辿り着いた先はヒロインとの友情エンド。しかし、それも悪くありません。

花草青依

文字の大きさ
2 / 12

2 ブルーナ(1)

しおりを挟む
 ファビオ殿下によるアデリーナ様への婚約破棄事件から半年が経った。
 あの騒動の直後、二人の婚約はすぐに解消された。大衆の前で娘が恥を掻かされた事にアデリーナ様のご両親は烈火の如く怒ったそうだ。
 だから、王家は多額の賠償金を支払う事で、あの事件を水に流すように促したそうだ。彼女のご両親はそれを受け入れたから、何とか大事に至らなかったそうだけれど。
 当然、ファビオ殿下は国王陛下の怒りを買った。騒ぎを起こした事の責任として、廃嫡をされたのは勿論の事、王都から遠く離れた僻地に飛ばされたのだ。

 こうして、私とアデリーナ様に平和な毎日が訪れた・・・・・・と、言いたいのだけれど。現実はそんなに甘くなかった。
 アデリーナ様はファビオ殿下との婚約をあっさりと受け入れた事をご両親からこっぴどく叱られたそうだ。何でも、「お前達の結婚は家門に多大なる利益をもたらすはずだったのに」というような事を言われたらしい。

「ああ、腹が立ちますわ! 絶対にファビオ何かより良い人を掴まえてお父様達を見返してやるんだから!!」

 アデリーナ様は、お茶の席で、そう高らかに宣言した。そんなアデリーナ様を私は応援したかった。けれど、人脈もなければ権力もない子爵家の小娘にできることはほとんどないに等しい。
 しかし、他の人はそう思わなかったらしい。私をアデリーナ様のお気に入りと認識した彼らは、私に近付いて来るようになった。そして、アデリーナ様の新たな婚約についての探りを入れようとするのだ。人によっては、私に取り入ってアデリーナ様への求婚をとりなすようにと促してきた。
 そんな彼らの要求を私は頑なに拒み、私の実態を懸命に説明し続けた。
「私はアデリーナ様のただのお話相手の一人に過ぎません。アデリーナ様が私を寵愛していると勘違いされているようですが、そんな大それた評価をされましても、お役に立てることはございませんわ」
 丁寧に断ると、それ以降、彼らからの連絡はパタリとなくなる。彼らの目的はアデリーナ様へのアプローチなのだから当然なのだけれど・・・・・・。「私」に興味を持って関わってくれる人がいないのだと思うと、何だかやるせない気持ちにさせられた。

 しかし、たった一人だけ、他とは違う反応をする人がいた。
 最初のうちは、他の人たちと同じようにアデリーナ様の好みや婚約の話の進捗について尋ねてきた。だから、彼もまたその類の人なのだと思っていた。
 でも、彼は何度断っても懲りずに訪ねてくるのだ。そんな彼の姿に、やがて違和感が生まれた。
 私に取り入るためであろうプレゼントは、金銀財宝ではなく、花やお菓子だった。話しかけてくる内容は段々と雑談が増えていって、それは、まるで、ただ話したいだけのようにも思えなくもなかった。
 何がしたいのかまるで分からない人。そんな彼は、今日も我が家に押しかけてきた。

「ごきげんよう、ブルーナ嬢」
「・・・・・・また来たんですか?」
 私がため息混じりに言うと、ジーノ卿はまるで当然のように微笑んだ。
「ええ、来ました」
「何度も説明しましたが、私からあなたのご主人様にあげられる有益な情報は何一つないのです。いい加減、もう情報収集は終わらせて下さい」
 ジーノ卿の主人であるマルコ侯爵子息は、アデリーナ様にとても懸想されている。美しいアデリーナ様に本気で恋慕っているらしく、何としてでも彼女と結婚したいようだ。それで、私のもとに従者であるジーノ卿をしつこいくらい派遣してきているのだろう。

 マルコ侯爵子息は、見目麗しい上、彼に対する悪い噂を私は聞いたことがなかった。アデリーナ様と並べばお似合いのカップルになる事は間違いない。
 だから、私は、彼の恋が実ればいいと思っている。
 しかし、一方で、私は何度もやってくるジーノ卿に対してうんざりしていた。

 ━━主人に対して忠実なのは素晴らしい事よ。でも、こんなに我が家に通われたら、また変な噂が立っちゃうわ。

 ファビオ殿下のせいであんな事になったのに、また変な噂が立つのは嫌だった。もう二度とあんな思いはしたくない。そう思ったから、少しキツい言葉で帰るように促したのだけれど。ジーノ卿はしゅんとした顔で私を見つめてきた。
「情報収集という建前がないと、ブルーナ嬢に会えませんから」
「・・・・・・は?」
 思ってもみない彼の言葉に、私は戸惑ってしまった。
「ブルーナ嬢は俺がデートに誘っても頑なに拒否するじゃないですか」
「デート? 何ですか、それ?」
「とぼけるなんて酷い人だ。お茶の誘いを何度も断っておいて」

 ━━あのお誘いはアデリーナ様の事を探るためのものじゃなかったの?

