いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい

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懲りずに新しい恋を探しちゃいけませんか?

2. 一番優先だから(一生side)

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*****


「やっちまったか.....」

 八重を家に送ったあと、俺は『イルミナージュ』に来ていた。今朝の出来事を思い出して、重苦しい呟きが漏れる。頭の中でそのシーンが繰り返されて、心を支配するのは後悔と焦りと不安だ。



「忘れ物ないか?」

「うん!ちゃんと確認したから大丈夫」

「よし。じゃあ、行くか」

「はーい」

 朝食を食べ終え、準備してから、最終確認をする。そのまま、車で八重を家まで送り届けるために、一緒に玄関をくぐった。

 二人揃ってエレベーターに乗り、エントランスを出た時。マンションの敷地内にある駐車場の俺の車のそばに、誰か立っていることに気づいた。

 よく見れば、同じ病院で働く新人看護師。去年新卒で採用されて、今は外科で一緒に仕事をしていた。名前は確か.....

「.....田淵さん?」

 八重しか興味のない俺の脳は素直で、他の女性の名前や顔はうまく吸収されない。それでも、仕事に必要だからと、どうにか記憶しておいて良かった。

「大狼先生!」

 俺が名を呼べば、俯いて立っていた彼女は勢いよく顔を上げ、パッと表情を明るくした。

 ニコニコと笑いながら、小走りで駆け寄ってくる。

「どうして君が?」

 一言目に出たのはそんな言葉。今日は俺は休みで、もし緊急で呼び出すなら病院から直接電話が来るはず。

「あ、これを届けに来たんです」

 そう言って彼女の手に提げられていたのは、ひとつの袋。

「これ....」

 俺のものだった。今度、実家に帰る時にチビの遺影に供えてやろうと買っていた、生前彼女が好きだったおやつやおもちゃたち。

 仕事前に買って、昨日仕事を終え帰る時に師長に引き留められ、そのまま置き忘れてきた。

 貴重品というわけでもなかったし、すぐ実家に帰るわけでもなかったから、次の仕事の時に回収しようと思っていた。

「先生のものですよね?師長さんが、忘れ物だから持っていってくれって」

「そうか。ありがとう...」

 顔が引き攣りそうになるのを必死で堪えた。
 どうして今のこのタイミングで?

 師長の律儀な性格上納得はできたし感謝しなければならないのはわかったが、余計なことを....という思いが湧き出る。

 しかも、看護師に持ってこさせるとはーー。

(引き返して、昨日取りに戻っておけば良かった)

 ため息まで口からこぼれ落ちそうになって、すんでのところで我慢する。

 頭を切り替えて、早々に事態に対処するため、まずはこの人物を追い払おうといつもの.....仕事用の見えない面を貼り付け、できるだけにこやかに対応した。

「いえ、とんでもないです!」

「今度、師長にもお礼を言っておくよ。手間をかけさせてごめんね」

 「じゃあ」と隣の八重の背を押して車の方に向かおうとしたら、「あ、待ってください」とまたもや、引き留められた。

「ん?」

 内心煩わしく思っても、表面上の面はつけたまま返事をする。

「あ...あの~、もし良ければ、このあとお食事でもどうですか?私、仕事明けで朝ごはんまだで~。先生もまだでしたら、ご一緒にどうかなって」

 きゅるんと上目遣いでそんな誘いを受けた。
 その時、彼女がちらりと、俺の隣にいる八重の方を見た。

「もしかして....お邪魔でしたか?彼女さん....とか」

 探るような聞き方にまたイラッとして、「やめろ」と思わず低い声が出そうになる。八重はこういうのに弱いのに。

「あっ、ごめんなさい。私、彼のただの幼馴染でっ」

 八重が両手を前に出して、ブンブン振った。

 ほら、やっぱり。慌て始めたじゃないか。
 自分に向けられる恋情には超がつくほど鈍感なのに、他人の恋愛には鋭い。特に他人が他人に寄せる好意の障害に自分がなりそうだと気付くと、一目散に退避する。

 つまり今は、女の感情を察して、俺と自分は恋愛関係ではないと言い募っているのだ。

(邪魔するなよ...)

