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8 アデリーナ(3-1)
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━━何で!? どうして!?
頭の中が真っ白になり、気がついたら店を飛び出して、土砂降りの雨の中を走っていた。
運命は彼らを結び付ける方向に終着するのだろうか。それとも、私が何か、いけない事をしたのかしら? どこで何を間違えたの?
考えたって、何も分からない。浮かんでくるのはさっき見た二人の姿と、悪い考えばかり。そして、意味のない後悔だった。
今日は一人で外出しなければよかった。両親に結婚を急かされて、腹を立てて外に飛び出したのが愚かだった。
せめて、傘を持ってさえいれば。そうすれば、雨宿りをしようと、喫茶店に立ち寄る事なんてなかったのに。
━━そうすれば、私は、二人の関係に気付くことなく、幸せに暮らせていたはずだ。
雨音と心臓の鼓動が、耳の奥で交差する。
さっき見た光景が頭の中に浮かび、酷く惨めな気分にさせられた。
━━やっぱり、マルコと並ぶべきなのはヒロインなんだ。
向かい合って座った彼らは随分と親密そうに見えた。お茶とお菓子がテーブルにあったにも関わらず、マルコはメニューを見ていた。ブルーナともっといたいと思ったから、追加の注文をしようとしていたに違いない。
それに、私を見たブルーナの反応もおかしかった。いつもニコニコ笑って私に話しかけてくる彼女が気まずそうにこちらを見ていたのだ。
━━それはそうよね。私がマルコの事を好きなのを知っているのに、彼とデートしたんだもの。
私は彼女とのお茶の席で、マルコの話をしていた。彼が何をしてくれたとか、今度はどこに行くとか。マルコとの関係が上手くいっている事を調子に乗って、馬鹿みたいに浮かれて話していたのだ。
━━それを、あの子は今まで、どんな気持ちで聞いていたのだろう。
想像すると、吐き気が込み上げてくる。もうこれ以上考えたくない。
だから、全速で走った。考える余裕すらなくなるほど必死で。
石畳の歪に水たまりができている事など、気にならなかった。靴も服も、すぐに泥だらけのびしょ濡れになったけれど。
私はそれでもただただ走った。そうして、胸の奥のぐちゃぐちゃを掻き消したかったのだ。
・・・・・・けれど、上手くはいかなった。嫌な考えはまた湧いて出る。
私は信じていた。ブルーナは私の親友で、マルコはこれから私と結婚するのだと。私達の結婚式にはジーノとともにブルーナが参列して、私を祝福してくれると。そして、私はマルコと幸せな家庭を築けるのだと。
でも、それは都合の良い私の妄想だった。
運命なんてありはしないと思っていたのに、結局、こんな結果になるなんて。
━━ブルーナとマルコに関わらなければ良かった。
そう思った瞬間、足を取られて、私は前のめりに倒れた。膝を打った衝撃に思わず呻く。
「・・・・・・いたっ」
水浸しの石畳の上に手をついて、私は俯いた。冷たい水が頬を濡らしているけれど、それが雨水なのか涙なのか、今の私には分からなかった。
「アデリーナ嬢!」
後ろからマルコの声がした。彼は何を思って私を追いかけて来たのだろう。
私はぐっと腕に力を入れて立ち上がった。そして、振り返らずに歩き出す。足が痛かったけれど、気にしている余裕などなかった。
「待って! アデリーナ嬢、話を」
「放っておいてください!」
そう言って、私は足早に歩いた。
そして、そんな私をマルコは追いかけて来なかった。
※
次の日、ブルーナが訪ねてきた。
彼女が私の家にやって来たのは初めての事だった。私の両親はファビオとの件でブルーナの事をあまりよく思っていない。だから、彼女と会うことは内緒にしていたし、いつもお茶をするのは彼女の家と決まっていた。
放っておいたら、執事がブルーナを追い返してしまう事は分かりきった事だった。
でも、今はとてもじゃないけれど、ブルーナに会えるような気分ではなかった。どんな顔をして彼女に会ったら良いのか分からない。それに、理不尽な怒りを彼女に向けてしまいそうで怖かった。
私とマルコは婚約関係にあったわけでも、付き合いに発展したわけでもないから。彼とデートをしている事を咎めるのは、筋が通らない。
鬱々とした気分で私は部屋に閉じこもった。結局、私が彼女との面会を拒否するまでもなく、執事は私の風邪を理由に断った。そう後から聞かされて、私は内心、ほっとした。
しかし、次の日もブルーナはやって来た。見舞いの花と手紙を持ってきた彼女は、それを執事に渡して早々に帰ってしまったそうだ。
贈られた花を確認すると、それは決して高価な物ではなかった。けれど、それはあくまで公爵令嬢の私の感覚だ。まだ働いていない彼女にとって、それは安い物ではないだろう。
