ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳

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第一章

第八話 くそう!どうして俺がこんなに依頼を受けないといけない!

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~フェルディナン視点~



「あー、くそう! いったいこれはどういうことなんだ! どうして急にこんなに仕事が溜まってしまう!」

 あー、今日もギルドマスターはご機嫌斜めだな。

 俺ことフェルディナンは、声を荒げているアントニオを見ながらそんなことを思っていた。

「おい、フェルディナン! ちょっとこっちに来い!」

 はは、俺は運が悪い。偶然にも機嫌が悪いギルドマスターと目が合ってしまった。これはすぐに行かないと八つ当たりされそうだな。

「ギルドマスター、俺に何の用ですか?」

「両手を前に出せ!」

 どうして両手を前に出す必要がある? まぁいいや、言われた通りにしないと後が怖いからな。このおっさんは。

 俺は言われたとおりに両手を前に出す。すると、本一冊分はありそうなほどの依頼書を乗せられた。

「今、このギルドはてとも忙しい。なのでお前には仕事の量を三倍にすることにした。これが追加の分だ。すぐに終わらせてきてくれ」

 はぁ? このバカは何を言っているんだ? こんな量を一日で終わらせられるはずがないじゃないか。絶対にムリだ。こんな量を一日でこなせたら、それは化け物ハンターだ。

「ムリですよ。いくら俺でもこんな量の依頼を一日で終わらせられるはずがないですよ」

「誰が定時までと言った! 残業して夜になっても依頼を受ければいいだけだ!」

「残業だって! 誰が残業なんてするかよ! こんな低賃金の報酬しかもらえないギルドに残業する価値なんてない!」

「そうか。お前がそこまで言うのならもういい」

 お、あのアントニオが折れてくれたか。意外と言ってみるものだな。これで俺はいつもどおりに定時で帰ることができる。

「なら、お前もクビにする!」

「く、クビ!」

 ギルドマスターの宣言を聞き、俺は心臓の鼓動が激しくなる。

 いや、いや、いや、さすがにクビはシャレにならないって。クビになってしまっては、俺がこれまで積み上げてきたものが意味をなさなくなる。

「そうだ。お前の代わりなんていくらでもいる。俺の言うことが聞けないような役立たずのゴミハンターは、このギルドにはいらない! この程度の仕事量で音を上げるようなクソザコは、荷物を纏めて出て行け!」

 このクソデブがあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! この俺がゴミだ! クソザコだ! 寝言は寝て言いやがれ! ここまでギルドが上手くいっているのは全て俺のお陰なんだぞ!

「あー、分かったよ! やればいいんだろうが!」

「チッ、やるならさっさと行って来い! 時間は一秒たりともムダにはできないんぞ! 一つの依頼を失敗すれば、このギルドに大きな損害が出るんだ! そうなったら、お前の報酬から差し引くからな!」

 怒鳴り散らすアントニオに、俺は怒りの感情が込み上がってきた。

 だけどここで手を出す訳にはいかない。

 無言のまま踵を返すとギルドから出て行く。

 そしてギルドからある程度離れた場所まで行くと、目の前にある木を思いっきり殴った。

「くそう、くそう、くそう! あのくそデブ無能ギルマスがああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺が乗っ取ったら、絶対にお前を奴隷のように扱ってやるからな! くそう! くそう! くそう!」

 何度も声を張り上げながら、俺は木を殴りつける。

 大声を上げたことで、ストレスが軽減されたのか、意外と直ぐにスッキリすることができた。

 とにかく、このままでは俺は定時で帰ることができない。どうにかして全ての依頼を終わらせる方法を考えないと。

 俺は一通り依頼内容を確認する。しかし、それを見た瞬間俺は絶望した。

 こんな依頼、俺一人でやれる訳がないだろう。本当にあのクソデブは何も分かっていないじゃないか。

 どう考えたって、俺一人でキングカルディアスを討伐するなんて不可能だ。あいつを倒すのは最低でもBランクハンターが四人は必要だ。この依頼を達成するのであれば、あと三人はいる。

 それにほかにもやらなければならない依頼もある。

 くそう。こうなったら仕方がない。とにかく他のハンターを口車に乗せて同行してもらうしかない。

 どこかに仲間がいないか探すと、丁度目の前に同僚が通りかかった。

「よお、お疲れさん。調子はどうだい?」

「言い訳がないだろう! 毎日激務で疲弊しているんだ! 話しかけてくるなよ!」

 世間話を始めた途端、同僚は怒鳴って離れていく。

 チッ、なんだよ。俺がせっかく美味い話を持ってきてやったのに。まぁ、いい次だ!

