【13章まで完結】25人の花嫁候補から、獣人の愛され花嫁に選ばれました。

こころ ゆい

文字の大きさ
46 / 59
白熊は過去に囚われる君に愛を乞う

4

しおりを挟む
****

「...詞葉さん」
「....はい」

 土曜日。二人とも仕事が休みで、朝から一緒に朝食をとっていた。

 詞葉も冬真も早起きだ。
 まだまだ一日、長い時間が残されている。

「...あの、もし良ければ...デート、しませんか」

 少し顔を赤らめて、勇気を出して誘った様子の冬真に、詞葉は思わず目を見開いた。

「...どこでもいいんだけど、俺....君と一緒に過ごしたい」

「一緒に....」

 二人の関係性から、家で共に過ごしていてもお互い違うことをしていたり。冬真が話しかけても、詞葉がつれなかったり。

 結婚してからも、一緒の時間を過ごした記憶は少ない。

「...ダメ、かな」

 またの拒否の予感に、困ったような。でも詞葉を思い遣った笑顔を刻もうとした時。

「...いいです、よ」

 小さな声で、オッケーをもらった。
 思わぬ言葉に、勢いよく席から立ち上がった冬真は、震える声で確認する。

「...え、い、いいの?...本当?」
「.....はい」
「や、やったぁ!どこ行きたい?俺、どこでもいいんだ。君と過ごせたら、どこだって。もし行きたいところに迷うなら、俺が決めるよ」

 ものすごく嬉しそうに聞いてくる冬真に、なるべく視線を合わせないようにしていることも忘れて、詞葉は彼をじっと見つめてしまった。

 そしてーー。

「...ふ、ふふ」
「.........っ」

 確かに、その時....詞葉は冬真に向かって微笑んだ。

 冬真は、両手を上に上げたまま立ちすくむ。

 何ものにも代え難い女性の....世界一美しい笑みを前に動けなくなった。

「...じゃあ、お任せします」

 続いた声にも、いつもの冷たくあしらう感情は見えない。

 その、綺麗な笑みも。柔らかい声音も。
 人知れず葛藤していた冬真を突き動かすのには、十分だった。

 冬真の思いをよそに、詞葉は食べ終わった食器を片付け自室に戻る。

 いつもより念入りに髪をとかし。
 いつもより着る服に迷い。
 いつもよりメイクに時間をかける。

 そんな自身の変化に気づきもせずにーー。
 詞葉は、そわそわと動き回った。



 たっぷり時間が経ってから、鏡の前に立った詞葉は驚いた。

 そこにうつる自分は、しっかりお洒落していて。
 誰のためにこんなに着飾ったのか...
 そう思うと部屋から出られなくなった。

 冬真が、部屋までやって来る。

 意を決してドアを開けた彼女を一目見た瞬間、彼は「可愛い」「綺麗だ」と褒め殺す。

 顔を真っ赤にして俯く詞葉を嬉しそうに見つめて。
 すでにデートコースを考えて、チケットまでとっていた冬真は、しっかりと彼女をエスコートした。


「ねぇ、詞葉さん。これ。この生き物。なんて言うんだろ、めっちゃ可愛い」

「うっわ、イルカすっご!見た?あのジャンプ」

「なんだ?あのアシカ、どうやってバランス保ってんだ?...めちゃくちゃ器用だな」

 土曜日の水族館は、家族連れやカップルで賑わっている。

 隣で、コロコロ表情を変える冬真。
 詞葉は...いつもと違う場所、いつもと違う状況に...普段の頑なな心は隠れてしまっていて。冬真と同じく、目いっぱいデートを楽しんでいた。



