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第三章

第二話 地下空間

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 くそう。まさかこんな展開になるとは思わなかったな。

 道中にいたゴブリンの群れを、マヤノが複数の魔法を組み合わせて液状化現象を生み出し、地面を陥没させた。そこまでは良かった。だが、地面の下は地下空間になっており、底が抜けて穴が空いてしまい、その穴も広がって俺たちまで巻き込まれてしまった。

 重力に引っ張られ、降下をし続ける。

 下の地面に視線を向けると、先に落下したゴブリンたちが血を流して、絶命しているのが見える。

 どうやら高さがかなりあるみたいだな。このままでは俺たちも、ゴブリンと同じ道を辿ることになる。

 ゴブリンの死体をクッション代わりにするか? いや、これだけ高さがあるんだ。ゴブリン程度の肉厚では、クッションの役割すら果たせないだろう。

 何か方法がないか? きっと何か方法があるはずだ。

 思考を巡らせていると、脳裏にマヤノの記憶が映り出す。





「えーん、高いよぉ! 降りられないよぉ!」

 幼い頃のマヤノが、高い木の上で降りられなくなっている。彼女の腕には子猫がいることから、きっと子猫を助けようとして木に登り、降りられなくなっているのだろうな。

「大丈夫だ。飛び降りろ!」

「パパ! ど、どこなの?」

 マヤノが父親の声を聞き取り、辺りを見渡す。

 下方からマヤノの父親の声が聞こえる。だけどかなり小さいな。耳を澄まさないと聞き逃しそうだ。

 辺りを見渡しても父親がいないことを知ったマヤノは、最後に下に視線を向ける。

「パパ!」

 父親の姿を発見したマヤノは顔が綻び、一瞬笑みを浮かべるも、直ぐに顔を引き攣らせて顔色を悪くした。

 それもそうだろう。何せ彼女がいるのは、崖の上に生えている木の上なのだから。

「大丈夫だ! マヤノなら飛び降りられる」

「む、無理だよ。マヤノにはママみたいに羽を出すことができないもん!」

 父親の要求に従うことはできない。そう言って幼いマヤノは尻込みをする」

「安心しろ! パパが受け止めてあげるから!」

「無理だよ、怖いよ。えーん」

 とうとう泣き始めるマヤノだったが、不運とは時にして連続で起きるものだ。彼女が乗っている木の枝の耐久力がなくなったようで、枝が折れてしまった。

「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「マヤノ! ストロングウインド!」

 子猫を抱き抱えたまま悲鳴を上げ、真っ逆さまに落下をする娘を見て、父親は魔法を発動する。魔法により、どこからか強風が吹くと、幼いマヤノの真下に移動した。すると彼女の落下はゆっくりとなり、その間に父親が真下に移動をすると娘をキャッチする。

「パ、パパ」

「マヤノ、ケガはないか?」

「う、うん。でも、怖かった。うえーん!」

 助かったことで安心して気が緩んだのか、マヤノは声を上げて再び泣き出す。

 それからどれくらい時間が経ったのかは分からない。マヤノは父親に抱き抱えられたまま、どこかに移動していた。

「ねぇ、パパ? あの魔法は何? どうしてマヤノの落下が遅くなったの?」

「あれか? あれは強風を生み出す魔法だよ。風と言うのは、気圧に差が生まれると、気圧の高いほうから低いほうへ空気が押し出されて動く。これによって風が吹き出すんだ。だから周辺の空気の密度を重くして、マヤノ落下位置の空気の密度が軽くした」

「風の発生する原理は、この前パパから学んだから知っているよ。どうして風がマヤノの落下を遅くさせることができたの? だってマヤノだって、気圧を操って風を生み出すことができるくらい弱いのに?」

 幼いマヤノが手を前後に動かす。すると風が発生して父親の前髪が動く。

「この話しはまだしていなかったが、一段階上になると、風と言うのはとても力持ちになるんだ。直射日光によって地表面が暖められると、上昇気流が発生する。これが下から上に移動する力を持っている。だから下から上へと風が動くことで浮力が発生し、結果、羽がゆっくりと落下するような状態にさせたと言う訳だ。塵旋風ダストデビルと言う魔法になると、大人を上空に吹き飛ばすこともできてしまう」

「そ、そうなんだ。風さんバカにしてごめんなさい」

 幼い子どもらしく謝るマヤノに、可愛らしさを感じる。





 そうか。風の魔法を使えば、地面に激突することなく、ゆっくりと着地することができる。

 顔を上げると、空いた穴から丁度太陽が見えた。

 これなら上手く行くかもしれない。一か八かの賭けになるが、やってみる価値はある。最悪、瞬時に肉体強化の魔法を使えば落下による即死は免れるかもしれない。

「ストロングウインド」

 魔法を発動して強風を生む。すると上手く上昇気流が発生して浮力が生まれたようで、俺たちの落下速度は次第にゆっくりとなった。

 ゆっくりと下降し、最後はゴブリンの死体の上に降り立つ。

 本当は地面の上に降り立ちたかったが、こればかりは仕方がない。

 顔を上げて次に降りてくるマヤノたちを見る。だが、直ぐに顔を背けた。

 彼女たちの履いているスカートが浮力によって広がり、生足とパンツが丸見えの状態になっていたのだ。

 なるべく視界に入れないように気をつけつつ、最初にマヤノの手を握ると、ゴブリンが倒れていない地面に立たせる。そして続いてサクラも同様に手を握ると、地面に立たせた。

「ありがとう、フリードちゃん」

「ありがとうございます。フリードさん」

「別にこれくらいお安い御用だ。それよりも、地上へと続く道を探さないといけないな」

 周囲を見渡し、考える。道は右と左に進むことができるが、さてどっちにしようか?

 思考を巡らせていると、マヤノが突然走り出す。

「おい、マヤノ! 勝手に行動をしないでくれ!」

 不用心にも走り出すマヤノを追いかけ、俺の後にサクラも続く。すると広い空間に出た。

 だが、この空間にいる生き物を見た瞬間、目を大きく見開いた。

「ドラゴン?」

 目の前には漆黒の鱗を持つドラゴンがいたのだ。
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