━━あの子、デートに着ていく服すらないって嘆いていたのに。
私が昨日、会わなかったからブルーナにいらない気を使わせてしまった。
花に添えられた手紙を読むのが怖い。けれど、読まずに捨ててしまえば、きっとあの子はまた、こういった贈り物と手紙を持ってくるに違いない。
━━逃げたって、いいことはないわ。
ブルーナとマルコと縁を切るにしても。このまま関係を続けるにしても、一度しっかりと、彼らに向き合わなければ。そうしないと、ファビオの時と同じ事が起こってしまう。
そんな予感がしたから、私はざわつく心を抑えて、そっとブルーナの手紙を取った。
親愛なるアデリーナ様
昨日のことを、どうか説明させてください。
私が喫茶店でマルコ様と二人で会ったのは、彼にある相談話を持ちかけられたからです。そして、その内容がアデリーナ様に関する事だったから引き受けました。
私にやましい気持ちはありません。私が愛しているのはジーノ卿であり、私に良くしてくれているアデリーナ様を裏切るような行為は絶対にできません。神に誓って言えます。
それから、どうか、マルコ様の事を誤解なさらないで下さい。彼はアデリーナ様の事を真剣に考えて、愛しています。
私の配慮が足りなかったせいで、お二人の関係に水を差したとなると、夜も眠れません。
だから、どうか、彼と一度話をしてみて下さい。
追伸
風邪を引いたと聞きました。体調は良くなられていますか。アデリーナ様の回復を心よりお祈り申し上げます。
ブルーナより
その文面から、ブルーナの誠実な気持ちが伝わってきた。
彼女は、デートのつもりでマルコと会ったわけじゃない。それはきっと事実だろう。もし、嘘を吐くのなら、「私の話だから相談に乗った」という下手な言い訳をしないと思う。
━━でも、マルコがブルーナに気がないとは限らないわ。
私の話題をチラつかせて、ブルーナをお茶に誘った可能性は否定できない。
ブルーナはガードの固い子だ。その上、今はジーノ卿という彼氏もいる。普通にお茶の誘いをしても絶対に乗っては来ない。
だから、マルコは少し卑怯な手を使って彼女をおびき寄せたのだろう。彼のアプローチは情熱的である一方で、少し強引な所もあったから。
仮に、そうでなかったのだとしても、マルコは私に冷めてしまって、その愚痴をブルーナに言いたくなったのかもしれない。なぜ彼女がその相手に選ばれたのかまでは分からないけれど・・・・・・。
嫌な考えがぐるぐると頭の中を回る。私はそれが嫌で枕に突っ伏して目を閉じた。
頭の中が真っ白になり、気がついたら店を飛び出して、土砂降りの雨の中を走っていた。
運命は彼らを結び付ける方向に終着するのだろうか。それとも、私が何か、いけない事をしたのかしら? どこで何を間違えたの?
考えたって、何も分からない。浮かんでくるのはさっき見た二人の姿と、悪い考えばかり。そして、意味のない後悔だった。
今日は一人で外出しなければよかった。両親に結婚を急かされて、腹を立てて外に飛び出したのが愚かだった。
せめて、傘を持ってさえいれば。そうすれば、雨宿りをしようと、喫茶店に立ち寄る事なんてなかったのに。
━━そうすれば、私は、二人の関係に気付くことなく、幸せに暮らせていたはずだ。
雨音と心臓の鼓動が、耳の奥で交差する。
さっき見た光景が頭の中に浮かび、酷く惨めな気分にさせられた。
━━やっぱり、マルコと並ぶべきなのはヒロインなんだ。
向かい合って座った彼らは随分と親密そうに見えた。お茶とお菓子がテーブルにあったにも関わらず、マルコはメニューを見ていた。ブルーナともっといたいと思ったから、追加の注文をしようとしていたに違いない。
それに、私を見たブルーナの反応もおかしかった。いつもニコニコ笑って私に話しかけてくる彼女が気まずそうにこちらを見ていたのだ。
━━それはそうよね。私がマルコの事を好きなのを知っているのに、彼とデートしたんだもの。
私は彼女とのお茶の席で、マルコの話をしていた。彼が何をしてくれたとか、今度はどこに行くとか。マルコとの関係が上手くいっている事を調子に乗って、馬鹿みたいに浮かれて話していたのだ。
━━それを、あの子は今まで、どんな気持ちで聞いていたのだろう。
想像すると、吐き気が込み上げてくる。もうこれ以上考えたくない。
だから、全速で走った。考える余裕すらなくなるほど必死で。
石畳の歪に水たまりができている事など、気にならなかった。靴も服も、すぐに泥だらけのびしょ濡れになったけれど。
私はそれでもただただ走った。そうして、胸の奥のぐちゃぐちゃを掻き消したかったのだ。
・・・・・・けれど、上手くはいかなった。嫌な考えはまた湧いて出る。
私は信じていた。ブルーナは私の親友で、マルコはこれから私と結婚するのだと。私達の結婚式にはジーノとともにブルーナが参列して、私を祝福してくれると。そして、私はマルコと幸せな家庭を築けるのだと。
