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第十章

第十話 資料室にて

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~シャカール視点~





 カレンニサキホコルが出て行った後、俺は引き続き資料の捜査に取り掛かった。

 ざっと資料室全体を見て回ると、種類毎に仕分けがされてあることが分かった。

 これなら、闇雲に探さずに済みそうだな。

 まずは、どうして所長があの薬を開発していたのかを知る必要がある。クライアント関連の資料を探してみるか。

 顧客情報の書かれた本を探し出し、手に取ってみる。ページを開いて見ると、これまでのクライアントの名前がずらりと並んでいた。

 これまで、多くの人から依頼を受けていたみたいだな。

 殆どが人間からの依頼であった。彼らの依頼内容は、人族の走者が活躍できる薬の開発関連の依頼が多い。

 次々とページを開くと、ある人物の名前に目が止まった。

「うそだろう。どうして、こいつが所長に依頼などを」

 ページに書かれたクライアントの名前はブッヒー。走者委員会の会長を務めている獣人だ。

 彼の依頼は、肉体に××の魂の移植する方法の研究依頼と言うものであった。

「くそう。具体的な部分が塗りつぶされて読めない。いったい、何の魂の移植だ?」

 ブッヒーが、研究所に依頼していると言う事実が何かの関連性を持っているような気がしてならない。

 魂の移植と言うワードに関しては、ナナミの実験と関連しているはずだ。だからこそ、ナナミの肉体にカレンニサキホコルの魂が宿ってしまった。

 つまり、ブッヒーのやつが依頼をしたせいで、ナナミが今のような状況に陥っているのだ。

 そう考えると、怒りが湧き上がってくる。

 でも、この事実を訴えたとしても、やつのことだ。何かしらの手段を用いて、もみ消そうとしてくるに違いない。

 どんな手段を用いても、消せない炎のような大火事となる証拠を突き付ける必要がある。

「フェインとも、共通しているものがあるかもしれないな」

 タマモの兄であるフェインは、俺とのレース後、暴走をしてしまった。彼の証言いわく、脳内に何者からの囁きがあり、心を支配されてしまったと言っていた。

 もし、仮にフェインの事件と、ナナミの実験に関連性があった場合、フェインの暴走を引き起こした犯人はブッヒーの可能性がある。

 そう思ったが、俺は直ぐに頭を左右に振って今考えたことの一部を否定する。

 今の段階では、ただの妄想にすぎない。仮に事実だったとしても、ブッヒーはあくまでも依頼をしただけだと言って簡単に躱すだろう。

 事件のきっかけを作った事実があったとしても、実行犯ではないと言い逃れされてしまう。

「でも、一応はフェインの事件も含めて、進展したと思って良さそうだな」

 気になる情報を得ることができた。後は確信へと至る情報を入手するだけ。

 ひと段落が付いてホッとすると、扉がノックされた。

 誰かが来たのか。この部屋に居ることがバレたら色々と面倒だな。

 扉を開けた瞬間、いつでも奇襲を仕掛けられるように準備をすると、扉越しに声を掛けられる。

『下ネタ番号、居るか? 妾じゃ。カレンニサキホコルじゃ。今、入っても良いか?』

 扉からは、カレンニサキホコルの口調でナナミの声が聞こえてきた。

 彼女が戻って来たのか。一々確認すると言うことは、訳ありなのだろうか。

 所長を連れて来た可能性だってある。下手に返事をする訳にもいかなさそうだな。

『なぜ返事をせぬ? もう居ないのか? なら、後5秒後に扉を開けるからのう』

 5秒のカウントダウンが始まり、0のタイミングで扉が開く、本棚の陰に隠れて様子を伺っていると、黒髪のショートヘアーの女の子がこの部屋に入って来る。

『頭隠して尻隠さずじゃな。気配で居ることはバレバレじゃ。安心しろ。別に研究所の者を連れて来たり、お主の邪魔をしたりなどせぬ。戻って来たのは、所長からこの部屋に隠れておるように命令を受けたからじゃ』

 俺としたことが、気配を消し忘れていたか。居ることがバレている以上、下手に隠れ続けるのは愚かなことか。

 隠れていた本棚から姿を見せると、カレンニサキホコルは俺に顔を向けた。

『そんなところに居ったか。素直に姿を見せたら、可愛げがあったと言うのに』

「悪かったな。ある意味実家のような研究所でも、ここで働いているやつは敵だ」

『それは同感じゃな。それで、何か進展はあったのか?』

「お前を消す方法はまだだ。だけど、別の事件に関しての情報は入手した」

『ほう、それは何だ? 話してみろ?』

「どうしてお前に教える必要がある」

 俺は完全にカレンニサキホコルを信じてはいない。信じてはいない以上、些細な情報でも漏らす訳にはいかない。

『ゼロナにい、ナナミには教えてくれないの? ナナミ悲しい』

「ナナミ!」

 ナナミが表に出たのか。彼女なら、きっと黙ってくれているはずだ。

「いや、ナナミには教えても良いよ。実は、俺は――」

 俺はナナミにフェインの事件やブッヒーとの約束。そして研究所のクライアントにブッヒーの名前が乗っていたことを話す。

『アハハハハ! まさか、ナナミの真似をしただけで、こんなにも口が軽くなるとはな。どれだけシスコン何だお主は? アハハハハ!』

 急にカレンニサキホコルが表に出たと錯覚してしまうほどの素早い変化に衝撃を受ける。

 もしかして、さっきまでのナナミは、カレンニサキホコルの演技だったのか。

 騙されていた事実には、俺は自身への怒りと愚かさで複雑な気分になった。

 穴があれば入りたい気分だ。

『なるほどのう。お主の事情は分かった。それに先ほどは笑ってしまってすまぬ。お詫びとして、妾も資料探しを手伝ってやろうではないか』

 資料探しをすると言い出し、カレンニサキホコルは俺から背を向け本棚の本を調べ始める。

 こいつがナナミの肉体でなければ、恥ずかしさのあまりに魔法を放っていたかもしれない。

 彼女の考えが読めない。やっぱり俺は、カレンニサキホコルと言う転生馬を信用することができない。

 彼女のことに気を配りつつ、俺も資料探しを継続した。

 だが、それ以上の成果を得ることはできなかった。

 もっと重要な資料は、別に隠されているのか、それとも証拠品は処分されてしまったのか、真相は闇の中と言った感じだった。

 これ以上探す意味がなくなった俺は、カレンニサキホコルと別れて資料室を出る。そして研究所内を歩いていると、ルーナと合流した。

「シャカール、朗報だ。KINNGU賞の優勝賞品がナナミとなった」

「はい?」

 ルーナの言葉の意味が分からず。間抜けな声を漏らした。
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