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漢たちの闘い(文化祭)

選んだのは君だから

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その日の夜遅く。道場に豪鬼の姿があった。
「くそっ、あんな野郎に負けただと!?」
豪鬼は荒れていた。
「確かに強かった。俺の攻撃が通用しないほどに」
だが、豪鬼は自分の強さに自信を持っていた。その自分が全く歯が立たなかったという事実が許せないのだ。
「このままじゃ済まさねぇ……」
豪鬼は決意を固める。
「奴をぶちのめす方法を考えてやる。じゃねえと俺は……俺は、権田原さんに認めて貰えない!」
豪鬼はいつも雄三につっかかっている。憧れている人の技を盗んで、認めてもらいたい。凄い、と褒められたい。
それが豪鬼の原動力となっている。
「見ててくださいよ、雄三さん。必ずあなたを超えてみせますから……」
豪鬼は拳を強く握りしめ、そう呟いた。

***
「よし、今日は俺が腕のよりをかけて料理を作って……」
「いや、雄三さん。今日は俺に作らせてくれないかな?」
「ほほう、幸喜ちゃんが作ってくれるのか?楽しみだなぁ」
光輝の提案に雄三は笑顔で答える。
「任せてよ。今日は雄三さんにいっぱい食べて欲しいから、頑張っちゃうから!」
「おう、期待してるぞ!」
「うん!」
光輝は雄三の喜ぶ顔を見て、心の中に喜びがあふれだしてくるのを感じていた。涙が出そうになるのをこらえて台所に立つ。
光輝が誘拐されて帰ってきてからまだ2週間しか経っていない。誘拐されていた間光輝はオークションで自分を買った相手とセックスをしたり、自分の父親に媚薬を盛られてセックスをすることを強要されたり。清から気を失うまで蹴られる暴行を受けたりと、肉体的にも精神的にもかなり疲労していた。
いまだにこうして何気ない日常を送り、幸せを感じられるたびに感情が揺り動かされて泣きたくなってしまう。
「さて、と。何を作ればいいんだろうな……」
光輝は冷蔵庫を開ける。そこには大量の食材が詰め込まれていた。肉、魚、野菜、調味料など。一通り揃っているようだ。
「ん~、どうするか……。とりあえず、無難にカレーを作るか」
光輝は手際よく調理を始める。
まずは玉ねぎを切る。次に人参とじゃがいもを切っていく。さらに鍋に水を入れ、沸騰させる。そこに切った具材を入れて煮込む。
「おお、いい匂いだな」
「あ、雄三さん。味見してくれませんか?」
「ああ、いいぞ」
雄三は小皿を受け取り、口をつける。
「どうです?」
「うまい!さすが幸喜ちゃんだな」
「ありがとよ、雄三さん!」
雄三に褒められ、光輝は顔を赤くする。
「こうしているとまるで新婚みたいだな」
雄三に後ろから抱きしめられて、光輝はドキッとする。しかしすぐに雄三の体が震えていることに気が付いた。
(そうだ。雄三さんは、子供のころに飛び降りた俺が自殺をしようとしたんだって勘違いしてたんだ。……だから今回だって、俺がいなくなるんじゃないかって思って怖かったんじゃないかな……?)
光輝は自分を恥じた。解放されてからずっと、自分のことしか考えていなかった。自分がいなくなったら周りの人がどう思うのか。そんな簡単なことすら考えられなくなっていた。
「雄三さん。ごめんなさ……」
「光輝ちゃんが無事でよかったよ」
謝罪の言葉は雄三の笑顔に飲み込まれてしまう。そしてどちらからともなく唇を重ね合う。
「ぷはっ。雄三さん……俺……」
雄三とセックスがしたい。そんな欲望が光輝の中で膨れ上がる。だが、それを遮るように雄三が言う。
「光輝ちゃん。続きはまた夜にベッドの中で、ね?ちゃんとご飯を食べないと元気になれないぜ?」
「う、うん……」
光輝は欲求不満のまま、食事の準備を再開した。

***
「いただきまーす!」
「いっただきます!」
「はい、召し上がれ!」
二人は食卓につき、夕食を食べる。
「このカレーうめぇな!幸喜ちゃんは料理の才能もあるぜ」
「へへっ、ありがとう」
それから二人は黙々と食べ続ける。しばらくして雄三が口を開いた。
「なあ、光輝ちゃん」
「なんです?」
「光輝ちゃんはいつか自分の家に帰っちゃうのかな、って」
雄三の言葉を聞いて光輝は考える。光輝は一人でいるのが怖いから雄三の家に転がり込んでいるのだ。この生活は幸せだが、いつまでも甘えてはいられないだろう。
「迷惑……ですよね?やっぱり」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
罪悪感を見せる光輝に、雄三は。自分が本当に伝えたい言葉がなにかを考え。
「光輝ちゃん。不謹慎かもしれないが、光輝ちゃんが俺を一番に頼ってくれてうれしかった。夜寝るときに光輝ちゃんが隣にいてお休みを言える。朝起きた時におはようを言える。たわいのない話をしたり、プロレスの話をしたり。こうして一緒にご飯が食べられる。それは俺にとってなによりも幸せでかけがえのない時間なんだ。だからさ。光輝ちゃん。今光輝ちゃんが住んでいる家を解約して、ここに住み続けないか?もちろん、家賃は払うし、生活費とかは俺が出すからさ。……ダメかい?」
雄三の告白に光輝は驚く。まさか雄三がそこまで自分を必要としてくれているとは思わなかったからだ。
「雄三さん……」
「光輝ちゃんの気持ちを教えてほしい」
雄三は真剣な目で光輝を見つめる。光輝は雄三の目を見て、その思いに応えようと決意した。
「雄三さん。俺はここに住み続けたい。雄三さんの側に居たい。それが今の俺の正直な気持ちだよ」
「そうか。なら良かったよ」
雄三は安堵のため息をつく。
「でも、いいのかな?俺なんかのためにお金を使って。それに家事や洗濯とか全部任せちゃってるしさ……」
「大丈夫だ。金はあるからな。それに光輝ちゃんと一緒に暮らすために色々準備してきたんだ。遠慮はいらないよ。それにプロレスラーってのは料理も掃除も洗濯も、家事をいやって程やらされるからな。慣れてるんだよ」
「そっか……。それじゃあこれからもよろしくお願いします」
こうして二人の同居生活が始まった。
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