

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 着替え終わり、姿見の前に立つ。上着もズボンもピッタリサイズになった。やはり、実用重視の服は動きやすい。

 それに、薬も効いてきた様で、頭痛は治まっていた。薬を持ってきてくれたメリーナに感謝をしなければと考えていた。その流れで、思い出した事があり、今その悩みに直面していた。メーリナの事、グランデにお願いしておかないといけない事だ。だが、どう言えば良いのだろう。そのまま言えば、疑われかねない。

「メーリナの家の土地だけど、いらなくなったから返しておいてくれ!」

 変だ。

「あまり土地があると、管理が面倒だから……」

 領主失格だな。違和感がない言い方ってないだろうか。土地……農民……。

「あ、これなら……」

「これなら、なんだ?」

 急に聞こえてきた声に驚き、体が跳ねた。振り向くとそこには、ライトが立っていた。もしかして、聞かれた?

「の……ノックしろよ!」

「したぜ。随分と悩んでいた様だったから、聞こえなかったんだろ」

「そ、そうか」

 本当にしたのだろうか。こいつは昨日、ノックなしで入ってきてたような……。

「部屋に無断で入った事は、怒らないんだな」

「あ……」

「今、気づいたのか? 相変わらず、可愛いな」

 そう言われ、大きく温かい手に頭を撫でられる。胸がふわふわする。だが、可愛いなんて言われる筋合いはない。

「可愛くなんてない!」

「怒っても、可愛さが増すだけだぜ」

 こいつに何言っても無駄だな。というか、なんでレイルに対して敬語じゃないんだ。レイルは領主様だぞ。確か、ライトとレイルの関係ってゲーム内では、兵士長と領主で戦友の関係だけで、そこまで恋愛関係になることってなかった様な気がする。

 レイルのグランデへの想いは一途だった気がするのだが、この身体に入ってからいまいちレイルの想い人が分からなくなってきた。グランデの前でドキドキするのは分かるのだが、ライトの前でもドキドキするのは、何でだろうか。やはり、二股か? それよりも、ライトに独り言を聞かれた事の方が重大だ。

「もう良い。それより、何か聞いたか?」

「何かってなんだ?」

「その、さっきの」

「独り言か? これならって所しか聞いてないが……何か言ったのか?」

「いや、何でもない。ライトは何か用事があってきたのか?」

 そう俺が言うと、笑顔だったライトの表情が、少し真面目な表情に変わった。

「謝りに来たんだ。昨日は、すまん。無理に飲ませちまって、その……体、大丈夫か?」

 その言葉がとても優しくて、嬉しかった。問題を作った張本人だとしても、誰かに気遣ってもらえるなんて思ってもみなかった。グランデなんて、人をボロクソに言ってくれやがったからなぁ。

「薬飲んだから、大丈夫。心配してくれて、ありがとう」

 俺の答えに照れ臭そうに笑ったライトは、とてもカッコいい。普通版のライトは厳つい大男だったのに、BL版のライトは、男前に描かれていた。キリッとした眉、二重の蒼い瞳、厚めの唇、グランデ以上に高い身長。グランデが氷の王子様風だとしたら、ライトは太陽の騎士様だ。

「そうか。それなら良かった」

「ライト?」

 ライトは笑っているのに、少し寂しそうだと感じたのは何故なんだろう。

「グランデの服、着てるんだな」

 頭から爪先までライトの視線が往復しているのを感じる。綺麗なものが大好きなレイルが、地味目の服を着ている時点で怪しいかもしれない。だが、どうしてもあのキラキラは恥ずかしくて着たくなかった。あれ? そういえば何で、グランデはそこの所を追求しなかったんだろう。あの時は、たまには普通の服を着たいと言ったが、どう考えてもおかしい答えに何も言わずに用意してくれた。何でだろう、胸がモヤモヤする。

「あぁ、最近疲れやすくて、動きやすい服を着たかったんだ」

「それなら、俺の服貸してやるか?」

「え?」

 ライトの服? グランデの服で大幅に裾上げしないといけなかったのに、ライトの服なんてこれでもかって程にあげないといけなくなる。だが、ライトの服はグランデの服以上に動きやすいだろう。今だって、動きやすそうな綺麗目なシャツとズボンは魅力的だ。

「レイル様がいつも着ている服の生地と比べたら、微妙かもしれなが、それなりに良い生地を選んでるんだぜ。触ってみるか?」

「え!? でも……」

「いいから、触ってみろよ」

 そう言われ、ライトに右手を掴まれ胸元へと誘導された。そっとシャツに触れてみる。柔らかですべすべしている生地なのに、しっとりとして保湿性に優れているのを感じた。絹と綿を併せ持っている様な不思議な感覚だ。

「凄い! こんなの触った事ない!」

 すりすりと不思議な感覚をもたらす生地を触る。やばい、肌触り良すぎて気持ちいい。この生地なら是非とも欲しい。

「……そうか」

「うん! いいなぁ、欲しい」

「……なぁ、レイル様。俺の部屋に行かないか?」

 すりすりと生地を摩っていた俺の手の上にライトの手が重なった。その手にぎゅっと握られ、どうしたのかと思い、ライトの顔を見上げた。その顔は真面目な表情なのに、瞳が獲物を捕らえようとする様に鋭く光っていた。

「へ? 今?」

「あぁ、今すぐ」

 その低い声に腹の奥がドクっと脈動した。まずい、何か嫌な予感がする。

「あっ……でも、グランデが」

 逃れようと視線を外したその時、ライトの顔が耳元へと近づいてきた。

「ここまで煽っておいて、それは無しだぜ。グランデを忘れさせてやるよ」

 そっと囁かれるその言葉に、体が震えた。

「え!」

 いつ、煽ったって言うんだ。思い出そうとしているのに、ライトが手を引いてくる。 

「さぁ、行こう」

 そんな表情は反則だ。優しく笑うライトにドキドキが止まらない。行ってもいいんじゃないか。きっと、ライトは優しくしてくれる。冷たく睨んだり、傷つけるような言葉を使ったり、痛い事をしたりはしないだろう。優しく甘やかしてくれるかもしれない。


 そう思った瞬間に、聞きたくない言葉を聞いた。

「ライトとどこへ行かれるんですか?」

 その声の方に振り向くと、扉からグランデが入ってくる所だった。

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