辿り着いた先はヒロインとの友情エンド。しかし、それも悪くありません。

花草青依

文字の大きさ
7 / 12

7 ブルーナ(2-2)

しおりを挟む



 そして、約束の日。
 今日は曇り空のせいもあって、少し肌寒い日だった。外の風が心なしか尖って感じられる。
 しかし、指定された喫茶店に行くと、その店内は温かった。
 甘い焼き菓子の匂いが鼻をくすぐる。私は席に着いて早々、頼む予定になかったお菓子を注文する羽目になった。

 テーブルの向かい側に座っているマルコ様は、既に注文していた紅茶を静かに口にしていた。
 その整った顔立ちを間近に見るのは初めてだったけれど、今日はどことなく険しい様な気がする。いつも遠くで目にしていたマルコ様は、優しい笑顔を浮かべている印象だったのに。今の彼は何かを考え込んでいるようだった。

「・・・・・・アデリーナ嬢のことなんだけど」
 私の紅茶とお菓子が届くと、すぐに、マルコ様は口を開いた。
「最近、何だか、表情や行動に違和感を覚えることがあって。・・・・・・何て言えばいいのかな。距離があるような、嘘を吐いているような・・・・・・。でも、かといって、悪意の様なものは感じられないし・・・・・・。とにかく、そんな気がすることがあるんだ」
「そう、なんですか」
 私は何と言っていいか分からず、言葉を探した。
「でも、それはマルコ様の思い違いではありませんか?」
 そう言うと、マルコ様は困ったように眉を寄せた。
「俺もそう思おうとした。でも、どうしても気になる時があって・・・・・・。彼女は誠実な人だと思っている。だからこそ、余計に、分からない。僕が何かを見落としているのかもしれないし、彼女が何かを隠しているのかもしれない・・・・・・」
 私はそっとカップを持ち上げ、紅茶に口をつけた。

 ━━アデリーナ様が何かを隠している、か。

 私が彼女をそんな風に思ったことは一度もなかった。
 でも、私が知っているのは、あくまで「友人としてのアデリーナ様」だ。男女の関係にあるマルコ様には、また違う一面が見えているのかもしれない。

「アデリーナ様はとても優しい方です。決して人を騙す様な悪い方ではありませんし、そういった噂を耳にした事もございません。その点につきましてはご安心下さい」
「うん」
「ちなみに、距離感があるとか、嘘を吐いているように見えるとか。そういうものはどういった時に感じられるのでしょう?」
「何と言うか、彼女は常に俺の顔色を伺っている様な気がするんだ。それに、話をしていると、時折、反応が嘘くさい時もあるし」
「それは、好きな相手だからこそ、そうなってしまうのでは?」
「そうだといいんだけどね」
 マルコ様は少し苦笑して、窓の外を見た。
 私も何の気なしに外を見ると雨が降っていた。

「雨、ですね」
「そうだね」
 私達の言葉に反応するかのように、雨は次第に激しくなっていった。
「これはしばらくここで雨宿りをした方がいいかな」
 彼はそう言いながら、メニューを手に取った。長居するのに紅茶一杯では申し訳ないと考えたのだろう。
 私は彼の様子を見ながら焼き菓子を頬張った。

 その時だった。
 喫茶店のドアベルが、カランカランと軽やかな音を立てて鳴った。そちらを向くと、そこに立っていたのはアデリーナ様だった。
 ずぶ濡れになっていた彼女は、店に入るなり、こちらを見て立ち尽くした。彼女の瞳が、私とマルコ様の間を行き来する。そして、その表情は凍りついていて・・・・・・。様子がおかしいのは一目瞭然だった。
「アデリーナ様?」
 声を掛けるとアデリーナ様はふっと笑った。それがいつもの笑顔とは違う、作り笑いなのだと、すぐに分かった。
「・・・・・・あら、ブルーナさん。マルコ様とご一緒だったのね」
 その声は静かだったけれど、どこか張りつめている。

 ━━もしかして、誤解されてる?

 そんなはずはない。だって、私とジーノが付き合っている事をアデリーナ様は知っている。その報告をした時、彼女は私に弾ける笑顔とともに祝福の言葉をくれたもの。
 それに、マルコ様のような紳士が私と釣り合うはずがなかった。今日、私が着ている服だって、清潔感はあるものの、古臭くて、とてもデートに適している服ではなかった。
 だから、こうして二人でお茶をしていたって私達が男女の仲に見えるはずがないのに。

 それなのに、アデリーナ様は踵を返し、店の外へと飛び出してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢としての役目を果たしたので、スローライフを楽しんでもよろしいでしょうか

月原 裕
恋愛
黒の令嬢という称号を持つアリシア・アシュリー。 それは黒曜石の髪と瞳を揶揄したもの。 王立魔法学園、ティアードに通っていたが、断罪イベントが始まり。 王宮と巫女姫という役割、第一王子の婚約者としての立ち位置も失う。

悪役令嬢は婚約破棄されてからが本番です~次期宰相殿下の溺愛が重すぎて困っています~

usako
恋愛
侯爵令嬢リリアナは、王太子から公衆の面前で婚約破棄を告げられる。 「あなたのような冷酷な女と結婚できない!」 そう断罪された瞬間――リリアナの人生は終わりを迎えるはずだった。 だが彼女は知っている。この展開が“破滅フラグ”だと。 生まれ変わりの記憶を持つ彼女は、今度こそ幸せを掴むと誓う。 ところが、彼女を拾ったのは冷徹と名高い次期宰相殿下シオン。 「君は俺の庇護下に入る。もう誰にも傷つけさせない」 傲慢な王太子にざまぁされ、愛しすぎる殿下から逃げられない―― 運命に抗う令嬢と、彼女を手放せない男の甘く激しい恋の再生譚。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう
恋愛
推し活女子と爽やかすぎる隣人――秘密の逢瀬は、推し活か、それとも…? 引っ越し先のお隣さんは、ちょっと優しすぎる爽やか青年。 今どき、あんなに気さくで礼儀正しい人、実在するの!? 私がガチのアイドルオタクだと知っても、引かずに一緒に盛り上がってくれるなんて、もはや神では? でもそんな彼には、ちょっと不思議なところもある。昼間にぶらぶらしてたり、深夜に帰宅したり、不在の日も多かったり……普通の会社員じゃないよね? 一体何者? それに顔。出会ったばかりのはずなのに、なぜか既視感。彼を見るたび、私の脳が勝手にざわついている。 彼を見るたび、初めて推しを見つけた時みたいに、ソワソワが止まらない。隣人が神すぎて、オタク脳がバグったか? これは、アイドルオタクの私が、謎すぎる隣人に“沼ってしまった”話。 清く正しく、でもちょっと切なくなる予感しかしない──。 「隣人を、推しにするのはアリですか?」 誰にも言えないけど、でも誰か教えて〜。 ※「エブリスタ」ほか投稿サイトでも、同タイトルを公開中です。 ※表紙画像及び挿絵は、フリー素材及びAI生成画像を加工使用しています。 ※本作品は、プロットやアイディア出し等に、補助的にAIを使用しています。

捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——

usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。 傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。 心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。 そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。 「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」 ──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...