辿り着いた先はヒロインとの友情エンド。しかし、それも悪くありません。

花草青依

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9 アデリーナ(3-2)

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 それから三日後、私は意を決してブルーナに会いに行くことにした。
 彼女は来週から就職する事が決まっている。だから、今までのように、いつでも予定が空いている状態ではなくなるのだ。このまま、ズルズルと会わないでいたら、きっとそのまま疎遠になってしまい、嫌な終わり方をしてしまう。
 私はブルーナとは、このまま友達でいたいと思った。彼女は、明るく素直で誠実な子だ。それは、この世界の貴族としては似つかわしくない事なのだけれど。しかし、そんな彼女の性格は、私にとって好ましく、彼女と一緒にいると心が和らいだ。
 彼女といると、前世の、ただの一般人だった私の人間関係を思い出させてくれた。前世の友人達とは、楽しい事を共有し、一緒に笑い、辛いことや悲しい事を慰め合っていた。そこに特段の利害関係はなく、ただ、自分達がそうしたいからそうしていた。
 そんな関係を、ブルーナと私は築きつつあった。そういう友人をこの世界で手に入れる事は容易ではない。貴族社会の友人は利害関係が優先されるから・・・・・・。
 だから、私はブルーナを失いたくなかった。

 ブルーナの家を尋ねると、庭先にいた彼女はぱっと明るい笑顔で出迎えてくれた。
「アデリーナ様! もう風邪はよくなったんですか」
「ええ、まあ・・・・・・」
 見舞いの花をもらった上、こんなに嬉しそうな笑顔を向けられては、仮病だなんて言えない。
 ブルーナは、私の嘘に気付かず、いつもの庭のテーブルに案内してくれた。
「お茶を用意してきますね」
「ありがとう。あ! クッキーを持ってきているから」
「では、お茶だけ持ってきますね」
 メイドの数が足りないブルーナの家では、彼女がお茶の準備をするのは当たり前だった。

 ━━だから、伯爵夫人の家でも立派な働きができるわよね。
 
 そういえば、まだ彼女の就職祝いをしていない。今日持ってきたクッキーはこの間のお詫びだ。何を贈ればいいのかしら?
 そんな事を考えている間に、ブルーナはトレーを持って帰ってきた。ほんのりと甘いバニラの匂いが香る。美味しそうなお茶を持ってきてくれた。
 彼女は手際良くカップを並べてお茶を注ぐ。

「この間は、ごめんなさい」
 お茶が出来上がるなり、彼女は言った。困り顔で私を見据える彼女に、私は首を振った。
「いいえ。ブルーナさんは悪くありませんわ。私が勘違いをして、突っ走っただけですもの」
「いえ。私が誤解をさせてしまったんですもの・・・・・・。マルコ様と私の関係は手紙に書いた通り」
「大丈夫よ」
 彼女の言葉を遮った。
「あなたの手紙から、ちゃんと想いを受け取ったわ。私はあなたを信じてる」
「ありがとうございます」
 ブルーナはほっと息を吐いた。
「実はこのクッキー、謝罪と今後のお付き合いのお願いのために持ってきたのよ。私のワイロを受け取ってもらえるかしら?」
 真面目な雰囲気を打ち消すために、あえておどけて言ってみると、ブルーナは笑ってくれた。
「あははっ。それじゃあ、私のこの紅茶も、そういう事にしておいて下さい」
 私も笑ってお茶を飲んだ。想像した通り甘くて少しほろ苦い味だった。
 ブルーナはクッキーを口にした。
「んん~っ、サクサクしてて美味しいです!」
 彼女は頬に手を当てて言った。甘い物好きの彼女の口に合って良かった。
 そう思いながらもう一口お茶を飲んでいると、ブルーナが上目遣いで私を見つめてきた。
 あざとくて可愛らしい表情をブルーナは無意識にやる。こういう顔をする時、彼女は何かを切り出そうとこちらの様子を伺っているのだ。

「あの・・・・・・」
 意を決したのだろう。ブルーナは緊張した面持ちで言葉を発した。
「マルコ様とは、すでに仲直りをされたのですよね?」
 思った通りの質問に、私は作り笑顔を浮かべた。
「いいえ。もう彼の事はいいかなって思ってる」
「え、・・・・・・でも」
「いい感じにいっていると思っていたのは私だけだったのよ? 彼はあなたをわざわざ呼び出して不満を言ったのだから」
「不満じゃないです!」
 アデリーナは声を荒げた。
「あ・・・・・・。ごめんなさい、大きな声を出して。・・・・・・あの、マルコ様はアデリーナ様に不満を持っているようには見えませんでした」
「それなら、何の話をしていたの?」
 ブルーナは一瞬固まってしまった。
「どうしたの? 言えないくらい酷い事を話してた?」
「違いますっ、相談の内容を勝手に話していいものかと思いまして」
 律儀なブルーナらしい言葉に、私は思わずふっと笑ってしまった。

「ああ、もう、言っちゃいますね! マルコ様はアデリーナ様に対して不安の様なものを感じているようなんです」
「不安?」
 思ってもみない発言だった。
「マルコ様はアデリーナ様と接しているうちに違和感を覚えるようになったそうです。それが引っかかって、悩んでいました」
「違和感って、・・・・・・どんな?」
「具体的な事まではおっしゃっていませんでしたが、嘘を吐いているみたいだって。それに、アデリーナ様がマルコ様の顔色を伺っているとも」

 私は言葉を失った。
 マルコに見透かされているとは思いもしなかった。
 私は、マルコにとっての、理想の女性であろうとした。いつも笑顔で、礼儀正しく、可憐で。それでいて、どこか大胆な人。
 ゲームの中のブルーナに倣い、イベントや選択肢に沿った行動をすれば、彼の好感度はうなぎのぼりに上がると信じて疑わなかった。
 しかし、結果として、それが裏目に出てしまったらしい。
「アデリーナ様に身に覚えはありませんか。私はマルコ様の思い違いだと思って、その旨を伝えたのですが、彼は納得していないようでした。勿論、マルコ様もアデリーナ様が悪い人だとは思っていませんよ? でも、そういった違和感を持ったままお付き合いを続ける事に彼は抵抗があるみたいなんです」
 何も言えないでいる私に、ブルーナはさらに言葉を続けた。
「だから、もし、何か誤解させてしまうような事をしてしまったのでしたら、きちんとそれを伝えてあげて下さい。そうでないのなら、違うとおっしゃればいいと思います。・・・・・・そうしてから、関係を終わらせる事を考えてもいいんじゃないですか」

 ブルーナに諭されて涙が出そうになった。
 私は何をやってたんだろう。彼に愛されようとして、気を回し、結果的にそれが嘘になって。私の不誠実な言動でマルコに不快感を与えてしまった。

 ━━でも、彼は本当の私を愛してくれるかしら?

 彼が好きになったのは、ブルーナを模倣した私だ。今更、私が素の部分を曝け出して彼と接した所で、彼を戸惑わせてしまうだけだ。
 だから、やっぱり、彼との付き合いはおしまいでいいのだ。

 ━━でも、謝らないと。

 彼は私と真剣に向き合ってくれたのだから。それなのに、このまま何事もなかったかのように終わりにする事などできない。今度、直接彼と会って、今までの不誠実をお詫びしよう。

 私は、そう心の中で思った。
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