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4 アデリーナ(2-2)
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4 アデリーナ編2-2
※
連れられてやって来た菓子店は、マルコの言っていた通り、とても落ち着ける場所だった。
「素敵なお店ですね」
「でしょう?」
誇らしげなマルコの笑顔に、私は不覚にもキュンとしてしまった。何となくそれが気恥ずかしくて、私は白いレースのカーテン越しに窓の外を覗くふりをした。
「今日は日射しが温かいですね」
私の気持ちに気づいていないであろうマルコは何の気なしにそう言った。
「ええ」
私は短く返事をして、窓の外を見続ける。
そんなやりとりをしていると、テーブルに紅茶とケーキが運ばれてきた。
ふわふわのスポンジに、甘酸っぱい木苺のソースがたっぷりかけられた見るからに美味しそうなケーキ。マルコが言うには、人気のメニューらしい。
「このケーキ、見た目もかわいらしいですね」
そう言うと、ケーキを一口運んで、わざとらしくない程度に目を丸くした。
甘いものに弱いという“乙女らしい”一面を、さりげなく演出したつもりだ。
「どう? 美味しい?」
「ええ。・・・・・・本当に、美味しいですわ」
「良かった。俺もここに来ると、ついこれを頼んでしまうんです」
マルコの自然な笑顔と少し和らいだ声。それは彼が私に心を開き始めている証拠だろう。
━━ここからが肝心だわ。
私は笑顔を作った。
「マルコ様って、意外と甘いものがお好きなんですね?」
「はい。実は子どもの頃から、母が焼いてくれたケーキが大好きで。最近は母も忙しくなり、焼いてくれる機会はめっきり減りましたが」
「まあ、素敵。お母様のケーキはとても美味しいんですね」
言い終わる前にマルコは首を振った。
「いいえ。それがそんなに美味しくないんです」
━━知っているわ。
それは、ゲームの中で、マルコがブルーナに語って聞かせた事の一つだった。
でも、それを私が知っているはずがないから、初めて聞いた事のように驚いてみせる。
「それなら、どうして好きなんです?」
「味が、というよりも母が俺のために焼いてくれた事が嬉しかったんです。だから、今も、ケーキが好きなのは、味がどうこうというより、あの頃の思い出が・・・・・・」
マルコの声が尻すぼみになった。言っていて恥ずかしくなったのだろう。そんな彼に私は明るい笑顔を向けた。
「ご家族との思い出を大事にされているんですね。マルコ様が優しい方なのだと良く分かりましたわ」
彼の瞳が一瞬揺れた。そして、照れたように視線を逸らした。
でも、その反応すら、予測の範囲内だった。
「アデリーナ様は、ご家族と仲が良いのですか?」
その質問には、一瞬だけ本音がよぎる。
ファビオとの婚約破棄の件で我が家の親子関係はぎくしゃくしていた。新しい婚約者選びを急ごうとする彼らに、私はうんざりとしている。家の利益が大切なのは分かるけれど、それでも私の気持ちを少しは考えて欲しかった。
私のそんな気持ちを彼に見せてはいけない。見せるとしても、ほんの少しでいい。
「・・・・・・昔ほどではありません。この間の婚約破棄の件で家族を落胆させてしまいましたから」
「それは、まあ・・・・・・」
「でも、父や母の言い分も理解できるのです。彼らは私の幸せを本気で考えてくれていますから。だからこそ、私は私の道を探したいのです」
「『私の道』、とは?」
「それは、その・・・・・・。伴侶となる人を自分で選びたい、という意味なのですが。・・・・・・やっぱり、マルコ様も私を変わり者だと思いますか」
沈黙が落ちる。
マルコは真剣な表情になり、私を見据えた。
「いいえ。素敵な考えの持ち主だと思います」
それからマルコは何事もなかったかのようにケーキを一口食べた。私も彼に倣ってケーキを食べる。
静かな午後の時間が流れる。この沈黙は、心地良いものだった。そう思ったのは、私だけではないはずだ。
「アデリーナ嬢とこうして話すのは、初めてなのに。でも、不思議と落ち着きます」
「私もです。もっと早く、交流を持つべきでした」
目を見て微笑んで、ゲームの中のヒロインがそうしたように、私もその台詞を言った。そうすると、マルコの視線が、少し長く私を捉えた。
彼の心がこちらに傾いたのを、私は感じ取った。
