いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい

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懲りずに新しい恋を探しちゃいけませんか?

4. 理想通りにいかない

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 保育園の職員室。閉めた窓の外は夜の闇が広がっていた。すぐ目の前の園庭の植え込みから、ガラス越しでも秋の虫たちが合唱する声が聞こえて、厳密にはまだ勤務中でありながら心はリラックスしている。

 遅番勤務で、すでに子供達は親御さんに引き渡して見送ったあと。残った業務を片付けて、もうすぐやってくるお遊戯会の小道具作りを進めるため、材料となる画用紙やペン、鋏など文具を取り出して、自分のデスクの椅子に腰掛けた。

 秋の夜は冷える。膝掛けをお腹までクイっとあげて作業を始める。

「.....せーんぱい!」

「うっわぁ!」

 何の物音もしなかったのに、急に背後から声がした。驚いた拍子に、握っていたペンの先が下書きの線上を大幅にアウトしていく。

 ザァッと画用紙に伸びたピンク色の線に、「あぁ....」と肩を落とした。

「え、ごめんなさい」

「もう~、寧々ちゃん。.....次は前から声かけてね?」

 やらかしたと悟った一つ下の後輩・井手 寧々いで ねねは、口元に手をやって眉を下げた。その顔を見たら、仕方ないなという思いでそれだけ伝える。

「はぁい」

 返事を聞きながら、新しい画用紙を机に出して再び下書きからスタートした。

「....寧々ちゃんのクラスも終わった?」

「はい!さっき最後の健吾くんのお母さんがお迎えに来て。あとは諸々の作業終わらせたら上がりです」

「そっか。お疲れ様だね」

 寧々ちゃんは、さっぱりした性格で明るく人懐っこい。この保育園は人間関係がとても良くて、同僚の保育士さんたちは皆、とてもいい人ばかりだ。

 特に、寧々ちゃんとは歳が近く、プライベートの話もちょこちょこするほど仲良くしていた。

 担当するクラスは別だけれど、こうして勤務の時間帯が重なった時は仕事終わりに職員室で色々お話しする。

「先輩も、お疲れ様です!」

「ふふ、うん」

「てか、先輩。聞きましたよ~。今日も登ったんですって?」

「あ.....」

「本当、身体能力すごいですよね。あの木、相当高いでしょ?」

「まぁ....。でも猫がおりられなくなってて、かわいそうで」

「そうなんですか」

 私の斜め前の自分のデスクの席について、引き出しから取り出したおやつをぽりぽりと齧り始めた寧々ちゃんは、感心そうに頷いている。私にもスッと差し出されて、「ありがとう」と頭をペコンと下げてひとつ頂いた。

 この保育園の歴史は深い。
 園庭も十分な広さがあってご近所では人気の園だ。

 園庭の隅には、背の高い木がひとつ植わっている。この木は先代の園長先生が植えた木で、何十年とこの園を見守ってくれている不思議な魅力のある木だった。

 昔から木登りが好きな私は、就職の面接で園を訪れた際、一目でこの木が気に入った。

 働き始めると、勤務前に登って葉を茂らせる梢の音に耳を澄ませて景色を眺めるのが日課になった。

 でもある時、園長先生に怒られてしまった。
 子供が真似すると危ないからと。

 そりゃそうだ。今の世の中、そういう時代だ。
 普段優しい園長先生が言うのだからと、その日を境にやめたのだが、今日はどうしても猫が可哀想で助けてしまった。子供たちが園舎に入ったタイミングでさっと登ったのだが、園長先生にはバッチリ見られていたようで、その後叱られた。

「先輩って、見た目はおとなしそうと言うか.....男性のあとを黙ってついて行きますって感じなのに、実はすっごい元気ですよね。意思強いし」

「......うっ」

「....あれ?私、何か悪いこと言っちゃいました?」

 思ったことを言っただけなのだろう。
 私が胸を押さえて呻いたので、寧々ちゃんが心配そうに覗き込んだ。

「あ....いや、違うの。本当そうだよなぁって、図星で。.....実はまたフラれてさ」

 とほほ、と苦笑して言うと「えっ」と驚かれた。

「またですか?ていうか、いつも不思議なんですよね。早くないですか?別れるの」

 ズバズバ言われて瀕死状態になってきた。
 でも、寧々ちゃんは悪い子じゃない。

 表でいい顔をして裏で言うタイプじゃなく、相手の前で思ったことを議論するタイプだ。

「.....まぁ、そうなんだけどね」

「.....思うんですけど。男性って女性に夢持ちすぎだと思います。先輩の元彼たちも、先輩に理想押し付けたけど、理想通りにいかないからフッたんですよ。気にすることないですって。先輩、めっちゃいい人ですもん」

「寧々ちゃ~ん.....」

 なんていい子なのだと拝んでしまった。

 同時に「理想通りにならない」という言葉がストンと胸に落ちてきて、歴代の彼氏たちを思い出した。
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