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56 戦いの終わり
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「……まさかここまで追い詰めるとはな。やはり君はさっさと処理するべきだったか」
目の前にいる死にかけの獣人が組織の親玉だってのは記憶で分かっている。王国周辺の魔物も大体片付いているし、後はコイツさえ処理すれば俺たちの勝ちだ。
「待ってくれ!」
親玉にとどめを刺そうとした時、以前王国に情報を持ってきた獣人の男がやってきた。
「……代表、この戦いに意味はあったのか。得られたものはあったのか」
「君はあの時の……そうか生きていたのか。得られたものか……そんなものは無かった。勝てなければ意味は無いのだ。まさか野望のために招き入れた者に野望のために裏切られるとはな」
「……あなたは間違っていた。だが、獣人への思いは本物だった。……後は俺に任せてくれ」
男は持っていた剣で親玉の首を刎ねた。
「……良かったのか?」
「ああ。そりゃ改心してくれるのならその方が良かった。だが、もう戻れない所まで来てしまっている。何より、彼は何があってもその思いを変えることは無かっただろう」
「……そうか」
親玉を倒し、攻めて来ていた他の獣人たちも次第に無力化されていった。王国を巻き込む戦いはこうして幕を閉じた。
――――――
「あれから上手いこと行っているみたいだな」
「ショータか。ああ、難しい部分はあるが、それなりには上手くいっているよ。あの頃は代表がいなくなって組織も崩壊状態だった。ただ幸いにも過激な思想を持っているのは半分くらいで、もう半分は純粋に獣人の立場の向上を願う者たちだったからな。こうしていい方向に組織を再建できているのは王国のおかげだ。もちろんショータのおかげでもあるがな」
組織はもう前までの過激な物では無くなっていた。彼が新しくリーダーになったことで、正しい方法で獣人の権利を向上させていく組織へと変わっている。この分ならきっといつか、簡単な道筋では無いかもしれ無いが、成し遂げることが出来るだろう。
「俺はもう行く。そうだ、何か国王様に伝えて欲しいこととかあるか?」
「それなら獣王国との連絡手段が欲しいと伝えてくれないか」
「わかった。じゃあな」
王国の端にある組織の拠点から国王のいる城まで飛んで行く。根源龍の能力上昇のおかげで、獣宿しをせずとも楽々飛んで行けるのはありがたい限りだ。
城に着くなり国王にさっきのことを伝えたが、既に連絡手段となる通信機が用意してあると伝えられた。どうやらそろそろ必要になるだろうと読んで事前に準備していたらしい。ということで今度はこの通信機を拠点と獣王国に渡す必要が出て来たわけだが……もちろん俺の役目のようだ。まあ今この国で一番早く動けるのが俺だからな。
「獣王国はあっちだったか」
獣王国の方角へと飛ぶ。ものの数秒程で、何の問題も無く獣王国へとたどり着いた。とりあえずこの国にある組織の拠点と後は国王だったな。
そんなわけで城に向かったのだが、そこで王をしていたのはまさかのアルフィーだった。
「……アルフィー?」
「ショータか! 久しぶりだな!」
「なんでアンタが王をやっているんだ……?」
以前別れた時はそんな素振りは一切無かったはずだ。
「俺も本意じゃないんだが、貴族連中が全員過激派とズルズルだったのでな。完全に一から変えないといけないってことになったんだが、その時リーダーとして動いていた俺が選ばれちまったんだ」
「そういうことか……ま、頑張れよな」
「久しぶりに会ったってのに中々手厳しいじゃねえか。だとしても、こうして会えたのは嬉しいぜ」
「おっと」
アルフィーはどさくさに紛れて耳を触ろうとしてきやがった。生憎もうその手は通用しない。
「やっぱり気づいちまったか」
「気づくさ。まあその何だ。獣王国も良い国になっているじゃねえか。頑張ってくれよ、獣王様」
「獣王様はやめてくれって。アルフィーのままで良い」
「ははっ。それじゃあな、アルフィー」
「ああ、王国の方は任せたぞ」
城を去り、王国へ向かって飛ぶ。獣王国もアイツが引っ張っていくなら大丈夫だろう。
王国へ戻り国王に通信機を送り届けたことを伝えた後、家へ帰った。記憶では何度も壊されてしまった。それでも何度もやり直して、やっと守り切ることが出来た家だ。そして思い出の眠る大事な場所でもある。
「おかえり、ショータ」
「おかえりなさいショータ様」
二人が俺を出迎える。ノアもリーシャもエプロンをしているってことはまた謎の料理バトルをしていたのか。思い返してみると、こうして賑やかで穏やかな日々は久しぶりだな。
……未だ元の世界に戻る方法はわからない。仮に戻れたとしても、そうなったらこの二人はどうなる? 俺はこの世界に大事な物を作りすぎたのかもしれないな。まあ、それはそれで良いさ。もうここは俺にとって第二の故郷なんだ。それに根源龍の力のおかげで精神の異常性も無くなった。やっと男用の服も錬成出来るようになった。もう俺が俺でなくなる心配も無い。組織も深淵龍も倒し、何度も何度もやり直して来た遼遠なる過去からの戦いは終わったんだ。
ここからは未知数の未来が待っている。そしてそこにはこの家が、この国が、この二人がいる。