━━この出会いを「運命」だと思わせるために、私はこれからも演じ続ける。
これからもっと、本気で惚れさせてみせる。そして、私は彼との幸せを掴むのだ。
※
連れられてやって来た菓子店は、マルコの言っていた通り、とても落ち着ける場所だった。
「素敵なお店ですね」
「でしょう?」
誇らしげなマルコの笑顔に、私は不覚にもキュンとしてしまった。何となくそれが気恥ずかしくて、私は白いレースのカーテン越しに窓の外を覗くふりをした。
「今日は日射しが温かいですね」
私の気持ちに気づいていないであろうマルコは何の気なしにそう言った。
「ええ」
私は短く返事をして、窓の外を見続ける。
そんなやりとりをしていると、テーブルに紅茶とケーキが運ばれてきた。
ふわふわのスポンジに、甘酸っぱい木苺のソースがたっぷりかけられた見るからに美味しそうなケーキ。マルコが言うには、人気のメニューらしい。
「このケーキ、見た目もかわいらしいですね」
そう言うと、ケーキを一口運んで、わざとらしくない程度に目を丸くした。
甘いものに弱いという“乙女らしい”一面を、さりげなく演出したつもりだ。
「どう? 美味しい?」
「ええ。・・・・・・本当に、美味しいですわ」
「良かった。俺もここに来ると、ついこれを頼んでしまうんです」
マルコの自然な笑顔と少し和らいだ声。それは彼が私に心を開き始めている証拠だろう。
━━ここからが肝心だわ。
私は笑顔を作った。
「マルコ様って、意外と甘いものがお好きなんですね?」
「はい。実は子どもの頃から、母が焼いてくれたケーキが大好きで。最近は母も忙しくなり、焼いてくれる機会はめっきり減りましたが」
「まあ、素敵。お母様のケーキはとても美味しいんですね」
言い終わる前にマルコは首を振った。
「いいえ。それがそんなに美味しくないんです」
━━知っているわ。
それは、ゲームの中で、マルコがブルーナに語って聞かせた事の一つだった。
でも、それを私が知っているはずがないから、初めて聞いた事のように驚いてみせる。
「それなら、どうして好きなんです?」
「味が、というよりも母が俺のために焼いてくれた事が嬉しかったんです。だから、今も、ケーキが好きなのは、味がどうこうというより、あの頃の思い出が・・・・・・」
マルコの声が尻すぼみになった。言っていて恥ずかしくなったのだろう。そんな彼に私は明るい笑顔を向けた。
「ご家族との思い出を大事にされているんですね。マルコ様が優しい方なのだと良く分かりましたわ」
彼の瞳が一瞬揺れた。そして、照れたように視線を逸らした。
でも、その反応すら、予測の範囲内だった。
「アデリーナ様は、ご家族と仲が良いのですか?」
その質問には、一瞬だけ本音がよぎる。
ファビオとの婚約破棄の件で我が家の親子関係はぎくしゃくしていた。新しい婚約者選びを急ごうとする彼らに、私はうんざりとしている。家の利益が大切なのは分かるけれど、それでも私の気持ちを少しは考えて欲しかった。
私のそんな気持ちを彼に見せてはいけない。見せるとしても、ほんの少しでいい。
「・・・・・・昔ほどではありません。この間の婚約破棄の件で家族を落胆させてしまいましたから」
「それは、まあ・・・・・・」
「でも、父や母の言い分も理解できるのです。彼らは私の幸せを本気で考えてくれていますから。だからこそ、私は私の道を探したいのです」
「『私の道』、とは?」
「それは、その・・・・・・。伴侶となる人を自分で選びたい、という意味なのですが。・・・・・・やっぱり、マルコ様も私を変わり者だと思いますか」
沈黙が落ちる。
マルコは真剣な表情になり、私を見据えた。
「いいえ。素敵な考えの持ち主だと思います」
それからマルコは何事もなかったかのようにケーキを一口食べた。私も彼に倣ってケーキを食べる。
静かな午後の時間が流れる。この沈黙は、心地良いものだった。そう思ったのは、私だけではないはずだ。
「アデリーナ嬢とこうして話すのは、初めてなのに。でも、不思議と落ち着きます」
「私もです。もっと早く、交流を持つべきでした」
目を見て微笑んで、ゲームの中のヒロインがそうしたように、私もその台詞を言った。そうすると、マルコの視線が、少し長く私を捉えた。
彼の心がこちらに傾いたのを、私は感じ取った。
━━この出会いを「運命」だと思わせるために、私はこれからも演じ続ける。
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