悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~

第120話 黄金のトライアングル:仏罰代行(物理)。悪徳寺社は「物理」で浄化させていただきます

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 オワリ領の山岳部、険しい崖の上に要塞のようにそびえ立つ「強欲山・金剛寺」。
 表向きは由緒ある名刹を装っているが、裏では武装した僧兵を雇い、関所を設けて通行料を巻き上げ、麓の村々から過酷な取り立てを行っている、正真正銘の「ブラック寺社」である。

 その堅牢な山門の前に、場違いなほど優雅なドレスを纏った一人の令嬢――わたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンが立っていた。

「……ここね。イリス、状況は?」

 わたしが虚空に話しかけると、青白い光の粒子が集まり、古代知性体人工知能イリスのホログラムが肩の上に現れた。

『報告。衛星アルゴスによるスキャン完了。……地下倉庫に大量の金塊、米俵、および武具の反応を確認。また、本堂裏の隠し部屋にて、近隣の村から拉致されたと思われる女性数名の生体反応を検知』

「……確定ね。真っ黒だわ」

 わたしは鉄扇をパチンと閉じた。
 背後には、武装した黒鉄組本隊ではなく、あえてミリアとアリス、そして少数の精鋭だけを連れている。
 アリスは巫女服姿でオロオロとし、ミリアはリュックから「没収用」の麻袋を取り出しながら目を光らせている。

「ええい、控えろ控えろ! ここは聖域なるぞ! 女子供が土足で踏み入ってよい場所ではない!」

 山門の中から、薙刀や金棒を持った荒くれ僧兵たちが数十人、わらわらと湧き出してきた。
 先頭に立つのは、筋肉ダルマのような巨漢の僧兵長だ。酒と脂の臭いがプンプンする。

「聖域? ……随分と俗っぽい匂いのする聖域ですこと」

 わたしは鉄扇で鼻を覆い、冷ややかに見下ろした。

「単刀直入に言いますわ。……あなた方が地下に隠している『裏帳簿』と『不正蓄財』、そして不当に囲っている『女性たち』。……すべて解放していただきに来ましたの」

 わたしの言葉に、僧兵たちの顔色が変わった。
 図星だ。動揺が走る。

「き、貴様……! どこでそれを……!」
「生かしては返さんぞ! 囲め!」

 僧兵長が薙刀を構え、殺気を漲らせる。

「おのれ異国の悪鬼め! 神聖な寺を愚弄した罪、万死に値する! ……覚悟せよ、仏罰が下るぞ!」

 仏罰。
 その言葉を聞いた瞬間、わたしはあきれ果ててため息をついた。
 神仏の名を借りて私腹を肥やす輩が、よくもまあ抜け抜けと。

「……あら」

 わたしは小首をかしげ、心底不思議そうに尋ねた。

「特に信仰を持たない悪役令嬢にも、そんなサービスがあるの?」

「は……?」

 僧兵長が呆気に取られた、その一瞬の隙。
 わたしは踏み込んだ。

「だったら、チップを弾んであげなくてはいけませんわね!!」

 ドォォォォンッ!!!

 わたしの右足が、石畳を踏み砕く。
 身体強化フルパワー。
 わたしは足元の影から『仏罰(物理)』を取り出した。
 すなわち、相棒『漆黒の玉座オリジン』。

「これがわたしの『お布施』よッ!!」

 ズガンッ!!!

 横薙ぎに一閃された玉座が、僧兵長の構えた薙刀を飴細工のようにへし折り、そのまま彼の横っ面を捉えた。
 彼はコマのように回転しながら吹き飛び、山門の太い柱に激突した。

 メリメリメリッ……ズドーン!

 轟音と共に柱がへし折れ、立派な山門が屋根ごと崩落する。
 土煙が舞い上がる中、わたしは瓦礫の上に「玉座」を置き、優雅に足を組んで座った。

「ひ、ひぃぃッ!?」
「山門が……一撃で!?」

 残りの僧兵たちが腰を抜かす。
 わたしは鉄扇を開き、ニッコリと笑った。

「さて。……『仏罰』とやら、まだ在庫はあるのかしら? うちは『年中無休』で引き受けますわよ?」

『補足。……抵抗する場合は、衛星軌道上からの「質量弾投下」によるピンポイント爆撃もオプションとして用意されています』

 イリスが無慈悲な提案を付け加える。

「い、いやぁぁぁ! 助けてくれぇぇ!」
「悪魔だ! 本物の羅刹だぁ!」

 僧兵たちが武器を捨てて逃げ惑う。
 勝負ありだ。

「……ミリア、アリス。あとは任せたわ」

「はいッ! 回収班、突入します! 隠し財産、1ベルたりとも見逃しません!」
 ミリアが黒鉄隊(運搬係)に指示を飛ばし、雪崩れ込んでいく。

「も~、レヴィちゃんったら派手すぎだよぉ……。怪我人は……そりゃいるよね。治癒魔法かけとくよ~」
 アリスが苦笑しながら、気絶した僧兵たちに杖を振るう。

 こうして、悪徳寺社の「物理的浄化」は、滞りなく(破壊的に)遂行されたのだった。

 ◆

 その夜。
 オワリ城下の一等地にそびえ立つ、V&C商会仮設本店。その最上階にある役員専用テラスは、心地よい夜風と、勝利の美酒の香りに包まれていた。

 眼下には、復興が進むオワリの城下町が広がっている。
 かつては漆黒の闇に沈んでいた街並みも、今は魔導ランプの明かりが星の海のように煌めき、夜遅くまで笑い声が絶えない。