 わかりきってはいたけれど、八重にはっきり否定されたショックと。こんなどうでもいい女のことを気遣って、これから八重が俺と距離を取り始めるかもしれない未来を想像して、肝が冷えていった。

(気をつけてたのに...)

 俺はなるべく女性と関わらないようにしていた。
 八重しか欲しくないからという理由もあるけれど、一番は大切な彼女に誤解されたり、いらぬ気遣いをされて距離を置かれるのが嫌だったから。

 八重は寂しがり屋で、恋愛に関して潔癖だ。恋愛対象として見るのは、女の影がない男だけ。
 多分、お人好しな性格もあって、誰かと男を奪い合うなんて考えられないのもあるし、相手の女性の気持ちを考えてしまう。何より自分が、交際中に女の影を心配したくないのだろう。

 つまり、例え何の関係がなくても俺の周りに女の影がちらついていたら、恋愛対象から外される。それどころか、その女に気遣って離れていくので、今の『幼馴染』という立場さえ危うくなるのだ。

 今でも鈍い彼女に意識してもらうのに必死だというのに、それ以前の問題で対象から外れたり、幼馴染でも居られなくなるなんて最悪だ。

(やっちまったな...)

 そう思った時。八重が素早く動いた。

「......私、自分で帰るよ。じゃあ」

 俺に言って、田淵さんにペコリと頭を下げた八重はくるりと背を向けた。

(ダメだ.....っ)

 俺は咄嗟に腕を伸ばしてーーパシッと彼女の華奢な手首を掴んだ。

「え?」

「待てって。.....田淵さん、申し訳ないけど、俺、こいつ送っていきたいから。じゃあ、荷物ありがとう。気をつけて帰ってね」

「あ....大狼先生!」

 八重の手は離さずに早口で言って、さっとすぐ近くの車の鍵を開ける。

 「え、え、え。いいの?」と背後を横目で見ながら焦った声を上げる八重の背中をぐいぐい押して、無理やり助手席に押し込んだ。

 そうして、自分もさっさと運転席に乗り込んで、車を発車させる。



 過ぎゆく景色のあとを追って、八重が窓に張り付く勢いでのぞいている。

 駐車場が見えなくなってから、諦めたように「ふぅ」と息を吐いた八重は、座席にようやく深く腰掛けた。

 チラリとこちらを見たことには気づいていたが、俺は前方から視線を逸らさなかった。

 しばらく無言で何かを迷っていた八重は、ゆっくりと口を開いた。

「....一生、良かったの?」

「何が」

「何がって...彼女、一生のこと勇気出して誘ってくれたんじゃない?」

 案の定、田淵さんのことを気遣い始めた気配に、無意識にハンドルを握る手に力が入った。

「....たまたまじゃないか」

「え~...そうかな。すごくお洒落してたし」

「八重の方が優先だから」

「まぁ...先に約束してくれてたのはわかるけど、私本当に大丈夫なのに」

 ぶつぶつ言った彼女の言葉に被せるように、続けた。

「じゃなくて」

「え?」

「先に約束してたからとかじゃなくて。俺にとって、八重が一番優先だから。例え約束してなくても、あの子の誘いは断ってた」

「そう、なの?」

「ああ。だから気にするな」

「......わかった」

 コクリと頷いた八重を横目で見たところで、見慣れた景色が目の前に迫った。


「....早いな。着いたぞ、八重。....仕事、頑張れよ」

「あ、うん....。ありがとう、一生は気をつけて帰ってね」

 意味が伝わったかはわからない。
 けれど、あっという間に八重の家の前まで車を走らせていて、後ろ髪をひかれつつ彼女とわかれた。

 自分の実家も隣だというのに、寄って行く気にもなれず、そのままUターンした。こんな顔見せたら、安らかに眠るチビがクゥンと心配しそうな気がして。

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