悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~

第162話 緑の轍(わだち)と砂漠の掟:黒き道は、死の砂海を緑に変えて

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 西方連邦の港町を出発してから、気がつけば三度目の冬が過ぎようとしていた。
 かつて、魔素溜まりと乾燥により「死の砂海」と恐れられたアストライア砂漠。
 だが今、わたしが座る『監督壱型ディレクター・ワン』の上から振り返れば、そこには地図を書き換える光景が広がっていた。

 地平線の彼方まで一直線に伸びる、黒く輝く舗装道路――通称『黒鋼大回廊クロム・コリドー』。
 その両脇には、瑞々しい草原と、規則正しく点在するオアシス都市が、まるでネックレスの宝石のように連なっていた。

「……3年、ですか。随分と遠くまで来ましたわね」

 わたしは扇子で口元を隠し、眼下に広がるキャラバンの隊列を見下ろした。
 そこには、トヨノクニの「黒鉄組」だけでなく、職を求めて集まった西方の労働者、砂漠の遊牧民、そして各種族が入り混じっている。
 総勢数万人。もはや「一行」ではなく、移動する「都市」ですらない。移動する「多国籍国家」だ。

「レヴィーネ様、第23街区より定期報告です」

 ミリアが、タブレット端末(イリス製)を操作しながら歩み寄ってきた。
 彼女の執務能力は、この3年でさらに磨きがかかっている。移動しながら複数の都市運営をこなすその手腕は、既に一国の宰相レベルだ。

「現地の部族長より、井戸の管理と農地拡大への感謝状が届いています。……また、西方からの移民と現地民の間で『羊の放牧地』を巡る小競り合いがありましたが……」

「ありましたけれど?」

「はい。『砂漠大一番(プロレス)』にて解決済みとのことです。勝者は移民側。部族側も『良いバックドロップだった』と納得し、宴会に移行したそうです」

「よろしい。……すっかり秩序ルールが浸透していますわね」

 わたしは満足げに頷いた。
 わたしたちのキャラバンの掟はシンプルだ。
 『来る者拒まず、去る者追わず』。
 ただし、水利権や利権の独占は許さない。水と安全は、掟を守るすべての民に平等に与えられる。
 その上で、どうしても譲れない揉め事はリングの上で、不殺の掟の下に決着をつける。
 このシンプルかつ野蛮なルールこそが、多様な人々を繋ぐかすがいとなっていた。

 道路沿いには、黒鉄組が建造した地下水路『カナート』が張り巡らされ、冷たい水が絶えず流れている。
 それは、アリスとエルフ、そして巫女連の子供たちの魔法によって浄化され、緑を生み出す命の水だ。
 死んでいた砂漠は、わたしたちが歩いた跡から順に、緑豊かな草原へと生まれ変わっていた。
 振り返れば、そこにはわたしたちが生きた証としての「緑の轍」が続いている。

『……だけんど、姐さん。楽な旅はここまでみてゃあだがね』

 先頭車両に乗るヒデヨシから、硬い声で通信が入る。
 前方を見れば、これまでとは異質の、濃密で毒々しい色の霧――高濃度の魔素ミアズマが立ち込めているのが見えた。
 大陸中央に近づくにつれ、空間そのものが重く、歪んでいる。

「魔素濃度、上昇中。……通常の生物なら、数分で廃人になるレベルですわね」

 わたしが呟くと、アリスがすっと前に出た。
 その手にはスマートフォンが握られ、デメテルからの解析データが表示されている。

「……デメテルちゃんが言ってる。ここから先は、1000年前の戦争で使われた兵器の汚染が一番ひどい場所だって。……植物たちも、怖がって根を張れないみたい」

「アリス、結界の出力は?」

「大丈夫、全開で行くよ! ……『聖域展開・楽園の加護エデン・プロテクション』!」

 アリスが杖を掲げると、キャラバン全体を包む巨大な光のドームが展開された。
 エルフたちや巫女連も呼応し、浄化の詠唱を重ねる。
 進軍速度は落ちる。だが、わたしたちは止まらない。
 一歩ずつ、確実に、魔素を押し退けながら進んでいく。

 そして、数日後。
 濃霧が、不意に晴れた瞬間だった。

「…………あっ」

 誰かの、息を呑む音が聞こえた。
 重機のエンジン音が止まる。
 人々の話し声が消える。
 目の前に現れた「それ」の、あまりの絶望的なスケールに、数万人が言葉を失ったのだ。

 ――大断裂帯。

 それは、大地に刻まれた巨大すぎる「亀裂」だった。
 幅は数キロメートル。対岸は霞んで見えない。
 そして深さは、底が暗闇に飲まれて視認できないほどの奈落。
 まるで、惑星そのものが巨大な斧で叩き割られたかのような、物理的な「終わり」の景色。

「……まっこと、大きいなんちゅうレベルじゃねぇぜよ……」
「大陸が……割れとるがね……」

 リョウマやヒデヨシでさえ、その圧倒的な光景に立ち尽くしていた。
 橋を架ける? トンネルを掘る?
 不可能だ。ここにあるのは、人間の尺度を超えた、神話級の断絶。
 3年かけて積み上げてきた道が、ここでプッツリと途切れる。

 眼前に広がるのは、ただ圧倒的な虚無と、底から吹き上げてくる死の風のみ。
 わたしは玉座から立ち上がり、断崖のへりへと歩み出た。
 風が、黒いドレスを激しく煽る。

「…………」

 わたしは無言で、その傷跡を見据えた。
 その瞳に映るのは、絶望か、それとも――。
 旅の終着点は、世界の終わりと共に、わたしたちの前に立ちはだかっていた。
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