「……随分と、様になってきたわね」

 わたしはテラスの手すりに寄りかかり、手にしたワイングラスを軽く揺らした。

「うん。……みんな、笑ってるよ」

 隣に並んだアリスが、ホットミルクの入ったマグカップを両手で包み込みながら、嬉しそうに目を細めた。

「もう、飢えに苦しむ子供の声は聞こえない。……お母さんが子供を売らなきゃいけないような、悲しい夜は終わったんだね」

 アリスの声が、少しだけ震える。
 彼女が立ち上げた「豊穣慈愛講」は、今やトヨノクニ全土に支部を持ち、孤児院や寺子屋を通じ、万に届くほどの子供たちを保護・育成している。

「ええ。収支も完璧ですよ。……今日の『回収』だけで、向こう三ヶ月分の運営費が賄えます」

 反対側から、パチンと魔導計算機電卓を弾く音が響いた。
 ミリアだ。彼女は分厚い革表紙の帳簿を愛おしそうに抱きしめ、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせている。

「寺子屋で読み書き算術を覚えた子供たちは、将来V&C商会の優秀な店員になります。体力をつけた若者は黒鉄隊や建設作業員となり、給料を得て、また我々の商品を消費する。……『情けは人のためならず』とは、実に合理的な経済循環の真理ですね」

 ミリアがニヤリと笑う。
 彼女の手腕がなければ、アリスの理想はただの夢物語で破綻していただろう。

 そして、その頭上には、青白い光の粒子が集まり、古代知性体人工知能イリスの姿を形作っていた。

『報告。現在のトヨノクニにおける幸福度指数は、過去100年で最高値を更新。犯罪発生率は98%減少』

「ふふ、イリスも随分と『人間くさい』データを取るようになりましたね」
『否定。私はあくまで効率を……訂正。マスターたちの活動が、数値以上の結果を出していることに興味があります』

 イリスもまた、わたしたちのチームに欠かせない頭脳だ。

 わたしは、グラスの中のワインを飲み干し、ふっと笑った。

「……ねえ、二人とも。それにイリス」

 わたしは空いたグラスを置き、くるりと向き直った。
 アリスとミリアが、不思議そうにこちらを見る。

「正直に言うわ。……わたし一人じゃ、ここまで来られなかった」

 わたしは自分の手を見つめた。
 この手は、敵を殴り、山を崩し、岩盤を穿つことはできる。
 けれど、傷ついた子供の心を癒やすことはできない。複雑な経済の糸を紡ぎ合わせることもできない。

「わたしが『切り開き』、アリスが『種を撒き』、ミリアが『収穫する』。……この役割分担トライアングルがあったからこそ、この国は救われたのよ」

 わたしの言葉に、二人は顔を見合わせた。
 そして、照れくさそうに、けれど誇らしげに笑った。

「もう、レヴィちゃんったら。……切り開くっていうか、『更地にする』って感じでしょ?」
 アリスがいたずらっぽく笑う。

「そうですね。……私が収穫できるのは、レヴィーネ様が害虫悪党を完全に駆除し、市場を守ってくださるおかげです」
 ミリアもまた、帳簿を閉じて微笑んだ。

「それに、私一人では計算だけで終わっていました。アリスさんの『想い』がなければ、人は動きません。レヴィーネ様の『暴力』がなければ、理不尽に潰されていました。……私たちは、三人で一つの『会社』なのです」

 そう。誰が欠けてもいけない。
 武力だけでは恐怖政治になる。理想だけでは無力な慈善事業になる。利益だけでは冷酷な搾取になる。
 三つの異なる色が混ざり合い、補い合うことで、初めてトヨノクニという巨大な絵画が描かれているのだ。

 わたしは、近くにあったワインボトルを手に取り、三人のグラス(とカップ)に注いで回った。

「じゃあ、誓おっか! ……これからも、三人で! この国をもっともっと、美味しくて楽しい場所にするって!」

 アリスがカップを掲げる。

「ええ、いいわね。……邪魔する奴は、神様だろうが運命だろうが、全員星にしてあげる」
 わたしがグラスを掲げる。

「はい! その際に発生する修理費と慰謝料は、私が敵から骨までしゃぶって、倍額回収します!」
 ミリアもグラスを掲げる。

 カチン!

 澄んだ音が、夜空に響き渡った。
 それは、ただの乾杯ではない。新しい時代の覇者たちによる、鉄の結束の誓い。
 わたしたち「黄金のトライアングル」は、こうして完成したのだ。
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