 その後も俺は何人かのハンターに声をかけるも、全員冷たい態度で俺をあしらう。

 いったいどうしたって言うんだよ。ついこの間までは、みんな世間話に付き合ってくれたじゃないか。

 それなのに、みんな忙しいから話しかけるなと言って俺を突き放しやがる。

 確かに忙しいのは認める。でも、依頼主からの依頼を受けている数は今までと何も変わらないんだ。それなのに、リュシアンがいなくなった途端にみんな変わってしまった。

 くそう。これも全てあのクソデブのせいだ。ハンターの実力に見合わない量の依頼を受注するだけしやがって! もっと現場のことを理解しろ!

 くそう、くそう、くそう。こうなったらどうにかして俺一人でキングカルディアスを討伐してみせる。

 そうだ。もっとポジティブに考えろ。俺一人で討伐すれば大金星だ。そうすれば、俺の出世にも大きく関わる。Aランクを越えてSランクになるのも夢ではない。

 決断した俺は、キングカルディアスの住み着いたエンゴー火山に向かうことにした。

 馬車を手配してエンゴー火山に向かうと、俺は確認された十番エリアにたどり着く。

 岩陰に隠れながら前に進んでいると、頭の突起物が王冠のようになっている翼竜を発見した。

「いた。キングカルディアスだ」

 やつは俺に気付いていない。先制攻撃をするなら今だ。

 大剣を構えるとゆっくりとモンスターに近づく。そしてやつの尻尾に向けて大剣を振り下ろした。

 その瞬間、金属同士がぶつかったときのような甲高い音が響く。

 マジかよ。俺の大剣の刃が通らないだと!

 尻尾の鱗に遮られた俺は、バランスを崩して仰け反ってしまった。

 体勢を立て直そうとすると、キングカルディアスが振り向いてやつと目が合ってしまう。

「くそう、バレたか。だけどいくら硬い鱗を持っていたとしても柔らかい箇所はどこかにある」

 もう一度大剣を構えると、あることに気付いた。

 俺の大剣、刃こぼれしている。

 どんだけ硬い鱗をしていやがる。一発で俺の得物が使い物にならなくなるなんて。

 こんなときはどこかに隠れて砥石を使うのが一番だ。完全には切れ味が戻らなくとも、少しはマシになる。

 だけど現地調達が基本であるせいで、俺は砥石を持っていない。

 完全に詰んだ。

 くそう。どうするんだよ。絶対に勝てないって!

 次の手を考えていると、キングカルディアスは足を軸にして身体を時計回りに回す。すると、あの硬い尻尾が俺の肩にぶつかり、その勢いのまま俺は吹き飛ばされて岩に激突した。

「ガハッ!」

 体内の臓器が破損したのか、俺は吐血してしまい、満足に動ける状態ではなかった。

 くそう。このまま死んでたまるかよ。依頼がなんだ! 命の方が大事に決まっている!

 俺はよろよろと立ち上がると、身体中に走る痛みを我慢して十番エリアから脱出した。

 後を振り返ってみると、キングカルディアスの姿は見えなかった。

 どうやらやつの縄張りから出れば襲ってこないみたいだな。

 くそう。早く馬車に戻って街に帰らないとヤバそうだ。

 意識を失いそうになりながら馬車に戻ると、御者の男が俺を見て顔を青ざめる。

「だ、大丈夫ですか!」

「だ、だいびょうぶだ。いいがらばしゃにのべてぐで」

「ぜ、全然大丈夫じゃないですか! これ、私の回復ポーションです。飲んでください」

 回復ポーションを貰い、俺はゆっくりと飲む。すると傷は癒え、少しだけ元気を取り戻した。

 応急処置と言ったところか。これはしばらくハンターの仕事はできないな。

「ありがとう。助かった」

「いえいえ、それでは急いで帰りましょう。こんなところ一秒たりとも居たくはありませんから」

「同感だ」

 馬車に乗り、来た道を引き返して町に戻る。

 ギルドの前にたどり着くと、俺は扉を開けた。

「フェルディナン! これはいったいどういうことだ! 依頼主からまだ討伐できていないと苦情が入ったぞ!」

 ギルドに帰るなり、俺はクソギルドマスターのアントニオから罵声を浴びせられた。

「あんなもの俺一人ではムリに決まっているだろう! ここに所属するハンター全員が向かっても勝てる見込みはない。それほどあいつは強すぎる!」

「依頼に失敗したのに偉そうなことを言うな! 失敗したのはお前が弱いからではないか! 責任を取って、お前が依頼主に土下座をして謝ってこい! そして今回の損失分は、お前の報酬から差し引かせてもらうからな!」

 くそう。無能なギルドマスターめ。いつかテメーをあの世に送ってやるからな!










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