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40 突然始まった料理バトル
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「組織を潰して欲しいってのはまたどういう……」
「奴らが獣人のために滅茶苦茶なことをしてるってのは、そちらも知っているはずだ。そのために罪なき人々を巻き込んでいることもな。そんな状況に俺は耐えられなかったんだ。だから代表に直談判した訳なんだが……このザマだ」
「そうか。その大怪我もその時に負ったものってことなんだな。だがそんなことをして、よく生きて出られたな?」
反乱を起こした者、その中でも代表に直接牙をむいた者と来たら生きて返す必要も無いだろう。反乱を起こしたってのは俺たちを騙すための嘘で、これが罠である可能性は捨てきれねえな。
「それを信じろってのは少し無理がある」
「だろうな。だが事実だ。俺は何とか組織の拠点から逃げ出して、ここまでやって来た。アンタがいると言うこの国にな。そして伝えるべきことを伝えに来たんだ」
「伝えるべきこと……? 一体何だ」
「奴らは近い内にこの国を襲う気だ。温泉都市での一件が、アンタの対処を最優先する勢力に力を与えた。アンタの拠点であるここを落とせば、組織にとって有利になると考えたんだ」
……とうとうその時が来たか。いや、いつかはそうなるとは思っていた。俺もかなり派手に暴れてきたからな。この国を拠点としている事がバレている以上、そう遠くない内に攻めてくるとは考えていた。
「国王様の尋問魔法をかけている故、今の彼は嘘を言えないはずだ。彼の言葉自体に嘘偽りは無いとみて良いだろう。だが……」
「完璧に信じることは危険。そうだな?」
「まあそうだな。いきなり敵組織の幹部を名乗る者が現れても、その全てを信じられるわけが無いか。なら一つの助言として考えてくれれば良い。最終的な判断はそちらで決めてくれればそれで良い」
「そうか……なら少しこちらでも話し合おう」
ギルド長はそう言って、極水龍と俺を連れて国王のいる部屋へと向かった。その後四人で話し合った結果、彼の言う事は完全には信用できないもののこちらに直接の害も無いため、ひとまず念頭に置きつつ様子を見ることになった。
しかし彼の言葉が真実なら、奴らが攻め込んで来るのは確実だ。いつその時が来ても良いように、警戒しなきゃいけねえな。
――――――
「ノアさん、今日こそは決着を付けさせてもらいます」
「ああ、望むところだ」
リーシャとノアの二人が台所で睨み合っている。まるで喧嘩でも始まりそうな雰囲気だ。結局ノアは俺と暮らすことになったが、今こうして喧嘩になりかけている状況を見るとその判断は少し軽率だったかと思ってしまうな。
「どうしたんだ?」
「どちらがショータ様の胃袋を掴むのか、決着を付けなければならないのです」
「……うん?」
何だ、聞き間違いか? 一体どうしてそんなことを……。
「リーシャが言って聞かないんだ。自分の方がショータにふさわしいって」
「私の方が長く一緒にいるのですから当たり前です」
「期間はそうかもしれないけど、重要なのは中身だ。僕の方がショータふさわしいってのを今こそ見せつけてやる」
「どうしてそうなった。別にそんなこと決めなくても良いんじゃないか?」
「いえ、これは戦いなんです。絶対に負けられないんです!」
二人共闘志が凄まじい。何がどうなってやがんだ?
