禁断-兄妹愛- ≪18禁≫

フジキフジコ

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第二章≪Kiss≫

2.いつか王子様が

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3年になったクラス替えで、翔平とは同じクラスになれたけど未来ちゃんは違うクラスだった。
最後の高校生活を三人で一緒のクラスで送りたかったのに、残念。

初日は始業式とホームルームだけで、帰宅になる。

未来ちゃんが始業式が終わってホームルームが始まる前の休み時間にわたしのクラスに来て、「今日はバイトがあるから先に帰るね」と言った。

未来ちゃんは高校生になってから、駅前のドーナツ屋さんでアルバイトをしている。
「花音も一緒にやらない?」
と誘ってくれたけど、お母さんにアルバイトは駄目って言われた。

未来ちゃんと校庭を見下ろせる窓際に立って、話をした。
「あーあ、わたしだけクラスが違うなんてサイテーだよ。でも、翔平、花音と同じクラスになれて嬉しいだろうなあ」
未来ちゃんがそんなことを言った。
「うん、わたしも嬉しいよ」
「バカだね、そういう意味じゃないよ。翔平はずっと、花音のこと好きだからねー」
「えっ!そんなことないと思うよ。未来ちゃんとわたしと翔平は三人組でしょう。それに、翔平から好きなんて言われたことないよ」

未来ちゃんは物知り顔でうんうんと頷いた。
「翔平はね、諦めちゃってるから。花音は高嶺の花だって、わかってるんだよね」
「高嶺の花?おかしいよ、そんなの。同じ団地で育ったんだよ?同じだよ」

未来ちゃんは目を細めて、わたしを見た。
未来ちゃんはときどき、同級生じゃなくて、お姉さんみたいな顔をする。
「花音は自分が他人からどう見られているか、ちっともわかってないんだね。まあ、おばさんが過保護で厳しかったせいもあるけど。だけど、逆にそれがまた、なーんにも知らない深窓の令嬢みたいな雰囲気になってるの。花音の前にはいつか、白馬に乗った王子様が迎えに現れるって、翔平は思ってるし、わたしもそう思う」

高嶺の花とか深窓の令嬢とか、あげくに白馬の王子だとか、未来ちゃんはおかしなことばかり言う。
「でも、翔平が彼女つくらないのは、諦めきれないからだと思うんだ。だって翔平って、すごくモテるじゃない?」
「そうだね」

翔平は小学生のときから野球をやっていて、スポーツ万能で、背も高いし、女の子には人気があった。
バレンタインとか、チョコをたくさんもらってた。
もちろんわたしも未来ちゃんも、トモチョコをあげたけど。

翔平のことを好きな女の子からしたら、翔平が「白馬の王子様」だと思うよ。
未来ちゃんに、そう言おうかと思ったけど、未来ちゃんは「じゃあね!」と言って出て行った。

教室を出て行く前に、翔平に「翔平、花音のこと、ちゃんと駅まで送りなよ!」と叫ぶように言って。



***



未来ちゃんに言われたせいか、翔平が駅まで送ると言ってくれた。

「でも翔平、部活はいいの?」
翔平は野球部に所属していて、2年生の後期から部長をしている。
小学生の頃からずっと野球をしている翔平は、バッターとしての実力はあるけど、残念ながらうちの高校の野球部は甲子園に出場出来るレベルではない。
それでも去年の夏の大会では、予選の都大会でベスト8に入った。

「さすがに始業式の日までねーよ。さあ、帰るぞ」
「うん」

団地に住んでいたときは、高校まで徒歩通学だった。
兄のマンションからだと電車で1時間ちょっとかかる。
高校のある町は都内といっても23区内ではなくて、かなり西の方で、兄のマンションは都心のベイエリアだ。

「花音、電車通学なんてしたことなかっただろ。今朝、大丈夫だったか?」
「えっと…う、うん、だ、大丈夫だったよ?」
「おまえ、嘘ついてるな。なにがあった?」

ギクっ。
もともと嘘は得意じゃないけど、とくに翔平と未来ちゃんには、わたしの嘘は通じない。

「…あの、ね…痴漢…」
「痴漢?!」
「ちょっと、翔平!声が大きいよ」

そのとき、すぐ横に停車していた車のクラクションが鳴った。
見覚えのない、大きな車から降りて来たのは兄だった。

「お、お兄ちゃん?!どうして、ここに?!その車どうしたの?」
「安心しろ、国産車のしかも中古車だ」
「中古車って…」

わたしが突然現れた兄に驚いていると、翔平は兄の乗っていた車に近寄って、「うわあ!」と奇声をあげた。
「こ、これ、初期のトヨタS2000GTだ!すげえ、はじめて見た」

「え、なに翔平、珍しい車なの?」
「ビンテージ車だよ。マンション買えるくらいには高いはず」

わたしは兄を睨んだ。
「また、中古車屋さんで一番高い車って、言ったの?お兄ちゃん、無駄遣いが、過ぎるよ。いくらお金持ちだって、車はそんなふうに買うものじゃないよ」

兄はわたしの言葉なんか聞いていない様子で、翔平に近寄った。
「君が翔平君かな?はじめまして、花音の兄の、奏です」
西洋人みたいにさっと右手を差し出して言うから、翔平は面食らっている。

「は、はじめまして。橋本翔平です」
「ところで、今、痴漢がどうとか言ってなかった?」

兄がそう言って、翔平もそうだった、という表情をして、二人揃ってわたしを見た。
「花音、今朝電車で痴漢にあったのか?」

うー、兄には知られたくなかったけど、こうなったら仕方ない。
「痴漢っていっても、お尻を少し触られただけで。あ、もしかしたら、わたしの勘違いかもしれないし…」

兄の表情が険しくなった。
「だから、送り迎えすると言ったんだ。今後、電車通勤は禁止だよ」
「お兄ちゃん…」

なぜか、翔平も大きく頷いている。
「お兄さんに送ってもらったほうがいい。駅まで歩くのだって、ナンパやスカウトに声かけまくられてんだから」

翔平が余計なことを言って、また一段と兄の表情が険しくなった。




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