辿り着いた先はヒロインとの友情エンド。しかし、それも悪くありません。

花草青依

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3 アデリーナ(2-1)

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 運命なんて、信じない。

 だって、運命というものが本当に存在するのなら、ファビオとブルーナは結ばれていたはずだから。
 でも、ゲームのシナリオ通りに事は進まなかった。ブルーナはファビオの事を愛さなくて、あの日にこっぴどく振ってしまったのだ。

 だから、私はこのチャンスを逃さない。

 ゴメス侯爵が、息子の結婚相手の候補として私に関心を寄せている。そんな噂を耳にした時、私は悪くない話だと思った。私はゴメス侯爵子息━━マルコ・ゴメスの事をよく知っているのだから。

 マルコは、かつての私がプレイしていた恋愛ゲームにおいて、主人公に最も優しい微笑を向ける攻略対象だった。誠実で、真面目で、放っておけないほどお人好しな性格は多くのプレイヤー達の心を射止めた。
 そして、かつての私も、彼の事が大好きだった。彼の事が好きすぎて彼のエンディングを見るために何度ゲームをプレイしたことか。それゆえに、ゲームの記憶の大半は、マルコに関するものばかりだった。そのおかげで、今の私は彼の性格を骨の髄まで理解している。例え、現世で彼とほとんど接点を持っていなかったとしても、だ。

 そんな彼と、私は偶然にも鉢合わせした。
 家族に隠れて街に買い物に出てきて、従者も付けずに一人で無計画な買い物をした。その結果、重い荷物を自分で持つ羽目になってしまった。

「重そうですね。手を貸しましょうか?」

 荷物を運ぶのに四苦八苦していると、声を掛けてきたのがマルコだった。思わぬ人物の登場に、私は驚きつつも、挨拶をした。
「ごきげんよう、マルコ様」
「俺をご存知でしたか、アデリーナ嬢」
「勿論。秀才で立派なゴメス家の跡取りを知らない人間がこの国にいるでしょうか」
「・・・・・・社交辞令だと分かっていても、こうも真っ直ぐに褒められると嬉しくなるものだね」
 そう言ってはにかむと、彼は私の抱える荷物を持ってくれた。

「ありがとうございます。少し、調子に乗って買いすぎてしまって・・・・・・」
 わざと情けない笑みを浮かべてみせると、マルコは「本当だね」と言って、困ったように微笑んだ。

 ━━懐かしい。

 ゲームの中で、彼が主人公ブルーナに向けていたあの優しい笑み。だけど、今は私に向けられている。心の奥から優越感が湧き出した。

「ところで、アデリーナ嬢。従者は連れて来なかったのですか」
「ええ。息抜きがしたくて一人で出かけたのです」
「気持ちは分かりますが、それは関心できませんね。女性の一人歩きには危険が伴いますから」
 咎める言葉から、私を心配する気持ちが感じられる。彼の紳士的な一面をこうして垣間見れて、ゲームの中の彼と同じなんだと安心した。
「マルコ様こそ、こんな街中にお一人で? 危なくはありませんか?」
「俺はきちんと対策をしているんです。今の格好は貴族に見えないでしょう?」
「ええ。まるで平民みたいですね。質素な服を着る事でトラブルに巻き込まれないようにされているのですか」
 尋ねるとマルコは「そうです」と答えた。
「しかし、変装じみた事をしてまでなぜ街に?」
「深い意味はないんです。ただ、家にいると息が詰まってしまって・・・・・・。だから、こうして時々散歩するんです」

 ━━そうね、あなたはそういう人だもの。

 彼は屋敷に籠もりがちな父親と違って、外の空気を好む人だった。活気のある場所に行って、様々な人々と交流する事で、「ゴメス家の跡取り」というプレッシャーから一時的に逃れるのだ。
 私は彼の弱さを知っている。彼がひた隠しにする姿が、むしろ人間臭くて好きだった。

「同じですね、私達」
 そう言うと、マルコは少し驚いていた。
「何が、でしょう?」
「言ったじゃないですか。私も息抜きに出たのだと。こうして街の中に一人で出て人と交流すると、私の悩みは大したことがないと認識できるんです」
 そう言うとマルコはぱっと明るい顔になった。
「今日、この時間に街に出て本当に良かったよ」
「ええ、私もそう思いますわ。運命に感謝ですね」
 「運命」という言葉をあえて使ってみる。マルコが、その手のロマンチックな表現に弱いからだ。

「運命・・・・・・ですか?」
「ええ。だって、偶然にしては出来すぎですもの」
「・・・・・・そうですね。運命だとしたら、悪くない」

 ━━上手くいったわ。

 私の言葉が、彼の心に引っかかりを残した。これがやがて波紋のように広がり、恋へと変わっていくだろう。

 彼は荷物を持って、しばらく一緒に歩いてくれた。どこまで行くのかと尋ねられた時、私は甘えるように、上目遣いで言った。
「実は、ずっと買い物に集中していましたから歩き疲れてしまったんです。どこかで甘い物でも食べながら一息つけたらって思っていたところなんですけど・・・・・・」
 マルコが微笑んで口を開いた。
「近くに僕のおすすめの菓子店があるんです。そこなら落ち着いて座れますよ。よければご一緒にどうでしょう?」
 予想通りの反応だった。優しいマルコが女性を一人残していくはずなどないのだ。
 私は微笑み返した。
「それは嬉しいです。ぜひ、案内していただけますか?」

 こんな風に少しずつ、マルコの心を私のものにする。
 これはゲームじゃない。システムに縛られているわけでもエンディングにいたるまでの期間があるわけでもない。

 ━━焦る必要はないわ。

 私は自分にそう言い聞かせて、彼の隣を歩いた。
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