いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい

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懲りずに新しい恋を探しちゃいけませんか?

1. 俺特製のパンケーキ③

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「では。どうぞお座り下さい、お嬢様?」

 話は終わりだと言わんばかりに、おどけて執事の真似をした一生に椅子を引かれる。促されるまま、席についた。

 ふわふわのパンケーキに、瑞々しいサラダと果物。ブルーベリーをのせたプレーンのヨーグルトに蜂蜜がかけられて、温かい紅茶まで。極め付けは、目玉焼きより茹で卵が好きな私のために、茹で卵とお塩。一生のことだから、私好みの茹で加減で半熟に仕上がっているのだろうと思うと、お腹が「クゥ」と小さく鳴った。


「....これ、一生の手作りパンケーキ?」

「そ。好きだろ?」

「大好きっ」

 さっきまでの申し訳なさは、食欲の前では無意味だ。今度は目尻を垂れて、パッと満面の笑みに切り替わる。

「.....ぐっ」

 一生が呻いた気がするが、私はパンケーキに夢中で、早速「いただきます」と手を合わせていた。

 食べ始めようとしたところで、一生がコーヒーだけ飲んでいることに気づく。

「.....あれ?一生は食べないの?」

「....ああ。今日はコーヒーだけでいい」

「.....子供の頃から、朝食はしっかり食べてたよね。もしかして具合でも悪い?」

「....いや。その逆」

「逆?」

「....いいから。俺のことは気にせず食べろ」

「.....わかった。じゃあ、いただくね」


 言葉の意味は良くわからなかったけれど、食欲に負けてパクリと頬張る。

「美味しい~。一人暮らし始めてから、すごい上達したよね。昔一緒にクッキー作った時、ひどかったのに」

「.....黒歴史だ。忘れろ」

「ふふ、いいじゃない。だって、すごいよ。料理も、勉強も。一生って、頑張り屋さんだよね」

「....やめろって。恥ずかしい」

 思ったことを言っただけなんだけど。

 私は知っているのだ。もともと器用ではあるけれど、料理だって、勉強だって。彼がすごく努力していることを。
 外科医になってからは、勉強に加えて、模型で何度も何度も針やメスの扱い方を練習していることを。

(平和だなあ....)

 明らかに照れてそっぽを向いた横顔を眺めた。
 再び口に運んだパンケーキの優しい味に、口元が綻んでいく。

「....紅茶も美味しい」

 パンケーキのあとに温かい紅茶を口に含むと、ホッとした。

「八重、紅茶好きだよな」

 私の声に、またこちらを振り向いた一生が微笑む。

「うん。コーヒーも好きだけど、どちらかというと紅茶派」

「だな」

「あ。知ってる?磯村さんのお店、昼間、紅茶がブームになってるんだよ」

「へえ」

「私も飲んだことはないんだけどね。時々、特別な紅茶がメニューに載るんだって」

「特別な紅茶?」

「そう。本当かはわからないんだけど、その紅茶を飲んだら、と会えるって女の子の間で噂になってるらしいよ。しかもすごい美味しいんだって。磯村さん本人は、その噂知って笑ってたけど」

「....ふぅん」


「どんな味か気になるよね」と溢しながらまた一口紅茶を飲んだ。


「.....俺は気にならないけど」

「......?.....そっか」


 と、さっきまで穏やかだった表情を顰めっ面にした一生に首を捻った。何だかピリピリした空気まで感じる。

 
「....というかさ。それ、気にならないの」

「え?」

 急に話題が変わって、私は聞き返した。

「.....服。昨日と違うの」

「あ、貸してくれてありがとう?」

 視線で示されて、やっと合点がいく。

「....じゃなくて。....普通気になるだろ」

「....あ!洗って返すね?」

「いや、そうじゃなくて」

「うん」

 本気でわからなくて、首を傾げて先を促す。
 すると一生が「うっ」と一瞬怯んで視線をうろうろさせた。

 うっすらと顔も赤い気がする。

「...だから。....ど、どうやって着替えたのかなとか」

 そうしてこぼれ出た弱々しい言葉に、私は目を丸くした。口元に手を当て、驚いてみせる。

「.....まさかっ」

「っ、ち、ちち、違うからな!俺はしてない!」

「.............」

 じと目で見ると、一生はさらに慌てふためき始めた。

「....ふ、ふふふふ。嘘だよ。わかってるって。酔った私が、自分で着替え始めたとかでしょう?だって、私に一生がそんなことするはずないもん」

 我慢できなくなって笑ってしまった。
 見たか。毎日おままごとで鍛えた演技力を。


「.....お前なぁ、そういう冗談やめろよな~」


 ガクッと項垂れた一生が恨めしそうにした。
 ちょっとからかいすぎたみたいだ。


「ごめんごめん、つい」

「ついって。....はぁ、もういいけど。お前、俺の性別わかってる?」

「わかってるよ?男の人でしょう?」

 一段落したところで、またパンケーキを口に運びながら答えた。

「......絶対わかってねえ」

「...........?」

 最後の言葉はすごく小さくて。少し時間に追われ始めた私は聞き返さなかった。


*****


「困ったわねえ」

「お疲れ様です、師長。....どうかされました?」

 一生の勤める病院のナースステーションで、困り顔の師長がひとつの袋を見つめていた。皆、出払っていて他に誰もいないそこへ、丁度退勤時刻の看護師が一人入ってくる。

「あら、田淵さん。お疲れ様。....これよ」

「これは?」

 師長が差し出したのは、まさにその袋。
 何かたくさん入っているようで、かなりしっかりした重みがあった。

「大狼先生が忘れていったの。中身はわからないんだけど、大切なものだったら。ねえ」

「なるほど。....私、届けに行きますよ」

「え?」

「私、もう上がるので、そのまま届けに行きます。以前、休みの日に偶然先生のマンションの前を通りかかった時お会いしたことがあって、道はわかるので」

 看護師は、そのまますっと袋に手を伸ばして持ち上げた。師長は驚いたあとに、安堵の色を浮かべて笑顔になった。

「あら~、夜勤明けで疲れてるのにいいの?」

「はいっ」

「じゃあ、お願いしようかしら」

 そうして、退勤準備を済ませた看護師・田淵 千紗 は先にお化粧室に飛び込んだ。

「お気に入りのワンピース着てきて良かったぁ。こういうことがあるから、いつも気が抜けないのよ。我ながら、日々の備えを褒めたいわ」

 一人きりの化粧室で独りごちながら、勤務明けで少し血色の悪い肌にファンデーションを滑らせていく。
 仕事の時はしていないマスカラを震わせて、まつ毛を上げて丁寧に仕上げ、肌艶が良く見える細かなラメ入りのチークを頬にぽんぽんする。

 最後に、ふわりと柔らかな色合いの派手すぎないリップを唇に塗れば、若さが光る、華やかだが清楚な印象を抱くメイクの完成だ。

「先生がお休みの日も顔を見られるなんて、ラッキー。クールでしごでき、おまけに国立大出のエリートイケメン医師。絶対!落とすんだから」

 ふふん、と鼻歌をうたいながら、メイク道具を仕舞って。袋を忘れずに持って。

 新卒で看護師として勤め始めて、初めて会った頃から好意を寄せる彼・大狼 一生の忘れ物を届けに、彼の家へと向かっていった。

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