14 / 33
14話 波乱の入学式
しおりを挟む
今日は入学式。遂に、この日がやってきた。
私は制服に身を包んで、おかしな所がないか、お風呂場の横にある洗面台で確認していた。
この学校の制服は、女子男子関わらず黒いワイシャツ、黒のパンツ、金の刺繍が入った黒のハイソックス、フードが付いた明るめの灰色が特徴のローブだ。
差し色となっている赤いネクタイだけが存在を主張している。
「こんなもん、かな」
これでいいだろう、と少し笑顔を作ってみる。きっと上手くいく、そう願いを込める様に。
*
フォルトゥム国立魔法学校の講堂。
新入生が集められるそこに向かえば、もうすでに沢山の人で溢れかえっていた。
どこを見渡しても、私と同じ制服を身に纏った子供達と、その付き添いだろう大人が長椅子に腰かけている。
皆、少し興奮した様子だが、それも無理はないだろう。
これから入るのは魔法学校だ。
アロウが言うには、この魔法学校を無事に卒業できただけで将来は約束されたも同然らしい。
……ただ、卒業できる者は少数という話だが。
そんな事を考えながら、講堂の真ん中辺りの長椅子に座った時だった。壇上に柔らかな明かりが灯った。
わあ、とどこからともなく感嘆の声が漏れたのを聞きながら注目していると、壇上に現れたのはこの学校の校長であるフィデスだった。
彼女は微笑みを浮かべ、その口を開く。
「新入生の皆さま、フォルトゥム国立魔法学校へようこそ。そして、ご入学おめでとうございます。皆様は、先の入学試験を合格された、未来ある魔法使いの卵です。……さて、皆様のご様子を見ていれば分かります。きっと、魔法を使いたくて仕方がない、そのように思っている事でしょう。とすれば、魔法とはなんたるかを軽く説明して、年寄りの話は終わりとしましょう」
そこまで言うと、彼女は自分の白いローブのポケットから杖を取り出した。
遠巻きからでもわかる。白っぽくて、金に輝く宝石が埋め込まれた美しい杖だ。
「魔法使いを志す皆様ならもうお分かりでしょうが、魔法使いは杖を介して魔法を発動させます。魔法使いにとっての杖とは、生涯を共にする相棒。謂わば、自身の魂の片割れとも言えます。ここまで言えば、一流の魔法使いが自分の杖を大事にする理由が、皆様にはお分かりですね?……グロリアス」
ふわり、微笑んでフィデスが呪文と共に杖を振る。
振った杖の先から、キラキラとした光が溢れ出し、新入生の頭の上を走り抜けていく。
とても幻想的で、綺麗な魔法だ。
感動していたのは、どうやら私だけではなかったようだ。周りから興奮した様な声が上がっていた。
「呪文を唱え、魔力を込めて杖を振る。そうする事で、杖が私達の意思に応えて魔法を発動させます。この時に大切なのは、願いを込める事。それは即ち、魔法を使ってどうなって欲しいか、明確に想像する事が大切という事です。鮮明に思い浮かべない願いは叶わない。それを分かっている者だけが、一流の魔法使いになれるのです。……さあ、私の話はここまでにしましょう。皆様が無事に卒業できる様、心から願っております」
わっ、と歓声と拍手が上がった。
私もそれに合わせて拍手をするが、どうも周りと同じテンションにはなれない。
彼女が最後に言った台詞が、なんだか不穏だったからだ。
「……さて、次は新入生代表の挨拶です。レオ・レベリオ!壇上へ」
そう告げて、彼女は舞台から捌けた。
そして代わりに現れた新入生代表を見て、周りがざわめき始めた。
「レベリオって、レベリオ辺境伯の……?」
「ご子息が御入学なさるとは聞いていたが、あの方が……」
「見て、金髪よ!素敵!」
「王子様みたい……」
「かっこいい……」
「特待生らしいぜ、アイツ」
「マジかよ、すっげー……」
皆、口々に好きな事を言っている。
――これから挨拶するって言うのに、ちょっと失礼だな。そう呆れている時だった。
「――シクルスの花びらが舞い散る、今日。私達は、フォルトゥム国立魔法学校に入学いたします」
レオから発せられた、幼い子供特有の高い声。
しかし、子供とは思えないどこか威厳ある声に、周りは静まり返った。
「本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表して――」
まるで緊張なんて感じられない、それどころかまるで王族のスピーチを聞いているかの様な気持ちにさせる様な堂々とした挨拶だ。
先ほどまでとは打って変わって、周りは熱心に壇上の少年の言葉に耳を傾け始める。
かくいう私もその内の1人だ。これだけ大勢に見つめられてあんなに堂々としていられるなんて、レオはとても肝が据わっているらしい。
「――以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」
レオが美しい礼をして挨拶を終えた。
途端、会場の全員が熱心な拍手を彼に送った。
新入生代表になるくらいだ、とても優秀なのだろう。
その上、壇上でのあの態度。すごい子だ。
――あんな態度をされなければ、友達になりたかったんだけどな。
特待生試験の事を思い出して、私は溜息を吐いた。
*
入学式を終えた私達新入生は、学校の敷地内にある教会へと来ていた。
「皆さん、お静かに!」
現れたフィデスが、良く通る声で告げる。
それだけで、この場はしんと静まり返った。
「これからクラス分けをします。貴方方の担任が名前を読み上げますので、呼ばれた者は担任の前で整列するように」
言い終えたフィデスが一歩引く。
すると、数人の男女が私達新入生の前に並んだ。
最初に声を上げたのはその内の一人の女性だった。
白髪に金色の瞳を持った、儚げな美女だ。
珍しい色の髪色と目の色だが、そう思ったのは私だけではないらしい。前に出た彼女の姿に皆、驚いたような顔をしている。
生徒の名前が載った名簿だろうか、彼女は紙を手に持っていた。
「私はドクトリーナ・シンプシー。薬草学を担当しているわ。今から名前を呼ばれた子は、私の前に整列する事。……リリア!」
「あ、はい」
いきなり私が呼ばれて、少し驚きながらも歩き出す。
髪色と目の色のせいだろう、周りからの視線が突き刺さる。
「次。……フォルティア!」
「は、はいっ!」
次に呼ばれたのは、フォルティアだった。
彼女は笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「リリアちゃんが同じクラスなの、すっごく嬉しい!よろしくね!」
「私も!こちらこそ、よろしくね」
秘密話をするように小声で答えれば、彼女はくしゃくしゃな笑顔を浮かべた。
本当にかわいい子だ。癒しである。
フォルティアとの間に、のほほんとした空気が流れた時だった。
「ちょっと!」
「いたっ……え?」
急に強い力で掴まれた肩に振り返った。
そして、そこにいた人物に、私は目を見開く。
「なんで、ここに」
「それはこっちの台詞よ!なんでアンタがここにいるのよ!」
そこにいたのは、私が村中から嫌われる原因を作った少女――レーニスだった。
レーニスの大声に、周りは「なんだなんだ」とこちらに注目し始める。
――変に注目されたくない。とりあえず、落ち着かせよう。
そう思った私は、レーニスの手から逃れるように距離を取って向き合った。
「レーニスは、なんでここに?」
「そんなの、私に魔法の才能があるからに決まってるじゃない!……もしかして、アンタもとか言わないわよね?」
「あー……一応、魔法は使えるよ」
「ハァ!?スキルなしのアンタがそんな事できるわけないじゃない!」
「ちょっ、声大きい……!」
慌てて止めるも、それは遅かった。
大声で発せられた〝スキルなし〟という言葉が、この空間に響き渡る。
……部屋中はしんと静まり返った。
しかし、それはドッとした勢いでざわめきへと変わった。
「え、スキルなし?本当に?」
「うそぉ、そんな人がこの学校にいるの?」
「女神ドミナに愛されていない奴がいるなんて……」
「見た目から怪しいと思ってたんだよな」
突き刺すような視線が纏わりつく。
――どうしよう、バレてしまった。
焦りつつも、この状況を変えなければと頭を働かせる。
しかしこの状況を作った張本人であるレーニスは、そんな私の事などお構いなしに楽しそうに笑い始めた。
「あははっ!やっぱりスキルなしのアンタは、人から嫌われるのがお似合いよ!親を不幸にした疫病神なんだからねぇ!」
「っ……あのさぁ!」
〝いい加減にしてくれない?〟と、そう言うつもりだった。
しかし、それは一つの破裂音によって遮られた。
――パンッ!