 ~本日は、ご来園、誠にありがとうございます。まもなく、閉園致します。またのお越しを心よりお待ち致しております。~

 ペンギンを見ていた二人の耳に、アナウンスが聞こえた。見上げた空は、すでに夕焼け色だ。


「あ....そろそろ閉園か」
「....本当ですね」

「.............」
「.............」

 そんな会話をしてから、どちらからともなく黙ってしまって。沈黙が二人を包み込む。

 今日一日で、物理的にも二人の間に距離はなくなり。ほとんど寄り添うように触れていた腕がふいに動いて...詞葉の小さな手をそっと握った。

「え....」

 大きくて熱い手に包まれて、詞葉は思わずドキリとした。自分に触れる手に視線を滑らせる。

 家族連れはすでに帰り支度のために、建物内に戻って。カップルは食事の場に向かうため、門へ向かう。

 この場に取り残された二人は手を繋ぎーー。
 冬真が、真剣な表情になった。

「ねぇ、詞葉さん。俺....今日、君と過ごして気づいたんだ。....自分の気持ち」
「....自分の、気持ち?」
「...うん」

 スッと体ごと向き直して対面する形で、冬真は詞葉をじっと見据える。

 握っていた手をさらに強くして....目を逸らさずに迷いなく言った。
 
「...俺、君ともっと仲良くなりたい。本当の夫婦になりたい。....ワガママだってわかってる。君の意思を無視して結婚を押し通した自分に、そんな資格ないって。でも....やっぱり隣にいるだけなんて....俺には我慢できない」

 ーー君に触れたい、好きだと言いたい、愛してると伝えたい。

「君に....幸せに、笑っていてほしい」

 詞葉は、誠実で嘘のない....彼の『本当の心』から目を逸らせなかった。

「....ねぇ、詞葉さん。幸せになっちゃいけないなんて、そんなこと言わないでよ。そんな...辛そうに、俯かないで。....俺が」

 ーー君の罪も、罪悪感も。全て、引き受けるから...

「...君は、ただ笑っててよ」

 もう耐えられなかった。
 詞葉の顔はみるみる崩れ....見られたくなくて、片手で顔を覆った。

 さらに、冬真が一歩歩み寄って。ぴたりとくっついた身体から体温がじんわりと伝わってくる。

 耳元で穏やかな声が響く。

「君は....幸せになっていいんだ。例え、世界中の全てが、幸せになるなと言ったとしても。俺が...君を守るから...君は...」

 ーー安心して....俺の隣で幸せになってよ。

 そして、冬真は大きな身体で詞葉を包み込む。

 ぎゅうと、初めて抱きしめられる。

 詞葉は、そのまま彼の胸元に縋りつきそうになる手を抑えて....目を閉じた。



 どれほど時間が経っただろうか。
 閉園の音楽が流れて、二人手を繋いだまま、門の外に出た。

 優しく手を引く冬真を見ながら、詞葉は言った。

「....冬真さん.....お願いがあるんです」
「....初めて名前、呼んでくれたね」
「あ......」
「...嬉しい。....お願いって?」

 冬真の声が、急に甘く聞こえるのは気のせいだろうか。
 
「あの....」

 冬真は、詞葉の『お願い』に二つ返事で頷いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?

紅子
恋愛
新作のゲームの為に創った魔法陣に魅入られた神様の眷族のせいで、死んじゃった私。別の世界で残りの生を消化しないと、永遠を流離うって、酷くありませんか?剣と魔法の世界で生き残るなんて出来る気がしません。私、一見、平和そのものなあの世界の住人ですよ?原因を作った眷族をつけてくれる?それなら、なんとか・・・・?はぁ、永遠を流離うくらいなら、眷族と一緒になんとか生き残れるように頑張ります! 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界につき、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

テイマーなのに獣人ばかりにモテすぎて困ってます!~彼女はまだツンデレ獣人に番認定されたことに気付いてない~

しましまにゃんこ
恋愛
リリアは、この春、アリシア王国で冒険者になったばかりのテイマーの女の子。早く冒険者として活動したいのに、まだ一匹もテイムすることができずに焦っている。 森に入れば触手に襲われ、街を歩けば獣人に襲われる無自覚天然ドジキャラのリリア。 そんなリリアを溺愛し、陰ながらこっそり見守る黒ヒョウ獣人のロルフは、いつもリリアに振り回されっぱなし。 実は二人の間にはある秘密が!? 剣と魔法、魔法道具が使えるファンタジーな世界で、テイマーとして活躍したい女の子と、好きなのに好きといえない獣人の男の子の、勘違い、溺愛、ジレジレ、時にヤンデレなドタバタ系ラブコメです! 『王女様は聖女様!?おてんば姫の冒険録~全属性の賢者、500年後に転生する!ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しにいきます!』と同じ世界です。今後「王女様~」のほうでも登場予定です。お楽しみに! 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...