「ただいま」
一言そう言って、家の中へと入った。
遼遠の獣宿し 完
目の前にいる死にかけの獣人が組織の親玉だってのは記憶で分かっている。王国周辺の魔物も大体片付いているし、後はコイツさえ処理すれば俺たちの勝ちだ。
「待ってくれ!」
親玉にとどめを刺そうとした時、以前王国に情報を持ってきた獣人の男がやってきた。
「……代表、この戦いに意味はあったのか。得られたものはあったのか」
「君はあの時の……そうか生きていたのか。得られたものか……そんなものは無かった。勝てなければ意味は無いのだ。まさか野望のために招き入れた者に野望のために裏切られるとはな」
「……あなたは間違っていた。だが、獣人への思いは本物だった。……後は俺に任せてくれ」
男は持っていた剣で親玉の首を刎ねた。
「……良かったのか?」
「ああ。そりゃ改心してくれるのならその方が良かった。だが、もう戻れない所まで来てしまっている。何より、彼は何があってもその思いを変えることは無かっただろう」
「……そうか」
親玉を倒し、攻めて来ていた他の獣人たちも次第に無力化されていった。王国を巻き込む戦いはこうして幕を閉じた。
――――――
「あれから上手いこと行っているみたいだな」
「ショータか。ああ、難しい部分はあるが、それなりには上手くいっているよ。あの頃は代表がいなくなって組織も崩壊状態だった。ただ幸いにも過激な思想を持っているのは半分くらいで、もう半分は純粋に獣人の立場の向上を願う者たちだったからな。こうしていい方向に組織を再建できているのは王国のおかげだ。もちろんショータのおかげでもあるがな」
組織はもう前までの過激な物では無くなっていた。彼が新しくリーダーになったことで、正しい方法で獣人の権利を向上させていく組織へと変わっている。この分ならきっといつか、簡単な道筋では無いかもしれ無いが、成し遂げることが出来るだろう。
「俺はもう行く。そうだ、何か国王様に伝えて欲しいこととかあるか?」
「それなら獣王国との連絡手段が欲しいと伝えてくれないか」
「わかった。じゃあな」
王国の端にある組織の拠点から国王のいる城まで飛んで行く。根源龍の能力上昇のおかげで、獣宿しをせずとも楽々飛んで行けるのはありがたい限りだ。
城に着くなり国王にさっきのことを伝えたが、既に連絡手段となる通信機が用意してあると伝えられた。どうやらそろそろ必要になるだろうと読んで事前に準備していたらしい。ということで今度はこの通信機を拠点と獣王国に渡す必要が出て来たわけだが……もちろん俺の役目のようだ。まあ今この国で一番早く動けるのが俺だからな。
「獣王国はあっちだったか」
獣王国の方角へと飛ぶ。ものの数秒程で、何の問題も無く獣王国へとたどり着いた。とりあえずこの国にある組織の拠点と後は国王だったな。
そんなわけで城に向かったのだが、そこで王をしていたのはまさかのアルフィーだった。
「……アルフィー?」
「ショータか! 久しぶりだな!」
「なんでアンタが王をやっているんだ……?」
以前別れた時はそんな素振りは一切無かったはずだ。
「俺も本意じゃないんだが、貴族連中が全員過激派とズルズルだったのでな。完全に一から変えないといけないってことになったんだが、その時リーダーとして動いていた俺が選ばれちまったんだ」
「そういうことか……ま、頑張れよな」
「久しぶりに会ったってのに中々手厳しいじゃねえか。だとしても、こうして会えたのは嬉しいぜ」
「おっと」
アルフィーはどさくさに紛れて耳を触ろうとしてきやがった。生憎もうその手は通用しない。
「やっぱり気づいちまったか」
「気づくさ。まあその何だ。獣王国も良い国になっているじゃねえか。頑張ってくれよ、獣王様」
「獣王様はやめてくれって。アルフィーのままで良い」
「ははっ。それじゃあな、アルフィー」
「ああ、王国の方は任せたぞ」
城を去り、王国へ向かって飛ぶ。獣王国もアイツが引っ張っていくなら大丈夫だろう。
王国へ戻り国王に通信機を送り届けたことを伝えた後、家へ帰った。記憶では何度も壊されてしまった。それでも何度もやり直して、やっと守り切ることが出来た家だ。そして思い出の眠る大事な場所でもある。
「おかえり、ショータ」
「おかえりなさいショータ様」
二人が俺を出迎える。ノアもリーシャもエプロンをしているってことはまた謎の料理バトルをしていたのか。思い返してみると、こうして賑やかで穏やかな日々は久しぶりだな。
……未だ元の世界に戻る方法はわからない。仮に戻れたとしても、そうなったらこの二人はどうなる? 俺はこの世界に大事な物を作りすぎたのかもしれないな。まあ、それはそれで良いさ。もうここは俺にとって第二の故郷なんだ。それに根源龍の力のおかげで精神の異常性も無くなった。やっと男用の服も錬成出来るようになった。もう俺が俺でなくなる心配も無い。組織も深淵龍も倒し、何度も何度もやり直して来た遼遠なる過去からの戦いは終わったんだ。
ここからは未知数の未来が待っている。そしてそこにはこの家が、この国が、この二人がいる。
「ただいま」
一言そう言って、家の中へと入った。
遼遠の獣宿し 完
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