「今からどちらの料理の方が好みかを選んでいただきます。公平に、選んで下さいね」
……なんだか面倒くさいことになったような気がするな。
「私の勝ちは目に見えてますけどね」
「僕だって負けられない!」
二人はそれぞれに分かれて料理を作り始めた。リーシャの料理姿は見慣れているからまああれなんだが、問題はノアの方だ。滅茶苦茶手際が良い。料理が得意なイメージは無かったが、組織の末端で色々やっている間に身に着いたんだろうか。
そしてそのまま、あっという間に二人共料理を作り終えた。
「さあ、どうぞ召し上がってください」
「あ、ああ……」
「次は僕の方を」
「お、おお……」
二人の勢いに押され、ただ食べることしか許されなかった。妙なことを言えばその瞬間に……いや変な想像はよそう。
「どちらが美味しいでしょうか!」
「もちろん僕の方だよな!」
「いや、どちらも美味いんだが……それじゃあ駄目だよな」
穏便に済ませる……というのは駄目そうだ。下手に両方を勝者にしようとすれば俺の何かが失われる気がする。
「なら……リーシャの方が美味かったな。ノアの料理も美味かったが、何と言うか複数の人の好みの平均値を極めたというか、良くも悪くも無難な味といった印象だ。それに対してリーシャは俺にピンポイントで合わせた味付けになっている。長く一緒に暮らしているから当然なのかもしれないが……」
「そんな……」
「やはり私の方がショータ様にふさわしいのです」
「その、ふさわしいってのは何なんだ? ずっと気になってたが」
突然こんな料理バトルを始めたのもそれが原因だろう。
「……このままだとショータ様をノアさんに奪われてしまう気がして……」
「ああ、そういうことか」
いきなりやってきたノアに俺を奪われるかもしれないって思ったから、裏で色々とやっていたわけだな。どちらが俺にふさわしいのかを争って牽制し合っていたってことか。
「でも俺は別にどちらかだけのものって訳じゃ……」
「ショータ様がそう思っていても、私たちは心のどこかで気にしてしまうのです」
そういうもんなのか……そういうもんとして受け取って置こう。
「くっ……まだだ! まだ他の勝負がある!」
「ふふっどれだけ勝負をしても私の勝ちに変わりはありません!」
どうやらまだやるらしい。まあしばらく経てば収まるだろう。……収まるよな?
こうしてその日の勝負は幕を閉じ、夜を迎えた。放っておいても大丈夫なんじゃ無いかと思ったが、やっぱり一回話しておかないといけない気がしたため風呂に入っているノアに突撃することにした。
「ノア、一緒に入っても良いか?」
「うわぁぁっぁ!? だ、駄目に決まってるだろ!?」
「そう言うなって。色々と聞いておきたいこともあるし、男同士裸の付き合いで話し合おうぜ」
「男同士って……え? なっ何言ってんだアンタ!?」
あ、そうか。そう言えば俺が男だってことはまだ言っていなかったな。
「色々あって体は女になっているが、俺は男なんだ」
「え、それって……いやわかんねえ! 言ってることが理解できねえよ……」
「まあそういうことだから入るぞ」
「わ、わかった。……わかんねえけど」
一応体が見えないように隣同士で風呂に入った。ノアのあの反応だと多分意識しちまうだろうからな。
「それで、なんで突然風呂に入って来たんだよ」
「俺の事、話しておこうと思ってな」
「……そうか」
妙に気まずい空気だ。だがそれでもやらねばならない。
「さっきも言ったが、俺は男なんだ。何らかの理由で見た目は女になっちまってるけどな」
「理解は出来ないけど、アンタがそう言うんならそうなんだって思っておく。でも、そうか男か……」
「どうしたんだ?」
「僕、ショータのことが好きになってたんだ。殺そうとした僕を許してくれて、それだけじゃなく命も助けてくれて……それに女性としても……」
「……そうだったのか」
俺の体の女性としての魅力が高いのもあるだろうが、吊り橋効果とか言う奴も影響していそうだな。あの状況だと心臓もドッキドキだっただろう。変に勘違いが発生していてもおかしくは無い。
「でも男って知ったら、もう今までのままの気持ちではいられないよ」
