42 / 43
エピローグ
1 北の辺境伯
しおりを挟む
数年間不在であった伯爵の地位に、以前の伯爵がまた赴任された。元は王位についていたが、ドロティア国との戦争で健康を損ない、王位を退かれたのだ。
子供のルクスが即位してルクス1世となった。皇后のレティシアが皇太后となり、皇太后であったヒルダが太皇太后となり、幼少のルクス1世の政治を補佐している。宰相にオメガ女性が任じられたのも話題になった。アスティア国はジェンダーフリーを目指していると他国からの評価も高くなった。
アイザック元王は伯爵時代から気さくな方であったが、王位について、退いた後もそれは変わらなかった。むしろ、人間味が増したと人々は思う。それは配偶者となった黒髪、黒い瞳のオメガ男性によるのだろう。2人は仲睦まじく暮らしていた。
残念ながらまだ子宝に恵まれない様だったが、アイザック元王は配偶者を1人占めできるので、少しも苦にされていない様だった。
アイザックが伯爵だった時代から始めた酪農と乳製品が、この地域の一大産業だった。とりわけ、良質の乳製品は高値で取引された。
「湊様、こちらも味を見てください」
料理人がチーズケーキを湊に渡す。一口味見をする。
「うん、おいしい。来月のケーキはこれにしましょう」
緊張していた料理人の顔がほころぶ。後ろには高校を卒業して料理人の修行をしている若者がメモをとりながら、湊と料理人のやりとりを聞いている。湊の試食が終わると、早速、若者たちも試食する。若くて先入観のない舌に新しい味を覚えさせる。
こちらの世界ではお菓子はマドレーヌやビスケットのような素朴な焼き菓子か、りんごやさつまいも、かぼちゃなどのパイくらいしかレパートリーはなかった。湊が前の世界の知識で色々な種類のお菓子を作ると、それは周囲の人を魅了した。
今はこの地域の特産品である乳製品を生かしたお菓子を考案して、それも産業にしようと考えている。この地域に住む人々は農業や酪農に従事していたが、アイザックが伯爵となって乳製品工場に勤める仕事の選択肢が増え、この度はお菓子製造の仕事も増えた。それは、この地域の若者たちに希望を与えることになった。近隣の地域からも高校を卒業した若者が料理修行に来るまでとなった。
湊が前の世界のお菓子を披露すると、料理人たちが自分なりに改良を重ね、さらに美味しいお菓子を作る。湊は楽しかった。
「湊様、伯爵様がお迎えですよ」
湊が振り返るとアイザックがドアの所に立っていた。
時計を見ると夕方の5時ぴったり。
「今、着替えるので待っててください」
湊はロッカールームに行って、白衣や帽子を脱いで、上着を着た。
「それでは、失礼します」
湊がアイザックと仲良く帰っていくのをみんな微笑んで見守る。この伯爵夫夫が来てから、この北の辺境地は地味な地域ではなく、若者に希望を与える可能性のある土地となった。
外に出ると、アイザックは湊の小さな手を握る。2人で仲良く手をつないで帰る。
「明日は、病院の日だね」
アイザックは湊に話しかける。
湊はバース科に通院している。番になった時のセックスから、避妊せずにいるのだが、妊娠しないのでバース科を受診した。診断は以前にも言われたように未発育であった。まだ、妊娠できるほど発育していないのだ。
転生してからオメガになったから、仕方ないかな、と湊は思う。
発育を促すためにはホルモン治療になると医者は言った。
アイザックがホルモン治療とはどういう物なのか、質問したところ、アルファのフェロモンからの抽出物を投与します、と医者は答えた。アイザックが自分のフェロモンから作ってくれるのか質問したところ、オーダーメイドはしていなくて、既製品のホルモン薬の治療になりますと言われた。
自分以外のアルファのフェロモンを湊に入れるわけにはいかないとアイザックが反対。
医者は番のアルファとの行為でも発育は促されていくので、湊はまだ若いし、様子をみては?と収めた。明らかに面倒なアルファの攻撃をかわしている。
アイザックは湊に毎晩丹念にアルファの精を注ぎ込んでいる。疲れ切って、湊が眠り込んでしまうと、湊の世話から家事から全てやってしまう。アイザック自身は湊に精を注ぎ込むと、体に力がみなぎるようで、3時間くらいの睡眠で足りてしまうらしい。
3か月ごとにバース科に通院して子宮の発育状況を診てもらう。毎回、順調に発育していて、医者はアイザックを褒めるので、家に帰ると、ますますねちっこく、湊に精を注ぐ。
そういう湊も夜になると体がうずいてしまい、アイザックが手をのばしてくるのを待ち構えているのだけれど。
3人の子宝に恵まれ、湊お手製の子供服が流行となり、また新たな産業を生み出すのは、もう少し後のお話。
