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エピローグ
2 現世
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航大は目を覚ました。病室の白い天井が見えた。
「はい、管を抜きますよ」
フェイスガードをした男性に喉に入っていた管を抜かれる。酸素マスクを当てられる。
マスクから酸素をゆっくりと吸う。
戻ってきたんだ。
感染防御のため、両親とビデオ面会が許された。真由美は涙で言葉が出なかった。
向こうでアイザックの体をかなり回復させていたけど、こちらの自分の体はまたリハビリが必要だった。
「また、ふりだしに戻ったか」
1人の病室でつぶやく。
でも、湊の好きな人の命を救ってあげられてよかったな、と思う。湊を心ならずも振ることになって、その後、湊が事故で死んだと思ってたから、自分のせいじゃないかとつらかった。湊はむこうでアイザックと幸せになれただろうから、もう自分を責めなくてもいい。
1か月後、退院した航大は湊の母、亜里沙の元を訪れた。
「あら、航大君、元気になったのね。良かったわ。大変だったわね」
亜里沙に促され、家にお邪魔する。
「信じられない話かもしれないけど、亜里沙さんにお伝えしたくて」
航大は、湊がゲイで自分に告白したことから、向こうの世界で湊が幸せになったことまで亜里沙に語った。
亜里沙は湊がゲイというところから何も言わずに真剣に聞き続けた。
「湊が『こっちで幸せにやってるって伝えて。産んでくれてありがとう』って」
亜里沙は少し呆然としていた。無理もない。奇想天外な話だ。
「なんか、すみません。変な話ですよね。でも、俺、湊に伝えるって約束したから」
航大はどうしていいか分からず、亜里沙に謝る。
亜里沙ははっとして「ううん、航大君、教えてくれてありがと。そっか、湊、幸せなのか……」と航大の謝罪を否定する。
「俺、言いたい事、伝えられたから、もう帰りますね」
航大は立ち上がる。
「そ、そうね。病み上がりだものね。無理しないで。今日はありがとう。またね」
亜里沙は無理した笑顔を貼り付け、航大を見送った。
「あの子も……ゲイだったんだ……」
亜里沙は湊がいなくなってから、そのままにしていた湊の部屋に入った。本棚を眺める。手前の本を取り除くと、同性愛についての本やBL本が奥に隠されていた。
「航大君のこと、好きだったんだ……でも、あの子はノンケよね……母親と同じくね……」
思い切って告白してふられてしまった。幼馴染という立ち位置さえ失ってしまう。つらかっただろう、と思う。
自分だって、友人、という立ち位置を失いたくなくて告白できないでいたのに……。
「似たもの、親子……だったんだね」
亜里沙は涙が零れる。湊のかなわなかった恋と自分のおそらくかなわない恋を思って、少し泣いた。
「でも、湊は異世界で好きな人に巡り合えて、結ばれたんだ」
おそらく、もう会うことはできないけど、湊が幸せになったのは嬉しかった。自分勝手に産んだのに『産んでくれてありがとう』とまで言ってもらえた。
「ごめんね。お母さん、自分の恋がかなわないと思って、一生一人は寂しくて、湊を生んだの」
湊を生んで、何食わぬ顔をして真由美のそばに家を建てた。山本夫婦は自分を同性愛者だとは気づいてないだろう。
でも、湊は産んでくれてありがとう、と言ってくれた。
新しい恋をして幸せになった息子を想像して、亜里沙は微笑んだ。
その夜、亜里沙は夢の中で知らない世界に行った。そこでは湊が3人の子供と金髪の航大に似た青年と楽しそうに過ごしているのが見えた。
目が覚めて、夢だったのが分かったが、あまりにリアルで、きっと神様が自分を憐れんで見せてくれた湊の現在なんだろうと理解した。
涙をふいた。
自分も、かなわない恋は卒業して、自分と同じ性嗜好の人を探そう。そして幸せになろう、と決意した。
おしまい
「はい、管を抜きますよ」
フェイスガードをした男性に喉に入っていた管を抜かれる。酸素マスクを当てられる。
マスクから酸素をゆっくりと吸う。
戻ってきたんだ。
感染防御のため、両親とビデオ面会が許された。真由美は涙で言葉が出なかった。
向こうでアイザックの体をかなり回復させていたけど、こちらの自分の体はまたリハビリが必要だった。
「また、ふりだしに戻ったか」
1人の病室でつぶやく。
でも、湊の好きな人の命を救ってあげられてよかったな、と思う。湊を心ならずも振ることになって、その後、湊が事故で死んだと思ってたから、自分のせいじゃないかとつらかった。湊はむこうでアイザックと幸せになれただろうから、もう自分を責めなくてもいい。