「ノア……。もしかして、リーシャと戦っていたのもそれが理由だったのか?」
「うん。リーシャはショータのことを凄く想っている。それは僕でもわかった。だから彼女は敵だったんだけど……もう今は違うかな」
「ノアはそれで良いのか」
自然と口に出ていた。別に俺に少年を好む癖は無い。だが、ノアがこのまま自分の気持ちを抑え込んでしまうのも何か違うんじゃないかと思ってしまった。
「でもアンタ、男なんだろ……?」
「それはそうだ……だが、それで諦めても良いのか。俺の事が本気で好きなら、俺を本気で落として見せろ!」
我ながらかなり滅茶苦茶なことを言っていると思う。だが、それを聞いてノアは少し明るい表情になった。どうやら彼の中のモヤモヤは消えたようだ。
「ああ、わかった。ならいつかアンタを落として見せるよ。そして僕の物にしてやる!」
これで良かったのかはわからないが、一応良い方向には動いたのかね。いや、何と言うかとんでもないことを言ってしまった気がする。……ま、まあ未来の事は未来の俺に任せようじゃねえか。
「奴らが獣人のために滅茶苦茶なことをしてるってのは、そちらも知っているはずだ。そのために罪なき人々を巻き込んでいることもな。そんな状況に俺は耐えられなかったんだ。だから代表に直談判した訳なんだが……このザマだ」
「そうか。その大怪我もその時に負ったものってことなんだな。だがそんなことをして、よく生きて出られたな?」
反乱を起こした者、その中でも代表に直接牙をむいた者と来たら生きて返す必要も無いだろう。反乱を起こしたってのは俺たちを騙すための嘘で、これが罠である可能性は捨てきれねえな。
「それを信じろってのは少し無理がある」
「だろうな。だが事実だ。俺は何とか組織の拠点から逃げ出して、ここまでやって来た。アンタがいると言うこの国にな。そして伝えるべきことを伝えに来たんだ」
「伝えるべきこと……? 一体何だ」
「奴らは近い内にこの国を襲う気だ。温泉都市での一件が、アンタの対処を最優先する勢力に力を与えた。アンタの拠点であるここを落とせば、組織にとって有利になると考えたんだ」
……とうとうその時が来たか。いや、いつかはそうなるとは思っていた。俺もかなり派手に暴れてきたからな。この国を拠点としている事がバレている以上、そう遠くない内に攻めてくるとは考えていた。
「国王様の尋問魔法をかけている故、今の彼は嘘を言えないはずだ。彼の言葉自体に嘘偽りは無いとみて良いだろう。だが……」
「完璧に信じることは危険。そうだな?」
「まあそうだな。いきなり敵組織の幹部を名乗る者が現れても、その全てを信じられるわけが無いか。なら一つの助言として考えてくれれば良い。最終的な判断はそちらで決めてくれればそれで良い」
「そうか……なら少しこちらでも話し合おう」
ギルド長はそう言って、極水龍と俺を連れて国王のいる部屋へと向かった。その後四人で話し合った結果、彼の言う事は完全には信用できないもののこちらに直接の害も無いため、ひとまず念頭に置きつつ様子を見ることになった。
しかし彼の言葉が真実なら、奴らが攻め込んで来るのは確実だ。いつその時が来ても良いように、警戒しなきゃいけねえな。
――――――
「ノアさん、今日こそは決着を付けさせてもらいます」
「ああ、望むところだ」
リーシャとノアの二人が台所で睨み合っている。まるで喧嘩でも始まりそうな雰囲気だ。結局ノアは俺と暮らすことになったが、今こうして喧嘩になりかけている状況を見るとその判断は少し軽率だったかと思ってしまうな。
「どうしたんだ?」
「どちらがショータ様の胃袋を掴むのか、決着を付けなければならないのです」
「……うん?」
何だ、聞き間違いか? 一体どうしてそんなことを……。
「リーシャが言って聞かないんだ。自分の方がショータにふさわしいって」
「私の方が長く一緒にいるのですから当たり前です」
「期間はそうかもしれないけど、重要なのは中身だ。僕の方がショータふさわしいってのを今こそ見せつけてやる」
「どうしてそうなった。別にそんなこと決めなくても良いんじゃないか?」
「いえ、これは戦いなんです。絶対に負けられないんです!」
二人共闘志が凄まじい。何がどうなってやがんだ?