子供のルクスが即位してルクス1世となった。皇后のレティシアが皇太后となり、皇太后であったヒルダが太皇太后となり、幼少のルクス1世の政治を補佐している。宰相にオメガ女性が任じられたのも話題になった。アスティア国はジェンダーフリーを目指していると他国からの評価も高くなった。
アイザック元王は伯爵時代から気さくな方であったが、王位について、退いた後もそれは変わらなかった。むしろ、人間味が増したと人々は思う。それは配偶者となった黒髪、黒い瞳のオメガ男性によるのだろう。2人は仲睦まじく暮らしていた。
残念ながらまだ子宝に恵まれない様だったが、アイザック元王は配偶者を1人占めできるので、少しも苦にされていない様だった。
アイザックが伯爵だった時代から始めた酪農と乳製品が、この地域の一大産業だった。とりわけ、良質の乳製品は高値で取引された。
「湊様、こちらも味を見てください」
料理人がチーズケーキを湊に渡す。一口味見をする。
「うん、おいしい。来月のケーキはこれにしましょう」
緊張していた料理人の顔がほころぶ。後ろには高校を卒業して料理人の修行をしている若者がメモをとりながら、湊と料理人のやりとりを聞いている。湊の試食が終わると、早速、若者たちも試食する。若くて先入観のない舌に新しい味を覚えさせる。
こちらの世界ではお菓子はマドレーヌやビスケットのような素朴な焼き菓子か、りんごやさつまいも、かぼちゃなどのパイくらいしかレパートリーはなかった。湊が前の世界の知識で色々な種類のお菓子を作ると、それは周囲の人を魅了した。
今はこの地域の特産品である乳製品を生かしたお菓子を考案して、それも産業にしようと考えている。この地域に住む人々は農業や酪農に従事していたが、アイザックが伯爵となって乳製品工場に勤める仕事の選択肢が増え、この度はお菓子製造の仕事も増えた。それは、この地域の若者たちに希望を与えることになった。近隣の地域からも高校を卒業した若者が料理修行に来るまでとなった。
湊が前の世界のお菓子を披露すると、料理人たちが自分なりに改良を重ね、さらに美味しいお菓子を作る。湊は楽しかった。
「湊様、伯爵様がお迎えですよ」
湊が振り返るとアイザックがドアの所に立っていた。
時計を見ると夕方の5時ぴったり。
「今、着替えるので待っててください」
湊はロッカールームに行って、白衣や帽子を脱いで、上着を着た。
「それでは、失礼します」
湊がアイザックと仲良く帰っていくのをみんな微笑んで見守る。この伯爵夫夫が来てから、この北の辺境地は地味な地域ではなく、若者に希望を与える可能性のある土地となった。
外に出ると、アイザックは湊の小さな手を握る。2人で仲良く手をつないで帰る。
「明日は、病院の日だね」
アイザックは湊に話しかける。
湊はバース科に通院している。番になった時のセックスから、避妊せずにいるのだが、妊娠しないのでバース科を受診した。診断は以前にも言われたように未発育であった。まだ、妊娠できるほど発育していないのだ。
転生してからオメガになったから、仕方ないかな、と湊は思う。
発育を促すためにはホルモン治療になると医者は言った。
アイザックがホルモン治療とはどういう物なのか、質問したところ、アルファのフェロモンからの抽出物を投与します、と医者は答えた。アイザックが自分のフェロモンから作ってくれるのか質問したところ、オーダーメイドはしていなくて、既製品のホルモン薬の治療になりますと言われた。
自分以外のアルファのフェロモンを湊に入れるわけにはいかないとアイザックが反対。
医者は番のアルファとの行為でも発育は促されていくので、湊はまだ若いし、様子をみては?と収めた。明らかに面倒なアルファの攻撃をかわしている。
アイザックは湊に毎晩丹念にアルファの精を注ぎ込んでいる。疲れ切って、湊が眠り込んでしまうと、湊の世話から家事から全てやってしまう。アイザック自身は湊に精を注ぎ込むと、体に力がみなぎるようで、3時間くらいの睡眠で足りてしまうらしい。
3か月ごとにバース科に通院して子宮の発育状況を診てもらう。毎回、順調に発育していて、医者はアイザックを褒めるので、家に帰ると、ますますねちっこく、湊に精を注ぐ。
そういう湊も夜になると体がうずいてしまい、アイザックが手をのばしてくるのを待ち構えているのだけれど。
3人の子宝に恵まれ、湊お手製の子供服が流行となり、また新たな産業を生み出すのは、もう少し後のお話。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
96
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる