固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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44 魔獣王

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 闘技場内に響いた声の主は一人の男だった。
 いや、一人と呼んでいいものなのかも怪しいだろう。
 何しろその者は獅子のような体に蛇の尻尾を持ち、毛皮に覆われた人型の上半身の先には狼の頭があったのだ。
 とても人とは言えぬ姿であった。
 
 しかしそれもそのはず。
 彼は五大魔将が一人、最強の獣である『魔獣王』なのだから。

「よいしょぉ……っと」

 空を飛んでいた魔獣王はズドンという音と共に闘技場に降り立ち、すぐさま魔人王の元へと向かうのだった。

「ッ!!」

 彼の放つ圧倒的な威圧感に本能的な恐怖を感じたレイナはすぐさま彼女の元から離れる。

「良い判断だ。お前では我には敵わんからな」

「……けもののおじちゃん?」

 魔人王は薄れゆく意識の中、目の前へとやってきた魔獣王を見るなりそう呟く。
 彼女は普段彼の事をそう呼んでいたのだ。
 五大魔将の中でも魔獣王は特に魔人王と行動を共にすることが多く、今となっては二人の関係は祖父と孫のようなそれになっていた。 

 そんな信頼している魔獣王が来たのだ。
 自然と彼女の顔はほころび、荒かった呼吸が少しずつ穏やかになっていく。

「ああ、そうだ。……どうやら、随分と大変な目に遭ったようだな」

「うん……いたくて、くるしい。けど、おじちゃんが来てくれたなら……もう安心」

 魔人王は今にも意識を失いそうな状態だったが、何とかその言葉を絞り出していた。

「そうかそうか。しかし……うむ、これは参ったな。魔人王は我が殺すつもりだったのだが」

「……え?」

 魔獣王のその言葉を聞いた途端、彼女の思考が止まる。

「なに、言ってるの……?」

 一瞬、魔人王は彼が何を言っているのか理解できなかった。
 なんなら聞き間違いだとすら思っていた。

 だが少しずつ、その言葉の意味を認識してしまう。
 聞き間違いではないのだと、自分自身の脳がそう判断してしまうのだ。

「あぁ、最悪な気分だ。丹念に関係を築き、心を開ききった所で惨たらしく殺してやるつもりであったというのに……」

「な、なんで……おじちゃん、どうしてそんなこと……」
 
「どうしてだと? それはお前自身が何よりわかっているのではないか? 弱者をいたぶり、その顔が絶望に染まっていく……そんな様子を見るのはお前だって好きなはずだ」

 魔獣王は一切の感情を感じられない声色で、淡々と、冷静に、そう語りかけた。
 その姿はもはや魔人王の記憶に残っている優しい魔獣王のそれではなく、冷酷にして残忍な五大魔将のそれであった。

「そんな……そんなはずないよ。だっておじちゃんは、つよくて、やさしくて……」
 
 彼女はてっきり魔獣王が自分の事を助けにきてくれたのだと思い、その表情を安堵のそれへと変えていたのだ。
 しかし無情にも全てを理解してしまった魔人王は、その表情を悲しみと恐怖のそれへと塗り替えて行くのだった。

「所詮はガキだな。この程度の嘘も見抜けぬ。この際だ、そのおじちゃんと言うのもやめてもらおう。ずっとずっと、その呼び方を鬱陶しく思っていた」

「……」
 
 結局のところ、魔獣王は己の欲望のためだけに彼女と親しくしていただけであった。
 その事実を知った魔人王はあまりにもショックが強すぎたのか、もはや泣くことすら出来ず放心している。

「はぁ、こんな状態で殺した所で何も面白くはない。この怒り、この悔しさ、全てはお前のせいである」

 そう言うと魔獣王はレイナの方へと向き直り、明確に殺気を放ち始めるのだった。
 しかしその表情は無そのものであり、おおよそ感情と言える物が無い。

「なんと自分勝手な……!」

 放心状態の魔人王と不気味な程に冷静な魔獣王を見比べながら、レイナは彼に向かってそう叫んだ。

「その通り、自分勝手である。それは誰よりも我が理解しているとも」

 そんなレイナの事などお構いなしに魔獣王は語り続ける。

「だが、もとより五大魔将とはそう言う者の集まりだ。冷酷にして残忍、そして自分勝手であらねばならぬ。そうでなければ最強の魔将など務まらん。……正直なところ、我はこの魔人王を五大魔将に加えるのは反対であった。無垢であることと残忍、冷酷であることは似て非なるもの。いくら魔法の才があろうと、所詮彼女は人の子なのだ」

「だから殺すつもりだったと言うの?」

「ああ、魔龍神王様もそのことについては干渉しないとおっしゃられた。故に、我が行わなければならなかったのだ。であればそこに我の趣味を加え入れようが何の問題もあるまい」

 魔獣王は感情の読めない声でそう言う。
 そんな彼に対してレイナは今にも飛び掛かろうとしていた。
  
「言いたいことはそれだけか?」

「そうだ。……このまま話し続けるのも無意味だな。そろそろ始めるとしよう」

 その瞬間、両者の間に濃密な殺意が溢れたのだった。
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