 よくよく考えれば、最初の頃はアデリーナ様のことを探っている様子だったけれど・・・・・・。いつの間にか私に関する質問が増えた気がする。そして、最近ではアデリーナ様の事よりも、私のことばかり聞いてくるのが当然になっていたのだ。

「もう、マルコ様のために動いていないと?」
「ええ。俺は自分の意志であなたに会いに来ていましたから」
「……っ!」

 心臓が跳ねる音が聞こえた。

 ジーノは当たり前のように私の隣に座り、そっと私の髪を指先で遊ばせるように撫でた。
「ねえ、ブルーナ嬢」
「な、なに?」
「僕のこと、意識してます?」
「・・・・・・してないですっ」
「じゃあ、どうしてこんなに耳が赤いんですか」
 私は声にならない声をあげて耳を押さえると、ジーノは満足そうに笑った。
「やっぱり可愛いですね」
「からかうなら帰って下さい!」
「からかってなんかいませんよ?」
 彼の手が私の頬に触れる。驚いて顔を上げると、ジーノの瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。
「好きです、ブルーナ嬢」
「・・・・・・っ!」
「最初は、あなたの想像する通り、主人のために動く従者としてあなたに近づきました。でも、今は違います。俺はただ、あなたに会いたくてここに来ています」
 彼の指が私の髪を優しくすくい、唇に軽く触れる。
「ずるいわよ、あなた」
「ずるい男だと思われてもかまいません。あなたが困る顔も、照れる顔も、全部見たいんです」
 ジーノは私の手を引いて、抱き寄せる。
「逃げないでくださいね」

 彼の体温が私を包む。
 心臓の音が、大きく響いていた。この音は、どちらの物なのだろう。

 ━━もう、結婚はおろか、まともな恋愛すらできないと思っていたのに。

 私は、目を閉じて彼の温もりを受け入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢としての役目を果たしたので、スローライフを楽しんでもよろしいでしょうか

月原 裕
恋愛
黒の令嬢という称号を持つアリシア・アシュリー。 それは黒曜石の髪と瞳を揶揄したもの。 王立魔法学園、ティアードに通っていたが、断罪イベントが始まり。 王宮と巫女姫という役割、第一王子の婚約者としての立ち位置も失う。

悪役令嬢は婚約破棄されてからが本番です~次期宰相殿下の溺愛が重すぎて困っています~

usako
恋愛
侯爵令嬢リリアナは、王太子から公衆の面前で婚約破棄を告げられる。 「あなたのような冷酷な女と結婚できない!」 そう断罪された瞬間――リリアナの人生は終わりを迎えるはずだった。 だが彼女は知っている。この展開が“破滅フラグ”だと。 生まれ変わりの記憶を持つ彼女は、今度こそ幸せを掴むと誓う。 ところが、彼女を拾ったのは冷徹と名高い次期宰相殿下シオン。 「君は俺の庇護下に入る。もう誰にも傷つけさせない」 傲慢な王太子にざまぁされ、愛しすぎる殿下から逃げられない―― 運命に抗う令嬢と、彼女を手放せない男の甘く激しい恋の再生譚。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう
恋愛
推し活女子と爽やかすぎる隣人――秘密の逢瀬は、推し活か、それとも…? 引っ越し先のお隣さんは、ちょっと優しすぎる爽やか青年。 今どき、あんなに気さくで礼儀正しい人、実在するの!? 私がガチのアイドルオタクだと知っても、引かずに一緒に盛り上がってくれるなんて、もはや神では? でもそんな彼には、ちょっと不思議なところもある。昼間にぶらぶらしてたり、深夜に帰宅したり、不在の日も多かったり……普通の会社員じゃないよね? 一体何者? それに顔。出会ったばかりのはずなのに、なぜか既視感。彼を見るたび、私の脳が勝手にざわついている。 彼を見るたび、初めて推しを見つけた時みたいに、ソワソワが止まらない。隣人が神すぎて、オタク脳がバグったか? これは、アイドルオタクの私が、謎すぎる隣人に“沼ってしまった”話。 清く正しく、でもちょっと切なくなる予感しかしない──。 「隣人を、推しにするのはアリですか?」 誰にも言えないけど、でも誰か教えて〜。 ※「エブリスタ」ほか投稿サイトでも、同タイトルを公開中です。 ※表紙画像及び挿絵は、フリー素材及びAI生成画像を加工使用しています。 ※本作品は、プロットやアイディア出し等に、補助的にAIを使用しています。

捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——

usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。 傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。 心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。 そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。 「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」 ──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...