「……え?」
「っ……いったぁ~い!なにすんのよ、この地味女!」
……フォルティアが、レーニスの頬を引っぱたいていた。
レーニスの頬には赤い痕がついていて、相当強い力で叩かれたのが分かる。
「アンタ、いきなり叩くなんて頭おかしいんじゃないの!?」
「……謝って」
「ハ?何?聞こえないんだけ――」
「リリアちゃんに、謝って!」
突然の怒声に、私とレーニスは肩を震わせた。
いつもと違う様子のフォルティアの顔は、怒りで真っ赤に染まっていた。
「……ハ、ハァ!?なんで私が謝らないといけないのよ!」
「リリアちゃんがスキルなしだからなんなの!?そんな事でしか人を判断できないの!?あー分かった!貴女、馬鹿なんでしょ!?」
「なんですって!?ブスのくせに私にたてつこうっての!?」
「ほらまた人を見た目で判断する!それも馬鹿のする事でーす!」
「この、クソ女っ……!」
「ちょっと、貴女達!何を騒いでいるの!」
突然始まった女同士の喧嘩に、私も周りもぽかんとしていた。
騒動を聞きつけたドクトリーナが二人を引き離している。
その様子を何もできずに見守っている私の胸がキュッと締め付けられた。
――私のためにこんなに怒ってくれた人は、アロウ以来だ。
「何があったの?」
「この子が私を叩いたんです!」
「だって、この子がリリアちゃんをスキルなしだからって馬鹿にするから!」
「あーはいはい、どちらも悪いです!二人共、後で職員室に来なさい」
ドクトリーナに叱られて、二人は「でも」「だって」を繰り返している。
しかし、「クラス分けの途中だから静かにしなさい」というドクトリーナの言葉に、二人は押し黙った。
どうやら喧嘩が終わったらしい。
その事に気付いて安堵の溜息を吐くと、レーニスが私の方へ振り返った。
怒りと憎しみが宿った瞳をこちらに向けている。
「……ふん、今度会ったらただじゃおかないんだから」
「え?あ、うん」
「……ムカつく」
――この台詞、リアルで言う奴いるんだ。
そんな妙な感動を覚えながらその背中を見送って、私はフォルティアの元へと駆け寄った。
「フォルティア!」
「あ、リリアちゃん。あの、ごめんね。あんな事しちゃって」
「何で謝るの?私、すごく嬉しかったよ。……人を叩いてまで怒ってくれた人、フォルティアが初めてだ」
なんでだろう、顔に熱が集まる。
こっ恥ずかしい気持ちになって、それを隠すように私は笑った。
そんな私を見てフォルティアは、私の体に手を回して、ぎゅっと抱き着いた。
「スキルがなくても、リリアちゃんが良い子だって私は知ってるから。だからあんな子の事なんて、私が吹っ飛ばしてあげる!」
「……うん、ありがとう」
なんだか少し、泣きそうになってしまった。
私は制服に身を包んで、おかしな所がないか、お風呂場の横にある洗面台で確認していた。
この学校の制服は、女子男子関わらず黒いワイシャツ、黒のパンツ、金の刺繍が入った黒のハイソックス、フードが付いた明るめの灰色が特徴のローブだ。
差し色となっている赤いネクタイだけが存在を主張している。
「こんなもん、かな」
これでいいだろう、と少し笑顔を作ってみる。きっと上手くいく、そう願いを込める様に。
*
フォルトゥム国立魔法学校の講堂。
新入生が集められるそこに向かえば、もうすでに沢山の人で溢れかえっていた。
どこを見渡しても、私と同じ制服を身に纏った子供達と、その付き添いだろう大人が長椅子に腰かけている。
皆、少し興奮した様子だが、それも無理はないだろう。
これから入るのは魔法学校だ。
アロウが言うには、この魔法学校を無事に卒業できただけで将来は約束されたも同然らしい。
……ただ、卒業できる者は少数という話だが。
そんな事を考えながら、講堂の真ん中辺りの長椅子に座った時だった。壇上に柔らかな明かりが灯った。
わあ、とどこからともなく感嘆の声が漏れたのを聞きながら注目していると、壇上に現れたのはこの学校の校長であるフィデスだった。
彼女は微笑みを浮かべ、その口を開く。
「新入生の皆さま、フォルトゥム国立魔法学校へようこそ。そして、ご入学おめでとうございます。皆様は、先の入学試験を合格された、未来ある魔法使いの卵です。……さて、皆様のご様子を見ていれば分かります。きっと、魔法を使いたくて仕方がない、そのように思っている事でしょう。とすれば、魔法とはなんたるかを軽く説明して、年寄りの話は終わりとしましょう」
そこまで言うと、彼女は自分の白いローブのポケットから杖を取り出した。
遠巻きからでもわかる。白っぽくて、金に輝く宝石が埋め込まれた美しい杖だ。
「魔法使いを志す皆様ならもうお分かりでしょうが、魔法使いは杖を介して魔法を発動させます。魔法使いにとっての杖とは、生涯を共にする相棒。謂わば、自身の魂の片割れとも言えます。ここまで言えば、一流の魔法使いが自分の杖を大事にする理由が、皆様にはお分かりですね?……グロリアス」
ふわり、微笑んでフィデスが呪文と共に杖を振る。