1か月後、退院した航大は湊の母、亜里沙の元を訪れた。
「あら、航大君、元気になったのね。良かったわ。大変だったわね」
亜里沙に促され、家にお邪魔する。
「信じられない話かもしれないけど、亜里沙さんにお伝えしたくて」
航大は、湊がゲイで自分に告白したことから、向こうの世界で湊が幸せになったことまで亜里沙に語った。
亜里沙は湊がゲイというところから何も言わずに真剣に聞き続けた。
「湊が『こっちで幸せにやってるって伝えて。産んでくれてありがとう』って」
亜里沙は少し呆然としていた。無理もない。奇想天外な話だ。
「なんか、すみません。変な話ですよね。でも、俺、湊に伝えるって約束したから」
航大はどうしていいか分からず、亜里沙に謝る。
亜里沙ははっとして「ううん、航大君、教えてくれてありがと。そっか、湊、幸せなのか……」と航大の謝罪を否定する。
「俺、言いたい事、伝えられたから、もう帰りますね」
航大は立ち上がる。
「そ、そうね。病み上がりだものね。無理しないで。今日はありがとう。またね」
亜里沙は無理した笑顔を貼り付け、航大を見送った。
「あの子も……ゲイだったんだ……」
亜里沙は湊がいなくなってから、そのままにしていた湊の部屋に入った。本棚を眺める。手前の本を取り除くと、同性愛についての本やBL本が奥に隠されていた。
「航大君のこと、好きだったんだ……でも、あの子はノンケよね……母親と同じくね……」
思い切って告白してふられてしまった。幼馴染という立ち位置さえ失ってしまう。つらかっただろう、と思う。
自分だって、友人、という立ち位置を失いたくなくて告白できないでいたのに……。
「似たもの、親子……だったんだね」
亜里沙は涙が零れる。湊のかなわなかった恋と自分のおそらくかなわない恋を思って、少し泣いた。
「でも、湊は異世界で好きな人に巡り合えて、結ばれたんだ」
おそらく、もう会うことはできないけど、湊が幸せになったのは嬉しかった。自分勝手に産んだのに『産んでくれてありがとう』とまで言ってもらえた。
「ごめんね。お母さん、自分の恋がかなわないと思って、一生一人は寂しくて、湊を生んだの」
湊を生んで、何食わぬ顔をして真由美のそばに家を建てた。山本夫婦は自分を同性愛者だとは気づいてないだろう。
でも、湊は産んでくれてありがとう、と言ってくれた。
新しい恋をして幸せになった息子を想像して、亜里沙は微笑んだ。
その夜、亜里沙は夢の中で知らない世界に行った。そこでは湊が3人の子供と金髪の航大に似た青年と楽しそうに過ごしているのが見えた。
目が覚めて、夢だったのが分かったが、あまりにリアルで、きっと神様が自分を憐れんで見せてくれた湊の現在なんだろうと理解した。
涙をふいた。
自分も、かなわない恋は卒業して、自分と同じ性嗜好の人を探そう。そして幸せになろう、と決意した。
おしまい
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みんなの感想(2件)
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時間返せよに凄いイラッとした。
そのあとの話で謝罪していたけど、貧相な脳筋の本性ってこんなモンとしか思えなかった。
主人公もそこで怒っていいとこだろうに辛かっただけですまして話が流れるし、あんな事があって再会した割にやり取りがショボすぎる。
お読みいただきありがとうございました。
思ったことをすぐ言うキャラと設定しましたが、主人公にとっては酷だったかもしれません。
キャラの性格をもっと練るようにしますね。
これからもよろしくお願いします。
拝読させて頂きました
アイザックが弱ってしまった時はもう駄目なのかと悲しくなり、航大の人格が入ってきた時は「え、この先どうなるの?!アイザックは?!」とハラハラして、最後はみんなが笑顔で過ごせるようになって感動で涙しました
湊の異世界へ行く前は少し頼りないようなところが、異世界でトロツカ村の皆やアイザック達に出会い、芯のしっかりした人に成長するところもとても良かったです
個人的な感想ですが、非常に自分好みな作品でした
これからも頑張ってください
お読みいただいてありがとうございます。
初めて感想をいただいて感動しました。
これからも頑張って書きたいと思っておりますので読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。