でも、それは都合の良い私の妄想だった。
運命なんてありはしないと思っていたのに、結局、こんな結果になるなんて。
━━ブルーナとマルコに関わらなければ良かった。
そう思った瞬間、足を取られて、私は前のめりに倒れた。膝を打った衝撃に思わず呻く。
「・・・・・・いたっ」
水浸しの石畳の上に手をついて、私は俯いた。冷たい水が頬を濡らしているけれど、それが雨水なのか涙なのか、今の私には分からなかった。
「アデリーナ嬢!」
後ろからマルコの声がした。彼は何を思って私を追いかけて来たのだろう。
私はぐっと腕に力を入れて立ち上がった。そして、振り返らずに歩き出す。足が痛かったけれど、気にしている余裕などなかった。
「待って! アデリーナ嬢、話を」
「放っておいてください!」
そう言って、私は足早に歩いた。
そして、そんな私をマルコは追いかけて来なかった。
※
次の日、ブルーナが訪ねてきた。
彼女が私の家にやって来たのは初めての事だった。私の両親はファビオとの件でブルーナの事をあまりよく思っていない。だから、彼女と会うことは内緒にしていたし、いつもお茶をするのは彼女の家と決まっていた。
放っておいたら、執事がブルーナを追い返してしまう事は分かりきった事だった。
でも、今はとてもじゃないけれど、ブルーナに会えるような気分ではなかった。どんな顔をして彼女に会ったら良いのか分からない。それに、理不尽な怒りを彼女に向けてしまいそうで怖かった。
私とマルコは婚約関係にあったわけでも、付き合いに発展したわけでもないから。彼とデートをしている事を咎めるのは、筋が通らない。
鬱々とした気分で私は部屋に閉じこもった。結局、私が彼女との面会を拒否するまでもなく、執事は私の風邪を理由に断った。そう後から聞かされて、私は内心、ほっとした。
しかし、次の日もブルーナはやって来た。見舞いの花と手紙を持ってきた彼女は、それを執事に渡して早々に帰ってしまったそうだ。
贈られた花を確認すると、それは決して高価な物ではなかった。けれど、それはあくまで公爵令嬢の私の感覚だ。まだ働いていない彼女にとって、それは安い物ではないだろう。
━━あの子、デートに着ていく服すらないって嘆いていたのに。
私が昨日、会わなかったからブルーナにいらない気を使わせてしまった。
花に添えられた手紙を読むのが怖い。けれど、読まずに捨ててしまえば、きっとあの子はまた、こういった贈り物と手紙を持ってくるに違いない。
━━逃げたって、いいことはないわ。
ブルーナとマルコと縁を切るにしても。このまま関係を続けるにしても、一度しっかりと、彼らに向き合わなければ。そうしないと、ファビオの時と同じ事が起こってしまう。
そんな予感がしたから、私はざわつく心を抑えて、そっとブルーナの手紙を取った。
親愛なるアデリーナ様
昨日のことを、どうか説明させてください。
私が喫茶店でマルコ様と二人で会ったのは、彼にある相談話を持ちかけられたからです。そして、その内容がアデリーナ様に関する事だったから引き受けました。
私にやましい気持ちはありません。私が愛しているのはジーノ卿であり、私に良くしてくれているアデリーナ様を裏切るような行為は絶対にできません。神に誓って言えます。
それから、どうか、マルコ様の事を誤解なさらないで下さい。彼はアデリーナ様の事を真剣に考えて、愛しています。
私の配慮が足りなかったせいで、お二人の関係に水を差したとなると、夜も眠れません。
だから、どうか、彼と一度話をしてみて下さい。
追伸
風邪を引いたと聞きました。体調は良くなられていますか。アデリーナ様の回復を心よりお祈り申し上げます。
ブルーナより
その文面から、ブルーナの誠実な気持ちが伝わってきた。
彼女は、デートのつもりでマルコと会ったわけじゃない。それはきっと事実だろう。もし、嘘を吐くのなら、「私の話だから相談に乗った」という下手な言い訳をしないと思う。
━━でも、マルコがブルーナに気がないとは限らないわ。
私の話題をチラつかせて、ブルーナをお茶に誘った可能性は否定できない。
ブルーナはガードの固い子だ。その上、今はジーノ卿という彼氏もいる。普通にお茶の誘いをしても絶対に乗っては来ない。
だから、マルコは少し卑怯な手を使って彼女をおびき寄せたのだろう。彼のアプローチは情熱的である一方で、少し強引な所もあったから。
仮に、そうでなかったのだとしても、マルコは私に冷めてしまって、その愚痴をブルーナに言いたくなったのかもしれない。なぜ彼女がその相手に選ばれたのかまでは分からないけれど・・・・・・。
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