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番外編・青年カインの年上の恋人
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地方の魔獣討伐遠征が予定より一週間程早く終わり、カインは王都への帰りを急いでいた。
辺りはもう夜の帳が降りている。カインは馬車の窓から見える月明かりに照らされた森を見つめ目を細めた。
(ここは王都付近の森だな。もう三時間程で王都に入るな)
本来なら仕事仲間達と共に翌日の馬車を手配して帰るはずだったが、カインは一人で馬車に乗っていた。なぜかといえば、一刻も早くニナルヤ――ニーナに会いたかったからだ。
(皆と共に明日の日中に帰っても良かったが……俺は一刻も早くニーナと過ごしたい)
カインは魔獣討伐後、諸々の事務手続きを済ませると、その足で夜の便の馬車を手配した。仕事仲間達はカインに想い人が出来たことを知っているので、そんなカインを生温かい目で見てから肩をポンポンと叩いて来た。
カインは仲間達にも一緒に帰るか聞いてはみたが「こんなすぐには帰りたくない」「酒場で遊びたい」「まだこの地方の名産品を食べていない」「夜の馬車は割高だから嫌だ」と口々に捲し立てられた。
(仕事仲間の皆の意見はいつも参考にさせてもらっているが……今回は合わなかった)
カインにとっては恋人のニーナと過ごすことが一番の休息だった。
(恋人、恋人か……)
紆余曲折あったがニーナとカインは結婚を前提に恋人になったので、恋人というよりは婚約者と言った方が正しい。『婚約』という響きにカインは口元が綻んだ。
現在は姉が遺した家にニーナと二人で住んでいる。ニーナは王都に来てから2ヶ月程は週払いの宿に住んでいたが、どうにか口説き落として同居にこぎつけた。
姉がいなくなってからは広く感じていた家も、大人二人で暮らすようになってからは手狭に感じられた。
(しばらくは休みだから、職人ギルドを尋ねて、増築の相談をしに行こう。明日はニーナも休みのはずだ……一緒に来てくれるだろうか)
ニーナは王都に着くとすぐに仕事を見つけて働き始めた。カインはそんなすぐに働かなくともと寂しく思ったが、ニーナには「自分の足で立って生きて行ける所を見て欲しい」ときっぱりと言われた。カインはそんなニーナを眩しく感じ、しょぼくれていた自分が情けなくなってしまった。
(俺のこういった、子どものようなことを考えてしまう所は……頼りないと思われてしまうのだろうか……)
ニーナは四つ年上で色々なことを知っていて頼りになる。カインもニーナにとって頼りがいのある存在になりたかった。
(早く仕事が終わったからと言って、何の連絡も無しに帰るのは……気持ちに余裕が無いと思われてしまうだろうか)
「年下だから余裕がないのは仕方ない」とは思われたくなかった。だがここまで来たからにはもう後戻りは出来ない。
暗い森を眺めていると良くないことばかり考えてしまうなとカインは自嘲気味に息を漏らした。
辺りはもう夜の帳が降りている。カインは馬車の窓から見える月明かりに照らされた森を見つめ目を細めた。
(ここは王都付近の森だな。もう三時間程で王都に入るな)
本来なら仕事仲間達と共に翌日の馬車を手配して帰るはずだったが、カインは一人で馬車に乗っていた。なぜかといえば、一刻も早くニナルヤ――ニーナに会いたかったからだ。
(皆と共に明日の日中に帰っても良かったが……俺は一刻も早くニーナと過ごしたい)
カインは魔獣討伐後、諸々の事務手続きを済ませると、その足で夜の便の馬車を手配した。仕事仲間達はカインに想い人が出来たことを知っているので、そんなカインを生温かい目で見てから肩をポンポンと叩いて来た。
カインは仲間達にも一緒に帰るか聞いてはみたが「こんなすぐには帰りたくない」「酒場で遊びたい」「まだこの地方の名産品を食べていない」「夜の馬車は割高だから嫌だ」と口々に捲し立てられた。
(仕事仲間の皆の意見はいつも参考にさせてもらっているが……今回は合わなかった)
カインにとっては恋人のニーナと過ごすことが一番の休息だった。
(恋人、恋人か……)
紆余曲折あったがニーナとカインは結婚を前提に恋人になったので、恋人というよりは婚約者と言った方が正しい。『婚約』という響きにカインは口元が綻んだ。
現在は姉が遺した家にニーナと二人で住んでいる。ニーナは王都に来てから2ヶ月程は週払いの宿に住んでいたが、どうにか口説き落として同居にこぎつけた。
姉がいなくなってからは広く感じていた家も、大人二人で暮らすようになってからは手狭に感じられた。
(しばらくは休みだから、職人ギルドを尋ねて、増築の相談をしに行こう。明日はニーナも休みのはずだ……一緒に来てくれるだろうか)
ニーナは王都に着くとすぐに仕事を見つけて働き始めた。カインはそんなすぐに働かなくともと寂しく思ったが、ニーナには「自分の足で立って生きて行ける所を見て欲しい」ときっぱりと言われた。カインはそんなニーナを眩しく感じ、しょぼくれていた自分が情けなくなってしまった。
(俺のこういった、子どものようなことを考えてしまう所は……頼りないと思われてしまうのだろうか……)
ニーナは四つ年上で色々なことを知っていて頼りになる。カインもニーナにとって頼りがいのある存在になりたかった。
(早く仕事が終わったからと言って、何の連絡も無しに帰るのは……気持ちに余裕が無いと思われてしまうだろうか)
「年下だから余裕がないのは仕方ない」とは思われたくなかった。だがここまで来たからにはもう後戻りは出来ない。
暗い森を眺めていると良くないことばかり考えてしまうなとカインは自嘲気味に息を漏らした。
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