振った杖の先から、キラキラとした光が溢れ出し、新入生の頭の上を走り抜けていく。
とても幻想的で、綺麗な魔法だ。
感動していたのは、どうやら私だけではなかったようだ。周りから興奮した様な声が上がっていた。
「呪文を唱え、魔力を込めて杖を振る。そうする事で、杖が私達の意思に応えて魔法を発動させます。この時に大切なのは、願いを込める事。それは即ち、魔法を使ってどうなって欲しいか、明確に想像する事が大切という事です。鮮明に思い浮かべない願いは叶わない。それを分かっている者だけが、一流の魔法使いになれるのです。……さあ、私の話はここまでにしましょう。皆様が無事に卒業できる様、心から願っております」
わっ、と歓声と拍手が上がった。
私もそれに合わせて拍手をするが、どうも周りと同じテンションにはなれない。
彼女が最後に言った台詞が、なんだか不穏だったからだ。
「……さて、次は新入生代表の挨拶です。レオ・レベリオ!壇上へ」
そう告げて、彼女は舞台から捌けた。
そして代わりに現れた新入生代表を見て、周りがざわめき始めた。
「レベリオって、レベリオ辺境伯の……?」
「ご子息が御入学なさるとは聞いていたが、あの方が……」
「見て、金髪よ!素敵!」
「王子様みたい……」
「かっこいい……」
「特待生らしいぜ、アイツ」
「マジかよ、すっげー……」
皆、口々に好きな事を言っている。
――これから挨拶するって言うのに、ちょっと失礼だな。そう呆れている時だった。
「――シクルスの花びらが舞い散る、今日。私達は、フォルトゥム国立魔法学校に入学いたします」
レオから発せられた、幼い子供特有の高い声。
しかし、子供とは思えないどこか威厳ある声に、周りは静まり返った。
「本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表して――」
まるで緊張なんて感じられない、それどころかまるで王族のスピーチを聞いているかの様な気持ちにさせる様な堂々とした挨拶だ。
先ほどまでとは打って変わって、周りは熱心に壇上の少年の言葉に耳を傾け始める。
かくいう私もその内の1人だ。これだけ大勢に見つめられてあんなに堂々としていられるなんて、レオはとても肝が据わっているらしい。
「――以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」
レオが美しい礼をして挨拶を終えた。
途端、会場の全員が熱心な拍手を彼に送った。
新入生代表になるくらいだ、とても優秀なのだろう。
その上、壇上でのあの態度。すごい子だ。
――あんな態度をされなければ、友達になりたかったんだけどな。
特待生試験の事を思い出して、私は溜息を吐いた。
*
入学式を終えた私達新入生は、学校の敷地内にある教会へと来ていた。
「皆さん、お静かに!」
現れたフィデスが、良く通る声で告げる。
それだけで、この場はしんと静まり返った。
「これからクラス分けをします。貴方方の担任が名前を読み上げますので、呼ばれた者は担任の前で整列するように」
言い終えたフィデスが一歩引く。
すると、数人の男女が私達新入生の前に並んだ。
最初に声を上げたのはその内の一人の女性だった。
白髪に金色の瞳を持った、儚げな美女だ。
珍しい色の髪色と目の色だが、そう思ったのは私だけではないらしい。前に出た彼女の姿に皆、驚いたような顔をしている。
生徒の名前が載った名簿だろうか、彼女は紙を手に持っていた。
「私はドクトリーナ・シンプシー。薬草学を担当しているわ。今から名前を呼ばれた子は、私の前に整列する事。……リリア!」
「あ、はい」
いきなり私が呼ばれて、少し驚きながらも歩き出す。
髪色と目の色のせいだろう、周りからの視線が突き刺さる。
「次。……フォルティア!」
「は、はいっ!」
次に呼ばれたのは、フォルティアだった。
彼女は笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「リリアちゃんが同じクラスなの、すっごく嬉しい!よろしくね!」
「私も!こちらこそ、よろしくね」
秘密話をするように小声で答えれば、彼女はくしゃくしゃな笑顔を浮かべた。
本当にかわいい子だ。癒しである。
フォルティアとの間に、のほほんとした空気が流れた時だった。
「ちょっと!」
「いたっ……え?」
急に強い力で掴まれた肩に振り返った。
そして、そこにいた人物に、私は目を見開く。
「なんで、ここに」
「それはこっちの台詞よ!なんでアンタがここにいるのよ!」
そこにいたのは、私が村中から嫌われる原因を作った少女――レーニスだった。
レーニスの大声に、周りは「なんだなんだ」とこちらに注目し始める。
――変に注目されたくない。とりあえず、落ち着かせよう。
そう思った私は、レーニスの手から逃れるように距離を取って向き合った。
「レーニスは、なんでここに?」
「そんなの、私に魔法の才能があるからに決まってるじゃない!……もしかして、アンタもとか言わないわよね?」