「今からどちらの料理の方が好みかを選んでいただきます。公平に、選んで下さいね」
……なんだか面倒くさいことになったような気がするな。
「私の勝ちは目に見えてますけどね」
「僕だって負けられない!」
二人はそれぞれに分かれて料理を作り始めた。リーシャの料理姿は見慣れているからまああれなんだが、問題はノアの方だ。滅茶苦茶手際が良い。料理が得意なイメージは無かったが、組織の末端で色々やっている間に身に着いたんだろうか。
そしてそのまま、あっという間に二人共料理を作り終えた。
「さあ、どうぞ召し上がってください」
「あ、ああ……」
「次は僕の方を」
「お、おお……」
二人の勢いに押され、ただ食べることしか許されなかった。妙なことを言えばその瞬間に……いや変な想像はよそう。
「どちらが美味しいでしょうか!」
「もちろん僕の方だよな!」
「いや、どちらも美味いんだが……それじゃあ駄目だよな」
穏便に済ませる……というのは駄目そうだ。下手に両方を勝者にしようとすれば俺の何かが失われる気がする。
「なら……リーシャの方が美味かったな。ノアの料理も美味かったが、何と言うか複数の人の好みの平均値を極めたというか、良くも悪くも無難な味といった印象だ。それに対してリーシャは俺にピンポイントで合わせた味付けになっている。長く一緒に暮らしているから当然なのかもしれないが……」
「そんな……」
「やはり私の方がショータ様にふさわしいのです」
「その、ふさわしいってのは何なんだ? ずっと気になってたが」
突然こんな料理バトルを始めたのもそれが原因だろう。
「……このままだとショータ様をノアさんに奪われてしまう気がして……」
「ああ、そういうことか」
いきなりやってきたノアに俺を奪われるかもしれないって思ったから、裏で色々とやっていたわけだな。どちらが俺にふさわしいのかを争って牽制し合っていたってことか。
「でも俺は別にどちらかだけのものって訳じゃ……」
「ショータ様がそう思っていても、私たちは心のどこかで気にしてしまうのです」
そういうもんなのか……そういうもんとして受け取って置こう。
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「ふふっどれだけ勝負をしても私の勝ちに変わりはありません!」
どうやらまだやるらしい。まあしばらく経てば収まるだろう。……収まるよな?
こうしてその日の勝負は幕を閉じ、夜を迎えた。放っておいても大丈夫なんじゃ無いかと思ったが、やっぱり一回話しておかないといけない気がしたため風呂に入っているノアに突撃することにした。
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「うわぁぁっぁ!? だ、駄目に決まってるだろ!?」
「そう言うなって。色々と聞いておきたいこともあるし、男同士裸の付き合いで話し合おうぜ」
「男同士って……え? なっ何言ってんだアンタ!?」
あ、そうか。そう言えば俺が男だってことはまだ言っていなかったな。
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「え、それって……いやわかんねえ! 言ってることが理解できねえよ……」
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一応体が見えないように隣同士で風呂に入った。ノアのあの反応だと多分意識しちまうだろうからな。
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「……そうか」
妙に気まずい空気だ。だがそれでもやらねばならない。
「さっきも言ったが、俺は男なんだ。何らかの理由で見た目は女になっちまってるけどな」
「理解は出来ないけど、アンタがそう言うんならそうなんだって思っておく。でも、そうか男か……」
「どうしたんだ?」
「僕、ショータのことが好きになってたんだ。殺そうとした僕を許してくれて、それだけじゃなく命も助けてくれて……それに女性としても……」
「……そうだったのか」
俺の体の女性としての魅力が高いのもあるだろうが、吊り橋効果とか言う奴も影響していそうだな。あの状況だと心臓もドッキドキだっただろう。変に勘違いが発生していてもおかしくは無い。
「でも男って知ったら、もう今までのままの気持ちではいられないよ」
「ノア……。もしかして、リーシャと戦っていたのもそれが理由だったのか?」
「うん。リーシャはショータのことを凄く想っている。それは僕でもわかった。だから彼女は敵だったんだけど……もう今は違うかな」
「ノアはそれで良いのか」
自然と口に出ていた。別に俺に少年を好む癖は無い。だが、ノアがこのまま自分の気持ちを抑え込んでしまうのも何か違うんじゃないかと思ってしまった。
「でもアンタ、男なんだろ……?」
「それはそうだ……だが、それで諦めても良いのか。俺の事が本気で好きなら、俺を本気で落として見せろ!」
我ながらかなり滅茶苦茶なことを言っていると思う。だが、それを聞いてノアは少し明るい表情になった。どうやら彼の中のモヤモヤは消えたようだ。
「ああ、わかった。ならいつかアンタを落として見せるよ。そして僕の物にしてやる!」
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