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EP2 神の使い

20 本番はここから

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 いつもと同じ朝が来るはずだった。
 とてつもない轟音と大地を揺るがす振動に目が覚めた我は、着のみ着のまま部屋の外に飛び出した。

「何事だ!?」

 探知魔法を使い確認した結果、ひとまず魔族領の結界内でのことではないことに安堵する。だが結界を通してもこれだけ衝撃が伝わって来ると言うことは、相当な何かが外で起こったということである。

 我はいてもたってもいられなくなりそのまま確認に向かった。




「なんだ……アイツは……?」

 結界の外には、他の神の使いと同じ殺意を放つ存在がいた。
 だが、今での神の使いとは見た目が違う。謎の肉塊のような見た目とは似ても似つかない純白の肢体。そして胴体部分は黄色がかった宝石で構成されており、一目でそれが『美しいもの』だとわかった。

「おや、あなたが魔王ですか」

「そういう貴様は、神の使いであるな?」

「いかにも。私はシータ……変異を促す者でございます」

 シータと名乗った神の使いは礼儀正しくお辞儀をする。その所作からも、今までとは確実に何かが違うのだと感じられた。

「他のヤツらとは随分違うんだな貴様は」

「その通りでございます。私以下の輩など所詮は試作品。私からが本当の神の使いであるが故、今までのように簡単に倒れるなどとは思わないでいただきたい」

 シータは威圧感を露わにし、我を睨んだ。

「なるほど……今まで神の使いは本気ではなかったということか」

「左様……。では伝えるべきことも伝え終わりましたので……早速魔王には死んでいただきましょう」

 シータはこちらに向かって飛んでくる。今までのヤツらに比べると遥かに速い。だが、それでも我の敵ではない……!
 我はシータの攻撃を寸前で避け、高出力レーザーカッターで片足を斬り落とす。

「……おやおや、これは失敬。少しあなたのことを舐めていたようです」

「舐めていた、だと?」

 シータは足を再生し、再度こちらに飛んだ。しかしその速さは先ほどの比では無く、気付いた時には目の前にまで近づかれていた。
 心臓に向けて放たれた刺突をなんとか紙一重で避けるが、致命傷を防ぐことは出来たものの出血を伴う傷を負ってしまった。

 シータは攻撃の手を緩めることなく、刺突を繰り返す。しなやかな肢体から放たれる刺突はどれも速く正確に我の心臓を狙う。
 ギリギリで避けることは出来ているが、それでも傷は増えていく。このままではいつか体力が尽きてしまうだろう。

「少し本気を出した程度でこれですか。やはり今の魔王は能力が低いですね」

「ぐっ……何を言うかと思えば、我の能力が低いだと……!?」

「ええ。まあ、先代魔王程では無いですが」

「貴様、それはどういう……」

「おっと、口が滑りました。あなたには必要のない情報です」

 シータは先代魔王について何か知っている。だが、それを聞き出せるような余裕は我には無い。
 残念だが、耐えることで手一杯なのだ。

「っ……!!」

 出血が多すぎたためかとうとう足に力が入らなくなる。その隙を見逃すほどシータはお人好しでは無かった。

「ここまでのようですね」

 シータの刺突が我の命を屠ろうと肉薄する。その時、やはり来てくれた。私のヒーロー……そして愛する人。

「やれやれ、起こしてくれよディアベル……」

「すまないなアリサ。普段と違う状況に、冷静では無かったんだ」

 アリサはシータの刺突を人差し指の腹で軽々と抑え、空いている手で我を抱きとめた。

「ったく……そんな無茶するくらいなら私に頼ってくれ」

「私の攻撃をった指一本で抑えるとは……面白い。実に面白いですよあなたは」

「あ? うるせえよお前は黙って……!?」

 アリサはシータの攻撃を完全に受け止めた。少なくとも我にはそのように見えた。 
 だが、アリサの指の腹は出血していた。今まではどんな攻撃であっても傷が付くことが無かったアリサが、出血しているのである。

「アンタ……強いな」

「そういうあなたも、変異を使った私の攻撃をその程度で抑えるとは大したものです」

「変異?」

「私は変異の権能を持っていますので、相手に合わせて自らの力を文字通り変異させることが可能なのです。まあ、あなたの力が強すぎたために出血させる程度の威力しか出せませんでしたがね」

 シータはアリサから離れ、自らに付着したアリサの血を舐めた。
 その顔はさぞ美味しいものでも食したかのように甘美なものであった。

「な……気持ちわりぃ!!」

「中々に美味、流石は勇者でございます。そしてあなたは歴代勇者の中でも恐らく一、ニを争う実力者かとお見受けいたします。どうやら私程度では勝てないようですので、大人しく自害いたしましょう」

「なんだと?」

「役割を果たせなかった神の使いに居場所はありませんので……それではごきげんよう」

 シータはそう言い、自ら爆発四散した。明らかに他の神の使いと違う存在であったが、それでも絶命時に宝石を落とすのは同じであった。
 
「アリサよ。おかげで助かったぞ」

「何言ってんだよ。アンタは私の大事なパートナーだぜ」

 抱きかかえられたまま、その言葉を聞いて頬が熱くなるのを感じる。きっと今の我の顔は炎魔法よりも赤くなっておるのかもしれない。

「そ、それでだなアリサ……ヤツには変異の権能があると言っていたな」

「ああ。恐らくこれから来るヤツも、何かしらの権能を持っているんだろうな」

 きっとこれからの戦いは今まで以上に大変なものになっていく。我々は覚悟を決めなければならないのだ。

「ところで良いか……?」

「……なんだ?」

 アリサは少し目を反らし、頬を赤くしながら疑問を投げかけてきた。

「ディアベルさ……寝巻のまま戦ってたせいで、色々見えそうなんだよ……」

 そう言われ我は自分の姿を見た。戦闘用のものでは無い寝巻に攻撃を防ぐ強度などあるはずも無く、シータの度重なる刺突攻撃によって穴だらけとなっていた。 
 当然、色々なところが見えそうになっている。むしろ全裸にならなかったのが奇跡な程だ。

「な……み、見るな……!」

「すまんアリサ……」

 命をかけた戦いの後だと言うのに、我とアリサはとにかくこの気まずい状況をどうにかしたいという気持ちでいっぱいであった。
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