「あー……一応、魔法は使えるよ」
「ハァ!?スキルなしのアンタがそんな事できるわけないじゃない!」
「ちょっ、声大きい……!」
慌てて止めるも、それは遅かった。
大声で発せられた〝スキルなし〟という言葉が、この空間に響き渡る。
……部屋中はしんと静まり返った。
しかし、それはドッとした勢いでざわめきへと変わった。
「え、スキルなし?本当に?」
「うそぉ、そんな人がこの学校にいるの?」
「女神ドミナに愛されていない奴がいるなんて……」
「見た目から怪しいと思ってたんだよな」
突き刺すような視線が纏わりつく。
――どうしよう、バレてしまった。
焦りつつも、この状況を変えなければと頭を働かせる。
しかしこの状況を作った張本人であるレーニスは、そんな私の事などお構いなしに楽しそうに笑い始めた。
「あははっ!やっぱりスキルなしのアンタは、人から嫌われるのがお似合いよ!親を不幸にした疫病神なんだからねぇ!」
「っ……あのさぁ!」
〝いい加減にしてくれない?〟と、そう言うつもりだった。
しかし、それは一つの破裂音によって遮られた。
――パンッ!
「……え?」
「っ……いったぁ~い!なにすんのよ、この地味女!」
……フォルティアが、レーニスの頬を引っぱたいていた。
レーニスの頬には赤い痕がついていて、相当強い力で叩かれたのが分かる。
「アンタ、いきなり叩くなんて頭おかしいんじゃないの!?」
「……謝って」
「ハ?何?聞こえないんだけ――」
「リリアちゃんに、謝って!」
突然の怒声に、私とレーニスは肩を震わせた。
いつもと違う様子のフォルティアの顔は、怒りで真っ赤に染まっていた。
「……ハ、ハァ!?なんで私が謝らないといけないのよ!」
「リリアちゃんがスキルなしだからなんなの!?そんな事でしか人を判断できないの!?あー分かった!貴女、馬鹿なんでしょ!?」
「なんですって!?ブスのくせに私にたてつこうっての!?」
「ほらまた人を見た目で判断する!それも馬鹿のする事でーす!」
「この、クソ女っ……!」
「ちょっと、貴女達!何を騒いでいるの!」
突然始まった女同士の喧嘩に、私も周りもぽかんとしていた。
騒動を聞きつけたドクトリーナが二人を引き離している。
その様子を何もできずに見守っている私の胸がキュッと締め付けられた。
――私のためにこんなに怒ってくれた人は、アロウ以来だ。
「何があったの?」
「この子が私を叩いたんです!」
「だって、この子がリリアちゃんをスキルなしだからって馬鹿にするから!」
「あーはいはい、どちらも悪いです!二人共、後で職員室に来なさい」
ドクトリーナに叱られて、二人は「でも」「だって」を繰り返している。
しかし、「クラス分けの途中だから静かにしなさい」というドクトリーナの言葉に、二人は押し黙った。
どうやら喧嘩が終わったらしい。
その事に気付いて安堵の溜息を吐くと、レーニスが私の方へ振り返った。
怒りと憎しみが宿った瞳をこちらに向けている。
「……ふん、今度会ったらただじゃおかないんだから」
「え?あ、うん」
「……ムカつく」
――この台詞、リアルで言う奴いるんだ。
そんな妙な感動を覚えながらその背中を見送って、私はフォルティアの元へと駆け寄った。
「フォルティア!」
「あ、リリアちゃん。あの、ごめんね。あんな事しちゃって」
「何で謝るの?私、すごく嬉しかったよ。……人を叩いてまで怒ってくれた人、フォルティアが初めてだ」
なんでだろう、顔に熱が集まる。
こっ恥ずかしい気持ちになって、それを隠すように私は笑った。
そんな私を見てフォルティアは、私の体に手を回して、ぎゅっと抱き着いた。
「スキルがなくても、リリアちゃんが良い子だって私は知ってるから。だからあんな子の事なんて、私が吹っ飛ばしてあげる!」
「……うん、ありがとう」
なんだか少し、泣きそうになってしまった。
15
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
分厚いメガネを外した令嬢は美人?
しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。
学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。
そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。
しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。
会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった?
この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。
一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる